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    公(ハム)

    @4su_iburigakko

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    Twitter再掲。
    エラスレワンドロライ様よりお題「デート前日」をお借りしました。

    #エラスレ
    elasure
    #4スレ

    デート前日 エアリアルのコクピット内でスレッタは隅々に目を光らせていた。お菓子の食べカスは落ちていないか。埃は、髪の毛は……。シートやコンソールの下部には、わざわざ身体を屈ませてまで確認している。スレッタは女性にしては長身の部類なので、たまに頭や肘をぶつけては「いてっ!」と声を上げながらも、検分を続けていた。
     やがて、ようやく気が済んだのか、縮めていた身体を起こして、シートへ座る。
    「んん〜……、これで大丈夫だよね」
     スレッタは検分を終えてもなお不安が拭えないようで、大丈夫だよね、と言ったそばから、視線が右へ左へと忙しなく行き来している。
     それもそのはず、明日はエアリアルのコクピット内で映画鑑賞会が控えているのだ。――しかも、エランを招いて。
     《ピピッ》
     不意に、コンソールからアラーム音が鳴った。不思議なことに、それは未だ忙しなく視線を動かすスレッタを見ていられず、彼女に何かを促したようなうな動きだった。
    「ああっ!ライブラリ!えっと……」
     スレッタも、特に態度を変えるでもなくアラーム音に応じ、コンソールへと目を向ける。慣れたように動く手によって画面は滑らかに切り替わり、映画のフォルダが表示された。
    「エランさんってどんなのが好きかな……」
     小さく、誰に聞かせるでもないスレッタの呟きを拾ったのは、彼女の前面にあるエアリアルのメインモニターだった。やはり、何かを訴えているかのような明滅が2回ほど続いた。
    「ええっ!?いや……それは、だって……」
     うぅん、と唸り声をあげているスレッタの目の前には、とある映画のパッケージが表示されていた。隣には試聴回数と最終試聴日時が記録されており、そのデータとパッケージの画像を見るに、スレッタが幼少期に好んで観ていた映画だと分かる。事実、その映画はスレッタのお気に入りの1つであった。
     映画は幼い子供が見るに耐え得るほどに完成度が高く、誰かにこの映画の感想を聞かれたならば、スレッタは間違いなく「面白かった」と断言できる作品だった。
     だがしかし、それをエランに見せるとなると、どうにも羞恥心が邪魔をしてしまう。
     気になっている相手に、今より未熟だった頃の自分を曝け出すに等しい行為だ。年頃の女の子であるスレッタが躊躇うのも頷ける。
     けれども、躊躇いつつも、この映画を候補から外してしまわないのは、やはりエランがどんな感想を持つのか気になるからだ。そして、あわよくば、自分が好きなものを彼も好きになってくれるかもしれない、そんな欲もあった。
     ――観てほしいような、ほしくないような……。
     矛盾した感情を難なく同居させるのは、複雑怪奇な年頃の乙女の特権である。
     頭を抱えたり、かの有名な彫刻と同じポーズを取ってみたり……。散々悩みに悩んだ挙句、やはりいつものように「進めば……」と呟き、明日の鑑賞会用のフォルダへと移動させた。
     ふう、と大仕事を終えた後のような、盛大なため息を吐き、スレッタはシートに深く腰掛ける。
     コクピット内の掃除は終わり、見る映画も決まった。お菓子と飲み物はすでに準備している。この1週間、スレッタの頭に居座り続けた懸念が解消されてしまえば、意識はもう明日の鑑賞会――というより、共に鑑賞するエランのことでいっぱいになった。
     シートに腰掛けたまま、ひとり空想の世界へと旅立ったスレッタを、メインモニターの光はただじっと照らし続けていた。
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