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    rokuro_yugo

    ちまちま悠五を書いてます。

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    rokuro_yugo

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    ワンドロ参加のやつ☺️

    年末かってくらい気合いを入れて、部屋の大掃除をした。メイクも、髪型もばっちり。めちゃくちゃ気張ってるけどそれを悟らせない、ナチュラル系。特殊メイクと言われようが知ったことか。こっちはガチに真剣である。
    つまらない、とよく聞くリモート飲み会をやることが決まったのは、一週間前。むしろこんな時じゃないとやんないし!と誰かが言い出し、それもそうか、じゃあやってみるかとなったのだ。
    20時、画面前にて集合。
    先に夕食をとり、最後のチェックも済ませた。時間までまだ15分はあるというのに、緊張と期待で心臓がバクバクと暴れまわっている。
    人付き合いが苦手なわたしは大学生活にもなかなか馴染めずにいた。このままではいけないと、勇気を振り絞ってバイトを始めたは良いものの、そう上手くいくはずもない。早くも心が折れて、もう辞めようかなと悩んでいた矢先、同じバイト先に彼が入ってきた。飾り気がなく天真爛漫な彼は、すぐにみんなと打ち解けた。最初のうちは人見知りをしていたわたしも、彼の大らかさと明るい笑顔に、いつしか心が解けていた。彼は優しかった。いつでも、誰にでも。それがとても嬉しかった。
    今日の飲み会で、何かが進展するだなんて思ってはいない。ただ、ほんの少しでいい。意識してもらえるようになりたかった。
    わたしは虎杖悠仁に恋をしている。

    開始時間が過ぎ、ちらほらメンバーが集まり始めた。今か今かとソワソワするも、虎杖はなかなか現れない。何かあったのかな、と心配になり始めた頃、パッと彼の姿が映し出された。
    『ヨッスー!わり、遅れちった』
    大きなくちでニカッと笑い、手を添えて謝る仕草をする虎杖。それだけでキューンとなる。遅刻なんて全然オッケー。まだかなとあんなに長く感じていたのに、時計を確認すると10分を少し回ったくらいだった。
    大学の話や、連載中の漫画の話、好きなバンドの話などで盛り上がる。虎杖が大学に行っているのかは知らない。どうやらオススメのバンドがあるらしい。もっぱら聞き専と化しているが、ふだん聞けない彼の話を聞けるのは楽しかった。
    『っつーか虎杖。お前の部屋、めっちゃ広くね?』
    誰かが言い、みんなが賛同する。実はわたしも気になっていた。文字通り、めちゃくちゃ広いのだ。
    勝手なイメージだけれど虎杖の部屋は、床に漫画が積んであったりボールが転がっていたり、着替えたシャツがそのままになっていたり。あまり片付いてはいないけれど親しみを覚えさせるような、少年のような部屋を想像していた。実際は、広々とした真っ白な空間に、フレームに納められたポスターが一枚。スニーカーが一足、壁に飾られているのと、隅っこに観葉植物らしき葉っぱが見える。部屋全体が広いせいか、やけにこざっぱりとした印象を受ける。そういう背景かと思ったくらいだ。
    『あー。いま、知り合いの家で世話になってんだよね』
    てっきり一人暮らしかと思い込んでいたので、衝撃だった。まさか彼女…
    『同棲⁈ 女か⁈』
    代弁ありがとう。
    『ん…ちょっと違うかな』
    虎杖にしては歯切れの悪い言い方だった。あまり触れられたくないのだろう、不自然に話題を逸らす。
    どうしよう、本当に彼女だったら立ち直れない。だってこんな部屋を提供できちゃうようなひと、年上の美人なお姉さんに決まってる。キャリアウーマンかもしれない。わたしなんか到底、足元にも及ばないだろう。
    その時、虎杖の後方に人影が映り込んだ。う、噂の年上美女か…!そうと決まったわけでもないのに、わたしは早くもダメージを受けていた。
    何をしているのか、ふらふらと揺れる影はなかなか本体を見せようとしない。ほかのメンバーも気付いたらしく、みんな興味津々に虎杖の画面を注視している。当の本人は何やら顔芸をしていて、気付かないままだ。
    『ゆうじ〜』
    男の声がした。ピタッと動きを止めた虎杖が慌てて振り返る。
    『僕のパンツ知らない?見当たらないんだよねぇ』
    白い。そう思った。画面の端から姿を現した上半身裸の男、髪も肌も白い。
    『先生⁈何してんの⁈』
    『パンツが無いんだってば。洗濯しようと思って…お。みーっけ』
    『いや服着て!女の子もいんだから!』
    『は?女連れ込んでんの?ころすけど?』
    『リモート飲み会するって言ったじゃん!』
    『そだっけ?』
    スマートフォンをチラッと横目に見て、あぁそれね、と男性は頷いた。
    『んじゃ、シャツを着て〜』
    『それ、俺んじゃね?』
    『僕のでしょ。ほら』
    『あ。ほんとだ』
    黒いTシャツを着た男性が画面に近づいてきて、虎杖の肩を組む。
    『映ってる?』
    ドアップが映し出された瞬間、女子メンバーが悲鳴のような雄叫びのような奇声を発した。男子でさえ、うわ、えげつな…と洩らしている。わたしは虎杖への恋心というフィルターがあったから何とか平静を保てたけれど、それがなければ同じように叫んでいたに違いない。おそろしいくらい、男性は整った外見をしていた。
    『どーもー。僕の悠仁がいつもお世話になってマス』
    『先生、恥ずいからやめて…』
    さっきから虎杖は彼のことを”先生”と呼んでいる。一般的な”先生”にしてはやけに距離が近いが、一緒に暮らすくらい仲が良いのなら、”かつて先生だったひと”なのかもしれない。この容姿で先生とは一体、何を教えているのだろうか。
    『どーですか。悠仁くんはバイト頑張ってます?』
    『何の面談⁈』
    『だって悠仁、僕がバイト先に行くのイヤがるじゃない』
    『う…それはそーだけど…』
    『めっちゃ良いヤツっす。自分から率先して仕事するタイプ』
    『おもしろいし愛嬌もあるから、お客さんから大人気』
    『たまにバカだけど』
    『いま言ったのダレ⁈』
    アハハ、とみんなが笑う。虎杖は、たくさんのひとに好かれる。全員とは言えないだろうけど、知る限りで彼のことを悪く言うひとはいない。たとえ日陰に身を置いていたとしても、彼は皆に平等に、差し込む陽光のような温もりを与える。それにどれだけ救われたかわからない。
    ふと視線を感じた。画面越し、”先生”がこちらをじっと見ている。眼力に威圧されてどんな顔をすれば良いのか分からず、適当にヘラッと笑ってみせると、彼はニッコリ微笑んで立ち上がった。
    『いいね〜青春て感じで!悠仁も頑張ってるみたいだし、結構結構』
    虎杖の頭をポンポンと撫で、
    『明日も早いんだからほどほどにね』
    こめかみ辺りにちゅっとキスを落として去って行った。
    ギャー!とか、何いまの⁈と、みんなが騒ぐ。それはそうだろう。日本人ならば普通に生活していたら、あんなスキンシップとは無縁だ。
    わたしはと言えば、騒ぐ気も起きず、ただぼんやりと呆けてしまっていた。
    わたしは虎杖が好きだから、彼へ向けられる好意に本人よりも敏感になる。それは、あの”先生”も同じらしい。”先生”は虎杖のことが好きだから、わたしが彼に恋をしていると気がついた。虎杖の様子を聞くふりをして会話に加わり、わたしたちを観察していたのだろう。去り際のキスは牽制だ。
    そして、わたしは虎杖が好きだから、見てしまった。気を抜けば緩みそうになる口元を必死に誤魔化そうとする、情けない、嬉しそうな横顔を。あんな表情、見たことがない。
    虎杖はいつでも、誰にでも優しくて、その温もりは平等に与えられる。
    知らないだけだった。虎杖悠仁にとっての特別な存在を。
    2人はきっと、恋人同士なのだろう。誰も勘付いていなさそうだけど、虎杖の部屋に”先生”のパンツやシャツやらがあることがそもそもおかしい。
    画面に映る虎杖を見つめながら、缶のカシスオレンジを一息に呷る。甘ったるくてジュースみたい。気取ってカクテルなんかにしないで、いつもみたいにビールにすれば良かった。
    『おーい。大丈夫かー?』
    虎杖が尋ねてくる。
    「…うっさい。バカ」
    『俺、何かした…?』
    ほとほと鈍感な虎杖は、いまこの瞬間、わたしが失恋しただなんて気付きもしないだろう。あの”先生”も苦労してるのかもと思うと、少しだけ面白くもある。
    もしもいつか、機会があるのなら、”先生”に聞いてみたい。彼の、どんなところが好きですか、って。



    「悠仁はさぁ。自分がモテるって、もっと自覚した方がいいと思いまーす」
    寝室に入るなり、先生にじろりと睨まれた。
    「いきなり何…。俺はモテんよ。それ言うなら先生でしょ」
    「僕の場合は、要はダイヤモンド富士を見てその美しさに感動し神々しさを拝むようなもん」
    「??ソーナン?」
    何を言いたいのかサッパリわからない。例えが意味不明すぎる。俺がバカなのか?
    「でも悠仁はさ、悠仁のは…ガチじゃん。度合いが違う」
    「度合い?」
    「悠仁のことを本気で好きな子はいっぱいいるよ、ってこと」
    ここ来て、と呼ばれたので、ベッドに寝転がる先生の傍らに腰を下ろす。長い腕が巻きついてきたかと思うと、脇腹に額をグリグリされた。かわいい。人差し指の背で頬を摩ると、気持ち良さそうに目を閉じる。
    「…悠仁。僕のこと、好き?」
    ぽつりと先生が呟くから驚いた。
    何を今さらなことを聞くのか。そんなの、好きに決まってる。告白だって、俺からしたんだし。
    「大好きだよ。どしたん、急に」
    「ちょっとね。悠仁の周りには、たくさんひとがいるなーって思ってさ」
    さっきの飲み会のことを言っているのだろうか。もしかして、自惚れてもいいのなら…
    「せんせ。それってヤキモチ」
    「ではなく」
    「ソーデスか」
    違うらしい。秒で否定されると凹む。
    「ただ、僕は…どういった類のものであれ、感情を向けられることには慣れてる。でも、自分から…その、ラブの意味で、好き、って思うのは、慣れてない。好きなひとから、同じ気持ちを返してもらうのも。だから…悠仁が離れていかないか、たまーに不安。な、だけ、です…」
    言っているうちに恥ずかしくなったらしい。先生は枕を手に取り、モゴモゴと尻すぼみになる言葉とは反比例して真っ赤に茹だっていく顔を隠した。
    「…」
    な、なんか…めちゃくちゃ可愛いことを言われたな⁈嬉し過ぎて声が出ない。先生につられるように、俺まで体温が急上昇していく。
    告白をしたのは俺からだった。もともと、卒業するまで生きていられたらその時に告白させて、と、一方的な縛りを結んでいた。なんとか無事にその日を迎え、想いを告げた俺に先生は、「いいよ。一緒にいよう」と受け入れてくれた。涙が出るほど嬉しい、ってフレーズはよく聞くけれど、実際に自分が体験するとは思わなかった。嬉しくても泣くものなんだ、って初めて知った。
    あの日から俺は、先生を中心に生きている。先生が喜びそうなこと、好きそうなもの。いつだって考えている。バイト先に来てほしくないのは、まぁ、ほら、目立つっしょ?あんまり人目に晒したくないっていう、ガキみたいな独占欲。
    でもやっぱり、心配になる時もある。先生は俺に情が移っちゃってるから、そう遠くない将来に死ぬかもしれない俺に付き合ってくれてるだけだとか。ただでさえ多忙なひとだから、そのうち捨てられるんじゃないかとか。
    先生との恋愛は、表面上は両想いだけれど、いつも、片想いをしているような気持ちでもあった。だから先生が、不安だと言ってくれて、いま、めちゃくちゃ嬉しい。
    「先生!」
    枕を剥ぎ取り、性急に唇を重ね合わせた。何度も何度も角度を変えて、触れる柔らかさを堪能するように、何度も何度も擦り合わせる。舌を入れて隅々まで舐め回していたら、後頭部を殴られた。
    「いてっ」
    「くるしーってのっ いきなりがっつきすぎ…」
    口元に手を当て、肩で息をする先生をぎゅうっと抱きしめる。
    「せんせ。不安にさせてごめん。俺、先生しか見てないよ。俺のことを好きって言ってくれるひとがいたら、あんがとーって思うけど。でもやっぱ、俺は丸ごと、先生のもんなので。もっかい、受け取ってくれる?」
    左手を取り、薬指にキスをする。
    ぽかんと口を開けた先生は直後、ボロッと大粒の涙を零した。
    「先生。いま、何してほしい?何でもしてあげる」
    「思いっきりぎゅーってしてほしい…ちゅうも。えっちもしたい。朝まで。悠仁をいっぱい、僕にちょうだい」
    「うん。ありがとう。俺の全部、先生にあげる」
    ポロポロ泣きながらしがみついてくる先生と一緒に、二人でベッドに沈む。先生は俺よりずっと大人で最強なひとなのに、庇護欲が掻き立てられる。腕の中にある体温が愛おしくてたまらない。
    存外、俺は重いらしい。俺のすべては先生のものだって、改めて思う。たぶん、初めて会った時からそうだった。
    不安だと言われて嬉しかったけど、やっぱり先生を悲しませるのはイヤだから、うんざりするくらい伝えることにする。
    先生のこと、最強レベルで幸せにするから。お願い。俺のでっけぇラブ、どうかいつまでも、受け取っていてください。
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