恋愛永久機関あー、もう嫌だ、イヤだ!イライラするし、ムカツク!
こんな気持ちに振り回されるのはもうウンザリだ!
枕にボフボフ頭を打ち付けていると、後ろから声がした。
「何してるんだ?ミスタ」
でたよ。元凶が。
オレのイライラの原因はコイツ。
「ヴォックス、オレ、今、凄く不安定だから話かけないでくれる?」
枕に顔を埋めたまま応える。
「…ご機嫌斜めか。何かあったのか?」
オレの隣が軽く沈んだ。
ナチュラルにオレのベッドに腰かけんな。
「1人になりたい」
「散歩かジムにでも行ってくればいいじゃないか」
「そういう意味じゃない」
「どういう意味だ?…ああ、もしかして、これは別れ話ということかな?」
「そう」
「理由は?」
「もう、疲れた」
「そうか」
ああ、やっぱりコイツはそういう人間なんだ。
そうだよな、オレが居ても平気で他の男に愛を囁く奴だってわかってたじゃないか。
「誰か新しい人でも見つけたか」
ほら、アンタはいつも他人が自分と同じだと思ってる。
オレの気持ちなんて考えたことある?
「当分欲しくないって言いたいけど、オレだけを愛してくれる人が居たら考える」
「俺はミスタを愛していないって?」
「アンタはオレだけじゃないからね」
「そこか」
「だから、もう帰ってくんない?1人になりたい」
「そうだな、別れ話を切り出されてはここに居る理由もない」
ほらね。オレはアンタにとって都合のいい男だったんだ。
性欲処理の人形みたいに感情がないわけじゃないのに。
オレがダメになったからいけない。
心の欲を生んでしまったから。
そのせいで何もかも疑ってしまった。
「ばいばい」
「…ミスタ、本当にそれでいいんだな」
「いいよ。・・・それがいいんだ」
早く部屋から出ていって。
泣いてる自分なんて見られたくない。
弱い自分を見ないでほしい。
「アンタが次の相手と上手くいくことを願ってるから」
「それは本心かな?」
「そうだよ!だから、早く―!」
凄い勢いで肩を掴まれてひっくり返された。
まさか、こんなことされるなんて思ってもいなくて、涙で滲んだ天井が見えた。
それと同時にかろうじて留まっていた涙が瞳から零れ落ちる。
「じゃあ、何故、お前は泣くんだ?」
「―やっと、解放されるっていう嬉し涙だよ」
「ミスタ、本当のことを言ってくれないと俺にはわからない。俺はお前じゃないんだ」
「聞く必要なんてない。もう別れたんだがら」
ああ、もう、涙が止まってくれない。
どうしてこの男は最後までオレを虐めたがるのか。
「では、後学の為に教えてくれないか。同じ過ちを繰り返したくない」
「言いたくない」
「どうして?」
「アンタは自分で気づくべきだよ」
「だが、本当にわからないと言ったら?」
「だからってそれをオレに聞くの?オレは教えたくない」
「何故、そんなに拒否するんだ?別れたんだろう?友達としても教えてはくれないのか?」
「…わかったよ。最後だし教えてあげるよ。アンタはさ、…ああ、もう別れたから想像できないと思うけど、付き合ってるのにオレがアンタ以外の
男にアンタに言うような言葉を言ったり、男に思わせぶりな態度をとったり、股開いたりしてるの見たらどう思うの?」
「それは…ミスタはそうじゃないだろう?」
「ああ、じゃあ、これからそういう場面に出くわした時にどう思うんだろうね」
きっと、アンタのことだから何も思わないんだろうな。
楽しんでるなって傍観するんだろう?
「―それは、困る」
は?
「相手の男に何をするか…」
「…何言ってんの?」
「ミスタ?」
「オレが言ったことに似たようなこと、付き合ってる時もやってただろ!何でそんなこと言えるんだよ!」
何それ、ヒドイ。
酷すぎる。
「友達になったんだから、オレが何しようが勝手だろ!なのに、何だよ、困るって…」
「わからない。だが、お前が他の男とそうなるのは…駄目だ、止めてほしい」
「オレはさっきまでずっとそういう気持ちだったよ」
「俺はお前が…俺と同じだと…」
「最初はね…そうだった。でも、身体だけなんて無理だったんだ。人間だから感情がある。アンタは口が上手いから、オレが勝手にその気に
なっただけ…冗談を冗談でとれなくなったオレが耐えられなくなった。…そう、それだけ」
「ミスタは俺のことが好きなのか?」
「馬鹿にしてくれてもいいよ…そうだよ、好きだったんだ」
もう、ほんと、バカらしくて涙もひっこんだ。
最後の1粒の涙が落ちて、これで終わり。
「―…そう!」
「何?」
「やり直そう!」
「…殴っていい?どこをどうしたらそういう考えになるわけ?!」
「すまない、その…お前が冗談抜きで…本気で俺を好きだと…」
途中でヴォックスの言葉が詰まったかと思うとみるみるうちに彼の顔が赤くなる。
待て待て待て。
あのヴォックスが赤面してるんだけど!?
「まさか、アンタ、酒飲んでる!?酔いが回った?」
「素面だ!」
オレから視線を外して叫ぶヴォックス。
「じゃあ、何で…顔真っ赤…」
「クソッ!こういうのは慣れてないんだ…」
ヴォックスは右手で自分の髪を毟るかのようにして頭を抱えてる。
こっちからは横顔しか見えないけど、髪の隙間から見える耳は赤い。
「慣れてないって…結構、告白されてきてそうだけど…」
「俺は落とすのが好きだからな!」
あー、なるほど。
ん?でも?
「今のでヴォックスが落ちたわけじゃないよね…」
「言うな!初めてのことで混乱してるんだ!セックスの最中でもなく素面で…お前が泣いてオレを好きだと言うから…自分でもよくわからない」
「でも、オレ達もう友達だし…」
ヴォックスの顔の赤みがさっと引いたかと思うと、さっきの彼はどこに行ったのかいきなり真面目な顔つきでオレを見た。
「な、何…?」
「今度は俺がお前を落とす」
いや、何言ってんの。
さっき、別れましたよね?オレら。
「お前が嫌だと言ったことは控える」
「やめるって言え、そこは」
「そう簡単に癖は治らないんだ」
「かっこつけて開き直るのやめてくんない?」
「だが、俺は本気だ。本気で落として二度とお前から別れ話をさせないし、俺からもしない」
あ、今のはちょっとくらっとしたけど。
そう簡単に落とされてたまるか。
オレは沢山苦労したんだから、お前はその倍以上苦労しろ。
「アハハ、まあ頑張ってよ。でも、オレはヴォックスへの好き度0だから」
「それ、友達としての好きの値が抜けてないか?」
「別枠なんで」
「別枠!?そんな物あるのか?」
「一目惚れって知ってる?あれ、友情育む前に好き先行だよ?」
「確かにそうだが…さっきまで俺のこと好きだと…」
「やり直そうって言うからリセットされました」
「ぐっ…」
困れ、困れ。
「早めに頑張らないとオレの好き枠は誰かへの想いで埋まるかもー」
「ミスタ…その挑戦受けてやる」
「勝負にしないでくれる?」
「真剣勝負だ」
「はいはい、口が上手なことで」
その日は別れたのに上機嫌で1日を過ごせたのは良かったんだけど…。
「ミスタ!今度一緒にコラボ配信しよう。ああ、それかオフで買い物とか…いや、俺の部屋で映画でも」
配信終わった途端に怒涛のお誘い。
みんないるんですけど。
「ヴォックス、いきなりどうしたの?」
「プライベートな話なら僕ら落ちるけど?」
「…解散でいいんじゃない?」
みんなが変に気を使ってる。
説明したいけど、何かいろいろ面倒だし、恥ずかしいし!
ああ、今度はこの環境にストレス溜まりそう!!