悟空の好物はチチの手料理である。
もともと好き嫌いはなく、外食に文句はないし、自分の食欲を満たすために魚や獣、木の実などを採ることもある。簡単な調理はできるが、逆に言えば工程が多いものは得意ではないということだ。
しかし、最近はその少ない工程でもなるべく「おいしい」と思えるものを幾つか作れるようになっている。
大きな鍋の底に骨付きの鶏肉を並べ、その上にじゃがいも、にんじん、たまねぎを並べる。野菜はどれもごろっとしていて一口よりも大きく不ぞろい気味だが、それぞれが柔らかくなるまで煮込むので特に気にしなくていいとチチに教わった。
肉と野菜を入れた鍋に「これで煮込めば大体おいしくなる」というチチの太鼓判のコンソメキューブを幾つか入れ、水をはり火をかける。
あとは灰汁をとりつつ煮込めばポトフの完成だ。
ニンジンの赤が多少多いのは、最近の収穫量が多かったのと、チチのリクエストだからだ。
風邪で本日寝込んでいるチチは野菜を食べたがり、おなかにも喉にも優しいポトフを所望し、悟空に作ってくれとねだってきた。
こういうときのために自分に、これまでよりちょっとだけ手を食わえる料理を教えてくれたのかと思うと、いつもなら離れがちになる鍋にちょっと寄り添おうという気持ちになる。
やわらかく煮えた人参を最初に食べさせてやろう、そう思いつつ彼は鍋の蓋を閉じるのだった。