◆前回のあらすじ◆
開幕クリーチャーとのご対面で幸先が怪しくなるも、なんとか乗り切った(?)探索者たち。BFだけにしか視えなかったあれは一体何なのか、GFも記憶を引っ張り出そうとするもBFの説明が壊滅的すぎて何も分からずじまいで終わっていった。
そんなこんなでやっと室内の探索に入ったが、書斎の窓ないない詐欺やら物置の死体やらでこの屋敷のヤバさがどんどん急上昇し、なんか重要そうな本はBFの〈歌の矢〉の餌食になり、重要そうな情報が一部闇に葬り去られた。
その本の解読をGFに任せ、BFとPicoは他の部屋の探索に向かっていくのでした……──
episode:白の家-week3-
「おじゃましまーす」
聞き耳もそこそこに、BFは次なる探索場所の扉を開け放つ。
今までと同じように照明のスイッチを探り当てて押すと、暖色系の優しい明かりが室内を照らし出す。
その先に広がっていたのはリビングだった。部屋中央の床には美しい紋様の絨毯が敷かれ、その上にはゆったりとした大きさの黒いテーブルが鎮座している。周りには高級感の漂う革張りのソファーやカウチが置かれ、小さいながら立派な暖炉も備え付けられていた。2人から見て向かいの壁には次の部屋へ通じているであろう扉、四方の壁には額縁にはめ込まれた写真や絵がざっと見ただけでも数十点ほど飾ってある。
…そして、書斎と同じく、本来なら屋敷の構造的にあるはずの窓がどこにもない。
「ここも窓ないのか…これもしかして全部の部屋窓ないんじゃね?」
「……」
「てか、そもそもなんでないんだろ?
外から見た時はフツーにあったし、なんだったら1つ開いてるやつあったよな?」
BFはひとしきりうんうん唸って考える素振りを見せていたが、
「まっ、考えてもわかんねーし、とりあえず進むか!」
とすぐに思考を放棄した。
いやもうちょっと粘れよ…とPicoはツッコみかけた言葉をそっと飲み込んだ。いちいちツッコんでいったらキリがない。
テーブルの下やソファーの下など、何故か家具の下に固執して見て回っているBFを横目に、Picoも壁に飾られた写真や絵を眺める。
子供が描いたような可愛らしいタッチの絵が数点と、それ以外の写真は家族を写したと思われるものが大半を占めていた。
精悍だがどこか優しそうな顔つきの父親、穏やかな雰囲気を纏った母親、ころころとした笑顔が可愛らしい幼い少女。
彼らが単体で写っているもの、夫婦、母と娘、父と娘など様々な組み合わせで写っているもの、3人が肩を寄せ合い、一緒に写っているもの。
ここが廃墟となる以前に暮らしていたであろう仲睦まじい家族の、酷く幸せそうな日々の営みの風景がそこには残っていた。
そんな中、Picoは写真同士の間隔が不自然に空いている箇所があるのに気づいた。丁度写真が1点飾ってあったのが取り外されてそのままになっている、といったような空間だ。たったそれだけのことだが、これまでの経験からこういった些細な違和感にも反応してしまう。
一応BFにも報告しようと振り返ったPicoの視界に、暖炉に頭から突っ込むBFの姿が映った。
「何してんだお前?」
思わず口をついて出た言葉に反応したBFがにゅ、と暖炉から顔を出す。
「Pico?どした?」
「それはこっちの台詞だ…。
暖炉に頭突っ込むんじゃねぇ、危ないだろうが」
「えー?火ぃついてないから大丈夫だって〜。
それにここ、なんか入ってるっぽいし」
「…何だと?」
BFの言葉にハッとなったPicoは、暖炉に駆け寄りウエストポーチから懐中電灯を取り出す。BFが興味津々に見つめる中、懐中電灯の灯りをつけて暖炉の内部を照らした。
内壁は長年の煤などがこびりつき黒ずんでいる。その黒ずみと暖炉内部の闇に紛れて、BFの言う通り“何か”が隅の方に落ちていた。懐中電灯の強い光に照らされ、その輪郭がはっきり浮かび上がる。
「黒猫…の、ぬいぐるみ?」
三角の大きな耳と細長い尻尾、そして闇に溶け込むような黒い毛並みをもつそれは、うつ伏せの状態で放置されていた。恐らくこの家に住んでいた少女のものだろう。
BFは正体がわかると、再び暖炉に頭を突っ込もうとする。が、しかし。
「……」
Picoに無言でフードを掴まれ制止を食らった。
「なんで止めるんだよPico、ぬいぐるみ取ろうとしてるだけじゃんか」
「俺が取る」
「またダメって…そんな警戒してたら何もできn…えっ?」
Picoは、間抜けな声を発して固まったBFのフードから手を離すと、暖炉の中に腕を伸ばしてぬいぐるみの耳を摘んだ。そこから少し手前に寄せて、改めて胴体を掴んで取り出す。
暖炉から無事救出された黒猫のぬいぐるみは見るからに柔らかそうで、子供が抱えるのに丁度良さそうな大きさだった。可愛らしい顔立ちをしており、特に金色の丸い目が非常に愛くるしい。そんないかにも幼児が好みそうなぬいぐるみを、無表情の大男が片手で鷲掴みしているという姿が妙にツボに入り、BFは笑いそうになった。
「…………」
Picoは笑いを堪えて少しぷるぷるしてるBFを不服そうに無言で見つめていたが、すぐに自分が手にしているぬいぐるみに視線を落とす。間近で見る造形も、手に持った重量も特に変わったことはない。何か仕込まれてるわけでもなさそうだし、何かの気配を感じるわけでもない。本当に何の変哲もない、ただのぬいぐるみ。
暖炉に落ちていたのは何故だという疑問と、少しばかりの警戒心を抱いていたPicoは少し拍子抜けた。
「なーなーPico〜、それオレにもかーして」
そんなPicoとは違い何も考えてなさそうなBFは、おねだりする子供のような口調で彼の袖をくいくいと引っ張る。
(…まぁ、これなら渡しても大丈夫か)
「……ほらよ」
Picoは素直にぬいぐるみを差し出した。
「わーい、…わ!ふわふわ!!」
満面の笑みでぬいぐるみを受け取ったBFは、その感触に無邪気にはしゃいではぎゅっと抱きしめる。
が、ふと笑顔が消え、その代わりに何かに気づいたような表情を浮かべぬいぐるみをじっと見つめた。
「どうした」
「なんかこれ、甘い匂いがする…?かもしんない」
Picoの問いかけにそう答えるや否や、ぬいぐるみに顔を押し付けるBF。スンスンと鼻を鳴らす音が聞こえたかと思えば、勢いよく顔を上げて
「やっぱなんか花みたいな匂いする!!」
と声高らかに叫んだ。
「花…?」
「うん、ほんとにめっちゃ微かにって感じだけど。
…なんの花かはわかんねー」
彼の言う通り花の匂いとやらは本当に微弱なものなのだろう、Picoは手に取ったときでさえも気づかなかった。
とはいえ、何故煤のこびり付いた暖炉の中に落ちていたぬいぐるみからそんな花の香りがするのだろうか。ますます謎だ。
「……」
Picoは眉間の皺をさらに濃くしてぬいぐるみを見つめた。
いつまで経っても完結しない情報に頭を抱えそうになるが、今はそんなことしている場合ではない。
「…ここにはもう調べられるものはなさそうだな。
次、行くぞ」
「おう!…あ、ぬいぐるみもってっt」
「探索の邪魔だ」
「デスヨネー…。ちぇー、ソファーに座らしとこ」
◆◆◆
Picoがリビングの壁にあった扉の向こうに注意深く耳を澄ます。
特に物音や気配はしないことが分かると、ドアノブに手をかけゆっくりと開け放つ。いつも同じように電気を付けると、天井から垂れ下がった照明が暖色系の明かりを灯した。
この部屋はダイニングだった。中央には木製のテーブルと3脚の椅子が整然と並べられ、周りには背の低い棚が置かれている。また、2人から見て左側には次の部屋に続くであろう扉が見てとれる。そして相変わらず窓はない。
BFはPicoの背後から顔を出して部屋の様子をじっと見つめていたが、何か思いついたようにおもむろに口を開いた。
「なんかさー、もう2人で1つの部屋調べるの、めんどくさくない?」
「……?」
突然何を言い出すのかと、Picoは平生から細まっている目をさらに細めつつ、BFに視線を落とす。
「ここ割と狭いしさ、1人でも十分じゃない?調べるの。
ここがダイニングならどうせ奥の部屋はキッチンだろうし、二手に別れた方が早く終わるだろ?」
「……それはそうだが……」
(大丈夫だろうか、こいつを1人にして…)
その考えが視線からBFに伝わってしまったのか、柔らかい頬を膨らませ、Picoを睨め付ける。
「なんだよその目!オレだって1人で探索くらいできるってば!」
「さっき1人で調べてたときに、重要そうな本をぶっ壊したのは何処のどいつだ」
「ヴッ…。…っさ、さっきは力加減見誤っただけだし!さすがにそんなヘマは立て続けにしねーよ!」
「………………」
捲し立てるBFに、尚も信用ならないという視線を落とすPico。
「もー!!やめろそんな目で見るの!オレ1人でできるっつってんだろ!?
さっさとあっちいけよこのわからずや!バカ!筋肉ゴリラ!!」
「っ!?おい…っ」
とうとう完全に拗ねてしまったBFは、小学校低学年から全く成長してない語彙力でPicoを罵倒しつつ、力任せにPicoを次の部屋に続く扉のほうへと押しやろうとした。
──もっとも、体格と筋力の差が大きすぎて殆ど動かせてなかったが。
「分かった、分かったから押すのやめろ!
俺は次の部屋行くから…!!」
観念した…というより呆れ返ったPicoが、降参というようにBFを制止する。
すると、BFは割と素直に押すのをやめ、相変わらずジトリとした目で彼を見上げて、「べーっ」と舌を出して応えたのだった。
◆◆◆ Side P -キッチン-◆◆◆
BFの予想通り、次の部屋はキッチンだった。
ダイニングと同じく暖色系の照明が、大きめのカウンターや冷蔵庫、食器棚などを照らし出す。
案の定窓はない。といっても、構造的にここは屋敷の裏側の一角のはずだから、最初外から見たときには元々窓があるかどうかは確認できていないが。
部屋全体を軽く見渡していたそのとき、突如背後からガチャンという乱暴な音が聞こえてきた。
ぎょっとして振り返ると、開けっぱなしにしていた扉が閉まっている。きっとBFが閉めたのだろう。
かなり機嫌を損ねてしまったようだな…と、本日何度目かも知れないため息を1つ吐きつつ、キッチンの探索に踏み出す。
食器棚、冷蔵庫の順に見ていくが、食器棚は普通に食器が陳列していただけだったし、冷蔵庫に至っては何も入っていなかった。
カウンターの向こうに回ると、流し台と調理台、大きめのゴミ箱が目に映る。流し台と調理台にも特にめぼしいものはない。少し肩透かしを食らいながら、最後にゴミ箱の蓋を開ける。
すると、そこには予想だにしなかったもの…というより、場違いなものが入っていた。
「……ノート?」
Picoはそう呟くと、ゴミ箱の中に無造作に突っ込まれていたノートを取り出す。
黒い表紙には題名や名前などは書かれておらず、何のノートなのは分からない。しかし、表面についた細かな傷や横から見た紙の縒れ具合から、長い間使われていたことだけは何となく分かった。
取り敢えず中身を確認するため、表紙をめくろうと手をかける。
──そのときだった。悲鳴に酷似した女の叫び声が隣の部屋から聞こえてきたのは。
「BF!!」
「ッ!?」
Picoは思わず日記を落としてしまった。突然の出来事に硬直し、冷や汗が首筋を伝う。
何事かと固まっていると、
「うわぁぁぁッ!?」
続けて、甲高い男の悲鳴と何かが倒れる重い音が響き渡った。
女の叫び声も、男の悲鳴も、どちらも非常に聞き馴染みのある声。
──さっきまで行動を共にしていた者たちの声。
「…!!」
やっと我に返ったPicoは、ショルダーホルスターに固定していた銃を取り出すと、カウンターを飛び越えダイニングに続く扉へと急ぐ。
扉に辿り着くのにそう時間は掛からなかった。そのままドアノブに手をかけ開けようとする。
が、しかし、どれだけドアノブを上下させて力を込めても、ダイニングとキッチンを分断する扉は何故かびくともしない。
何故開かないのか、という疑問よりも先に、BFの安否の心配がPicoの思考を支配する。
しかも声からしてGFもあの場に居るはずだ。
彼女は〈悪魔〉であるから普通の人間よりか丈夫だが、戦闘には全く向いていない。
苛立ちと焦りで少しずつ落ち着きを失くしつつあるPicoの脳裏に、最悪の事態が過ぎる。
「クソッ…!!」
その過った予測を払拭しようとするかのように、Picoは固く閉ざされた扉に全力で体当たりをかました。
◆◆◆ Side B -ダイニング- ◆◆◆
「ったく…。Picoのやつ、ぜんっぜんオレを信用してくれないんだから…」
そうブツブツと文句を垂れるBFは、扉のほうを尚もジトリとした目で見つめていた。
確かにここに来て…というかいつも探索ではヘマばかりしているけど、自分だって好きでやっているわけではない。なのにあんな言い方しなくてもいいじゃないか、と半開きの扉を見つめながら思う。
そんな彼の目の前で突然、ガチャンと凄まじい音を立てて勝手に扉が閉まった。
「beッ!?!?」
扉の勢いと音の大きさに、BFはびくりと肩を震わせる。しかしそれは一瞬だけのことで、すぐに扉の方へと近寄っていった。
(え、マジか。これ自動ドアだったの?)
そんなことを考えつつ、扉をまじまじと見つめる。
表面に触れてみても、耳を当てて音を聞いてみても、特に変わった様子はない。
なんだ、さっきのはもしかしてPicoが閉めたのかな、と思いつつ扉から少し離れたその刹那。
右足首に若干の粘性を持った、何かが纏わりついたような感覚に襲われた。
「beepッ!?」
何とも言えぬ気色の悪い違和感に背筋が粟立ち、小さく悲鳴を上げる。
何が起こったのかと足元に目を落とすと、右足首に白く太いゴムロープのようなものが巻きついていた。
BFは自身の足首に緩めに巻きつくそれに、妙な既視感を覚える。
(あ、これ。さっきのヤツの触手じゃん。
なーんだ、それならこれも幻覚か!
へぇ、こんな感触なんだ。キッショいな〜よくできてんな〜!)
正体見たり、といった具合で完全に油断モードに入ったBFは、触手をつんつんつついたり、ぺちぺち叩いたりして面白がる。そんな余計なことをしていると、リビングに続く方の扉が開いた。
「あ、BF!結構探索進んでたのね…っ!?BF!!!!」
「Be!?え、GF、なに…?」
いつものような穏やかな呼びかけから、突如鋭く切羽詰まった悲鳴に豹変した声に驚き、BFは振り返った。その視界が引き攣った表情を浮かべるGFの姿を捉えたのも束の間、
「ッ!?うわぁぁぁッ!?!?」
BFの身体は突然ガクンと沈み、そのまま床に叩きつけられるような勢いで倒れた。
床に身体を打ちつけたが痛みはあまりない。BFは元々痛覚を感じにくい体質だからだ。
それよりも、右足首の圧迫感が増していることが気になった。目をやると、巻きついていた触手が、明らかにさっきよりも強い力で彼の足首を締め上げている。しかもそれだけでは飽き足らず、ゆっくりとBFをテーブルの方向へと引き摺っていくではないか。
BFは未だ状況の掴めぬまま、反射的に触手の出処を目で辿っていく。
果たして、彼の視線はテーブルの下の空間でとまった。
──そこには“穴”が空いていた。
だが、それはただ床に空いているなどといった穴ではない。
闇よりも昏い、底無しの深淵を思わせるその穴は、テーブルの下の小さな空間にぽっかりと開いていた。
その穴はどこに繋がっているのか、その向こうに何が広がっているのかは解らない。
ただ、あそこに引き摺り込まれたら"終わる"。
──本能が、そう訴えていた。
「うわわ…っやべぇ…!!」
BFは情けない声を立てながらも、穴から逃れようと必死に踠く。しかし、触手の引き摺る力はどんどん強くなっていき、BFの身体は無情にも床を滑っていくのみだった。
このままでは穴に呑まれてしまうのも時間の問題だ。
GFが彼を助けようと〈悪魔〉の力を解放し、右目に紅い光を灯す。
それとほぼ同時に、BFの目の前の扉のドアノブがガチャガチャと喧しい音を立てて乱暴に上下し始めた。
「…!?」
BFは驚いた表情で扉を凝視する。
触手も異音に気づいたのか、BFを引き摺るのを止めた。
GFもまた一瞬固まったものの、触手の動きが止まったのを好機と捉え、再び動き始める。
まず、ぱしんと乾いた音を響かせ、掌を合わせる。合わさった掌に紅い光が迸り、開くと同時に複雑な紋様が組み合わさった魔法陣が展開する。GFの細い指先が紅い魔法陣に触れた途端、それは細かい光の粒子となって弾け、彼女の手元には細長く鋭い形状を模った光が残った。
GFは紅い光を掴むと、テーブルを回り込んでBFの元へと駆け寄る。
そして、今し方魔力によって形成したもの──刃が紅く輝く黒い柄のナイフを、ゴム質の触手に思い切り突き立てた。
「────」
どこからともなく形容し難い悲鳴が上がる。触手はビクンと大きく痙攣しBFを解放したかと思えば、驚いたからか、はたまた観念したのか、するすると穴に引っ込んでいく。
純白のそれが完全に深淵のような闇の中に吸収されたと同時に、穴は静かに小さくなって、やがて空間に溶けていった。
一方、ドアノブの上下音はいつの間にかドン、ドンという重い衝撃音に変わっていた。そして、穴が消えたタイミングで一際大きな音が響き渡り、扉が勢いよく開け放たれる。雪崩れ込むようにダイニングに飛び込んできたのは、銃を持ったPicoだった。
「「Pico!!」」
体勢を整え直し、綺麗にシンクロした2人の声に顔を上げるPico。
2人の無事を確認した安堵からか、その表情はいつもより幾許か柔らかくなっているように思われた。
波乱の過ぎ去ったダイニングに訪れた暫しの静寂の後、武器を光の粒子へと還したGFが口を開く。
「…えっと、BF、大丈夫?ケガはしてない?」
「え?あ、あぁ、うん、全然元気…!助けてくれてありがと、GF」
呆けていたBFが、彼女の問いかけにハッとしたように答える。
「いいえ、間に合って本当によかったわ」
GFは優しげな微笑みを浮かべ、いつものような穏やかな口調でそう返した。
一方のBFは、GFの返事にほっとしたような表情を見せていた。だが、それはどこか翳りを含んでいるようで、平生特に何も考えずアホ面…いや、人懐っこい笑みを浮かべている彼らしからぬ表情だった。BFはやがてPicoの方をちらりと盗み見たかと思えば、彼の裾を少し掴んで「あの、」と珍しく遠慮気味に切り出す。
「Pico、ごめん…オレ、さっきひどいこと言った。
それなのに、必死に助けにこようとしてくれて…嬉しかった。…だから……」
BFはいつもより力のない声で、辿々しく言葉を紡いでいく。
しかし、その言葉が紡ぎ終わらぬうちに、Picoは返事を寄越した。
「別に」
──たった一言の、相変わらずぶっきらぼうな返事。だが、BFを笑顔に戻すのには十分だった。
「…へへ、ありがとな、Pico!」
照れたような笑みを浮かべ、元気よく感謝の気持ちを伝えるBFだった。
「2人とも、仲直りできたところに水を差すようで、申し訳ないけど」
そんな和やかになり始めた雰囲気の中、GFが再び口を開く。
「私が2人を探しにきたのは他でもない、魔導書を解読したその内容を伝えるためよ。
とりあえず結論から言うと、…かなりまずいことが分かったわ。
私たちが今置かれている状況は、私たちが考えてる以上に良くない…」
「何…?」
「それって、どういう意味?」
GFの唯ならぬ様子と言葉に、PicoとBFは真剣な表情を浮かべ、彼女の話に耳を傾けようとする。
「魔導書の内容を…説明するわね」
GFは、本から得た情報をとつとつと語り始めた。