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    Jack

    @Junk_Xy_

    夢。R系統のものや描きたいものを描き投げる所。
    顔あり自主なので注意。

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    Jack

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    スナフキン夢
    獣人♀夢主

    ##すりーぷうぇる

    馴れ初めのスナフキンは、いつもとは違う、少し遠くの川で釣りをしていた。ただの気まぐれだった。川辺に腰を下ろし、気の向くまま糸を垂らす。
    日が傾く頃、ウグイを五匹釣り上げ、満足げに釣竿を肩にかける。そして、いつものように自分のテントへと帰ってきたその時だった。

    入口の端から、棒のようなものがぴょろりと見えている。釣竿は手に持っているし、他に持ち物はほとんどない。ならば、その突き出た棒は自分のものではない。

    近づいてよく見れば、それは虎の尻尾だった。毛並みは夕陽を受けて淡く光り、その節々には金や銀の輪がはめられている。まるで小さな指輪のようだ。
    その尻尾の根元。つまり尻も、入り口の幕から少し覗いている。どうやら誰かが、半身を突っ込んでテントの中を物色しているらしい。

    スナフキンはあまり他人を自分のテントに招かない。必要以上に客を呼ぶこともないし、谷の仲間ならこんな無遠慮な真似はしないはずだ。
    足音を殺し、釣竿とバケツをそっと地面に置く。気配を消して背後に立ち塞がるが、侵入者はまだ気づかない。尻尾の先が、嬉しげに揺れている。

    「……君、何をしてるんだい?」

    低く穏やかな声が、背後から落ちた。
    声をかけられた瞬間、タビィの肩がびくりと大きく揺れた。
    ゆっくりと振り返ると、その両手には銀色のスプーンと、艶のある古いハーモニカが握られている。まるで宝物を見つけた子どものような、輝いた目。だが、その輝きは見つかったことで一瞬だけ陰った。

    「……あっ、その……」

    タビィは尻尾をぱたぱた揺らし、言い訳を探して口ごもる。

    「き、キラキラしてたから……ちょっと、見てただけ!」

    スナフキンは、ちらと彼女の手元に視線を落とす。スプーンはまだしも、ハーモニカは彼にとって大切な旅の相棒だった。その音色には、幾つもの旅の夜や、過ぎ去った思い出が詰まっている。

    「……それは、僕の大事なものなんだ。返してくれると助かるよ」

    声色は柔らかいが、そこにはいつもの緩やかさとは違う、譲れない響きがあった。
    だが、タビィは唇を尖らせ、両手を背中に隠した。

    「やだ! だってこれ、すごく綺麗だもん! 音も出るし、タビィはこういうの好きなの!」

    「好きなのは分かる。でも、それは僕にとって……」

    「じゃあちょっとだけ貸してよ! すぐ返すから! ……って、何でそんなに怒ってるの? ただ見てただけじゃん!」

    尻尾の金銀の輪が、逆ギレしたように小刻みに揺れる。タビィの声はどんどん大きくなり、まるで自分が被害者かのように眉を吊り上げた。
    一方、スナフキンは深く息を吐き、彼女の正面にしゃがみ込む。淡々とした目が、真正面からタビィをとらえて離さなかった。

    「……タビィ。人のものを勝手に持っていくのは、谷ではやらない方がいい」

    「でも……」

    「“でも”じゃない。僕がお願いしてる」

    タビィは、両手でぎゅっとハーモニカを握りしめたまま、唇を噛んでうつむいた。返すのは嫌。でも、怒られるのも嫌。胸の奥がきゅうっと縮まって、何か言おうとしても声が出ない。
    目の縁がじわりと熱くなり、泣きそうなのに「ごめんなさい」の一言がどうしても出てこなかった。

    スナフキンは、そんな彼女をじっと見ていた。怒るつもりなど毛頭なかった。
    ただ、初対面の子どもにどう諭せばいいのか分からず、無意識に低く落ち着いた声で話してしまう。その落ち着きが、逆にタビィには“圧”としてのしかかっていた。

    「……タビィ」

     呼びかける声は穏やかだが、拒否できない強さがあった。タビィは肩をびくりと震わせ、尻尾の金銀の輪を小刻みに鳴らす。

    「僕はね、怒っているわけじゃない。ただ――それは僕の大事な相棒だから、今は返してほしい」

    しゃがみ込んだ彼の瞳は真っ直ぐで、逃げ道を与えてくれない。

    「……やだ」

    小さな声で、タビィは呟いた。涙がこぼれそうになり、慌てて顔を背ける。握る手はさらに強くなり、ハーモニカが小さくきしむほどだった。

    スナフキンはひとつ溜め息をつき、頭をかいた。この子は、ただの盗人じゃない。ただ、宝物を見つけた子猫のように離したくないだけなんだ。そう分かっていても、大切なものは譲れない。

    「……分かった。じゃあ、返してくれたら、他のキラキラしたものをあげる。夕飯も用意してあげる。それでどうだい?」

    その言葉に、タビィの耳がぴくんと動く。尻尾の金銀の輪がかちゃりと鳴り、ほんの少しだけ握る力が緩んだ。
    まだ名残惜しそうにハーモニカを見つめていたが、やがて小さくため息をつき、渋々スナフキンの手にそれを戻した。

     「……ほんとに、きらきらくれる?」

     「約束するよ」

     - - - - - - - - - - - - - - - - -

    次の日から、タビィはまるで子猫のように、朝になるとスナフキンのテントに顔を出すようになった。小動物を捕まえては、得意げに差し出す。じたばたと小さな手の中で暴れているのが少し可哀想だ。

    「ほら! 今日のご飯!」

    「……ああ、ありがとう」

    リスや野ウサギ、はい虫まで。その献上品は日に日に多彩になっていく。スナフキンは申し訳なさそうに微笑み、彼女が見ていない隙にそっと逃がしてやった。森の奥に小動物が駆けていくのを見送りながら、彼は胸の奥で小さく呟く。

     ーータビィは悪い子じゃない。ただ、ちょっとばかり自由すぎるだけだ。

    そんなふうに、奇妙で穏やかな二人の付き合いは始まったのだった。
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    Replies from the creator

    Jack

    PASTレムえむ
    甘くないです
    なんならマイナス寄り
    lie like「あはは、どうでしたかね」

    それが彼女の口癖だった。へらへらと笑顔を浮かべて、少し気まずそうに軽く頭を掻く。本人は気付いているのか分からないが、エムは嘘をつく時に目を瞑ったり、斜め下に視線を逃がしたりする癖がある。あぁ、また目線が下に向いた。そんな事を思いながら、皆に囲まれて談笑する彼女を少し離れて見ていた。

    - - - - - - - - - - - - - - - - -

    重い身体を動かして、箒に乗る。朝から付きまとわれた堅苦しいインタビューや報道から逃げる様に、空に向かって地を蹴った。ふわりと身体が浮かんで、あっという間に木々の上。もうすっかり太陽は傾いており、夕方を知らせる。空は橙色と薄ら青のミルクたっぷりのカフェオレの様に混ざっていて、雲とのコントラストが綺麗だった。『彗星の魔導師』としての仕事が終わる。こんな日は早く帰って大好きな甘いものでも食べてしまおう。そう思って飛ぶ速度を上げた時だった。ふと下を見れば異世界から飛んできた彼女が1人歩いていた。特に何も用事は無かったものの、少し彼女に声を掛けたくなって、高度を下ろす。彼女の後ろに回り、音を立てないように箒を降りたつもりだったが、彼女は此方を振り返った。
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