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    さくや

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    さくや

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    離島に派遣された警察官🌟×ストーカー被害を受けている古書堂の店主🎈な司類

    じりじりと肌を焼くような暑さが容赦なく突き刺さる。
    空は文句なしの快晴。まるでオレを歓迎するかの如く降り注ぐ日光を睨みながらキャリーケースをガラガラと引いて船を降りる。
    船からこの島へ降り立つ人はオレのほかに腰の曲がったお婆さん1人だけだ。お婆さんが降りるのを手伝って今一度辺りを見渡すが、船降り場には人影が見えず繋がれた小型の漁船が3、4艘波の押し引きに合わせてぷかぷか浮いているだけだ。お礼に貰った飴をポッケに突っ込んで汗をタオルで拭い、磯の香りを肺いっぱいに吸い込んで今日から住む家へと向かう。バス停に近づいて次の停車時間を調べたが2時間後だったので仕方なく歩いていく。
    数分歩くと民家がぽつぽつと現れて、十数分歩くと街の中心に近づいてきたのか人の姿が見られるようになってきた。昔ながらの商店や釣具屋さんの横を通り過ぎていく。見知らぬ顔が珍しいのかすれ違う人がみな振り向くのを疎外感で居た堪れない気持ちになりながら会釈をして歩き続ける。八百屋の前を通り過ぎようとした時、不意に呼び止められた。
    「あら、あなたが新しく引っ越してきた警察官の人?」
    声の主は優しそうな老齢の女性だった。
    「はい、そうですけど」
    そう答えるとにこっと笑みを浮かべた。
    「よかった、頼もしそうな方だし、これであの子も安心ねぇ。」
    そういうと女性はほっと一息つく。ふと疑問に思ったことが口をついてでる。
    「あの子が安心とはどういうことでしょうか?」
    「うん、そうねぇ。ここの道をもうすぐ行った峠の上に古書店があるの。そこの店主は若いながらもお父さんの後をついで一人で切り盛りしてるんだけどね、どうやら最近困ってるみたいなのよ。」
    「困り事、ですか?」
    「そうなの、いつのまにか私物が盗まれていたり、後をつけられたりね。お巡りさんにも相談したんだけどほら、ここは小さな港町じゃない?人手が足りなくて手が回らないらしいのよ、でも見過ごせないから対処はしてくれるって言っててねぇ」
    「それがオレってことですか」
    「うん、そうみたい。あの子が小さい頃からの付き合いで私もなんとか力になれないかと思ってたんだけどね、見ての通り歳を食っちゃってるからなんの助けにもならなくて、貴方が来てくれて安心したわ。どうかあの子を救ってあげてください。」
    お願いしますと頭を下げられた。
    「わかりました、オレに任せてください」
    そう言うと女性は頭を上げて安堵の笑顔を浮かべた。
    とは言ってもどうしたらいいのだろうか、まずは被害者に会って具体的なことを聞かなければならないだろう。
    女性と別れた後、スマホで地図を見ながら八百屋の角を曲がっていく。どうやらもうすぐ目的地に着くみたいだ。最後の関門かの如く目の前に立ちはだかる坂道を暑さと疲れでへろへろになった足に鞭を打って前進する。
    マップのピンが指し示していたのは、ひっそりと佇むかなり年季の入った建物だった。
    「ここが今日から住む場所なのか?てっきりアパートなんかを用意されたのかと思っていたが…」
    もう一度地図アプリを確認するも、何度見てもこの場所だ。
    徐に近づきこちらも年季の入ったガラス張りの引き戸を覗くが中が暗くて何も見えない。もう少し近付き、ガラス戸に手をついて覗くと何やら棚のようなものがずらりと並んでいるのが見えた。うんうんと考えていると後ろから怪訝そうな声が聞こえた。
    「あの、どちら様でしょうか?」
    あまりに集中していたため後ろから近づく足音に気がつかなかった。錆びたブリキの人形のような固い動きで後ろを振り向くとそこには藤色の髪をした男性が立っていた。濃紺色の着物を着こなし、山高帽子をかぶっていて和服姿がよく似合っている。
    いや、冷静に相手を見ている場合ではない。今の自分の姿は誰がみても間違いなく通報案件の不審人物だ。警察官が初日からお縄を頂戴するのは流石に洒落にならない。誤解を解くために弁明しようとあれこれ考えるが、頭が真っ白で何も思い浮かばない。
    「もしかして、今日お越しになる予定だった警察の方ですか?」
    「は、はいそうです!!」
    つい食い気味に大声で返事をしてしまった。相手が察しがよくて助かった。
    「ふふ、ようこそ、とりあえず中に入ってください」
    そう言うと彼は懐に手を突っ込んで鍵を取り出し、ガチャガチャと音を立てて鍵を開けると中に入るよう促してきた。先程暗くてよく見えなかった棚のようなものは本棚だった。決して広いとは言えない場所に所狭しと並んでいる。古書特有のどこか懐かしさを感じる香りが肺を満たすと先程までの緊張が弛んでいく気がした。
    「こっちだよ」
    カウンターの裏側に入り扉を開け、階段を登っていく。
    「かなり危険だから手摺りを持って上がるのをおすすめするよ」
    当の本人は慣れているのか軽々と上がっていくが年季を感じさせる階段は狭く薄暗くて、落ちてしまうと軽い怪我じゃ済まされないほどだった。途中躓きかけてヒヤッとする場面もあったが無事頂上までたどり着けた。
    さらに扉を開けると畳張りの居間だった。
    机の上に積み上げられた本があったり、部屋の片隅に洗濯物の山があったりなど所々生活感を感じされるところはあったが、全体的にみるときれいに整頓されていた。
    まずは君の部屋に案内しよう、と居間に繋がっている部屋に案内される。
    「物置にしていた部屋を急いで掃除したから何かあったら遠慮なく言ってよ」
    八畳ほどの部屋で日当たりもよく、これから暮らしていくのにはむしろ快適なほどだった。
    「寝具はベッドじゃなくて敷布団なんだけどいいかな」
    「はい、全然大丈夫ですよ。それよりもとても景色がいい部屋だな」
    窓の外は海と小さくなった港町が広がっていた。
    まるでミニチュアのように見えるのも、ここが他よりも少し高台に位置してるためだろう。
    家主が窓を開けると爽やかな潮の香りが吹き込んできて、部屋一帯に海が感じられる。思わずほぉっと感嘆のため息をつく。
    「ふふ、気に入ってくれたかい?僕もここからの景色、すごく好きなんだ。昔を思い出すよ。」
    と無邪気な子供のように笑う。上品な見た目によらずこんな風に笑うのか、少し意外だった。それは決して悪い意味ではなく寧ろなんというか、可愛らしいなと思う。
    「ん?僕の顔に何かついてるかい?」
    「い、いや何でもないぞ!」
    ついじっと見つめてしまっていたようだ。そう?ならいいけどと自室になる部屋をあとにしてまた居間に戻る。
    「あそこが僕の部屋だから、とは言っても僕はほとんど居間で過ごすんだけどね」
    そういってオレの部屋とは反対側にある扉を指し示す。
    「トイレはあそこで、お風呂は一階の離れにあるんだ、とまぁお部屋紹介はこの辺かな、また分からないところがあったら聞いてよ。それより一旦休憩にしよう。君も遠くから来て疲れたろう、そこに座ってて」
    座椅子をひいてそこに座るように促される。しばらくするとお盆を両手で持って現れた。
    「お待たせ、これくらいしか用意出来なかったんだけどいいかな」
    そういって目の前に置かれたのは麦茶と切り分けられた西瓜だった。
    「全然大丈夫だぞ、寧ろすまないな」
    ひとくち口に含むと冷たい麦茶が乾いた体に沁み渡った。
    「まだ自己紹介をしてなかったな。オレは天馬司だ。今日からこの島の交番に派遣された。司って呼んでくれ」
    「僕は神代類、類でいいよ。この古書店の店主をやっているんだ。僕で3代目だよ」
    差し出された手に自分の手を重ねて握手をする。
    「さっそく本題なのだが、あなたが今回ストーカー被害を受けてる被害者で間違いないか?」
    そういうとは控えめに頷いた。
    「差し支えなければ、被害内容を教えてもらってもいいか?」
    ゆっくりでいいから、と促すと徐に重い口を開いた。
    「その、一番最初に気づいたのは4ヶ月くらい前で、夜営業時間が終わってその日の売り上げを確かめたり、目録をつくったりしているとガラス戸の外から視線を感じたんだ。
    最初は気の所為かと思っていたんだけど、毎夜毎夜誰かに見られている気がしてね。ある日思い切って外を覗いて見ようとガラス戸に近づいたら影が動いて逃げていったんだ。怖くなってすぐに警察に連絡してきてもらったんだけど何の証拠もないからってその日はしっかり戸締りをするよう言われて床についたよ。その日からは相手も警戒したのか何事もなくてすっかり安心してたんだけど、少し経った時から店の戸に手紙を挟まれるようになったんだ...」
    そういうと類は震える手で大量の手紙が入った箱を取り出した。
    「……開いてみてもいいか?」
    頷くのをみて手紙を開くと、そこには赤色のペンでひたすら、と好意を伝える文が書き殴ってあった。
    どれも自分勝手な妄想で正直にいうと気持ちが悪い。
    別の手紙を開くと、何か紙が落ちてきた。なんだろうと思って裏返すとそれは類の写真だった。
    本を運ぶ姿だったり、カウンターで欠伸をする姿、古書店内だけでなく町で猫と戯れる姿や買い物をしている姿など、どう見ても後をつけて隠し撮りをしたであろうという写真ばかりだ。
    そして一番最後の写真を見て思わずうわっと声が出た。他の客に接している時を撮ったものなのか、客と思われる男性が写っているところが赤ペンでばつ印を書いた後にカッターで切り刻まれていて、微笑む類の所には白く乾燥したものがこびり付いている。間違いなくアレだろう。あまりの気持ち悪さについ写真を裏返して元入っていた封筒に仕舞い込んだ。これを類に見せるわけにはいかない。
    オレがきたからにはもう安全だ、と言いたいところだが何しろ犯人が少しも分かっていないところが気味が悪い。取り敢えず側について尻尾を見せるのを待つしかないだろう。
    「この手紙はオレが全て預かろう。犯人逮捕の証拠にもなるからな」
    オレでさえつい手を離してしまいそうになったのに、もし彼が中身を見てしまったらショックは大きいだろう。
    目がつかない所に置いておくのが賢明だ。
    「一日も早く平穏な日々が戻ってくるように善処する。今日からよろしくな」
    「キミが来てくれて心強いよ、此方こそよろしく頼むね」
    差し出された手は冷たくふるえていた。安心させるように強く握り返す。思い出すのも怖かったのだろう、話してくれた勇気に感謝して一刻も早く事件を解決しようと胸に誓う。


    *******


    場面は変わって先程充てがわれた部屋の中。
    事件解決を誓ったものの、問題はどうやって犯人の尻尾を掴むのかだ。昔からよく無鉄砲だなんて言われることが多かったがまさかここで仇になるとは思わなかった。
    今までの人生、我武者羅に生きてきたが何とかなっていたのだ。すでにショートしそうな脳みそをフル回転させながら一つ一つ考えていく。
    犯人は類に異常なほどの好意を寄せていて、尚且つ例の写真にあった通り、類に近しい者へ殺意を抱いている。
    好意を抱いていたのがいつの間にか殺意に変わるというのを聞いたことがある。愛と憎しみは紙一重ってやつだ。なんとしても周りの人や本人に危害が加わるのを避けたい。会話をするだけであの惨劇は相当だ。部屋の真ん中でうんうん唸っているとある考えが頭に浮かんだ。
    そう、これだ、逆にそれを利用するのはアリなんじゃないか?オレが常に側にいたら確保できる確率が上がる。仮に襲いかかって来たとしても普通の人よりも鍛えているし、護身術も心得ているからよっぽど屈強でない限り大丈夫だろう。
    我ながらいい考えが浮かんだと破顔しながら早速作戦に取り掛かるため、類がいる居間にいく。
    「類?ちょっといいか?」
    読んでいた本を閉じて傍に置くとオレの方に向き直る。
    「大丈夫だよ、何か用かい?」
    「その、ストーカー野郎のことについてだがいい案を思いついたんだ!」
    とりあえず座ってよ、と言われて机を挟んで座布団に向かい合わせで座る。
    「それで、その案というのはどういうものなんだい?」
    「それはズバリ、恋人のフリをして犯人を誘き出そう大作戦だ!!!」
    決まった!っと拳を天高く上げて類の顔を見るとぽかんとした顔をしている。
    しばらく二人の間に静寂が訪れたが類が発した声によってそれが打ち消された。
    「えっと、つまりそれはどういうことかな」
    「だから作戦の名前の通り、今日から類とオレは恋人になる。おそらく犯人は居てもたってもいられず尻尾を見せるだろう」
    「でも、もし凶器を持って襲いかかってきたらどうするのかい?」
    類は心配そうにこちらを見つめる。
    「そこは大丈夫だ、一応警察官だから護身術くらい身につけている」
    類は片手を顎に当てて数秒考え込んだが、しばらくすると顔を上げてうんと頷いた。
    「たしかに多少の危険は孕むけど一番手っ取り早い方法かもしれないね、よろしく頼むよ」

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