期末テスト✏️<これまでのあらすじ>
ヒーローとしてアカツカシティを守っていた俺たち六人は、ある日強大な力を持つ敵になすすべなく倒された――と思ったら、六つ子の高校生に転生していた!?
俺たちを召喚したヒジリサワーが言うには、この世界にも元の世界のように宇宙人が攻めてきているらしい。
魔法少女に変身し、お金を貯めれば元の世界に帰れるという。
貯金目標は六百六十六万六千六百六十六円!? ロクの字がゲシュタルト崩壊しちゃう! しかも魔法少女ってなんだ! 俺たちは男なんですけどぉ!?
――これは、そんな俺たち魔法少女に変身できる男子高校生の、血と汗と涙と成長の記録である。
期末テストも終わった放課後。
俺たち六つ子は見事赤点まみれで毎日補講三昧だ。
でもしょうがなくない? 敵さんはテスト期間だからって遠慮してくれないし、倒さなきゃお金も手に入らなくって元の世界に帰れない。
戦えば当然疲れて勉強どころじゃないし、授業中は椅子に座ってるだけえらいと思う。
学校はそんなこと知ったこっちゃないんだろうけどさ。
「あー……あとプリント何枚?」
「ぼくあと九枚……」
「え、オレあと十二枚もあるんだが」
「英語引いたからしょうがないよねぇ。ボクはあと六まーい」
各教科ごとにクジ引いて、それぞれまとめて書けばいいんじゃね作戦はおおむね上手くいっているようだ。
今日はプリント提出したら帰れるからまだマシなほうかもしれない。
「おいおそ松、さっきから手が動いてないがお前は進んでるのか?」
「ぜんぜーん」
「おい! 今日はバイトもあるんだからさっさと終わらせないとヤバいだろ!」
チョロ松に怒られちゃった。そうそう、俺たち敵を倒すだけじゃ全然お金貯まんないからさ、手分けしてバイトもしてる。
すっごく偉くない? 世界救って勤労に励んで勉強も頑張ってさ。
来世はニートになりたいもんだね。それか猫! いちまっちゃんじゃないけど、養われたーい。
終わらなさすぎて現実逃避していると、携帯がビープ音を鳴らし始めた。敵襲だ。一気に空気がピリッとした。
「お前ら、行くぞ!」
「「「「「おう!!!!!」」」」」
さあ、魔法少女に変身だ!
「世界はミーのものざんすーーーッ!」
「「マスターイヤミ! またお前か!」」
「ホエホエ、ワスもいるダス」
「「ドクターデカパンもいるの!?」」
「ダヨーンもいるヨーン」
「「ダイヤモンドヘッドダヨーンまで!?」」
えーっ、これ最終回直前みたいな感じじゃない?
大丈夫!? 何かフラグ立ってる気もするんだけど!
まあでもまだお金貯まってないし、きっとテコ入れってやつだよな!
敵一人につき二人ずつに分かれて戦い始める。
今まで散々戦ってきた相手だけど、今回はみんななかなか苦戦している。
「うおおおおりゃ!」
ぶん、とハンマーを振り下ろすが、マスターイヤミにはじかれてしまった。
でも想定内。はじいて隙ができたところをチョロ松が剣で攻撃する。
いつもはそれをも避けようとして崩れたところに、再度ハンマーで攻撃するんだけど、今日はあちらも何かパワーアップしているらしい。
剣を避けた後再びこちらに攻撃を繰り出してきた。衝撃を殺しきれず吹っ飛ばされてしまう。
「うわっ!」
「おそ松ちゃん!」
チョロ松がこちらに駆け出そうとするのを「バカ! 次はお前だぞ! 防御!」と叫んで阻止した。
俺の言葉に振り返り、イヤミの攻撃をすんでのところで剣で受け止めている。
「ウヒョヒョヒョヒョ! 今までのミーとは違うざんすよ!」
剣で受け止めるのが精いっぱいのチョロ松を、イヤミは軽々と蹴り飛ばした。
「わああっ」
「チョロ松ちゃん!」
植木がクッションになったようで、思ったより怪我がなさそうなことにホッとする。
「イヤミ! 何かドーピングしてるだろ!」
「企業秘密ざんすーッ!」
ぎゃーぎゃー騒ぎながら、攻撃して当たったり、逆に吹っ飛ばされたりしていると、ふいに悲鳴のような声が聞こえた。
「カラ松ッ」
イヤミから意識はそらさないまま、ちらっと横目を向けると、一松がカラ松に駆け寄っているところが見えた。
多分、攻撃に溜めが必要な一松をサポートするためにカラ松が盾になっていたが、保たなくて攻撃されたんだろう。
カラ松は盾役だから、タフだけど防御を上回る攻撃をされると身を守れなくてボロボロになる。
「カラ松、カラ松おい、何してんだよ、目を開けろよ……!」
必死な一松の呼びかけにも、カラ松は反応しない。
いつもカラ松には塩対応な一松だけど、戦いの中ではさりげなくフォローしてたり、抜群の連携で敵を倒してるから、本心ではとても信頼しているのがよく分かる。
そんな相棒がやられたとなると、一松のメンタルが心配だ。
「戦闘中に堂々と敵に背を向けるんじゃないヨーン!」
ダイヤモンドヘッドダヨーンが攻撃を仕掛ける――のを、鎖鎌がバキンとはじいた。
まがまがしい空気が一松を中心に発生し、ひんやりとしていく。
異様な気配に、イヤミもデカパンも攻撃の手を止めた。
「……置いてけ……」
「え?」
「その! 首! ここに置いてけ!!」
「アッ」
振り向いた一松の服は闇落ちと言うに相応しい深い紫に変わっていた。
普段使っている鎌が鎖鎌へ変形しており、振り回してダヨーンを翻弄している。
「これ覚醒イベントか」
「何メタ発言してるざんす! こっちはこっちで戦うざんすよ!」
意外にまじめなところのあるイヤミがこぶしを構えたところへ、ヒュッと鎖鎌が飛んできた。
「お前らァ! 全員首置いてけやゴラァ!!」
「シェーーーーーッ!!」
イヤミが慌てて逃げるところを、鎖鎌が襲い掛かる。
「あいつブチギレてんなあ」
「キャラ変わってるもんね」
チョロ松と言い合っていると、デカパンと戦っていた十四松とトド松もこちらに近づいてきた。
「おそ松兄さん、チョロ松兄さん、だいじょーぶ?」
「こっちは大丈夫、お前ら……も大丈夫そうね」
服は砂埃まみれ、所々敗れてもいるが、大きな怪我はしていなさそうだ。
三人まとめて攻撃している一松を、もうあいつ一人でいいんじゃないかなと皆で見守る。
「あ、でも一松兄さん消耗激しいみたいだよ」
「闇落ちモードは保って四分くらいか」
「よし、止めよう」
みんなで駆け寄ろうとしたタイミングで、荒れている一松の腕を引く影があった。
「一松、もういい」
「――から、まつ……」
毒々しい姿で振り返る一松を、カラ松は慈愛に満ちた笑顔で迎えた。
「よく頑張ったな」
「からまつ、からまつ、カラ松ぅ……」
ぎゅっと抱き合う二人。覚えてろざんすーッ!と遠くから声がしたが、既に二人だけの世界に入っているから聞こえてなさそう。
泣きながらカラ松に抱きすがる一松の服が、徐々に元に戻っていく。
「バカ……目を開けないから、死んだかと思っただろうが……」
「ごめん。なかなかの攻撃だったから、意識がしばらくフライアウェイしてしまった」
「クソ松ぅ……」
固く抱き合う二人に、どう声をかけようかと思っていると、どこにいたのかヒジリサワーが飛んできた。
「おぉーい」
「あ、ヒジリサワーじゃん。どこ居たんだよ」
「敵が強くなってたからなぁ。原因は何か調べてたんだぁ」
「へー、何か分かったの?」
「闇の売人から魔力増強の薬を買ってるみてぇだな」
「闇の売人?」
「またなんか新しい勢力?」
「えーこれ以上人が増えるの面倒くさいよ」
雑談していると、固く抱き合っていた二人がようやくこちらの世界に戻ってきたみたいだった。
「お疲れ。一松兄さんすごかったね」
「いやー、いちまっちゃんが新しいチカラに目覚めるとはね」
「これから皆覚醒イベントがあるってことかな?」
「イベント言うなよ。メタ発言禁止!」
わいわいやっていると、ヒジリサワーが杖を振った。
「じゃあ時を戻すぞぉ」
校庭は戦闘でさんざん破壊されている為、ヒジリサワーの力で元に戻すんだけど、敵が襲ってきた段階で時間を戻せないか聞いてみたら、できないんだって。
敵襲自体が異次元からの介入で、敵がいなくなったら、本来の時間に戻すことはできるって言われた。
難しいことはよくわからないけど、要は敵をやっつけない限り元通りにはできないらしい。
本当、面倒だよなー。
でも、このヒジリサワーの力があれば、元の世界に戻った時に、俺たちが倒される前の時間に戻れる。
だから、面倒だけど頑張らなきゃいけないんだよなあ。
シャラララン、と音がして目を開ける。
そこには、元通りになった校庭が広がっていた。
「あー疲れた」
「もう帰ろうよ」
「でも、課題のプリント途中だったよ」
「敵もさあ、出てくる空気読んでほしいよな」
文句たらたら零しながら教室に戻ると、プリントが無い。
風で飛ばされたかな?と思っていると、チョロ松がでかい声で叫んだ。
「ちょっと待って! 日付!」
「え?」
黒板の隅に書かれた日付は、二週間前の日付。
「悪ぃな、戻しすぎちまったべ」
姿は見えないけどヒジリサワーの声が聞こえた。悪ぃなって言ってるけど大して反省してないだろ!?
「え、てことは期末テスト前ってこと?」
「もう一回テスト受けなきゃいけないってこと!?」
「そんなぁ……」
六人そろってがっくりと膝をついた。
魔法少女な日々は、まだ当分終わりそうにない。