スキンケア(仮)「お風呂、ありがとうございました」
エランは読んでいた本から声がする方へと視線を向けた。そこには風呂上がりで全体的にしっとりとしたスレッタの姿があった。
今日は週末の夜。休みの前日の夜は、恋人らしく、どちらかの自宅で過ごすことが恒例となっていた。本日はエランが自宅にスレッタを招き入れた。
普段はふわふわとしているスレッタの赤毛は、水気を吸ってぺたりとしていて、心なしか色味も深いように見える。その姿をエランはじっと見つめていた。
スレッタの濡れたままの赤毛を見る機会は案外少ない。彼女の自宅では、ドライヤーもスキンケアも脱衣所で済ませているらしく、この姿を見ることができるのは、エランの自宅に泊まったときのみだった。だからこそ、エランはいつも興味深く見つめてしまうのだった。
そんな視線に気付いているのかいないのか、スレッタはベッドに腰掛けるエランの前を鼻歌混じりで横切り、そばにあるカラーボックスからいくつかのボトルを取り出していた。
淡いピンクのボトルに、手のひらサイズのチューブ——それは、お互いの自宅を行き来する間柄になってから置かれるようになったスレッタのスキンケア用品だった。エランにはよくわからないそれらは、明らかに女性物の可愛らしいデザインで、シンプルで物数の少ない部屋の中では少し浮いて見える。
しかし、エランは思いのほか、スレッタの私物が鎮座している光景を気に入っていた。さらに言えば、それらを使うスレッタの姿が気に入っていた。