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    いとう

    @itou_pr

    フォガパンを書きます、書きました。

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    いとう

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    病んでるフォとギリ正常パンのフォガパン。両方病んでるの書ければ最高なので頑張りたい

    #フォガパン

    弾き語りある日突然紹介された少女は女性的な色香よりも幼さによる庇護欲を呼び覚ませる方がずっと強かった。
    彼女の名前をよく覚えていないというよりは、三つの文字の並びがいずれ自分を崩壊させていくのだろうということが感じられて、排除するようにしていた。だが、突然戦場に立っている時に脳をひやりとした感触に撫でられる時があった。一瞬訳が分からなくなって自分がどうすべきだったのか、それを手放してしまったことを後悔しながら空中に上がる華やかな赤が舞った。
    戦の場にあって完全に目の前のことよりも遠く存在する一人の女性に脳幹を支配されている。
    勢いよく頭の上を槍が貫こうとした。咄嗟に避けたが、返す返す獲物を横に払う力強い音。転がる様にして砂の上を動いた。天へと視界を向けると共に食いしばった歯をぎちぎちと鳴らさんばかりの男の顔。魔導書を手に少し言葉を発するだけで、獣の革を纏っていた男はよく燃えた。それはもう、尊い家柄で使用されるどの薪よりも脂肪を含んで綺麗に燃えた。
    上体を起こしてその残骸を少しだけ視界に入れてから、改めて周囲の状況を確認した。前線のボネたちの隊は位置は変わらず進行を抑えながらも相手をすり潰している。オレたち魔法書や杖を使えるもの、もしくは手槍や手斧を得意とするものは、一部崩れた前線をくぐり抜ける悪漢どもに対応しようと苦慮しているようだった。とにかくその場所へ向かおうと砂に靴底を水平に這わせて力を込めた。その瞬間、涼やかな瞳と目が合った気がした。ぶつかるよりも早く通り過ぎていくそれを目で追うと、見慣れた後ろ姿がその鞍上にあった。
    「フォガート!左翼がキツい!!」
    「大丈夫!すぐに終わるよ!」
    返事に応えるより先に馬はさらに加速しながら敵陣へと突っ込んでいく。行きすぎだ、と思い慌ててその後を追った時、見た。あぶみをしっかりと踏みしめながら、その速度に合わせて体重移動し馬と喧嘩することもなかった。速さの分からなくなるくらいに丁寧に取り出された弓と番えられた矢。ほんの一呼吸それを引き放たれた瞬間、全ての感覚は戻った。
    野党の頭を少しばかり眉間の右上を、矢の長さから強く貫通したのが見て取れた。
    その様にフォガートは失敗したなと言わんばかりにひとり首を傾げる。だが、下馬しながらすぐさまその髪を鷲掴みにしながら、声を張らせた。
    「お前たちの頭は討ち取った!これ以上抵抗するなら殺す!」
    殺す、という単語がどこか彼に似合わない気がして、ただ何も言葉にしないことで平静を保った。
    フォガートは血濡れの髪をずるりと指先から落とすと、それを合図に無事な前線の者たちが野党団たちを捕らえ始めた。死の前後どちらでも所属していた何かの一部でしかなかった彼らを思うと不幸なのかそうでないのか、それだけが人を分けているのかもしれない。もっと人を救えないのだろうか、と己の無力感に歯を食いしばった。
    「パンドロ」
    いつの間にかオレの隣に馬を引きながら移動してきていた。きらきらと輝く瞳はいつもと変わらず、余計に何も言えなくなった。
    足先で少しだけ砂に模様を書いてからフォガートは言葉にした。
    「お疲れ。王宮に帰ったら食事会があってさ。失礼しちゃわないかって不安だから、パンドロも来てくれない?」
    「ああ、分かった。酒飲みすぎるようだったら止めてやるよ」
    この問いかけは別に意味が無い。オレが首を縦に振らなければ、振るまで装飾めいた言葉が連ねられるだけだ。本当に全てを拒否した時のことを想像できない胸苦しさに、フォガートから視線を外しながら口元になんとか笑みと呼べそうなものを作って頷くことだけ上手くなった。


    食事会とは言いながらも親愛を確かめ合うような、そういった緩いもので、もう意味を問うことも辞めたがオレは必要がなかった。逆に浮いているほどで、それを陽気なキャラクターとして道化のように、口を開けば開くほどに、オレの中身はずるずると這い出ていくように思えた。その先で、名前を忘れたい存在しないはずの彼女とも会話するのだ。自分の軸が確かにぶれていって、どこだったらオレは何も考えず聖職者として生きて死ねるのか想像を広げるしか無かった。

    お開きになった後に自室に戻ろうと呼吸を不揃いにしながら歩く。宮廷神官という肩書きが存在するのはこういう時には幸福だ。強い酒を口にしていたので若干足元が覚束無い。真っ直ぐに歩くのがキツくて壁沿いに歩いた。鈍い足音が響く。脳を直接揺するような音に、立ち止まって強くまぶたを閉じた。
    さわさわと風に乗るように微かに人の話す声が聞こえる。その由来へと視線を向けると、フォガートと彼女が微笑みあっていた。食事会にも参加していたので当然の成り行きなのだろう。
    自然呼吸が早くなる。浅ましい獣が部もわきまえず暴れ騒ぐ。首輪を外してしまえばいっそ楽だろう。だが、なけなしの理性が必死に鎖を引いている。
    フォガートの手が彼女の頬に触れた。限界で吐きそうだった。ずるずると壁を頼りに崩れ落ちていく。そうすると青々とした植物に遮られて二人の姿は見えなくなった。
    もう二度と見えてくれるな、と心の底から願った。


    一週間と少し、ひとつの屋敷は燃えた。必死の消火活動は虚しく一家全員死亡したが、特に娘は明らかに頸動脈を切られた跡があり、様々な説が取られた。
    ひとつ、第一王子との婚約関係にあるもの、ふたつ、貴族としてのやっかみ、みっつ、半神竜派としての宗教的な諍い。
    結局どれを取っても容疑者には行き着かず月日を過ぎるごとに人の記憶からは静かに消えていった。



    休暇が与えられ自分の生まれ育った教会に帰っていた。静かで何も無いことが最大限に安寧をもたらしてくれていた。
    幾人もの人々が通り過ぎて行った長椅子は、疲れてひなびた茶の色をしていた。滑り込むように身体を横たえると、懐かしい匂いがした。父に殴られそうで怯えて逃げたり、妹と二人こっそり甘いものを食べる時、よくこの椅子の下に潜り込んだ。嫌なことも悪いことも少しばかりの幸福も、全部このよく見渡せない椅子の下に密やかに佇んでいる気がした。精神的な疲れもあって次第にまぶたが重くなる。誰もいなくて、安心できる場所。自然と椅子の縁から片腕が落ちる。
    何もかも忘れてもう一度生き直そう、そう考えながら意識を閉じた。


    ぎぃ、と鈍い音を立てながら扉が開かれる。靴底が奏でる音は真っ直ぐ正面へと向かっていたが、足が投げ出された長椅子の手前で立ち止まる。椅子の背に体重を乗せてその中身を暴くかのように顔を近づける。嘆息をもらしながら、ゆっくりとその身体を覆うように手をついた。深く眠る呼吸は現実を拒否しているかのようだった。
    「大変だったんだよ。結局どうしたら君が当たり前のこと捨ててくれるか、すっごく考えてた」
    起こしてしまわぬようそっと柔く髪を梳いて、顔にかかった髪もまとめて後頭部に向けた。視界の中いっぱいの華やかな色にひとつ息を吐いた。重々しいまぶたを開いた時に、彼はどんな顔をするのだろう。
    「全部が全部、俺のためだ。でも、パンドロも悪いんだよ」
    軽い笑いを漏らした。
    オルゴールでも流したくなるくらいの優しい空気が教会中蔓延していた。
    鳴らないはずのオルガンが回る。神の指先に合わせて踊るしかない、ならば
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