「何で地域の運動会なんか……」
ぶつくさと文句をこぼし続けるKKを宥めながら赤く平たい紐を首に回し緩く結ぶ。
「ネクタイじゃねえんだぞ」
「いいからいいから、仕事だと思ってさ」
実際に仕事である。どうもこの伝統ある地区運動会を邪魔する不届きものがいるとか。大方盛り上がる体育系側とやる気のない文科系側の軋轢がというのがエドの見解である。何にせよ参加すればわかるということで僕が走ってKKが見張っているという予定だったのだが。
「綱引きで年代別リレーに出るはずだった四十代の人が怪我したんだからさ」
「ピンポイントすぎるだろ……」
何かの意図を感じないでもないけど、現状霊視しても何も出てこないので進行を補助する他ない。
「僕も走るんだからいいだろ」
お揃いのネクタイもどきを見せると鼻で笑われる。多分KKは子どもの運動会も出なかったのだろう。この暑い日にとまだ文句を言い続ける。確かに今日は五月なのに真夏日になりそうだ。
「走り終わったらしっかり水分補給しないとね」
参加者にはペットボトル飲料と有料ゴミ袋が配られるのでちょっと嬉しい。景品狙いでオレを走らせるのかとKKがヘソを曲げそうなので黙っているけど。
「いいか、やるなら一位でバトンを渡せよ」
「間の人がかわいそうだよ」
三十代の若いお父さんが縮こまっている。別に勝つ必要はないんだけど、KKは負けず嫌いだ。
「KKも格好いいところ見せろよな」
「惚れ直させてやるよ」
「あのマレビトたちも倒して?」
急に辺りが暗くなり体感で五度ほど気温が下がり、雨も降っていないのに傘をさした男や女が現れる。生きてる人間は僕たちだけ。
「準備運動だ」
「こっちが?」
印を結ぶKKと対照的に僕は数歩下がる。お札はポケットに何枚かあるけど弓は目立つので持ってきてない。でもエーテルショットで自分の身くらいは守れると自負している。
「応援頼むぜ」
「了解」
KKのネクタイがひらり風に舞う。吹き飛ばされる傘と異形の悲鳴。KKが負けるはずがない。だって負けず嫌いだから。
もちろん年代別リレーもぶっちぎりで勝った。僕はKKに惚れ直したかは内緒。めでたしめでたし。