卵と小麦粉と牛乳があれば色々作れる。それはチチが彼に教えたことだ。
悟空は健啖家なので寝起きからがっつり大量の肉料理も食せるが、チチはどちらかといえば朝食は軽く済ませる方だ。というか、そのころはまだ悟空ほどではなかったもののサイヤ人の血を引く悟飯もよく食べる子だったので、朝からボリュームのあるものを作っているうちに空腹感は薄れてしまっていたという方が正しい。
あとこれは個人的な差もあると思うが、自分が作ったものに食指が伸びないこともある。
セルゲーム前の夫婦ふたりだけのとある朝、それをチチが零すと夫が「じゃあオラが作る」と金色の髪と翠の眼でにっかりと笑って言った。
そして、文頭となる。
ストックがされている小麦粉、卵、牛乳を使って簡単な調理ならできる悟空が作れるものということでパンケーキとなった。
甘いパンケーキはおやつという印象が強いが、ソーセージや卵を添えることで主食になる。
少し焦げたり、火の通りが甘いものが最初作られたが、焦げは落として生焼けはもう少し焼いて、と失敗も夫婦ふたりで笑いながら手を加えて食した。
少しだけほろ苦いパンケーキにたっぷりのメープルシロップをかけて食べたあの味は、その後もう味わえることはない。
なぜならば………。
「悟空さ、パンケーキ焼くのうまくなっただなぁ」
「チチから受けた修行の成果だな。もう一枚食うか?」
再び家族で、夫婦で迎えられる朝に時折作られるパンケーキはもう焦げることがなかったからである。