ちかげの誕生日先輩のお誕生日会がお開きになったのは2時半だった。金曜日だったから、余計に羽目を外してしまった気がする。しかし、おれはまだ、先輩に誕生日プレゼントを、差し上げていないのだ。
談話室から部屋に戻ってきた先輩をソファに座らせて、俺は隠していたウイスキー各種と、グラスとマドラー、冷蔵庫に入れておいたロックアイス、炭酸水、あと高級つまみを取り出し、ローテーブルに並べていく。
「はは、ほんとに準備してくれてたんだ」
「眠かったら明日とかでもい〜ですけど、いちおう、」
「なんで、用意してくれたのに寝ないよ。飲むんだろ」
先輩は少し酔ってて、ごきげんだ。
今日マジでめちゃくちゃ飲んでたからな。
並べおえて、おれもソファに腰掛け、つまみを片っ端から開けていく。
「誕生日土曜日最高ですよね」
「うん。俺ハイボールにしようかな」
「ウイスキーどれにします」
「いっぱいある」
「いっぱいありますよ」
「ん〜、これかな」
先輩が選んだのは、本命の、わざわざ予約までして買ったウイスキーだった。
「あ、それ一番高いやつ」
「ガイさんに教えてもらった?飲んでみたかったやつだありがとう」
「お誕生日なので…あ、氷どうぞ」
「うん茅ヶ崎は?」
「あーおんなじのにしようかな」
「つくってあげよう」
「いや逆。俺やりますて」
一度制止すると、さして抵抗することなく先輩はソファに腰掛けなおし、優雅に足を組む。そして思い出したように上着のポケットから小さな封筒を取り出し、ハイボールを作るおれの眼前に嬉しそうにかざした。
「みて椋が手紙くれた」
「それ俺見ていいやつですか」
「確かに。俺だけのだからダメだ」
そう冗談めかして言って、先輩は手紙の中身を取り出して読みはじめる。その表情は、なんとも、やわらかく。
「うれしそ〜……」
「いいだろ」
「なんですかそのドヤ顔。いいですね」
「うん。」
「いいな。」
「いい日ですね。」
「うん、しあわせ。」
「えー、マジすか。じゃあ俺も」
「じゃあってなんだよ」
「先輩が幸せだったら、おれめちゃくちゃ嬉しいですよ」
「奇遇だな俺もだよ、俺も茅ヶ崎が幸せだったら嬉しい。あははすごいな永久機関だ」
「……」
「黙るなよ」
と先輩が笑う。
「先輩が幸せだったら、みんな嬉しいです。」
幸せに決まってる、と俺は続けて、そしたらなんか目から水がだぱだぱと出てきてしまう。
「…はあ?茅ヶ崎?なに、泣くなよ…おまえなんだかんだ情緒安定してるのが取り柄なのに」
口では、なんかぜんぜんひどいことを言っているのに、その手はティッシュの箱を俺に差し出してくれて、反対の手でポンと頭をなでてくれる。
ずび、俺は鼻をすすった。
「めちゃくちゃ眠い」
おれは泣いてしまった照れ隠しに、そう呟く。
「寝ろよ」
言いながら先輩は俺が作ったハイボールを勝手に取り上げて一口飲む。うまい、と呟いて、二口目を口に含む。
「いやだもったいなさすぎますもん」
「明日も明後日も飲めるだろ」
「い〜。でも先輩の誕生日終わっちゃう。」
「もう終わってるだろ」
「明日なにします?」
「明日?明日はなにもしたくないな。明日はみんなにもらったプレゼント眺めて、誕生日の思い出にひたってるよ」
「え〜…しあわせかよ」
「しあわせだよ」
ここまでだった……
尻切れとんぼヨクナイヨ!読み返したかったらチャント書きな!ハイ!