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    ワンライお題「ん」
    洋三のデートに巻き込まれるリョの話です。

    #洋三
    theOcean

    洋三のデートに何故か俺がいる!? うげ、三井サン。
     アンナに無理矢理連れられて来た動物園で、その姿を発見して思わず顔を顰める。
    まず出先で知り合いに会うのが嫌だし、地図を食い入るように見ているアンナと一緒で、しかも相手が三井サンとなれば尚更。しかも──


    「絶対デートじゃん……」


     シンプルな無地の白Tに、カジュアルな黒のシングルブレスト。これまた黒のスキニーパンツが、足の長さを際立たせ、スタイルの良さを特徴的にしている。胸元には、シルバーリングのかかったネックレス。
     正直に言ってしまえば、かっこいい。似合っている。なにか得体の知れない色気が溢れていて、ムカつくことに先程から人々の視線を集めまくっている。人々、が女だけでなく老若男女に当てはまってしまうのがこの人の恐ろしいところだ。
     一方の三井サンといえば、声を掛けたそうにしている奴らの視線に気づく素振りもなく、壁に寄りかかってパンフレットを眺めている。大方彼女のトイレでも待っているのだろう。その仕草でさえ様になっているのだから大したものだ。こいつ昨日『見ろよあの雲うんこの形!!』とかアヤちゃんの前で言っていやがりましたよ、騙されないでください、と大声で暴露したい。
     本当に、凄くとっても気に食わないが、一応相手は部活の先輩。挨拶しないわけにもいくまい。そう思って一歩踏み出した時。

     ば、と三井が顔を上げた。その瞳が見つめるのは、宮城ではない。その奥からやってくる、一人の。


    「おまたせ、三井さん」


     宮城と同じくらいの身長の、幼めな顔立ちをした男。童顔なのに、黒を基調とした落ち着いたファッションがよく似合うのは、醸し出す雰囲気がなんというか、成熟しているからか。こちらも大勢の視線を集めながら闊歩していき、宮城の横を通り過ぎる。
     心臓がバクバクと鳴り出したのは、何よりも男の正体に心当たりがあったから。服装も髪型も普段と違うせいで一瞬誰だかわからなかったが、その声が示してくれている。聞き覚えのある声の正体、それは──

    ──水戸洋平。

     ……え、水戸洋平??嘘でしょ水戸!?や、え、何でこんなとこにいるわけ、しかも三井サンと!?
     水戸といえばつい数ヶ月前三井をボコった張本人。そんな関係の二人がどうして、服装までバッチリ決めまくって動物園に来ているんだ。もしやまた殴り合いか!?や、動物園でわざわざ意味わからねえけど、でもこの二人っていったらそうじゃんか。なんかやばい雰囲気になったら止めないと、キャプテンだから俺。ああほら、言ってる間にも三井サンが手上げて、

    「ん」

     ぽん、と水戸の頭に置いた。待ってない、とでもいうようにサラリと一撫で。柔く笑って、そのまま歩き出してしまう。水戸も何も言わずに続いていった。

     ……えええぇええ!?!?え!?ハ!?なになになんだったのアレ。え、三井サンって水戸の頭撫でんの!?水戸も大人しく撫でられちゃうの!?つかなんだよあの自然な動作!あんなナチュラルに頭撫でるやつ居るかよ!居たわ!!あの笑い方だって、見たことねえぞ、一昨日は大口開けて笑いすぎて顎外れたとか抜かしてたのに。というか。

    「……ペアネックレス、だったな……」

     銀のリングの付いたネックレス。それが水戸の胸元にもたしかに光っていた。ネックレスおそろて。仲良しか。
     もうどっと疲れた気分でアンナを見やると、ようやっと地図から顔を上げたところだった。ねえリョーちゃん、私トラが見たぁい、と指し示したのは、さっき二人が去っていった方向。宮城は遠い目をした。


    ******


     案の定、というべきか。
    視界の斜め右あたりに入ってくる2つの影に、思わず嘆息する。ホワイトタイガーの檻の前で二人並んでいるようだ。
     意外にも静かなもので、タイガーが檻の近くまで接近してあたりからワッと声が上がっても、低い声でおぉ、とこぼしただけだった。三井サンなんて『うおーー!!すげぇ!なあおい、めっちゃ近くまで来てるぜ!?』とか騒ぎ立てそうなもんなのに。実際猫が近寄ってきたとき大声を上げて騒いですぐに逃げられていた。一緒に居た流川には睨まれた。
     だのに実際は騒ぎ立てているのは隣のアンナ。ねえリョーちゃん見てる!?見てないでしょ!あ、ほらすごいっ!!とうるさい。
     そうして十数分ほど眺めた後、やっと水戸が口を開く。騒がしい園内でも耳に入るのは、知り合いの声だからか。それとも俺が意識しすぎているせいか。


    「ホワイトタイガーがいるんだったらさ、ブラックタイガーも居るのかな」
    「……な。居たらかっこいいよな」


     んぐご、と喉から変な音が出た。三井、おい三井お前。こないだ俺が同じこと聞いた時『ちょwwwブラックタイガーってエビだぜwwうっわそんな事も知らねえのかよwwなあおいアヤコォ!』とかクソみてえな煽りしてきたのはどこのどいつだ。三井ひ差し歯コノヤローだ。はっ倒してえ。もちろんはっ倒した後しごき回してやったけど、今も一度はっ倒してぇ。なに微笑して大人ぶった雰囲気出してんだよ。アンタそんなんじゃないだろ。そんな三井サン知らないんだが!?
     水戸は三井の対応に不審を抱いたのか、タイガーから目を話して三井を見上げる。ん?と柔らかな声。水戸がちょっと眉をしかめた。そうだ、やっちまえ。

    「……ねえ俺、もしかして変なこと言った?」
    「や?可愛いこと言った」
    「ならいーけど」

     いんかい!!
    でも後でちゃんと教えてね、と続くそれに、おう、と返している。
     クソ、水戸ならあの猫かぶり3本偽歯ヤローをバチボコにしてくれると思ってたのに。ま、ダメだけど。一応アレでもスタメンだからな。てか可愛いって何。お前らそういう事言い合っちゃう感じなの?俺、ヤスにだって言ったことねえぞ。あ、でも三井サンは桑田とか可愛がってるか。水戸も花道の頭わしゃわしゃ撫でてるし。でもそれにしたって距離近くね?だって三井サンと水戸だぜ?仲良すぎね??
     ぐるぐると複雑な思いで見つめていると、ふと水戸の手が三井の手に当たる。ピク、と三井の手が反応して、そのまま離れる。一瞬にも満たない触れ合い。でも、なんだろうか。なにか違和感。


    「三井さん、次見たいのある?」
    「んー、もうだいぶ周ったからな」
    「あ、コヨーテ居るじゃん。珍しい」
    「おー。行くか?」
    「ん」


     あ、結局挨拶できてねえやべえ。でもま、三井サンだしな。別にいっか。
     あの不思議な組み合わせは気になるけど、気になりすぎて動物を少しも見れていない。せっかく入園料払ったのにいつの間にか観察しているのは三井サンと水戸だ。
    どっか行ってくれてよかった、これでトラに集中できる。と視線を戻した矢先、くいと袖を引っ張られた。アンナ。

    「ねえリョーちゃん、コヨーテ見に行こ」
    「」
    「えっなに……」


    *****


     コヨーテはかっこよかった。小柄で俊敏な様は、宮城のプレイスタイルによく似ている。コヨーテに同族意識を持っているなんて知られたら、絶対からかわれるから言わないけど。
    ああ、脳内では三井サンが早速ニヤニヤ笑いを浮かべている。『ええっお前自分のことコヨーテだと思ってんのかよ!似合わね〜〜!!お前なんかカワウソとかそのへんだろ!』なんてうるさいんだこの人は。言ってないのに頭の中まで出張してからかいに来やがった。カワウソのほうが似合わねーだろ。
     恨めしげに睨みつけるのは、目の前の三井サンの背中。コヨーテの前の檻はその珍しさからか人を集めていて、空いているスペースがコイツらの後ろしかなかったのだ。せいぜいバレないように息を潜めることしかできない。

     ふと、また水戸の手が三井の手に軽くぶつかった。そしてそのまま離れていく──と、思われたが。
    離れかけた水戸の手は、次の瞬間三井の手に収まっていた。驚いて顔をあげると、水戸もまた目を丸くして三井を見つめている。
    にやり、と悪戯げな笑み。チロと赤く厚い舌まで出している。キュウと水戸の目元が微妙に細められ、するりと手の形が変わった。恋人繋ぎ。
    近くなった距離に、今度は三井が目を見開いた。水戸は真似をするように悪戯げに笑って、唇を舐める。テラリと光るそこに目を落としてゴクリと喉を鳴らした三井サンは、しかしすぐに前を向いた。耳が赤い。


     ……あ、これ、ガチだ。


     一連の流れと、ぎゅうと力の込められている手を見れば、流石に気づく。コヨーテそっちのけで三井サンを見つめている水戸の視線が、なによりも雄弁だ。本気の恋をしているものの目。俺がアヤちゃんに向け、花道が晴子ちゃんに向ける目と同じ。
     あー、そうか、この二人。そうだったんだ。マジか全然気づかなかった。水戸は毎日見学に来てるけど、三井サンと話してることってほとんど無いし。学校でも一緒にいるとこほぼ見たこと無い。隠してるんだろうな。そりゃそうか。男同士だし、いろいろあった二人だし。
    知られたら面倒なことがたくさん出てくるのは容易に想像がつく。
     だったら、自分がここに居ていい理由はない。これは普段一緒に居られない二人の、大切な時間なんだ。俺のせいで台無しになったら責任取れねえ。
     同じく恋する男として、宮城はアンナの手を取った。声は出さずに、別のところへ行こうと、ジェスチャーで伝える。アンナは空気の読める妹だ。兄の様子が変わったことを感じ取って、素直に頷いてくれた。



    *****


    だのに。

    (なんッでだよッッッ!!!)

     声には出さなかった自分を褒めてやりたい。まさかその後もゆく先々でバッティングしまくり、ついには帰りの電車まで同じとは。
     手慣れた感じでエスコートする三井サンなんて解釈違いも甚だしかったし、甘ったるいふにゃふにゃな笑みを見せる水戸だって見たくない。交尾をし始めたサルを見て「気持ちよさそう。三井さんみたいだね」「お前のほうが上手いだろうけどな」とか言い合ってたのは、多分幻聴だ。幻聴であってくれ頼むから。人の少ない暗所でこっそり身をかがめあって、ききき、キス……してたのを目撃したときは、壁に向かって俺の自慢の頭突き技を披露してしまっていた。や、その件に関しては記憶を抹消したことにしたんだった。俺は何も見てない。何も知らない。よしオッケー。

    「水戸。色々連れ回して悪かったな。疲れてねぇか?」
    「ん、大丈夫。三井さんこそ、いろいろ無理させちゃったし大丈夫?」
    「おーお前が楽しんでくれたみたいだからかな。……それでよお……あ〜、や、これ言っていいのか……?」
    「うん。もういいよ、どうぞ素に戻ってもらって」

     水戸が言うと、ぱあ、と三井サンの顔が輝いた。
     え、え、え。
    今までの、ムカつくほどに顔のいい無表情か微笑かだった表情が一気に崩れる。別人じみた大人びた雰囲気さえあったのに、一瞬でいつもの三井サン。
    水を得た魚とばかりに、ペラペラと口を回し始めた。

    「〜〜すっげえ疲れた!!楽しかったけど!なー俺ちゃんとできてたか?めっちゃ不安。今朝お前から『手慣れた感じの大人っぽい三井さんが見たいな』なんてライン来て、もう大急ぎで勉強したんだぜ?詰め込み教育。一夜漬けならぬ一朝漬けだな!今日俺ほんとは、トラが近く来た時めっちゃ叫びたかったし、サルがサカりだした時なんて俺スゲー面白いギャク思いついてよぉ!聞いたら全人類が爆笑するヤツ。喋りたくてたまんなかったわ」
    「あはは、振り回してゴメンね」
    「マジで!当日の朝はやめろよ。焦りまくったわ。いや俺も結構無茶振りすることあっけどよお」
    「あーね。こないだのリクエストはかなりヤバかったな。『今日の三井はゲイ向けマッチングアプリでマッチした初対面の水戸くんとデートする設定です』って。どんな要求だよ。俺20回くらい読み直したし、家出る直前に送られてくるラインじゃなくて頭抱えたわ」
    「うはは、俺のほうがひどかったわ!わりい水戸!!」

     …………??????
    え、いや……え??
     多分俺は今、いわゆるスペキャ顔をしている。情報が完結しない。だって、え。大人ぶってた三井サンがいつものノンデリ野郎になって、急なマシンガントーク。なになになんなの設定って。
    とりあえずアンナの耳は塞いでおこうかな。隣を見たら天井向いて口かっぴらいて寝ていた。閉じさせて肩に頭を寄せておく。

    「いや〜でも今日のお前スゲーかっけぇな。ずっと言いたかった。そのネックレスこないだ買ったのだよな。つけてきてくれると思わなかったぜ」
    「三井さんもね。おそろい嬉しいよ。不安って言ってたけど、予想の数倍良かったな。またやろ」
    「詰め込みじゃなくて、マジの年季の入ったデートだってよさそうだよな」
    「、はは。ミッチー、年取ってもずっとそんな感じでしょ。バカみたいなことで笑ってそう」
    「いーじゃねーか。俺は三井。少年心を忘れない男ってな!!」

     がはがはと笑う三井に、水戸は急に距離を詰めた。三井の身振り手振り付きの会話で離されていた手を、もう一度掴む。ピタリと笑いが止んで、見つめ合う。うっそりと、水戸が笑った。

    「でも三井さん。わりいけど、今夜は少年心忘れてもらえると嬉しいな。俺、大人な三井さんとシたい気分だから」
    「…………ん。好きにしろい」

     三井の大人びた微笑は、今見れば多少演技掛かっている。それでも身を震わせるほどの色香があるのには変わりなく、水戸は性急に手首を掴んで立たせた。そうして、タイミングよく開いた扉から、降りていく。
     嵐が去った車内には、アンナのフガッといういびきだけが響いた。


     宮城は未だ宇宙の中だ。それでも降りるべき駅はしっかりと把握していて。アンナをゆすり起こす。起きない。仕方ないので背負う。背負って歩いて、家にたどり着く。母に妹を託し、自室に戻る。ぐるりと見渡す。ドアを閉め、窓を施錠。

    息を、思い切り吸う。


    「いや、どーゆうプレイッッッ!?!?!?!?」
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    ※洋→←三
    ※三に自分は相応しくないと思っている洋の独白
    ※三はほぼ出てきません
    ※流血表現あり
    建物と建物の間の路地、喧嘩するにはうってつけのような場所に壁に寄りかかって座り込んでいる。周囲はここで誰かが暴れましたよと言わんばかりの散らかりようで、逃げて行ったやつらの痕跡といえば勝ったもののちょっと立てそうにない自分と、血の付いた刃物だけになっている。
    無意識に手で押さえている脇腹が熱い。ガキの喧嘩で刃物なんか出してくるんじゃねえっつんだよ。

    別に調子が悪いわけではなかった。いやうそだ、少しぼーっとはしていた。気温とか空気感とか色々とあまりにもあの日と似通っていて、望んでもいないのに壊れたビデオテープのように何度も彼の顔を繰り返し思い出していた。
    注意力が散漫になっていたのだろう、ぶつかったぶつかってないのありがちな諍いは、ヒートアップする前に相手の数人のうちの一人から上がった「お前水戸だろ」の声を発端にあっさり殴り合いに切り替わった。どこで買ったか覚えていない恨み――というよりただの逆恨みから始まった小競り合いは結果としてどいつも大した事はなかったが、粘着そうな雰囲気をした一人が刃物を持ち出したことにより空気が一変した。
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