◇ ◇ ◇
かしゃん、と床でグラスの割れる音を聞いて獅子神は顔を上げた。
シンクの皿とそれを洗う手はまだ白い泡を纏っていたが、即座に振り向き床に屈む村雨の所へ向かう。
「怪我してねえか」
「すまない。手が滑った。片付ける」
しゃがみ込み、大きな破片に指を伸ばそうとするのを「触るな、オレがワイパーでやるから」と獅子神はすぐに村雨の手を取った。
「………」
少しの力も無い手。
申し訳なさそうな顔をしてから静かに立ち、元のソファーに向かう背中。
……つい、先日もこうだったな。と、獅子神は思い出してクローゼットからワイパーとバケツも取り出す。
先週末も、この男は自ら食事の片付けをしてくれようとして鮮やかな音とともにここの皿を一気に三枚破損した。
7826