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    anami_swmz

    @anami_swmz

    すわみずまとめ

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    すわみず…水上視点
    オフィス(ビル)ラブパロ

    #すわみず

     会社近くの公園は昨今の少子化や騒音問題も相まって人気が無い。オフィスの立ち並ぶ区画にポツリと存在しているせいでもある。
     ベンチは気持ちばかりに一つだけ、公園とも名ばかりなその場所が水上のお気に入りだった。昼休みはその一つしかないベンチを牛耳り脳裏で将棋を指す。

     今日もいつものように公園を訪れる。
     しかし、普段とは違いベンチには人影があった。珍し、と眉を顰めつつ近づく。その人物が居座りそうであるならば引き返すが、もしも立ち去るようであれば利用したい。それを確認しようとするほどには、一息つける気に入りの場所であるので。
     僅かに見えるカッターシャツに、自身と同様に近くの会社の社員だろうと当たりをつける。
     水上の位置からは座すその人の背中しかわからないのだ。頭は俯いているせいで見えない。
     寝ているのか、と少し落胆を覚えた。今日は諦めなければならないかと踵を返しかけたとき、俯いていた頭がガバリと上がった。
     水上はびくりとして立ち止まる。勢いよく振り返ったその人と視線がバチリと合った。
     金色が揺れる。あ、と水上の口から声が漏れた。
     よく知った人物だ。自身の会社と同じビルに入った会社の、営業の人。一方的に知っている人。いつも色んな人に囲まれて、少しうるさいくらいに明るく溌剌とした人。
     名前はそう、
    「諏訪さん」
    「あ?誰だお前」
     その一言にハッとする。口に出してしまった。自分にしては有るまじき失敗だ。どうしようかと思考を巡らす。嘘をついたところでこの察しの良さそうな男を誤魔化せる気はしなかった。
     いや、嘘はつきたくなかった。

     好きな人には。

    「あー、…同じビルに入ってる株式会社SuzunarIの水上って言います。すみません、お見かけした事があって覚えていました」
     そう言って素直に頭を下げる。
    「なんだ、SuzunarIさんでしたか。それは失礼しました」
     声色から険がとれてホッとしながら頭を上げた。第一印象から最悪は避けられただろうか。最高でもないが。
    「いえ、急に知らない人間に名前を呼ばれたら警戒するのも仕方ないでしょう。不躾に申し訳ございませんでした。諏訪さん、うちの人とも仲がよろしいでしょう。生駒さんは私の直接の上司なんです」
    「あー、水上さん…なるほど、貴方が生駒さんの仰っていた水上さんでしたか。お噂は予々」
     諏訪の表情が柔らかくなって、水上は内心上司である生駒に感謝した。気質が真っ直ぐで人懐こい生駒は社内外に友人が多くいて、諏訪もその1人であることは知っていた。ただ、水上は自身の恋心の関係で諏訪のことを尋ねてはいたが、諏訪も同様に水上の事を聞いているとは予想外であった。
    (いや、俺が知られたく無いって心のどっかで思ってて除外してただけなんやろな)
     よく考えれば生駒のことだ、部下の話をする事もあるだろう。社内の事を漏らす人ではないが、何を言っていたのやら。
    「…どんな事を伺っているかは存じませんが、他に同姓はおりませんのでおそらくその水上です。……あの、良ければ敬語は外していただいて結構ですよ。敬語はお好きではないと聞いています」
     歳上なのも生駒から伺っています、と伝えると諏訪はニカリと笑って頭を掻いた。
    「お、じゃあ遠慮なく。堅っ苦しいのは苦手でよ。お前さんも気にしなくていいぞ」
     フランクな諏訪の態度に胸がときめく自分がいるのがわかって、少しだけゲンナリした。
     諏訪のことを好いていることは自覚しているし、こうやって話せることも嬉しい。それはそうだ。けれど思い通りにならない自分の心は、賢いと言われる自身の脳でも上手く処理が出来ず、コントロールが難しい。
     それが厄介で仕方がないのだ。
    「いえ、歳下ですから…」
    「タメ口されても気になんねぇけど、そうじゃねぇよ。出身関西なんだろ?無理して標準語使わなくてもいいって話だよ」
    「あ、ありがとうございます。それも生駒さんから聞いてはるんですか?」
    「おー、お前さんの上司は部下の事が大好きみてぇよ?」
     諏訪がクツクツと笑う。
     生駒が何と言ったか教えてもらわずとも、「水上は俺と同郷でな。言葉が近いと安心するわ。ほんま嬉しいわぁ」とか「あんな、うちの水上はめっちゃ賢いねん!いつも助けられてなぁ」なんて言う姿が想像できた。というより、自分が傍にいようがお構いなしに似たような話をしていたことがあるので、想像に容易かった。
    「あの人すぐ、どこでも誰にでも褒めはるから照れ臭いですわ」
    「いいじゃねぇか実直でよ」
    「…それは認めますけど」
     しぶしぶ頷くと、諏訪は笑って自身の隣を指した。
    「つーか昼休憩に来たんじゃねぇの?座るか?」
    「あ、はい。じゃあ、…失礼します」
     ドキドキとしながら隣に腰掛ける。
     近い。顔が熱いが、頬が赤くなっていないだろうか。心配だ。
     心臓が壊れそうでため息が溢れそうなのをグッと堪える。
    (ほんま勘弁して欲しいわ)
     何か会話を続けたかったが、いつもはよく回ってくれる口が硬い。とりあえず食べている間は話さなくても良いだろうと、手に持ったコンビニの袋からおにぎりを取り出した。
     ちらりと横を確認すると、諏訪はぼうっと空を見上げていた。
     お疲れですか、そう声をかけたかったけれど、仕事のことであれば他社のことだ、相談も簡単にはのれない。プライベートのことは……まだ聞く勇気はない。生駒によると恋人は“今は”いないようだが。
     ペリペリとフィルムを剥がしていく。
     遠くでごおっと飛行機の飛ぶ音がして何となしに空を見る。雲一つなく澄み渡り、そよ風も心地よい。
     もう春やなぁとぼんやり思った。
     どこかで工事をしているような機械音がする。近くの木々では鳥の鳴き声が溢れている。
     おにぎりを頬張る。海苔のパリパリとした咀嚼音が鼓膜を震わせた。
     ゆっくりとした時間が流れて、落ち着かない鼓動も収まってきたように思う。
     ふと、隣で深く息を吐く音が聞こえた。そっと窺うと諏訪が腕を組んで眠っていた。
     少しの驚きと、それから安堵。生駒のお陰とはいえ、少しは信用して貰えたようだ。
    (そうは言うても初めましての人間の隣でよぉ寝れるな…)
     諏訪が眠っているのをいいことに、おにぎりを食べながら眺める。先程まで気づかなかったが、目元に隈が出来ている。相当に疲れていたようだと察する。
    (何時まで休憩なんやろこの人。俺より先に居ったしなぁ…。まぁ早めに戻ることにして、そん時に声かけよか)
     本来ならば起こして時間を確認した方が良いのだろうが、あまりにも穏やかに寝息を立てている諏訪を見るとそれも憚られた。

     そういうわけで、いつものように脳内で将棋を指したり、こっそり諏訪の様子を眺めたりしながら静かに昼食を済ませた後、頃合いを見て諏訪に声をかけることにした。水上の休憩時間はまだ残っているが、諏訪が気兼ねないよう帰社準備を済ませて立ち上がっておく。
    「諏訪さん、諏訪さん」
    「ん…えーと、みずかみ…?だっけか……」
     近づいて肩を揺さぶると、とろんとした諏訪の瞳とかち合う。まだ半分夢見心地に見えて、軽く肩を叩いた。
    「諏訪さん、休憩時間はまだあります?1時回りましたけど」
    「ん、いちじ…1時!?」
    「わっ」
     諏訪がガバリと立ち上がった拍子にふらつく。
    「っと、悪ぃ!」
    「んぶっ」
     尻餅を着きそうになった水上は腕をグイッと引かれて、諏訪の胸に飛び込んだ。抱きしめられる形になって、混乱で思考が止まった。
    「!?」
    「おっと、重ねて悪ぃな!っつーか起こしてくれてあんがとよ。これから会議なんだわ」
    「い、いえ」
    「助かった。これ俺の名刺な!なんかあったら連絡してくれていい」
    「あ、ども…」
    「じゃーな!」
     押し付けられた名刺を両手で受け取ったまま、手を振りながら去っていく諏訪の背中を見送る。
     遅れて、顔がボボっと熱くなって慌てて腕で顔を覆った。
    (思ってたより逞し、やない!あかんって…!)
     どうにか落ち着こうと大きく息を吸う。すると煙草の香りが微かに鼻腔を擽って、余計に顔が熱くなってしまった。水上は煙草を吸わない。先程抱き留められた時に移ったのだろう。諏訪の香りだ。
    「ほんま勘弁してくれ…」
     空を仰いで呟く。
     水上の情けなく小さな声は、憎いくらいの快晴の青に吸い込まれていった。
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