いつかの武舞台の上で晴れて夫婦にはなったけれど、よくよく振り返ってみるとプロポーズは自分からしての結婚になるのかなとチチは小さく笑う。
チチとしては天下一武闘会で再会して、幼いころの約束を覚えていた悟空によりプロポーズをされることを夢見ていたが、実際は彼は約束は覚えておらず、しかもチチを思い出すのもその後になってからだった。
「懐かしい写真見てんな」
「悟空さ、髪はちゃんと乾かさねぇとだめだべよ」
「チチに吹いてもらおうと思ってさ」
「まったくもう。悟天ちゃんだって自分でしてるだよ」
「へへ」
風呂上がりの夫に苦笑しつつもタオルを受け取って求められるまま動いてしまうのは、リビングに夫婦しかいない時間だからだ。長男が自分の家を持ち、次男ももう手がかかる歳ではなくなってきたため、こんなちょっとした時間ができてくる。
今日もそんな空き時間に自分のスマートフォンの中に入っている写真を見ていたチチだった。
「結婚式のときの写真だよな、それ」
「んだ。今の時代は便利だべなー、昔取った写真もきれいにこんな感じで見れるようになるだよ」
「ん。………これ、オラのやつにも送っといてくれよ」
「分かったけんど、あとでいいべか?」
「おう」
タオル生地の下で、夫が柔らかく微笑んでるのを感じる。
彼の手にはチチのスマートフォンが握られていて、その視線は結婚式の写真に注がれているのだろう。
憧れのようなプロポーズではなかったけれど、この人の妻でいられてよかった。
じわりとチチはそう思った。