料理上手なチチは菓子類も作れる。子供達の誕生日には手作りのケーキを焼いてきた。
そんな彼女は月に一度、いちごのケーキを焼く。
真っ白なクリームにつやつやとした赤いいちごのそれはとてもおいしくて、悟天のお気に入りだ。
「ねぇおかあさん、今日っていちごのケーキの日?」
「いんや、それは来週のつもりだべよ。なしてだべ? 悟天ちゃん」
「だって、テレビで今日は『いちごの日ですよ』って言ってたから…」
リビングのソファでテレビを見ていた次男坊からの元気良い問いかけの理由を理解したチチはにっこりと笑う。なるほど、それならそう思ってしまうのも仕方ないかもしれない。
「おっかあがいちごのケーキを焼く日はその月の22日だべ。でもイチゴの日じゃあなくてだな、それはショートケーキの日だからなんだべ」
「あ、そっか。おかあさんに前教えてもらったっけ。カレンダーで22日の上に15日、『いちご』が乗ってるから、だよねっ」
「んだ。でも今日は1月の15日だから、いいいちごの日とかでさらに語呂合わせがきてるんだべなぁ。んー…、悟天ちゃん、いちごのケーキ食べたいけ?」
「食べたい! けど、それってまだなんだよね」
「せっかくいいいちごの日だってわかったんだから特別だべ。たまには月に二回くれぇおやつにケーキ焼くのもいいべ。ただし、今日はいちごのチョコケーキとかどうだべ?」
「やったぁ!!」」
見事に両手を上にあげて万歳をする次男がかわいい。
ぴょんぴょんとソファの上を跳ねようとするのを窘めて、チチは材料の確認をしつつ、スマートフォンを手に取り、夫に連絡を始めた。
「あ、悟空さ。今運転中け? …じゃあこのまましゃべるんだけんど、こっち戻ってくるときにいちご買ってきてほしいんだべ。今日のおやつにケーキ焼くだよ」
端末の向こうから聞こえる夫の声は耳に心地いい。まだ市場にいるのか少しがやがやした環境音もあるが、きっと自分はどんな騒音の中からでもこの人の声は聞き取れるじゃないかとチチは思う。
甘味も好きな夫はチチの言葉に喜び、お使いを了承してくれた。帰宅後修行にはいかずおやつの時間を一緒に過ごすようなので、それなりに大きなケーキにしなければならなさそうである。そのやりとりをチチと離れた場所にいる悟空とでしていたのだが、チチの頬が突然朱に染まり、「ばかっ」とまるで猫の威嚇のように叫ぶ。
「おかあさん、なにかあった?」
「…悟天ちゃん…なんでもねぇべ…、悟空さ…おっとうがおっかあをからかっただよ……」
「ふうん…?」
悲しいかな、チチが悟空を叱る光景は孫家ではよくあることなため、悟天はチチの言葉にすぐ納得したようだが、チチとしては瞬時に耳までともった熱に苦労することになる。
理由は電話を切り際の悟空の言葉で、「チチにつけたみてぇなうまそうな、赤い色したいちご買ってくかんなー!」というそれだった。