真似 大型ショッピングモールはバレンタインを控え、多くの女性客で賑わっている。
装飾もハートを中心に、あちらこちらでバレンタインを主張していた。
水上は世界各国から有名どころが集まると売りの催事を横目に通り過ぎ、ソファに座り込む。端の方だからか、人気はない。
この催事でしか手に入らないチョコレートを買うのだという同級生に付き添い男数人で人混みに突撃したものの、元から甘いものがそう得意ではない水上は手持ち無沙汰になって1人離脱した。
グループメッセージに別で時間を潰すと書き残しスマホをポケットにしまう。
まだまだ時間はかかるだろう。
本屋にでも行こうかと顔をあげると、近くに駄菓子屋のテイを模した菓子屋があった。
なんとなく、ふらり、立ち寄ることにする。
イカ焼きや串カツ、ラムネにグミにチョコ、飴玉。
小さな頃は硬貨片手に、あれが良いこれが良いと、兄と一緒に選んだものだった。
懐かしく思いながらふと手に取ったのは、ココアシガレット。煙草のような菓子に、かの人の姿が思い浮かぶ。
密かに恋焦がれているあの人、の咥え煙草のような、菓子。
誰かに見られているわけでもないのに急いで会計を済ませ、再び先ほどのソファに座ってフィルムを剥がした。ほんのり、甘い香りが鼻腔を擽る。そっと、口に咥えた。
そこで、ハッと我に返った。
誰が見ているわけでもないけれど、羞恥の気持ちは隠せそうになく、顔面が熱くなるのが分かった。
ただ、友人と合流するまでに時間があることだけが、水上にとって幸いな事であった。