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    oritkrv0120

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    #さめしし

    僕の初恋を君に捧ぐ「……でもよ先生、本当にいいのか?初めての相手がオレなんかで。先生なら他にいくらでも選べんじゃねえの?」


     募る想いを告げた村雨を、しかし獅子神は何処か思い詰めたような瞳で見ていた。


    「私が欲しいのはあなただと言っている。あなたしかいらないし望まない。恐らくあなたの知っている『だれか』の中でも拙いとは思うが」


     自分から口に出しておきながら、酷く苦いものを含んでしまった時のように、村雨が眉間に深く皺を寄せる。
     負けず嫌いのこの男が、こんな表情をするのを獅子神は初めて見た。


    「負担を強いてしまうかもしれない。それでもどうか、私があなたに触れることを許して欲しい」


     赤い双眸は、決して揺らぐことなく真っ直ぐに獅子神を見つめている。命懸けの勝負の最中ですら、殆ど表情を変えることのない村雨の顔に今、切実な懇願が見える。


    「オレでいいのか?」
    「あなた以外は不要だ」


     一瞬の躊躇いもなく言い切った村雨に、獅子神は半ば呆れたような、半ば諦めたような複雑な心持ちだった。
     もうずっとこうなるのを待っていたような気もするし、これが現実になってしまうのを、ずっと恐れていたような気もする。

     多分獅子神は、もうずっと前からこの男の想いに気づいていたのだ。気づいていながら何のアクションも起こさないように過ごしてきた。
     気づかなければ始まらずにいられる。始まらなければ終わりもしない。吐きそうな程身勝手で醜悪な自分勝手な願いがあった。

     毎日毎日当たり前のように、村雨や皆と笑う今日が来て、当たり前のように明日を迎える。いつか残酷な最期が来たとしても、その日が来るまで当たり前に毎日が続くと、そう信じていたかった。

     しかし村雨は動いた。その潔いまでの誠実さで。
     この男が動くというなら、もう全ては進み出してしまうのだろう。

     もう戻れない日々への諦めがあった。悲しい程、この男と過ごす当たり前の日々は愛おしかった。


    「……アンタにやるよ、先生」


     笑おうとして、しかし上手く出来ずに、中途半端に歪んだ泣き笑いの表情で、獅子神は言った。


    「オレを殴っても、抱いても、何しても。それがアンタならオレは許す。だからさ村雨、そばに居てよ」



     ずっとオレの側にいて。



     何時もの獅子神からは想像も出来ない、か細い吐息のような声だった。
     何処か稚ささえ滲むそれをしっかりと受け止めて、村雨は獅子神の眦から今にも零れそうな雫を、細い指でそっと拭った。


    「……私はあなたを殴らない。損ねない。あなたを不当に傷つけることは断じてしないと誓う」


     そしてそのまま村雨は、ぽすりと獅子神の胸元に自身の額を預けるように埋めた。
     村雨よりも余程大きな獅子神の身体の中で、どくどくと音を立てて血を巡らせていく心臓の音を聞きながら、ゆっくりと二本の腕で獅子神の身体を抱き締める。



    「そばにいる。獅子神」



     鍛え上げられた身体は、やろうと思えば容易く村雨の身体など跳ね除けてしまえるだろう。村雨の腕は獅子神の身体をやっと一回りする長さしかない。腕力も筋力も到底及ばない。それでもそんな自分を獅子神が恐れるというのなら、いくらでもわからせてやればいい。


     この二本の腕は、殴るのではなく、ただ抱き締めるためだけのものなのだと。


     やがて獅子神が、恐る恐るといった様子で村雨の背に腕をまわしてきた。
     ぴったりと隙間なく身体を寄せ合い、抱きしめ合う。
     そのまましばらくふたりは、黙ったまま、互いの体温を確かめるように抱き合っていた。



     村雨は思う。


     愛を乞うた相手に心を許す時、同時に暴力を受け入れる覚悟をするこのマヌケをどうしてくれよう、と。

     甘い蜜に沈めて溺れさせ、笑って泣いて、共に生き、是非ともたっぷり後悔させてやらねばならない。

     何にも怖くなんて無かったなと、いつか最期の瞬間にこの男の瞳が語る時が来るまで。


     その日までずっと、共に生きよう。
     終わりの日が来ることに、ふたりで恐怖しながら。




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    takamura_lmw

    DONE桜流しのさめしし、もしくはししさめ。ハッピーエンドです。ほんとなんです。メリバでもないキラッキラのハピエンなんです。信じてください。

    これがずっと出力できなくてここ一ヶ月他のものをなんも書けてませんでした。桜が散る前に完成して良かったと思うことにします。次はお原稿と、にょたゆりでなれそめを書きたいです。
    桜流し 獅子神敬一が死んだ。
     四月の二日、桜が散り出す頃のことだった。



     村雨にその死を伝えたのは真経津だった。
    「——は?」
    「死んじゃったんだって。試合には勝ったのに。獅子神さんらしいよね」
     真経津は薄く微笑んで言った。「獅子神さん、死んじゃった」と告げたその時も、彼は同じ顔をしていた。
    「……いつだ」
    「今日。ボク、さっきまで銀行にいたんだ。ゲームじゃなかったんだけど、手続きで。そしたら宇佐美さんが来て教えてくれた。仲が良かったからって」
     村雨はどこかぼんやりと真経津の言葉を聞いていた。
    「あれは、……獅子神は家族がいないだろう。遺体はどうするんだ」
    「雑用係の人たちが連れて帰るって聞いたよ」
    「そうか」
    「銀行に預けてる遺言書、あるでしょ。時々更新させられる、お葬式とか相続の話とか書いたやつ。獅子神さん、あれに自分が死んだ後は雑用係の人たちにお葬式とか後片付けとか任せるって書いてたみたい。まあ銀行も、事情が分かってる人がお葬式してくれた方が安心だもんね」
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