聖母マリアkiis︎︎ ♀
結婚、恋愛に興味は無いけど子供は欲しいと思った処女41。精○提供というものを知り、どうせなら顔が良くてスペックが良い奴が良いとネットを彷徨い見つけたのがkisだった。早速、依頼のメッセージを送ると暫くしてから、1度カフェで顔合わせをしようと返事がきた。当日顔合わせの際、現れた美丈夫に41は息を呑んだ。容姿端麗だという事はあげられていた写真でなんとなく知っていた。だがやSNSでは顔と身体がハッキリと写っているわけではなく、多少はぼかされてる部分もあったのだ。改めて目にする彼は美しい顔立ちは勿論、服の上からでも見て取れる均整が取れた肉体美を有していた。まるで神が自ら愛情をふんだんに注ぎ込み、丹精込めて一から丁寧に作り上げたであろう彼は、kisだと無表情かつ静かにそして何処か皮肉げに名乗った。
「天使みたいだ…」
ポツリと漏れ出た言葉にkisは僅かに目を見開いたが、すぐにその綺麗な瞳は無機質な色を宿す。まるで何もかもに興味がなく、つまらないと言いたげな表情。案の定、kisは名乗った後、41の零した言葉に反応をすることなく、41が依頼者であることを確認すると精○提供の条件を淡々と話し始めた。提供1回につきの値段について、提供の形としてはシリンジ法のみ。性交渉はなし。子については認知もしなければ、干渉もしないこと等。
「最近は何を思ってかタイミング法に切り替えたいだの言ってくる勘違い女が増えてるが、一切取り合わない。話があった時点で契約は切らせてもらうからそのつもりで」
良ければここにサインをしろ。そう告げて、彼は契約事項が綴られた書類を41へと渡す。
「分かりました、よろしくお願いします」
契約書にサインしたのを確認すると、彼はさっさと身支度を整え「次の詳細はまたSNSで送る」と言い放ち、足早にその場を去って行ってしまった。
あっという間の出来事に、カフェには41と手持ち無沙汰に頼んだ温いココアだけが残される。
「なんであの人こんな事してんだろ…」
一口ココアを含み飲み込んだ口から、ふと疑問がこぼれ落ちた。あんなに恵まれた容姿をして、身なりもしっかりしていた。金に困っているような風貌では決してない。精○提供に意義を見出している様子もなかった。彼にはなんの意味があって、精○提供を行っているのだろう。だが片隅に突如として現れた疑問に答えてくれる者は居るはずもなく。
「まっ、種が貰えればどうでもいっか!」
と41は短絡的に冷めたココアと疑問を一緒に飲みこんだ。
一回目の提供は割とすぐ行われた。突如として空いている日にちを問われ、再び同じカフェに呼び出され、金を渡し種をもらう。やり取りは最小限で、成果がどうだったか連絡しろとkisは淡々と放つとすぐ居なくなってしまった。その場には41とまだ少し熱いカフェラテ…そして綺麗に密閉された袋が残された。
提供二回目、それは思いの外早かった。何故なら提供された一回目その日のうちに41はkisに連絡を取ったからだ。
「こんなに早く次の種を要求してきたのはお前が初めてだ」
それも馬鹿みたいな理由で。とkisは無表情を崩し呆れたとばかりにため息をつく。
「今度は無駄にはするなよ」
「うっ、すみません。気をつけます…」
そう41は提供を受けてすぐ、シリンジ法を試したが物の見事に失敗したのだ。41は処女だ、ということは精子を見るのも初めてで、シリンジに貯められたそれをまじまじと観察していた時、ついつい力が篭ってしまった。
「うひゃっ…え、うそ、なにこれって、にっがぁ!」
気づいた時には41にとっての大金をはたいたそれは、見るも無惨に41の顔に飛び散っていて。
覆水盆に返らずかな、精○子宮に帰らず。
41は半泣きで顔に精液を貼り付けたまま、kisに恥も承知で連絡をとったのだ。当然早すぎる連絡にkisは理由を問うわけで、41は馬鹿正直にシリンジの中身を勢い余ってぶちまけてしまったこと、口に入った精液が苦くて大変だったと答えた。既読はすぐついたがかえって来ない返信に41は焦った。馬鹿みたいに精液を無駄にしたことは自覚しているため、契約がこのまま切られてしまうのではないかと。しかし、そんな杞憂は他所に数分して(シリンジ相手に顔射されるとは滑稽だな。しょうがないから恵んでやる)と返事がきた。
「顔射…顔射ってなんだろう?」
初めて見る単語に41は首を捻りつつ、馬鹿にされてるのだけはなんとなく察した。まあ、契約を続行してくれるのであれば、良かったと安堵しつつ、受け渡し希望日時を伝え今日に至る。
「また癖になって飲むんじゃないぞ、胃に溜まるばかりで身ごもりはしないからな」
いかにも馬鹿にしたような口調で例のものを差し出してきたkisに、むっとした41はやや乱暴に袋をふんだくった。
「はあ?誰があんな苦くて不味いもの好んで飲むかよ!」
「ふーん」
敬語が崩れた41を、初日からの無表情を一変、kisは嘲を含んだ笑みを浮かべながら、規則的に長い人差し指で机を叩く。
「俺の貴重な精液が不味い、ねぇ?言いたい放題だが、そんなまずーい精液を一日としてたたず要求してきたのは誰だっただろうなぁ」
「うぐっ」
ぐうの音もでないとはまさにこの事。誤魔化すように視線を横に逸らせば、その様子を見ていたkisはくっと何かを喉に詰まらせたような笑い方をした。
「まあ今後とも俺の不味い精液をご贔屓に」
「ふん!今回が最後に決まってんだろ!おめでたい報告してやるから、祝う準備でもしてるんだな!」
「へいへい、そうだといいですね」
完全に敬語が外れ、言い立てる41をkisは咎めることなく、まるで悪態をつく子供をいなすような返事をしながら、カフェから颯爽と姿を消した。その場には息を荒らげる41と半分ほどになった温いバニラミルク、そして不味い白い液体の入ったシリンジだけが残される。
「あいつ〜〜!今に見てろよ!子供ができれば用済みだ!」
決心をつけるが如く、ごくごくと勢いに任せて残りのバニラミルクを飲み干した。
バニラの香る白いそれは、とても甘く41好みだ。
「あ〜あ、精液もこんくらい甘かったら良いのに」
ぶっ!!!
隣で優雅にコーヒーを嗜んでいた男が派手に吹き出す。しかし、男が吹き出した原因たる41はその様子を不思議そうにポカンと眺めた後、急に変なとこに入って噎せることあるよな〜とお絞りを貰うべく店員を呼んだのだった。
★
五日後、椅子に偉そうにふんぞり返る男と悔しそうに顔を歪ませる女の姿があった。
「で?申し開きは?」
「…飲みはしなかったし」
「言い訳も甚だしいな。早く吐け、今度は何を失敗したんだ?」
愉快そうに尋ねるkisは、初日の無表情だった彼とはまるで印象が違って見える。SNS上でも、連絡を入れればものの数分で既読がつき、僅か一日で連絡してきた41に、その理由も予定も聞くこと無く日時が指定されたのだ。まったく仕事だったらどうすんだよ。だがなんとまあ丁度休みだったから良し!指定された時間より早めに着いたカフェで、頼む飲み物を物色していたところ、ニヤニヤと気色悪い笑みを浮かべたkisが現れたのだ。罰が悪い41はkisが何か言う前に遮るように店員を呼ぶ。
「すみませーん!キャラメルラテひとつ」
「ブラックコーヒーも頼む、ホットで」
「へ、コーヒー飲むんだ…」
いつもは出されたお冷にさえ、口を付けないkisが珍しいと戸惑いを浮かべると、kisは「コーヒーぐらい嗜むさ、お子ちゃま舌のお前には飲めないだろうけどな」と舌を出す。
「ちがう、そうじゃなくて、てかお子ちゃまじゃないし!」
「ふーん、毎回飽きずに甘ったるい飲み物ばっか飲んでるのはお子ちゃまの確たる証拠だと思うが」
「それは、たまたま甘い物が飲みたい気分だっただけ!コーヒーぐらい飲めるし!」
「あいあい、そうでちゅねー」
当初の事務的なやり取りからは想像もできない子供じみた言い合いを重ねていると、気づけばキャラメルラテとコーヒーが二人の目の前に運ばれていた。お互い飲み物を一口含んだ後、「で?」と続きを切り出したのがkisだった。そして冒頭に戻る。
「ちゃんと今度は撒き散らしたりはしなかったからな、ただちょっと、そ、のあの〜」
「なんだ」
「入れてみたは入れてみたんだ、だけど上手くいかなかったっていうか、手前すぎちゃったっていうか、さ…」
煮え切らない様子にkisは怪訝そうな表情を浮かべる。
「まどろっこしい、簡潔に言え」
「〜〜!もーだから!なんか手前で出ちゃったの!奥までできなかったの!言ったぞ、これで満足か!?」
「ほ〜、あれだけ大見得切ってなあ、その結果がこれか」
「うるさい!あれ結構怖いんだぞ!あと痛いんだぞ!」
「そうねぇ〜、コーヒーも飲めない41ちゃんはお子ちゃまだから痛いのも怖いのも嫌だもんね〜」
煽るようにコーヒーを飲むkisを見て、41はそのコーヒーが間違って気官に入ってこの間の人みたいに噎せ込めば良いと睨みを送るが、41の睨みは何のそので彼は優雅にコーヒーカップをソーサーの上へと置く。
「はあ、今までどんな短小粗チン野郎と付き合ってきたか知らないが、あんな細いもの適当に自慰でもして濡らせばスルッと簡単に入るだろ?」
「ぬ、濡らす?み、水とかで?」
「水ぅ?何言ってんだ。は、まさかそのまま乾いたまま入れたのか?」
まさかと目を見張りこちらを見るkisから、目をそらす。仰る通り、41はなんの前準備もせず、カテーテルを股に突っ込んだ。何せ処女のものだから、知識がないまま無闇やたら突っ込んでみた結果は答えるまでもなかった。
「いったぁ!なになに!痛すぎ!無理無理、これ以上いれんの!?怖すぎ!」
僅か一センチかどうかでギブアップ、痛みと恐怖で潤滑油代わりの体液も出るはずもなく。又もや半泣きになりつつシリンジの押し子を押してはみたものの、入口付近にタラタラ流れて終いだったのだ。
その経緯を知ったkisは威嚇するミーアキャットみたいに口を開けた。
「馬鹿か?何もしないで入れれば痛いに決まってる、セックスしたことないのか?」
kisの問にギクリと背中がビクつく。だが、ここではい、そうです。と頷くのは41的にプライドが許さなかった。だってお子ちゃまってからかいに拍車がかかるに違いない。
「した、したことぐらいある」
「ふーん、いつ」
「高校ぐらい!とか?」
「なんで疑問形なんだよ、はあ…そうだな、高校生じゃあ猿だし前戯もしないで突っ込むか」
kisは顎に手を当てて何かを考え込んでいたが「まあいい」と呟き、鞄から袋を取り出す。
「ほら、次こそちゃんとやれ。ただでさえ正確にやっても確率は低い。俺の貴重な遺伝子をクソ無駄にするな」
「頂戴いたします」
「今更大人ぶらなくていいぞ、キャラメルラテは美味かったかお子ちゃま41ちゃん?」
揶揄うのが楽しいとばかりの表情を隠さず話すkisに、41はムキになって残りわずかのキャラメルラテを飲み干すと「ええ!美味しかったです!次こそおめでたいご報告ができるかと思うので、引き続きよろしくお願いいたします!!」とやけに堅苦しい敬語を使う。
「41ちゃん次はちゃんと濡らしてやるんだぞ」
「分かってるわ!ちゃんと水で濡らすし!」
怒りを隠さずカフェから出ようとする41に、kisが追い打ちをかければ、ハリボテの敬語はあっさりと剥がれてしまっていた。
その場には笑いを堪えたkisと残り僅かの冷えたコーヒーだけが残される。底に残った液体を燻らせ、最後の一口を堪能する。
「ふっ、くくっ…だから何で水なんだよ」
飲み込んだ筈の笑いが、彼女の最後の言葉を思い出し堪えきれず漏れ出てきてしまう。
恐らく水じゃ痛いに決まってる。せめてローションだろ。とは思ったが、あえてkisは言わないでおいた。また失敗するであろう41はすぐさまkisに連絡を入れてくるに違いない。その次を想像して、kisはスマホカレンダーを開き、予定を確認したのだった。
★
「ちゃんと水で濡らした」
例のカフェに珍しく先に来ていたkisの顔を見るなり開口一番。むくれた顔をしながら悪態をつくようなトーンで41は語った。
「そうか、水、でねぇ?」
「なんだよ、濡らせって言ったのはそっちだろ」
「確かにそう助言はしたな」
軽く頷きながら、kisは手にしていたメニュー表を41へと差し出す。いつもは隅から隅まで見て何を飲むか悩む41だったが、今日は既に飲む物は決めてきていたので、差し出されたそれを押し返した。
kisはすぐに戻されたメニュー表に眉をピクつかせていると、「お決まりでしょうか?」と丁度タイミング良く店員がテーブルに注文を取りにきた。
「ブラックコーヒー、ホットで頼む」
「はい、ブラックコーヒーをホットでひとつ。お客様は何になさいますか?」
店員はkisの注文をメモしつつ、41にも催促するように声をかける。店員の呼びかけに、41は覚悟を決めるように息を飲んだ。なかなか注文しない様子のおかしい41をkisが怪訝そうに見つめる。kisと店員の視線を一身に受けながら、ぐっと唇を噛み締めた後、41はばっと店員を仰ぎみた。
「ブラックコーヒーをホットでお願いします!」
「か、かしこまりました」
目を据わらせた41に店員は若干引き気味であったが、自分としては満足だった。やってやった!頼んでやった!毎度毎度、子供が好む甘い物ばかりじゃない、大人の味のコーヒーだって飲めるのだ、多分。来店当初のむくれた顔は何処へやら、ややドヤ顔気味の41の顔を見たkisは呆然とした顔をしている。
「ブラックコーヒーなんて飲めるのか?」
「もう大人だから飲めるに決まってんだろ、俺は大人だから!」
二回も自分は大人を主張する姿に、恐らく前回お子ちゃま舌扱いをしたことを根に持っているのだろうと察したkisは、そういうところがお子ちゃまなんだと思ったが、口には出さなかった。
「さて、本題に戻るとしよう。水で濡らして試してみたが見事失敗。また俺の優秀な遺伝子をクソ無駄にしてくれた話だったか」
「はいはい!全部あってます!もうこの話はいいよ、もう次の奴をくれ」
これ以上話すことは無い。と41が種を催促すれば彼は「そんなに俺の精液が気に入ったか?本当欲しがりさんねぇ」と頬杖をつき、やたら愉しげに笑う。
「まあ、41は話したくないみたいだが、意味もなく経緯も聞こうって訳じゃない。今回の失敗点を洗い出して改善しないと、次もまた失敗するだろ」
「そ、そうだけど!」
ご最もな意見に、41は言葉に詰まりつつ返事をする。kisには今までの実績があるわけで、事情を話して助言を得るべきなのだろう。そう頭では分かっているが、この男の言うことは間違ってはいないが、何せ彼が楽しんでいる感じがして否めないのだ。
「まっ、今回は聞かずとも失敗点は水で濡らしたからで確定だがな」
「なんだよ、水じゃダメってこと、水の何が悪いんだよ。言っとくけど人間は三日間水がないと生きていけないし、人間の60パーセントは水なんだぞ!」
「ああ、でも水じゃだめだな。前回よりましだったかもしれんが、上手く滑らなかったんじゃないか?」
まさにkisの言う通りだった。今回41はkisの助言を経て、否間違った解釈の元、水でカテーテルを濡らして試してみたわけで。前回より少しばかり進んだような気はしたが、やっぱり痛いし何より奥まで入れる恐怖でいっぱいになってしまった。でも後には引けないし、でもこれ以上入れるなんて痛くて無理だし。なんだよ、あいつ濡らせばすんなりなんて嘘じゃん!と涙を端に滲ませながら、とりあえず「えいや!」と押し子を押してみた。しかし、結果としては乾いた膣から大半というかほぼ全ての精液が逆流してきただけだった。
「案外難しいんだよ、なにより痛いし」
異物を入れる痛みを思い出し、41は肩をさする。
「だから初めから言ってるだろ、自慰してから入れろって。水で濡らすんじゃなくて、自慰で体液が分泌されて股も濡れるし、おまけに子宮も降りてくるだろ」
「じぃー?」
「はあ、オナニーのことだ。セックスが経験済みならオナニーぐらいしたことあるよな?」
当然という態度のkisに、処女の41はまさか今までしたことありませんとは言えなかった。何せ一人娘で大切に育てられてきた41はあまりそういった性的なことに触れることはなかったし、知識は著しくないに等しい。恋愛に興味がないまま生きてきた41は、必然的に性的なことにも興味はいくはずもなく、今回の件がなければ膣に異物を入れようだの、股に触れようだの思いもしなかった。しかし、前回同様妙なプライドが働いた41は「し、したことあるし」と反射で嘯いてしまう。
「へ〜」
「なんだよ」
kisが疑念を込めた視線を送ってくるのに対し、41は疑いの目から逃れたいとばかりに、身を捩りつつ視線を横に逸らす。
「本当か?」
「本当だから!なんなら毎日してるもんね!」
あ、言いすぎたと気づいた時には遅かった。変な意地でついて出た更なる嘘に後悔する。
41が顔色を悪くする一方で、目の前の男は一瞬、豆鉄砲をくらった鳩のようになったかと思えば、弾けたように笑い始めた。
「ふっ、はは、はははっ!おま、ふっ、毎日って随分お盛んなのねぇ!41ぃ!」
「〜〜っ!ちが、じゃなくて、…っ〜!」
爆笑するkisと唇を噛み締める41。今更着いた嘘を引っ込める訳にもいかず、かといってこのままじゃ淫乱認定にされてしまうと焦る41の顔は青から一変熟れた林檎のように真っ赤だった。一方でkisは笑い過ぎて出てきた生理的な涙を拭いながら、笑いを落ち着かせるように軽く呼吸を整えている。
「は〜っ、笑わせてくれるな41ぃ。腹が痛いぞ」
「うるさい、勝手に痛くしてんのはそっちだろ」
「ふっ、大見得切りすぎなんだよ。あまりにも嘘が下手くそすぎやしないか?」
「う、嘘じゃない!」
図星をつかれた41は否定をするが、kisは41の嘘等お見通しな訳で。そもそも毎日自慰をするような好き者であれば、シリンジ法をそう何度もビビって失敗などしないだろうし、それだけ淫乱な性であれば、妊娠するのにシリンジ法など選択をせず、快楽も得られかつ可能性の高い性交渉を選ぶだろう。しかしそれでも、下手な嘘を続けようとする41にkisは「くくっ」と喉を鳴らした。
テーブル越しに離れていた距離をぐっと縮める、kisははやや乱暴に41の顎を掴みあげた。
「嘘は良くないなあ、だろ?」
「ぅっ、だから、嘘っていうか…」
「出鱈目ばかり言う悪い口だ、キスでもして塞いでやろうか」
「は、?」
捕食者に追い詰められた小鹿のような心境に陥った41だったが、続けられた言葉に思考が停止する。どんどん縮まる二人の距離。
キスで塞ぐ?なにを?え?てか、近っー…
気づけば、kisのお綺麗な顔がすぐそこまで来ていて、彼の髪がサラリと41の頬を擽る。
顔を背けようにも、角張った手によって顎を捉えられている41には抵抗の術はなくてー…
「お待たせしましたー、こちらブラックコーヒーになります」
「…ふん」
するとまるで天佑神助がごとく、店員が注文したコーヒーを片手にやってきた。店員の登場にkisがパッと縮めていた距離を離す。いかにも不満げな表情をしている彼だが、41はほっと息をついた。
「ほ、ほら!もうこの話はいいじゃん!コーヒーきたし!わー、オイシソウ!」
変な雰囲気を断ち切りたくて、41はやけに明るい声で話を逸らしながら、コーヒーカップを手に取る。視線をそそくさと下に向ければ、手元のコーヒーは小さな黒い波を立てていた。
酸味の香りを纏わせた湯気が鼻を抜ける。一口含めば広がるコーヒーの酸味と苦味に41はぎゅっと眉を八の字にした。
にがい。決して不味くは無い。匂い立つ香りも良い。なのだが、甘党の41にとってその黒い液体はとてつもなく苦く感じてならないのだ。
一口飲んでから固まる41に、不満そうな表情を貼り付けていたkisは目の色を変えた。面白いものを見たとばかりに、嬉々として口を開く。
「どうした41ぃ、苦くて飲めないのかぁ?」
「ちがうし!香りを楽しんでんの!」
「ふーん、ならちゃんと飲みきれよ。お子ちゃま41ちゃんが大人になるとこを見といてやる」
余裕磔磔と言った様子でkisは、コーヒーカップを手に持つと優雅に飲み始める。コーヒーひとつ飲むにしても、様になる姿に若干ムカつきながらも41も残りの並々注がれたコーヒーに意をけして口をつけた。
「……」
「……」
顔を顰めながら必死にコーヒーを飲み続ける。即に飲み終わったkisは、空になったカップを持て余しながら41をじっと見つめていた。kisは余りの遅さと、ちみちみと一生懸命飲むその姿にどこの子猫だよと口を出したくなるが、やっとこそ半分まで減ったコーヒーを見て頑張った方かと考えを改める。
冷め始めたコーヒーは香りが飛び、酸味も強くなる一方で甘党の41にとってキツいのは一目瞭然だ。実際に41は先程より表情が歪んで、丸い瞳も涙を滲ませている。飲むスピードも落ちている彼女にkisはしょうがないなと息をついた。
「ほら、寄越せ」
「なに」
「苦いんだろ、無理をするな。俺が飲んでやる」
「なっ、無理してなんかない!」
寄越せと手を出すkisに41はカップを守るように遠ざける。意固地になっている姿に、kisが「このままじゃ日が暮れるぞ」と諭すように言えば、ぷいっとそれこそ拗ねた子供のようにそっぽ向いてしまう。
「じゃあ、先に帰れば。見張ってなくてもちゃんと飲むし」
「あーはいはい、そうですか。じゃあ種はここに置いておくぞ」
kisは椅子から立ち上がりがてら、鞄から取り出した袋を置く。それを見た41は「あ、まって」とあっさりコーヒーカップをソーサーに手放すと、今回の提供分のお金を渡そうと財布を取り出した。
「クソちょろかよ」と思いつつ、隙を逃さずkisはさっとコーヒーカップを奪うと、残りを喉に流し込む。喉を通るそれはやはり時間がたったことで酸味が増していた。
「っ!」
「ん、クソお粗末さま」
空になったそれをプラプラと見せつけた後、ソーサーに戻し、大声をあげた41から種代の札を抜き取る。
「勝手に飲むなよ!」
「そこは飲んでくれてありがとうございましただろ?」
「別に飲めたし!」
「素直に飲めなくて困ってたと言えよ、可愛げのない女」
んべと馬鹿にしたように舌を出してやれば、41は顔を真っ赤に染め上げた。憤慨する41から退散しようと背を背けたkisだが、ふと要件を思い出したと軽く後ろを振り返る。
「あと、アドバイスだが、自慰が無理ならローションを使えよ。いいか、ローションだぞ、ローション」
じゃあな、精々頑張れと最後に言い残し、kisは今度こそ41の元から去っていった。
その場には耳の端から首元まで見事赤に染め上げた41と空になったコーヒーカップが二つ、無機質な袋のみが残される。
「…ていうか今の間接キスじゃん」
処女で初な41は無意識に唇へと触れる。
『キスでもして塞いでやろうか?』
ふと間近で見たkisの青と唇を思い出した。あの時、もし店員が来なかったら、どうなっていたんだろうかー…過ぎる可能性にとたん恥ずかしくなった。首をブンブンと左右に振り払い、思考を切り替える。
とりあえず、今日はkisが口にしていたローションとやらを探さなければ!
でも、その前に。
「うう、まだ舌が苦い…」
未だに残る苦味に、口直しするべく41は店員を再び呼んだのだった。
「すみませーん!このプリンアラモードください!」
kisはカフェから出る手前、さり気なく41の方を盗み見る。視線の先に映るのは、顔を茹で蛸の様に染め上げた41が唇へと手を持っていく姿、「間接キス」と微かに聞こえた声に、kisはまるで処女みたいな反応をすると意図せず口角が上がった。
「ほーんと可愛くない女」
そう心とは正反対の言葉をポツリと男は零したが、誰の耳にも届くことは無い。低く呟かれ音は空気に溶けたのだった。
★
「うわ、トロトロだ」
薬局で始めて購入したローションを手に41は思わず声をあげる。ヌルりと手に纏わりつく液体に「これがローション……なんかすごい」
まるで新しい玩具を手に入れた子供のような反応で、41は片方の手の中でローションを弄んだ。
てらてらと光に反射するそれは、妙にいやらしいものに見えて、自分一人しかいない空間にも関わらず態とらしく咳払いをする。
「よし、やるぞ!!」
と41は気合いを入れ、例の作業に取り掛かった。
「それで?また失敗したか?」
「ふん!馬鹿にすんなよ、成功したに決まってんだろ!」
ふふんと声高に自慢するかの如く話す41に、kisはアイスコーヒーをストローで雑にかき混ぜながら「へー」と頬杖をつく。
「つまらんな」
「つまらなくて結構ですー、てか、これで上手く受精すれば赤ちゃんができるんだよな」
まだ新しい命が宿っているかさえ分からない薄い腹をそっと撫でる。やっとのことで、シリンジ法を成功させた41は既に母親の様な気持ちが芽生えかけていた。しかし、そこに水を差すようにkisが口を開く。
「まあな。だが、この一回コッキリで妊娠する確率は低いと思うぞ。そもそもお子ちゃまの41ちゃんは既に三回失敗してるしな、今回だって本当に成功したかも怪しいもんだ」
疑いの目と若干揶揄うような口調のkisに、41は手にしているフォークをグッと握り直す。
「煩いな。てか、なんでここにいんの」
「なに、たまたま通りがかったら、阿呆みたいにデカい口を開けてケーキを貪る見知った女がいたもんでな」
「だからって急に同席してくるなよ、ビックリしたわ」
そう言いつつ41は手元のモンブランケーキをフォークですくいあげる。
そう今回41はkisと約束して、いつも落ち合うこのカフェに来たわけではなかった。前回の取り引きの後、41は舌に残るコーヒーの苦さを打ち消すため、プリンアラモードを頼んだのだが、まあそのアラモードが思いの外美味しかったのだ。何故このカフェの甘味のクオリティの高さにもっと早く気がつけなかったのかと悔しくて舌を噛んだほどに。これは提供されている甘味全てを制覇しなげれば気が済まない!そう思った41は一週間と経たないうちに、カフェに訪れた訳だ。そして頼んだのが、今口にしているモンブランケーキなのである。栗の自然な甘みサクサクとした香ばしいタルト生地が堪らずに「ん〜!美味しい〜!最高〜!」と声に出し、一人感動していたところに、今目の前でつまらなそうにカラカラとコーヒーを掻き回す男が「アイスコーヒー一つ追加で」と店員に声をかけながら、ドサリとやや乱暴に同席をしてきたのだ。余りにも自然に座ってきたものだから、あれ?今日約束してたっけ?と勘違いしかけたが、41は前回の取り引きで連絡を入れて以来、まだkisに何もメッセージは送っていなかったので、いや違うよなと思い直す。
41がうんうん唸る一方で、kisは何事もないように四回目の進捗を聞いてきたわけだが。41の成功したという言葉に、普通は喜ばしい事のはずだが、男は何処か気に入らないと言わんばかりの表情をしていた。
「なにその顔。これ以上金を巻き上げられないかもしれないのが嫌なわけ?」
精○提供は決して安い値段ではない、ましてやハイスペックな遺伝子をもつkisの種は結構お高くつくのだ。kisからしたら、三度も失敗を繰り返し短いスパンで種を要求してきた41は何だかんだ言って良いカモだったのかもしれない。だから、自分の失敗エピソードを愉しそうに聞いてたのかも?でもその割には助言もしてくれるし…。と様々の考えを巡らせていると、kisがボソボソと小さく口を開いた。
「…ただろ」
「へ、なに」
「お前、俺からのメッセージ既読無視しただろ」
「…はあ?」
半目でこちらを睨みつけるkisは、まるで41を責めるような口調で話す。意味が分からず、何言ってんの?と言い返そうとした時、既読無視という言葉が頭に引っかかった。
既読無視、メッセージ…kisから。
「…あ」
そうだ、確かに41から連絡はここ一週間に至るまで取っていなかった。だって、四回目は失敗をしなかったわけで、kisに泣きつく必要はなかったし、成果が分かるのだって、三週間程しないと妊娠検査薬は使えないから。
しかし、取り引きから三日程して早々にkisの方から連絡がきていたのを思い出す。
『お子ちゃま41、また水で入れるような馬鹿な真似はしてないだろうな。難しいなら、今度は俺が直々教えてやっても良いぞ』という何とも腹が立つ様な文章が送られてきたのだ。それに対し41は苛立ちを覚えつつ、後で返そうと思いそのまま忘れてしまった。
「ごめんバタバタしててさ、返そうと思って忘れてた」
「ふぅん、ケーキを食う余裕はあるのにか」
「で、でもさ、成功してた訳だし。検査薬で結果が出るまで期間もあったし、またわざわざ連絡しなくて良いかなーって」
「は、だからって返事をしないのは常識としてどうなんだ」
「う、そうだけど…ごめんって…」
kisにチクチクと言われるがまま、謝罪を口にする。しかし、内心は不満だらけで
何故こんなに責められなければならないのか、これって俺が悪いの?てか一番初めのの契約の時には連絡は最低限にしろって言ってなかったっけ!?と口には出さず反論する。
なんとも微妙な心境で、口の中に残るタルト生地を咀嚼していれば、kisが大きく溜息をついた。
「まあいい、次からは無視するなよ」
「…はい」
渋々頷けば、彼はやっと腹の虫がおさまったようだ。不満げな表情が消えたのを見て、これ以上小言が続かないことにホッと息を着く。案外、こいつも根に持つ面倒臭いタイプかもと思ったのは41だけの秘密である。
kisがアイスコーヒーに口を付け始めたのを横目に、41も気を取り直してモンブランケーキに手をつける。中に隠されるように盛り付けられていたメレンゲを食べればサクサクと子気味良い音をたてた。
美味しい、百点満点だ。41の頭の中では十人の審査員が満面の笑みで十点の札を掲げている。
「んふふ」
自然と口の端からは笑みが零れ、喜びが瞼にも現れる41を、kisはストローを口に含みながらじっと見つめていた。
それはそれは穴が空くくらいに。強い視線に、むず痒さを感じた41が、何となくモンブランから視線をあげれば、青の瞳とバチりと交差する。
「…?」
「…」
余りにも無言でこちらを見てくるkisに、食べ辛さを感じ「今度はなに」と堪らず声をあげれば、彼はコテンと首をかしげて笑う。
「なあに、ただ美味そうに食うなぁと思っただけだ」
「…もしかして食いたいの?」
「いや、甘いものは好かない」
慈悲をやろうではないかとモンブランを一口寄越そうとしたが、その前にkisはあっけらかんと否定する。
「なんだよ、美味しいのに」
人の厚意を無碍にして!と差し出しかけたフォークを自分の口元へと方向を変える。やや掬いすぎたそれを口いっぱいに頬張っていれば、kisが「ふ、」と小さく息を漏らす。
「じゃあ少し貰うか」
「え?」
そうしていつの間にかグッと縮まった距離に、41は無意識に背筋が伸びた。
「クリーム。ついてるぞ、子リスちゃん」
止める間もなく、kisの手がこちらへと伸びて口元を拭われる。
「あ、ありがとう……」
「ん、甘いな」
kisはペロッと口元に付着していたクリームを舐めとると、何事も無かったかのように元の位置に戻り、またコーヒーを飲み始める。舐めとった赤い舌が変に官能的に見えた気がして、41が縫いつけられてしまったかのようにkisの唇から目を離せずにいれば、彼は視線だけをこちらに寄越し、またニヤリと笑った。
「どうした?そんなに見つめて」
kisの指摘に慌てて視線を逸らす。
「べ、別に!なんでも!」
何故だか自分だけが特別意識してるみたいだ。胸の内から溢れる羞恥心を誤魔化すように、一緒に頼んであったアイスティーに口をつける。しかし41が冷静を保とうとする一方で、kisがその努力を裏切る様に「…間接キスだったなあ?」と笑いを滲ませながら言葉を紡いだ。
「んぅっ!?」
噴き出しそうになるのをギリギリのところで耐える。反動で机に足が当たり、ガタリと揺れ、それと共に何かが床に落ちる音がした。じわっと耳の先から熱くなるような感覚。必死に液体を喉元へと押し込み、逸らした視線を再びkisへと戻せば、彼の視線は意外にも41ではなく床下へと向けられている。釣られるように視線の先を見れば、そこには一冊の雑誌が袋から半分飛び出した状態で落ちてしまっていた。
それを見て41は「ああ!」と悲痛な声を上げる。
「の、na様が地面にー!」
慌てて地面に落ちた憧れの人を否白髪短髪の男が表紙を飾る雑誌を拾い上げ、傷がないか確認する。幸いにもビニールで保護されてるそれには傷一つなく、ほっと安堵の息をつく。41はこの雑誌の発売を楽しみにしていたのだ。今日の朝一番に、本屋に駆け込んで購入した宝物が読む前に汚れてはたまったものじゃない。
「良かった〜!na様〜!」
落としてごめんなさいー!と雑誌を抱きしめていると、雑誌を目にして何故か黙りこくっていたkisが「のあ…」と小さく呟くのが聞こえた。
「…お前のえるnaが好きなのか?」
「え!もしかしてnaを知ってる!?」
「知ってるも何も、俺はそいつが今所属するBMの国出身だ。ましてやサッカー大国に生まれながら知らない筈がないだろ」
「へ〜、お前🇩🇪人だったんだ」
彫りが高く、髪と瞳の色合いから外国籍なのは一目瞭然であったが、生まれの国まで知らなかった41は、改めてkisの全身をジロジロと観察する。よくよく見れば、服の上からでも太腿の筋肉が発達している様に見える。態々、机の下から覗いてまで脚を観察する41に、kisは「なんだ」と訝しげな表情を浮かべた。
「ね、ね!もしかしてさ!kisもサッカーしてたりするの!?」
「はあ、若い頃はチームに所属していたが、今はやめた。たまに趣味程度に球を蹴るくらいだ」
「そうなんだ、凄い偶然!俺も中学まではサッカーチームに入ってたんだ!」
まさかのkisもフットボール経験者だと知り、テンションが上がった41はついついサッカー熱を爆発させてしまう。na語りから始まり、最近出てきたルーキーについて、先日開催された試合に対しての感想や分析等を話すと、kisも同じ試合を視聴していたらしく、意外にも41の分析について意見を出してきた。その意見が41には考えつかなかった新たな視点の分析だったものだから「凄いな〜!」と41は素直に感心してしまった。
「あ〜、こんなサッカーについて話せたの久しぶりかも!友達はサッカー興味ある子が少なくてさあー」
「そうか、それは何よりだ」
いつの間にか空になったグラスの中で溶けた氷がカランと音をたてる。
気付けば思ったより長い時間を、このカフェで過していたようだ。お互いのグラスは空になっており、ケーキも綺麗に食べきって皿の上には何も無い。
「あ…ごめん。夢中になり過ぎた。そろそろ帰ろっか」
我に返った41がもじもじと謝れば、kisはキョトンとした顔をする。
「何故謝る?俺も有意義な時間を過ごせた」
そう言ってkisは伝票を持ち立ち上がると、颯爽とレジへと足を運ばせてしまう。慌てて41が荷物を纏めて追いついた時に既にお会計は済まされてしまっていた。
「ま、待ってお金!俺の分返すから!」
店外へ出るkisの高そうなコートの袖を引っ張れば、彼はやっと足を止めた。
「いらない、今日は俺が勝手に同席しただけだしな」
「でも!」
彼はやや面倒臭そうに手を振り、41の申し出を拒否するが、尚も食い下がらない様子に「じゃあ、そうだな」と何か考え込むような動作をする。
「金はいい、だが代わりに今度こそ俺から連絡があれば直ぐに返事をしろ、いいな?」
子供に言い聞かせるように、41の目を真っ直ぐ見つめてくるkisに、やっぱり返事しなかったの根に持つタイプじゃん!と思ったが、奢ってもらった手前そんな事は言えない。
「ん、分かった。その、じゃあ、ご馳走様です。ありがとう」
素直に頷き礼を述べれば、kisは満足そうに笑い、あやす様な仕草で41の頭を軽く撫でた。
「良い子だ41ぃ、少しは可愛げが出てきたな」
「煩い、馬鹿にしてるだろ」
「してないさ、本心だ」
嘘だ、絶対してる!という41の叫びをkisは軽やかに笑っていとも簡単に流す。じゃあな、また今度。そう最後に言い残してkisは青と金の髪をたなびかせ去っていた。
店の前には顔を微かに赤くした41だけが残される。頭には彼の厚い掌の感触と熱が残っている。旋毛からじわじわと残熱が広がっていくような感覚に、咄嗟に頭を抱えた。異性からの密な接触はあまり得意じゃない。でもー…
「…嫌じゃなかったな」
無意識に零れた感情に、41は戸惑ったのだった。