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    sabasavasabasav

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    幻水1、坊ちゃんとビクトール+αの嘘まみれの会話。
    多分ワンドロ?の話かもしれない。

    #幻水小説

        ▽        ▽



     赤月帝国と解放軍の違いは、圧倒的な兵力にある。
     長年、軍事大国として名を馳せてきた赤月帝国はその肩書きに見合った力が備わっている。反乱勢力が僅かに力をつけた途端、国中に兵士を配備した。
     それは末端であり解放軍の存続が脅かされる程の手練れはいないが、監視するように配置され呆気なく散っていく兵士達に、解放軍の面々は戦力ではない、目に見えないものがじわりじわりと削られていくような心地がしていた。

     兵士が腰元にある鞘へと手をかけるよりも早く、ティアは相手の懐へと近寄ると手加減をせずに長棍を腹部へと叩き込んだ。
     地面を転がる体を思わず抱えようと屈んだ兵士達を、ティアの真横を通り過ぎた風の刃が容赦なく切り刻んだ。その様子に特段反応もせず、杖を下ろしたルックが気だるげに髪をかき上げている。
     獣ならばあっさりと逃げるだろう紋章の力も、兵士にとっては致命傷とならない限りは興奮剤にしかならないらしい。
     皮膚を裂かれ血に濡れながらも剣を手に果敢に接近してきた兵士の刃を、ビクトールが剣で防いだ。力業でそれを弾き飛ばすと、そのまま相手の肢体を袈裟切りにする。
     勢いよく倒れた仲間を見た兵士が僅かに逃げを打った隙を見逃さず、フリックが翻った兵士の背中へと一撃を与えた。
     既に敵の一人を抱えて宙へ浮いていたカスミは、着地に合わせて兵士の首元へ手刀を振り下ろした。断末魔を上げた男が、糸が切れたように弛緩した。
    「……こんなところにも現れるようになってしまったのか」
     長棍を地に突き立て、ティアはため息をついた。
     周囲は草原が広がり、どこまでも長閑な風景が広がっている。時折顔を見せる獣は少しの脅しですぐに逃げてしまうほどに穏やかな土地。
     操られていたというクワンダ・ロスマンに焼かれたエルフの森は、既に季節が一巡したというのに未だに近隣の凄惨な環境のままであった。そんな中、近隣の環境などものともせず、焼け焦げた森林を奥に見据える平原は酷くゆったりとした時間が流れていた。
     生き残った可能性のあるエルフの捜索。それが今回遠征している理由だった。
     五将軍を三人討ち取り、赤月帝国の警戒が日に日に強くなってきている。大規模になっては湖城の警備が危ぶまれるからと本隊のみで行動していた。
     望んだ成果は得られずに帰路についていた最中、帝国兵と遭遇したのだった。
    「ティア様、他の隊に見られたら面倒なことになります。すぐにこの場を離れましょう」
     カスミが頭を垂れながら言った。
    「ああ……そうだね。キルキス達には残念な知らせしか用意できないが、仕方がない。戻ろう」
     日常に組み込まれてしまった、帝国軍兵士との戦闘に辟易しているのを感付かれたのかもしれない。珍しく意見を口にしたカスミに笑いかけると、彼女の視線は僅かに揺れた。
     ティアの決定に反対する者もおらず、懐に入れていた瞬きの手鏡を取り出そうとして。
    「あー……ほんの十分でいい。休憩していこうぜ」
    「はあ?こんなところで、か?」
     異を唱えたのはフリックだった。掌が指し示したのは、先程までこちらに敵意を向けていた兵士達だった。いくらこの場が長閑でも、亡骸が横たわっているだけで異様な光景へと成り下がる。
    「そっちを見なけりゃ良いだろうが。なあ、随分疲れた様子だな、ティア」
     バンダナ越しに触れた掌が頭部を押す。抵抗せずその場に座り込んだティアの髪を粗雑に撫でた。
    「お気遣い無く」
     手首を掴んでそれを制止ながら、ティアは後ろに立っていたビクトールへ笑って見せた。そのまま立とうと膝を立てたティアの肩を掴み、ビクトールも真横へと腰掛けた。
    「見知った奴らしかいないってことで、ここで一つ俺からの有難い助言だ。お前は戦い方が丁寧すぎる」
    「……どういうこと?」
     冗談でも言うかのように紡がれた言葉に意表を突かれて、ティアは思わず聞き返していた。
    「基本がしっかりしてるんだろうな。堅実かつ一撃が重い。兵法書に乗ってるような動きをしがちなんだよ。元々才能があるから強引な手でも勝てるが、成熟している将と対峙すれば体格と経験の差で負かされるぞ」
    「戦争も戦闘も、基本がなければ駄目じゃないか?地盤が緩んでいれば足下から崩れる。師匠の教えの一つだ」
    「そりゃあそうだろうさ。基本は何よりも大事だ。だが、ティア。お前は既に一人前の武人だ。お師匠様からもそう認められてるだろ?なら、その先へと行かなけりゃ飛躍もないぞ」
    「なんか……いや、ビクトールも戦場に慣れている人だとは分かっているんだが、そういうことを言われるとは思っていなかった」
    「確かに、熊に説教なんて似合わないからな」
     その場に立っていたフリックが悪意のある口振りで言った。
    「そうだそうだ。俺みたいな熊さんが、この年まで生きて来れたのはそういう術に長けてたからだ。戦いの素質や技術はお前のほうが高い」
    「そんなことないよ」
    「謙遜するな、事実だよ。身軽な今はいい。成長して、年を重ねて、身体能力が衰え始めると、良いカモになっちまう。お節介でも、知り合いが呆気なく死ぬ姿は見たくないからな」
    「成長したら──」
     ティアは思わず言葉を濁した。忘れたと思っていた劈く胸の痛みに顔を顰める。
     ビクトールは知らないのだ。ティアの右手に宿している紋章が、強大な力と共に呪いを生むものであることを。
     その事実をティアが聞いたとき、ビクトールは確かにその場にいなかった。仲間から話を聞いている可能性もあるが、内容からして大っぴらに話題にしにくいだろう。
     ──本当のことを言ったほうがいいだろうか。
     ティアの中に芽生えた疑問はすぐに摘み取られた。
     ビクトールは己のことを想って声をかけてくれている。今はそれを無碍にしてしまうほうが、この身が既に成長を止めたことよりも辛かった。
    「──ビクトールみたいになる?」
     詰まっていたはずの言葉が、いとも簡単に通り抜けていった。
    「お前が俺のような美丈夫になるなんざ二十年早いな!」
    「美丈夫、ね。二十年後、君の前に現れて、驚かせて見せようか。ビクトール」
    「おう、楽しみにしてるぜ」
     肩を組んでいるために表情を見られることもなく、ビクトールは声を上げて笑った。
    「そのためには、まずは生きろ。今のうちから基本に囚われない戦い方を身につけておけよ」
    「……うん。覚えておくよ」
     そろそろ行こうぜ、と声をかけてきたフリックに、ティアの腕が引き上げられる。
     その顔は酷く歪んでいて、そんな表情をしてくれるなとティアはフリックを容赦なく睨み付けた。


        
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