ひとりだけのヒミツ賑やかな声が至る所から聞こえる昼間、無表情だが内心はイライラが募ってるアルハイゼンは早足で家に向かっていた
「帰った…」
家に帰れば遠くから小さな声が聴こえアルハイゼンは先程までとは違う表情になりその声の方へ歩く、リビングに行けば先程まで横になっていて起き上がろうとしているファラが居た
「ただいまファラ」
そう言ってファラの細い腰に腕を回し起き上がるのを手伝うアルハイゼン
「おかえりアル…ごめんね少し気持ち悪くて寝てた」
「大丈夫だ、手を洗ってくるその後少しいいか?」
「う、うん」
そう言って居なくなるアルハイゼン、ソファーには大きな紙袋がありそれを突くファラ、硬いそれに首を傾げアルハイゼンが戻ってくるのをジッと待った…
戻って来たアルハイゼンは家で着る私服になっていて片手には工具がありテーブルに置きソファーまで行きファラを抱きかかえ座り紙袋に手に取りテーブルに中身を出す
「アル、何か作るの?」
「ああ…俺の聴力が良すぎるのは分かるだろ?」
「うん」
アルハイゼンは非常に聴力が良い、それも家の中で具合が悪く寝室で寝ていたファラは突然の吐き気で口を抑えながらアルハイゼンの名前を呼んだ時にキッチンで料理をしていたアルハイゼンはそれを聴き取れる程、そんな聴力が良すぎるのもいい事ばかりでは無く…
「教令院も騒がしいし街中は特にだ」
「アル表情に出ないけどすごく疲れてるものね」
「それを分かってくれるのはファラだけだ」
幼い頃から祖母以外の周りから無表情、無感情と言われたアルハイゼン…だが表情に出ないだけで内心はかなり感情豊かでそれをファラはよく理解していてアルハイゼンは何よりも喜びを感じた
「それで色々と調べて遮音性能を付けたヘッドホンを作ることにした」
「買うじゃなくて?」
「俺が作りたいんだ、他にも付けたい機能があるんだ」
「そうなの」
「ああ」
そう言ってヘッドホンを作り始めるアルハイゼン、黙々と作る間ファラはアルハイゼンの腕の中で本を読んで途中で少し具合が悪くなりアルハイゼンの袖を引っ張り
「大丈夫か?」
「横になりたい…」
「分かった」
そう言ってファラが横になれるように作業の手を止め
「自力でなれるか?」
「うん」
ヘッドホンを作っていて手先が汚れてその手でファラに触れる訳にはいかずアルハイゼンは心配そうに見つめながらファラが横になるのを待つ、ゆっくりとアルハイゼンの太腿に頭を乗せる
「いつも思うが固くないか?」
「これが落ち着くの」
「そうか…?」
鍛えた自分の筋肉質な太腿が落ち着くと言われ嬉しいアルハイゼンだがこれで体調をより崩さないかが心配だったが…
「んぅ…」
寝てしまったファラを見てアルハイゼンは右手の甲でファラの頬を撫でて作業を進めた
「…ラ、ファラ」
アルハイゼンの呼び起こす声にファラの目は覚め
「おはよう、アル…」
「おはよう」
「できたの?」
寝起きは血圧が低くぼんやりとした眼でテーブルを見ると新緑と金メッキの色合いが綺麗なヘッドホンが出来上がっていた
「きれー」
「ファラが気に入ってくれて良かった」
「うん」
自力で起き上がるファラ、腕をぐっと天井に向けて伸ばし脱力してアルハイゼンを見てニコッと微笑む、そんなファラを見てアルハイゼンは手の甲でファラの頬を撫でて
「手を洗ってくる」
そう言って立ち上がり工具を片付け手を洗いに行くアルハイゼン、すぐにハーブティーをポットに入れて持って戻ってきた
「いい香り」
「リラックス効果があるそうだ、火傷しないように」
「ありがとう」
カップに注ぎファラに渡すアルハイゼン、ちびちび飲む様子を見ながら自分もハーブティーを飲みお互い飲み終わった頃
「ファラ、少しこれに歌ってくれ」
スっと渡された黒い筒でファラは首を傾げて
「えっと…何を?」
「何でも構わない、今の体調で歌いきれるのを頼む」
突然のアルハイゼンからの願いにファラは驚くもアルハイゼンもだがこの夫婦はお互いベタ惚れなので
「分かった」
スメールで厳しく扱われている歌、それを透き通る声で歌うその姿をアルハイゼンはめに焼きつけるように見て数分歌い一呼吸吐いたのを確認してアルハイゼンは筒をファラの手から取る
「ありがとうファラ」
「うん…アルどうして突然歌を?」
「内緒だ」
クスッと笑みを浮かべるアルハイゼン、ファラは首を傾げそれ以上は聞かなかった
それからファラの体調を様子みてアルハイゼンはファラに歌をお願いしてそれはアルハイゼンのヘッドホンにあるポータブルプレイヤーに録音され、それを通勤や書類仕事中などに聴くのがアルハイゼンの楽しみとなったがそれを知るのはアルハイゼンのみである…
終わり