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    NumanoSakana

    @NumanoSakana

    メギド MDZS グラブル
    R18作品に関しまして、18才以下を含め、18歳を迎えていても『学生』であれば閲覧を控えていただきますようお願い申し上げます。

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    NumanoSakana

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    ババ抜き清談会を開催する仲良し五大世家の話
    忘羨 曦澄 その他CP
    本当はお正月までに書き終えたかった。
    メモ程度

    ##MDZS

    ババ抜き清談会 温若寒は休日に珍しくテレビを観ていた。『仕事の鬼』と呼ばれる彼は年中朝から晩まで仕事で終わる。そんな彼が休日にテレビを観るなど年に一度あるかないかの珍しさであった。
     読みたい本もなく、かといって何処かに行こうという気力はでてこずしかしなにかしていたいという気持ちからなんとなしにテレビを見つめていた。
     テレビの液晶は今世間で人気だというアイドルグループの特番番組が再放送されていた。放送局のドラマからかき集められた俳優陣が画面一杯ところ狭しと並んでオープニングを迎えていた。
    『今回行うのはババ抜きですが、自信はいかがですか』
     進行役の青年がテキパキと俳優に話を振っている。ババ抜きなどルールは知っていてもやったことはないなとぼんやり見つめ続ける。俳優たちが隔離された部屋に入り真剣にババ抜きを始める。名高い俳優たちでさえ思わずといった表情は見ごたえがあり結局最後までしっかりと見終わった彼は昔から付き合いのある親戚にメッセージを送信した。
    『今度の清談会でババ抜き大会をしたい』

    「というわけで、今回の催しはババ抜き決定戦を行う」
     後日、温若寒は生き生きとした様子で集まった今日集まった親戚たちに宣言をする。
    「お前の父親たまに突拍子もないことしだすよな」
    「この間テレビでみてやりたくなったって言ってた」
    「高校生かよ」
    「規模は高校生じゃできない規模だけどな」
     今回集まった温家別荘の広いリビングに置かれたソファで魏無羨が向かいに座る温晁に軽口を叩けば隣から江澄の突っ込みがはいる。彼らの目の前にはいくつものモニターが設置してあり別室をそれぞれの角度で写し出している。この大会用に新しく用意された離れから映像を飛ばしているらしい。いつもはいがみ合っていてもこういう時だけは軽口を叩く微妙な距離感は30年以上かけた賜物で彼らも気に入っていた。
    「ルールは特になくただ普通にババ抜きをしていただく。一番弱かった者は明後日行うビンゴ大会の景品を一人で取りに行ってもらう」
     毎年付き合いのいい親戚同士で開催されるこの清談会の催しはホストが決め、最後にビンゴ大会を行っていた。そのビンゴ大会の景品は今集まっている以外にも会社の関係者など多くの人が集まる。各家から一定の金額を出し、できる限り全員に景品がいくようにしてあるためかかっている金額も量も半端ではないのだ。そのため各家にでかすぎるトラックを個人で所有している。1週間前からトラックで搬入を繰り返すほどの量を取りに行けと温若寒は言っているのだ。魏無羨は思わず「厳しすぎないか?」と突っ込んでしまうが思追の質問で江澄に小突かれる程度ですんだ。
    「すいません温宗主、私や景儀はまだ免許をもっていません。万が一最下位になってしまった場合はどうするのですか?」
    「未成年や免許を持っていないもの、女性は運転手や使用人がつくがそれ以外は一人でやってもらう。とはいえ大きいものではなく一人でやれるものだけに絞っている」
    大きいものは使用人にやってもらっている。これが取りに行く景品のリストだ。そう言って温若寒の手にある紙の束は教科書程の分厚さがある。おそらく店ごとに分けているのだろうそれをみて全員がぞっとする。
    「要は勝てばただの楽しい時間だろ?さっさとやろうぜ」
    母の育った保護施設繋がりで仲良くなった焼星屑に最近ひっついているらしい薛洋が彼が座るソファの膝掛けに腰をおろしたまま挑発するように笑う。それを見て宋嵐が行儀が悪い!と叱りつけていた。
    「対戦する組はこれだ」
    一組目 金子軒 江厭離 聶懐桑 聶明抉 金光瑶
    二組目 金光善 金夫人 江楓眠 虞夫人 温若寒
    三組目 藍曦臣 藍忘機 江澄 魏無羨 温寧
    四組目 金凌 藍思追 藍景儀 阿靑 薛洋
    五組目 焼星塵 宋嵐 温情 温晃 藍啓仁
    「本選で馴れ合いがあるといけないからな夫婦や友人たちは纏めさせていただいた」
    そういった温若寒の顔はとても楽しそうにしている。彼の言葉を全員が聞くでもなく各々対戦表をみて反応をしだす。
    「一番最後は余りだな……」
    「ねぇ~いまからやるババ抜きってどんなゲームなの?」
    「は?お前ババ抜きも知らねぇの」
    「阿靑、いまから皆さんがやるから見ているといい」
    「お!江澄~負けないからな~」
    「ふんお前こそ吠え面かくなよ?」
    「兄上」
    「忘機、真剣勝負だよ」
    「僕たちは皆一緒なんですね。阿靑さんたちと仲よくなれればいいですね」
    「魏公子と一緒なのは嬉しいけれど姉上とは一緒じゃないんですね」
    「関係ないわよ勝つから」
    「父上があんなにキラキラした目をしているの俺は初めて見た……」
    「私は一組目ですかさっさと終わらせましょう」
     温晃は人生のなかで見たことのない父親に唖然としていたがそんな彼をよそに予選一組目の面子がぞろぞろと部屋を出ていく。
    暫くして一組目がモニターに現れた。
    「それでは予選一組目、お名前を呼ばせていただきます」
     いつの間にか放送席のようなものまで設けてあり、そこには温若寒の有能な秘書・温逐流が座っていた。厳しい顔を一切動かさず淡々と司会をしていく。
    「あの人ほんとなんでもこなすよな」
    「そういえばこの前、彼は運転できないものは無いって仰っていたよ」
    「何処のシークレットエージェントなんだよ」
     金凌たちはソファに一列で座って用意されていたお菓子を頬張っている。そこにジュースのペットボトルをいくつか抱えた温寧が3人にジュースを飲むかと尋ねる。
    「温寧さん自分達の分は自分達で注ぎます」
    「そうだぞ!それよりほら、一緒に見よう」
     思追がペットボトルを受け取り自分たちのグラスに注ぐ。金凌は温寧の手を引っ張り横に座らせた。残った面々もそれぞれ飲み物を手に席に着いた。
    「それでは皆さまのお手元にカードが行き渡りましたので、これよりそちらとの通信を切らせて頂きます」
    仕合、開始。温逐流の重々しい開始の合図でモニターに映る5人が一斉にカードを確認する。
    ペアになっているカードがどんどんテーブルに溜まっていく。カードがある程度少なくなるとリビングで観戦している面々の関心事はジョーカーの存在である。いったい誰が持っているのか。
    「どうやら最初のジョーカーは江厭離が持っているようですね」
     温逐流の声にリビングの全員が細く白い手の中に紛れて入っていたジョーカーに注目する。ジョーカーを引いた本人は表情に出さずにこにこと微笑んでいる。
    「阿離めなかなか緊張しているようだね」
    「まったく……あの顔は負けたらどうしようか考えているわね」
     彼女の両親からの言葉がなければ普段温厚な江厭離が見事なポーカーフェイスをしていると彼女の家族以外が思っていたほど普段と変わらない表情であった。

     金子軒から時計回りにゲームが開始された。金子軒の右隣には江厭離が座っている。早速ジョーカーが回るかとリビングでは全員が固唾を飲んだがそんなことはなく2周したところで手元にジョーカーがあったショック解けてきた江厭離が仕掛けた。
     金子軒が引こうと妻が持つカードを見る。すると1枚すーっと上に上がった。あまりにも分かりやすすぎるアピールに一瞬これはブラフで他のカードにジョーカーが混じっているのではと考えたが妻の表情から察するに正真正銘ジョーカーを上げているらしい。妻は仔犬のような目をしてこちらを見つめている。
    「あなた……」
     妻から小さく呼ばれる声に金子軒はめっぽう弱かった。あまりにも露骨なお願いをされるがまま叶えた金子軒にリビングでは魏無羨は大きな笑い声をあげ、金家がもれなく「妻に弱すぎる」頭を抱えていた。
     聶懐桑は隣にジョーカーがあることに緊張しながらカードを1枚引いた。ジョーカーでなくホッとしてうまく揃ったカードを場に捨てる。大丈夫。ジョーカーは来ない。金子軒が負ける。そう思って再び順番が巡ってきてなにも考えずにカードを1枚選んだ。そこには道化のイラストとJOKERの文字が書いてあった。ショックのあまり小さく声が出てしまう。
    「ウッ」
    「懐桑、私たちババ抜きしてるんですよ?声に出さないでください」
     わかりやすい反応に向かいから金光瑶から呆れた声がかかる。だが隣に座る大哥だ。彼は隠しているつもりだが周りが呆れるほど懐桑のことを溺愛している。そしてつい先程、江厭離が彼女の夫にした行為を直接見ている。全員の手持ちがあと少しで上がれるほど減っている今ジョーカーなんてものはさっさとおさらばしてしまいたい。やるしかないと兄に差し出した手札の中から1枚だけ上にあげる。
    「…………懐桑そんな手に俺が引っ掛かるとでも思っているのか」
     睨み付ける顔は恐ろしいものだが目の前に座る兄は自分の冗談に近いおねだりが一番効くことを聶懐桑はよく知っていた。なんだかんだで本当に甘いのだこの"大哥"は。
    「大哥……僕があんな大荷物運べるわけないだろ」
    「む……」
     そのまま睨みあっていたが順番を待ちくたびれた金光瑶から「引かないと終わりませんよ」と催促され漸く聶明抉は1枚選んだ。
    「子軒にしろあなたにしろ家族に甘すぎやしませんか」
     結局可愛い弟の頼みを断れず差し出されたジョーカーを引いた聶明抉に辛辣な言葉を吐いた金光瑶はその後残り1枚となったカードを江厭離に差し出し一番最初に上がったのだ。
     その後ジョーカーは江厭離の手元に戻ることはなく、そのまま江厭離と聶懐桑も上がり家族を甘やかした二人の一騎討ちとなった。

    「それでは決勝に進出したのは金子軒です。一組目の皆様はリビングにお戻りになり、ごゆっくりお過ごしください。二組目の皆様はご移動をお願いいたします」
     温逐流のアナウンスに緊迫した空気に満たされていたリビングはわいわいと活気を取り戻す。
    「父上があそこまで母上に弱いとは思わなかった」
    「金凌、ご両親の仲が睦まじいのは良いことだと思うよ」
    「そうだよ。そこまで気に病むことないって!」
     父が自分の母にめっぽう弱いのは知っていたがあそこまでとは。しかも戻ってきても凄くいちゃついている。思春期真っ盛りの金凌にとっては母親のしたたかさが衝撃を受けたのが半分、母が原因で負けているのに恨み言を一切見せない言わない父親に尊敬の念を抱いたのが半分で頭がそれを処理できずに思考を停止してしまった。両隣の友人からの言葉も耳に入ることなく、いったいどういうことなんだと呟くしかできなかった。
    「次は叔父さんたちか~藍湛は誰が負けると思う?」
    「わからない」
    「じゃ俺たちだと誰が負けると思う?」
    「わからない」
    「藍湛が負ける?」
    「君にだったら」
     藍忘機にそう言われて、でれでれと顔を崩す幼馴染みに「恥知らず」と呟いて江澄は顔を背ける。
    「江澄、コーヒーのおかわりはいるかい?」
    「ん、ああ。頂こう」
     隣に座る美丈夫に声をかけられ思わず肯定の意を示したが、この嬉々としてコーヒーを注ぐ男は巨大企業のCEOだ。秘書の真似事などさせていいはずはない。その証拠に藍啓仁からの視線が痛い。
    「ら、藍曦臣ありがたいのだが……その、コーヒーくらい自分で注げる」
    「私がしてあげたかったのに?」
     眩しいほどの微笑みに江澄はなにも言えなかった。その時丁度、姉夫婦が腕を組んで入ってきた。なか睦まじい夫婦の姿をみて心が温かくなるが先ほどの試合で姉がやった行為を思い出した江澄は背筋がぞっとしてしまった。
    「それでは二回戦を開始します」

    「若寒、ルールは大丈夫そうかい?」
     手元のカードを確認し終わった楓眠が隣に座る友人に問いかける。
     この友人の異常ともいえる負けず嫌いは昔からで、長所が短所になる瞬間をこれまで数えきれないほどみてきた。王様ゲームで王様になりたいがために「ずっと俺が王様!」などと言い出したこともある彼に不安から楓眠は念を押さずにいられなかった。
    「大丈夫だ! 自分でも調べたし、一回戦も見ていたからな」
    「一応言っておくけどジョーカーを最後まで持ってた人が負けよ?」
    「同じ数字で揃ったカードを捨てていくんだよ?」
    「順番は守ってくださいね?」
    「急な特別ルールも作ってはダメだぞ?」
     自信満々に大丈夫と答えた若寒に周りから次々と念を押された彼はうず高いプライドを少しだけ欠けさせることになった。

    「父上信用無さすぎじゃねぇ……?」
     リビングでその様子をみていた温若寒の息子である温晁は普段神か仏かと崇めるように尊敬と畏怖をしているため、これまでみることのなかった父親の姿に戸惑いを隠せずにいた。
    「20年前の統合事件を忘れたとは言わせないからな」
    「結局できなかったし賠償金も支払っただろ」
     20年ほど前、五家の親戚がそれぞれ経営する会社を若寒が統合して会長になると言い出したのだ。当然猛反発に合い、話しは縺れに縺れ、温家は資産の大半を費やして賠償金を支払うはめになったのだ。その金額も今では黒字になっている。だが当時、左団扇だった温家の子息たちは急に汗水垂らして働くはめになった。今となっては子息全員がいい経験と言うようになったが当時の彼らは藍家や江家に突然殴り込みにいったり大暴れした経緯があり、20年立って蟠りが解消した今でも全員この話題において距離ができている。
    「そういやあの時の性悪女どうしてんだ?」
    「驕驕?売れないAV女優してる」
    「あいつまだそんなことやってんの」
    「別の仕事紹介してもあっちがいいんだと」
     驕驕は20年前、温晁に取り入っていた女で温晁と一緒に江家で大暴れした際、彼女にも(温家に比べればかなり少額の)和解金を請求したのだ。だが高校生には高額で支払うこともできず卒業してからは売られるようにAVの業界に行ったのだ。
     魏無羨は思わずポカンと口を開けてしまった。彼女が2年ほどですぐ支払い終えた後もずっとそのまま残っていることを知っていた。だが20年前は面倒見などその辺の溝に捨てたような温晁が仕事を紹介するほどずっと面倒を見ていたとは知らず、人は変われるのだなと呆気にとられてしまった。魏無羨の呆けた顔をみて温晁は眉を寄せて「そもそも俺が手を出してなきゃあんなことになってないだろ」とまともなことを言ったため当時を知る大人たちがぎょっとした顔で視線を彼に集めた。
    「若様……成長なされましたね」
     遠い目で呟いた温逐流の言葉に温晁は顔を真っ赤にしていた。

     リビングにいる大人たちが温晁の成長を感じた一方で真剣に2回戦を観戦している子供たちは誰が負けるかで大盛り上がりを見せていた。
    「誰が負けると思う?光善おじいさまかな?思追、〇イヤリースとって」
    「はい。もしかしたら若寒様かも。注ごうか?」
    「ここまでジョーカーが回りまくってたら全然わかんないよな。温寧さん、このポテトめっちゃ旨いです」
    「揚げたてだからかな?沢山買っているから言ってくれれば揚げにいくよ」
    「キッチンで揚げれるのか?俺も一緒に揚げてみたい」
    「僕もいいですか?」
    「じゃあ今から行こうか」
     温寧たちが呑気にポテトを揚げにいっている間にもジョーカーは対戦者の手札をぐるぐると旅をしていた。
    「てかさぁ……光善のオッサン今のとこジョーカーしか引いてなくね?」
    「やはり……日頃の行いだろうか」
     宋嵐は薛洋の姿勢を直しながら2回戦が始まった直後を思い出していた。

     温若寒は全員に釘を刺された時、プライドが僅かに傷ついたがそれよりも手元のジョーカーはちゃんと回ってくれるだろうかと心配の方が大きかった。だが全員からルールは守れと言われたのが気に食わずそもそも社会的なルールが守れていないやつが一人いるではないかと声をあげた。
    「ルールを守らないのは光善もそうではないのか?」
    「若寒?私に飛び火させないでくれないか」
    「まぁ、温宗主。今回は私がいますもの。大丈夫ですわ」
     正直なところ若寒はこういう軽口というのに憧れを抱いていた。若い時分から仕事漬けの毎日を送っていために、友人のように接してくれるのは光善と楓眠くらいであった。それでも仕事の話ばかりで世間話のような会話ですらほぼ皆無であった。息子たちも長い時間をかけてやれたのだ。私もやってみたい!と。だからこそ軽口というのをやれるならこの二人だと確信していた。
     しかし楓眠は夫婦仲以外ほぼいじる部分がなく、いじれば妻である三娘に(物理的に)殺されることは確実だ。逆に光善は盛り沢山で、彼の妻から殺されることもない。そんなわけで彼は産まれて初めて軽口のつもりで口を開いたのだ。
     だが彼は初めてすることは往々にしてうまくいかないものであると思い知らされることになった。
    「そういえば新しく入った若くて優秀な秘書に手を出したんだっけ?」
    「無理やりな上、妊娠していたから光瑶が火消しに相当奔走したみたいだね」
    「まぁ三娘も、楓眠もご冗談が上手ね」
     うふふと微笑む金夫人はあまりに恐ろしく、若寒は軽口の難しさを目の当たりにしていた。そういえば半年ほど前に光善が全身大怪我をおって入院をしていると耳にしていた。昔からよく怪我で入院するから気にもしていなかったがそういうことなのかと恐ろしくなった。
    「ま、まぁ皆準備が整ったようだし、さっさと始めようか?」
     真っ青になった光善が若寒の手元にあったジョーカーを引いたのだった。

    「二回戦お疲れさまでした。決勝進出は温若寒様です。三回戦に出場される皆様は会場へ移動をお願いします」
     手札をぐるぐると旅をしていたジョーカーは終盤、温若寒と金光善の間をいったりきたりしていたが気に入ったのは温若寒だった。最後手元に残されたジョーカーを見て子供のような顔をしていた温若寒に楓眠はもう一度対戦できるようでよかったねと思わず声をかけてしまった。

    「江澄~どっちが向こうに早くつくか勝負しようぜってあれ?温寧は?」
    「あの子なら子供たちと一緒にポテト揚げにキッチンに向かったわよ」
     移動のため魏無羨たちはぞろぞろとリビングを出ようとして温寧がいないことに気づいて声をあげれば、ソファで論文を読んでいた温情が彼の行き先を伝える。もう移動しなければと魏無羨がキッチンに向かって声をかけようとすれば向こうからトレイいっぱいになったポテトをこれまた嬉しそうに抱えた金凌たちが歩いてきた。
    「叔父上~俺が揚げたポテト食べて!」
    「ん」
    「まぁまぁまぁ阿凌が揚げたの?私も食べていいかしら?」
    「はい母上もどうぞ!」
    「阿凌、俺も……」
    「魏先輩は私のをどうぞ!」
    「えっ?いいのか?へへっ揚げ物ができるなんてすごいな思追は!」
    「うん。よくできている」
    「皆、頑張ったんですよ」
     魏無羨たちがポテトを頬張っていると離れから戻ってきた江楓眠たちも合流して誉めちぎりながら食べだしてしまいリビングの入り口はあっという間に人で埋まってしまっていた。
    「あなたたち、褒めあいも大概にしてさっさと移動してください」
     さっさと進めてほしいのと自分も揚げたてのポテトが食べたい金光瑶が魏無羨たちを急かす。わらわらと人の群れが動く隙に金凌のポテトを食べ「美味しいです」としっかり褒めたのを藍啓仁は見ていた。
    「景儀、わたしにもいただけるか」
     俺も私もと揚げたてのポテトはすぐになくなってしまった。

    「ポテトで場が盛り上がっているところで三回戦、開始」
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    NumanoSakana

    MEMO寂しさからの怒りでドラゴンになっちゃった江澄をつけねらう蜘蛛曦臣
    黒い狐の魏嬰と魏嬰が好きすぎて自分の毒に溺れて欲しい藍湛
    幼馴染みで、義兄で、師兄で、戦友で、敵になった夷陵老祖・魏無羨が江澄をおいて自ら操っていたはずの屍凶に八つ裂きにされて十余年。
    江澄の中で義兄は父のお気に入りで江澄が躊躇うことも簡単にやってのけ、英雄になりたがる、決して追いつけない憧れであった。だからこそ義兄を名乗る輩を捕らえて江澄の鬱憤を拷問で晴らしているうちに赤子であった金凌は生意気を言うほど大きくなった。だというのに義兄は一向に誰の身体も奪わず、金凌の顔を一度たりとも見にも来ず、江澄の不満を聞きに来てくれない。
    執務室で一人ため息をつけば机の上に音もなく鼬が登ってきた。江澄の使い魔であるこの鼬は彼が心配で顔を見にきたらしい。その使い魔の全身をありがとうと労うように撫でれば気持ち良さそうに寝転がる。その毛皮は滑らかで美しいきつね色をしていた。狐は義兄の獣だった。それは美しい黒狐で犬に似ているのに嘲るような顔が江澄はいつも気にくわなかった。突然キィと甲高い鳴き声がした。見れば穏やかに撫でていた江澄の手は薄く紫に輝く黒い鱗に覆われ指先にある蜥蜴のような鋭い爪が使い魔の柔い肉を突き破っていた。慌てて治療を施す手はすでに人のものに戻っており、この場面だけをみれば怪我をした獣を治療しているようにしか見えない。だが江澄はまたやってしまったとため息をつく。彼を心配そうに見る使い魔の視線が胸に刺さる。
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    tarutotatan082

    DONE明朗と命を絶とうとする江澄と?な曦臣の監禁曦澄になるはずのもの嘉日


    今日は本当にいい日だ。

    江澄は戴冠式を終え、立派な宗主然としている金凌を見て小さく息を漏らした。小生意気な甥の落ち着いた言動への感動も成長の早さへの嘆きも含まれたものだった。江澄は大きく息を吸っていると、金凌がこちらに向かってくる。
    「江宗主、今日はお越しいただきましてありがとうございました」
    金凌が丁寧に拱手をする。周りの目がある時は血縁であると忘れろ、と何度言っても叔父上、叔父上ときゃんきゃん吠えていた姿が嘘のようだった。それでも、よく出来たでしょ、と言わんばかりに緩む金凌の口元を認めて江澄は薄く笑った。
    「この度は戴冠おめでとうございます。江家は金宗主を力の限りお支えします」
    江澄は久方ぶりに眉の皺が解ける感覚を得ながら屈託なく笑みを返す。金凌は江澄の聖母のように盛り上がった頬肉を見てわずかに目を瞬かせた後、満面の笑みを返す。見慣れない江澄の表情に金凌の隣に控えていた家僕が目を見張った。
      金凌は確かによく頑張ったと思う。金光瑤の一件を経て、財と力のある金家を引きずり落とす理由を漸く見つけた他家の横槍は酷いものだった。助言すら許さなかった金光善の時代を思えば 7443

    澪標(みおつくし)

    SPUR ME尻叩きその②

    江澄が所属しているのは映画観賞同好会(好きな時に好きな映画を見て好きな時に感想を言い合う)です
    肝試しに行ったら憧れの先輩とお清めセックスをすることになった話②時刻は21:00。大学のキャンパスのある市街地から車で約30分の郊外。参加メンバーのSUVでやってきたその廃墟は、遠目に見た瞬間から「ヤバイ」の一言に尽きた。
    そこはかつてそれなりに繁盛していたが、数年前に突然廃業した元病院なのだという。建物の外観は、壁が崩れているとか蔦が生い茂っているとか、そこまで激しく朽ちている訳ではなく、むしろつい最近まで使用されていたもののように見えるのだが、纏う雰囲気が尋常ではなく「ヤバイ」。人の出入りもなくなって久しいというが、やけに生々しい空気が建物にまとわりついているようで、それがなんとも言えない不気味さを醸し出している。江晩吟は声にこそ出さなかったが、その類まれなる美貌の顔面を、「うげぇ」という正直な感情を抑えることなく思いっきりしかめていたのだが、どうやらこの場の空気の異常さを感じているのは江晩吟と、件の同級生だけであるようだ。ほかのメンバーは、「思ったよりもきれいじゃん」だの、「ちょっと雰囲気足りなかったかなー?」だの、「やだ―虫たくさん飛んでる~」だの、まったく周囲の空気の異様さには気が付いていないようだった。
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