こくはく「あの、イコさん、ちょっとえぇですか?」
遠慮がちに声をかけてきた水上に、なんや珍しいなと思う。
先程防衛任務を終えたばかりだが、作戦室に他の面々の姿はない。もう陽も翳り夕飯時、各々帰路に着いた。俺は報告書の作成で残っていたに過ぎん。この後特に用事もなかった。
「えぇよ」と返すが、水上はもごもごと口を動かすだけで一向に用件を伝えてはくれない。心なしか頬も赤い気がする。
(これは…!もしかして、告白、というやつやない?)
『んなわけあるかい』と脳内の水上にツッコまれる。
(いやいや分かってるよ。水上くんが俺のことを慕ってくれてんのは、そういうんやないっていうのは。冗談や冗談)
『それならえぇですけど』と脳内の水上は許してくれて茶番劇は幕を下ろす。けれど目の前の水上は相変わらず黙ったままだ。
「飯いこか?」
「えぇと、いや、ここで」
「この後約束があるんで」と水上は手のひらを首に当て、困ったように笑った。
(告白、あながち間違ってないんやないか?)
ふと、確信めいたことを思う。
(相手は俺やない、それはわかる。つまり)
「なんやえぇ人できたんか」
「えっ」
水上が虚をつかれたような声を溢す。
(図星か)
嬉しいような寂しいような、不思議な気持ちになる。それでもやはり「よかったなぁ」と頷いた。
(俺がモテたい話しても隠岐がモテる話しても、自分のことはガンとして語らんやつやったからからなぁ)
「まだ何も言うてへんのですけど?」
「いやー、嬉しいわぁ」
水上に“えぇ人”ができたことも、それを自分に報告してくれたことも嬉しくて、水上がまだ否定も肯定もしていないのに喜んでしまった。
けれど間違ってはいなかったようで、水上は観念したように両手をあげた。
「あーもう、そうですそうです。認めます。……イコさん、なんでこういう時だけ察しえぇんですか」
「だけて酷ない?……まぁえぇわ、めでたいから許したる。どんな子?可愛え?綺麗か?いやカッコいいんか。ん?ほーん。年下?同い?年上?…ほうほう年上か。どんな人って聞いたがえぇ感じか?」
「は、いや察し良過ぎて怖!」
「オレなんも言うてへんけど!?」なんて水上が叫ぶ。
勢い余って矢継ぎ早に質問してしまった。舌をペロリと出して「すまんな」と謝る。
どこで分かったのかと聞かれても“なんとなく”としか答えられない。ほんの少しの顔色の変化は、水上と過ごしてきた経験で察することができるようなっただけ。
(よお分かりにくい言われとるけど。俺には分かりやすぅてしゃあないんけどなぁ)
「それ以上は勘弁してください。まだ相手を紹介するとか、そんなんではないんで」
「まだっちゅーことはいつかは紹介してくれるつもりなんやな。楽しみにしとこな」
「あーもう、なんなんですか今日は」
水上は今度こそ顔を赤らめて頭をかいた。
流石にその表情は珍しくて、マジマジと見つめてしまった。
水上は落語よろしく表現豊かに話すことも多い。
(いやでもこんなガチ照れは珍しいなぁ)
歳は1つしか違わなくとも、やはり隊長として率いてきたからなのか。
隊員は皆んな可愛いし、家族のようだ。そんな水上の、こんな表情が見られたことが嬉しいような寂しいような、不思議な気持ちになった。
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「なんや息子を嫁に出すおとんの気持ちが分かった気ぃするわ」
「それやったら娘を嫁に出す、やないんですか。それに俺は貰う方ですよ」
「アレッ、せやな?なんでやろ」
「……なんでですかね」