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    こちらのラーヒュンワンライのお題をお借りして、らくがきをUPしてみてます。
    https://profcard.info/u/gYwuddv8eoaUtmtw9yi2bzLCrxy2

    時間制限せずに書かせてもらってるので、たぶん余裕で2時間以上かかってます。

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    お題:ガラス細工
    時間を気にせず書いてます。

    #ラーヒュン
    rahun
    #LH1dr1wr

    第21回 ガラス細工 ラーヒュン1dr1wr カシャン。
     それは庶民では持ち得ぬ、優美で繊細な置物だった。
     ヒュンケルにはパプニカ城に滞在していた時期があった。大戦後の情勢が落ち着くまでの僅かな間ではあったが、部屋を与えられて、傷ついた身を甲斐甲斐しく世話されていた。彼は暗く憂いを帯びていて表情も乏しかったが、穏やかで横柄さもなかったため城のメイドたちには人気があった。
     寝室の清掃に来ていたメイドたちがクスクスと笑ったのは、ヒュンケルが『誰かにこれの修理を頼めるだろうか』と、大真面目に問うたからだった。
    「ガラスは修理できませんよ、ヒュンケル様」
     この男は生活や芸術などにはとんと疎い。それは幾日かの生活でも知れた。歴戦の戦士のそんな隙を、部屋に訪れる女たちはやんわりと受け入れていた。
     彼はチェストから落下させてしまったガラスの女神像に心を痛めているけれど。
    「それをくっつけたとしても境が濁って、元の透明にはなりません」
     同じ置物が復活することはない。
     その儚さに、彼は女神を悼んで目を伏せた。
    「死んだ人間が二度と元には戻らないようにか」
    「いいえ?」
     メイドらは鋭く割れてしまった工芸品を慎重につまみ、ゴミとは別の器へと丁寧に保管していた。
    「ガラスは高温で溶かすと、新たな細工に作り替えることができます。何度でも生まれ変われるのです」
    「何度でも?」
    「ええ何度でも。より美しくすら」
     そのしたたかさに、彼は酷く感心をした。



    「何度でも生まれ変わるんだ。縁起が良いだろう」
    「オレにコレを贈った動機はよく分かった。しかしなぜコレを選んだ」
     二人旅の途中、商店の建ち並ぶ街の一角。モザイク模様の石畳の上。
     買い出しを手分けして済ませ、待ち合わせ場所に現れたヒュンケルからおもむろに差し出されたのが、土産物のガラス細工だったのだが。それが親指の爪くらいの小さな青透明のスライムだったのだ。女子供には好まれるだろう愛らしさだが、最弱のモンスターだ。陸戦騎ラーハルトに似合う品とは思えない。手の平でコロコロ転がすと間抜けヅラが陽光に煌めいた。
    「それは丸くて丈夫だ。軽いから落としてもまず割れない。生まれ変われる物だとしても、やはり壊れない方がより縁起も良いだろう」
     説明を受けてもラーハルトがいつまでも渋い顔をしているので、ヒュンケルはフンと鼻息を吹き下ろした。
    「なんだ。気に入らんのか」
     そうではない。このスライムは頭の角もそんなに尖ってないし、脆くも重くもない。これなら荷物としては許容範囲だろう。ラーハルトがじっとりとヒュンケルを睨み付けている理由は他にある。
    「貴様、完全に失念しているようだな。そのメイドどもが訪れた時、オレもその場に居たのだぞ」
     だから会話の子細など言われずとも知っていた。
    「居たか? 寝室の掃除なのに?」
     ヒュンケルは記憶にないらしい。彼にとってはその程度の出来事だったのかも知れないが。
    「オレははっきりと覚えている。なにせおまえは、オレがベッドに寝ていたのに入室許可を出したのだからな」
    「……そうだったか?」
    「そうだったのだ! 扉を開けてしばらくはあの女ども、絶句しておったろうがっ」
     メイドは城内の要人の動向について守秘義務がある。プロとしてなんでもない素振りで掃除を進めながらも、ベッドに半裸の魔族が寝転がっている理由を問いただしたかったに違いない。
    「いやしかし、おまえは親しいのだから部屋に居てもおかしくないのでは?」
    「……とりあえず、オレが脱いでたら部屋に堂々と人を呼び入れるな」
    「よく分からんが、要望は承知した」
     ヒュンケルはまだ納得がいかないようで、口をへの字に尖らかした。
     手の中を見下ろすと、豆みたいな透明スライムがある。
     あの日。メイドたちがガラス細工の輪廻を教えた日。あれは記念すべき最初の夜の翌朝だったというのに、すっかり忘れてしまっているのは業腹だが。
     しかし、彼がこれに不滅と再生の意味を篭めてくれたというならば。
    「まあ、もらっておいてやる」
     大事に思われているのは悪い気はしない。
     ラーハルトがガラスをぎゅっと握りこんだら、ヒュンケルはパッと輝くように破顔した。
    「良かった。お守りというのを買うのは初めてだったんだ」
     満足したのか、ヒュンケルが踵を返して先へ進み出したので、慌てて追う。
     拗ねたり、喜んだり、忙しいことだ。
     そういえば以前はメイドたちから、何を考えているか分からない所がクール、とも言われていた男なのだが、いつの間にそんなに表情が豊かになったのだろうか。
     彼の背を見つめて歩きながら昔を思い出しかけたが、やめた。別に、ガラス細工以外が生まれ変わってはいけないというルールはないのだから。
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