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    おわり

    @owari33_fin

    アズリドとフロリドをぶつけてバチらせて、三人の感情をぐちゃぐちゃにして泣かせたい

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    ミーティア3️⃣ Az-21 『車内にて①』

     部屋のクローゼットの前、今日着るスーツを選ぶ。白いYシャツに、薔薇の王国にある老舗の生地ブランドが時間をかけて丁寧に織り上げた濃いグレーのストライプの生地を、陽光の国、高級テーラーが軒を連ねる一帯で一番の腕の職人に仕立てさせたスーツだ。完成度の高いカッティングに、着心地もよく見た目も僕の体系を良く見せてくれるここ最近一番お気に入りのスーツだった。
     ジャケットを羽織る前に、今朝リドルに貰ったオクタヴィネルのあの寮服を思い起こさせるような色合いに、僕はクスリと笑ってネクタイを締めた。鏡に映せば、このスーツに中々よく合う色合いに、僕の最悪だった気分が少し上がった。
     大丈夫、僕はまだ努力できる。そして、努力すればきっと、この幸福を失わずにいられる。絶対に渡すものかと、僕はぎゅっと、リドルから贈られたネクタイに手をおいて覚悟を決めた。

     寝室を出て、リビングでリドルと並んで後片付けをするフロイドにひと声かけて、僕は家の外に出た。車庫のシャッターを持ち上げ、夕焼けの草原でレオナを乗せて回ったネメア社の黒い光沢が美しい車は、初めて見たときから僕のお気に入りだった。
     力の強い獣人に合わせてハンドルも重く、うっかりハンドルを切りすぎてしまうことがないのも気に入っていた。車内も広く、高級感のあるベージュカラーの革張りの座席も気に入っていたし。光沢のある黒に走るゴールドのラインも美しかった。
     いつか、リドルとのデートで、めかしこんだリドルを助手席に乗せてホテルのディナーでも行ければと考えていたが、現実は子供たちファーストのリドルとそんなデートを出来るわけがなく、隣に今乗っているのは、眠そうにあくびをするフロイドだ。
     親に言いつけられた仕事の報告をするために一度、陽光の国にある陸の仕事場に行くと言っているこの男は、この地にリドルが隠れ住んでいたことは全く知らなかったようだ。そうなってくると、全てもう一人のウツボの差し金だ。
     あのジェイドとの偶然とは考えにくい再会……あの時のジェイドの意味深な言葉から察するに、フロイドをこの街に送り込んだのは、あの馬鹿みたいに快楽主義者のあのウツボの楽しみのためでしかない。きっと、僕たち三人のこの関係を泥沼にして、遠目からそれを見ては楽しむつもりだ。クソッ! もしあいつが目の前にいたら、最低五発は蹴りを叩き込んでやりたい。
     あいつの望み通り、フロイドはリドルと再会し、サミュエルは自分の本当の父親が誰かを知ってしまった。この二つだけで、僕の感情をミキサーにかけてミンチにするには上出来だ。やっぱり、蹴りを叩き込めるなら、あと追加で五発は決めたいところだ。まぁ、蹴りを入れたからといって許すつもりもないけれど。
     フロイドを乗せたまま無言で車を走らせて五分、フロイドが先に口を開いた。
    「アズールさぁ……あの金魚ちゃんの今の名前『リデル』って、アズールがつけたの?」
    「そうだと言ったら?」言えばフロイドは、「べつにぃ」と、昨日よりも脚を伸ばせる車のおかげで、助手席で足をグイッと伸ばし背伸びした。
    「金魚ちゃん学校から逃がしたの、多分アズールなんだろなってのは、なんとなく分かってたけど……まさか結婚までしてるなんてわかんねから」
    「おまえに言わなかった事、僕は謝るつもりはない」
     そうきっぱりと言えば、フロイドがへラリと笑う。
    「いや別に、オレが同じ立場なら、同じことやってたと思うから、そこは別に『その手があったかぁ〜ムカつくなぁ〜〜!!』ぐらいにしか思ってねーから」
     意外な言葉に驚いた、本来ならリドルと子供たちを奪い合い、殺し合いが始まっても文句が言えないような事をした自覚があった。かけちがったボタン、それぐらいの些細なことを正せば、きっとこの二人は恋人になって結婚して、産まれたサミュエルを腕に抱いて幸せに笑いあっていたのかもしれない。
     それを想像すると、僕だったら許せない。きっとリドルに嫌われても、怒り狂う彼をサミュエルごと攫って結婚し、その後僕の子を産ませただろう自覚はあった。
    「金魚ちゃんさぁ、マスシェフ受講したての時、顔真っ赤にしてウギりながら炭出してきて『ロールキャベツだ』とか言ってたのに、その時からは信じらんねぇぐらい料理できるようになっててウケたわ……あれ、アズール毎日食ってんの?」
    「休みの日は、たまに僕が作りますが、それ以外はリドルさんが作ってくれます」
    「いーなー」と羨ましがるフロイドの反応は少し気分がいい。そのせいか、僕の口は少し饒舌になっていた。
    「一番最初に隠れていた先で、家主の女性から料理や家事を習ったようです。教わった事をびっちりメモしたノートを五〇冊近く作っていましたよ」
    「なにそれぇ! 金魚ちゃんらしいってかさぁ……元気にやってたんだって思ったら、なんか安心したわ……オレが最後に見た金魚ちゃんは、ずっと死にそうな顔で泣いてたから、オレのせいで事が済んでも学校に戻ってこれないならどうしよう、もし酷い生活とかしてたらって、そればっかり考えてたんだよねぇ……」
     ずっとあの時の事を後悔していたと、いつもは飄々とした顔をするフロイドが、リドルのことを話す時は目を細め、誰が見ても好きで好きで仕方がない相手のことを話しているのが分かる表情をする。その感情を向けている相手がリドルだと分かると、不快でなからなかった。
     それでもフロイドを車内から放り出して「二度とリドルに近づくな!」とそう叫べなかったのも、僕がこの腐れ縁の双子の馬鹿ウツボに対し、それなりに思うところがあったせいだ。
    「家に飾られてたパッチワークも、子供たちのちょっとした服や小物も、そこに入った刺繍も、全部リドルさん手製の品だ」
     そう、こうやってフロイドの知らないリドルの話しをしてしまうのも、きっとその『思うところ』のせいだ。
    「そんなことまでオベンキョウしてたの?」
     フロイドは、自分の予想以上に、リドルが子供たちを母親という立場で必死に育てていた事実に驚いた。
     僕自身、リドルの戸籍を偽造する時に、その性別をどうするか迷った。薬で男が妊娠したという話は新聞やニュースで目にしたことがあったが、腹の中の子供がうまく成長し、母体となった男が無事に出産したという話は聞いたことがない。だから呪いで子を宿したリドルが、男の身で子供を産めば、どこからか情報が漏れた時にanathemaに感づかれれう可能性があるのではと危惧した。なによりリドルの見た目の性別は曖昧だ。女だとゴリ押せば気づかれないのではとそう考え、戸籍の性別を女性としたのだが、子供を確実安全に産むために本当に女性化するとは思わなかった。
    「むしろ、今まで勉強や寮長として向けていたエネルギーを全て育児と子供たちを育てていくための家事という勉強に向けて生きていたんだ、リドルさんならこれぐらいやってのけて当たり前だろ」
    「それもそっか」納得するフロイドは、あんな事があっても変わらないリドルを想像してニンマリと口角を上げた。
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