Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    雨音@ししさめ

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 70

    雨音@ししさめ

    ☆quiet follow

    2023.3.12。素敵イラストで書くお話(イラストはここにはありません)

    My sweet Princess「あ?村雨、どーした?」
     朝。
     目を覚ましダイニングへと移動した獅子神は、そこに居た恋人に声を掛けた。
     呼ばれた村雨が、顔を上げてこちらを見る。
     昨日……いや、日付は変わっていた気がするので、厳密には今日……深夜。
     如何にも何日も寝ていません!という疲れきった顔の恋人の来訪を受けた。
     それ自体は、特に珍しいことでもない。
     慣れた獅子神は倒れそうになる軽い身体を抱え風呂場に移動し、シャワーで軽く洗ってやった後パジャマに着替えさせ、ベッドに放り込んだ。
     シャワーの時点で村雨は半分以上が夢の中であり……「おやすみ」と額にキスをしたことも、恐らく覚えていないだろう。
     そこまで、特に問題はない。
     問題は、現在にあった。
    「……おはよう」
    「ああ、おはよ……て、いや、オメーなんでそんな格好なんだ」
     律儀に挨拶してくるのに返しつつ、ダイニングの椅子に座る恋人に歩み寄る。
     そうすれば村雨は、口元に当てていた人差し指を離しながら、ゆるりと首を傾げた。
    「なにか問題が?」
    「いや、問題しかねーんじゃねーか」
     起き抜けの為か、毛先が少しばかり乱れている黒髪。いつもの通りの、グラスゴードに繋がれた、金縁眼鏡。ここは、いい。
     問題は何故かこの恋人は見慣れたジャケットが脱ぎ掛けで、シャツの前が肌蹴ている。ということだ。
     薄い胸板や白いうなじ、細い首筋が眩しい。
    「……」
     指先を再度口元に持っていき、何か考える表情を見せること数秒。
     その前に立ち、身を屈めて視線を合わせた獅子神の目に、暗赤色の瞳がぶつかった。
    「……獅子神」
    「どーした?」
    「あなたとまぐわいたい」
    「…………っはぁ!?!!?」
     予想をしていない言葉に仰け反れば、煩い、と非難の視線が突き刺さる。
     いや、まて、今のは悪いのはオレなのか?
     お前はもうちょい、自分の発言を顧みたりしてみねーのか?
    「たが、プリンだ」
    「……プリン」
     またも脈略のない……けれど、先ほどよりは衝撃の少ない言葉を、反復する。
     そのまま、見つめ合うこと数秒。
     獅子神は頭の中で、村雨の言葉と、今の状況と、昨日から今に至るまでとを脳を総動員して繋ぎ合わせ……溜息を吐いた。
     いや、オレ、なんで分かるんだよ。
    「あー……オメーは、つまり……」
     頭をガシガシ掻き乱しながら、脳の中身を言葉に置き換える。
    「目が覚めて着替えようとしたけどシャワー浴びるなら着なくていいかと思ってまた脱ごうとしたものの、オレがまだ起きてねーからシャワーを後にするか迷って、とりあえず喉も乾いたし水飲むか、て冷蔵庫を開けたらプリンがあったから食いてーけど生クリームを乗せて欲しいが恋人兼料理係は起きてこねーしどーするか?て、考えてた。てことでいーか?」
    「あなたとまぐわう為にシャワーを浴びようとした、が抜けいてるが、概ねその通りだ」
    「ワザと飛ばしたんだよ気づけよ追加するんじゃねーよさすがマシなマヌケって顔してるんじやねー!」
     いや、まず、オレを褒めろよ。
     なんで「まぐわう」と「プリン」でここまで導き出せるんだよ。
     ちら、と村雨を見てみれば、何かを期待する顔でこちらを見ていた。
     いっそ清々しいくらいの欲望が、獅子神へと突き刺さる。
    「……」
     はー……と。再度、獅子神は溜息を吐く。
     恋人は……村雨礼二は、欲望に忠実だ。決めたことに対しては確実に実行するし……恋人である獅子神に対しては、それを躊躇いも遠慮も何もなく、全力投球でぶつけてくる。
     欲しい。これがいい。こうしたい。
     オメーもうすぐ30だろ、幼児かよ……と思わなくはないが、その恋人故の躊躇のなさを、嬉しく思っているのも事実なわけで。
    「あー……」
     とりあえず。
     硬い黒髪の頭に触れて、目を合わせて笑いかける。
    「いいこと教えてやるよ、村雨。プリンな、オレが作ったけど……多分、まだ固まってねーんだよ」
    「……ほう?」
    「だから……今から一緒にシャワー浴びて……ベッドの中でその……なんだ」
    「まぐわう」
    「そうだな!!で、ちょっと眠って……お前が起きる頃には、プリン食べれるようになってるよ」
     ふむ……と、考える仕草をするのに笑う。
     もう、分かる。これは、村雨にとって悪く無い提案をした時の反応だ。
    「生クリームは?」
    「ちゃんと買ってある。泡だてたらすぐだよ。上に乗せるチェリーもあるぜ」
    「上出来だ」
    「そりゃ、センセイの恋人ですから」
     軽口を叩きながら、立ち上がる。ひょい、と、軽い身体を抱え上げた。
     慣れた調子で首に腕を回してくるのに、気分が良くて笑いが漏れる。
    「時に、獅子神」
    「ん?どーした?」
    「あなたとの、性的交渉についてだが……」
    「!?」
     浴室に向かいかけていた膝から、一瞬、力が抜ける。
     落としそうになるのをなんとか堪え、責める視線を腕の中へと注ぐ。
     いや、なんでオメーがオレ責めるような顔してんだよ。
    「……オマエ、な……!」
    「なぜ、今さら……?1回や2回の経験でもあるまい」
    「オメーはもうちょっと恥じらいとかを持て」
     顔が熱い。
     その顔を興味深そうに覗き込み……口に指を当て、村雨は唇の端を持ち上げて笑った。
    「では……」
    「……?」
    「……あなたに、『抱かれたい』」
    「」
     本当に。
     落とさなかったことを、感謝して欲しい。
     咄嗟に床についた、膝が痛い。
     そんな獅子神を、当の恋人は涼しい眼差しで見てきていて。
    「……後で、泣かす」
    「そうか」
     だから、なんで、嬉しそうなんだ。
     足腰立たなく……と言いたい所だが、プリンを食べられなくなったら恨まれることは確実なので、言わなかったというのに。
    「獅子神」
    「……今度はなんだよ?」
    「あなたは?」
     姿勢を立て直して脱衣所に辿りつき、そっと村雨を下ろして立たせる。
     半端に肩に掛かっていたジャケットを脱がせ、シャツのボタンを外してやる。
     そうしながら顔を上げれば……村雨は、明らかにこちらの答えを待っている顔で。
     何故。
     ここまで、敵わないのだろう。
     どうせオレの答えなんか、とっくにわかっているだろうに。
     シャツを脱がせ終え。目の前の細い肩に腕を回した。
     ふわり、と消毒液の匂いに似た香りを鼻先に感じながら、抱き締める。
    「オレも、オメーを抱きたいよ!」
     久しぶりに、会えたんだから。
     そんな心を知ってか知らずか……確実に知っているだろう……腕の中の恋人は、ただ満足そうに「上出来だ」と、呟いていた。


     

    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works