狼獣人kis×飼い主41♀kiis♀狼獣人kis×飼い主41♀kiis♀で41に拾われたkisが成長していくうちに、41に対して番になって欲しいと求愛行動をするようになる話。法律で獣人と人間が番になることは禁止とされてるのもあり、41はkiからの求愛を受け入れない。雌が近くにいないから、対象が41に向かっているのではないかと思った41が獣人の番を探しにkisを連れていくが「くさい、くさい。」とkisに熱視線を送る雌には目もくれず、41の身体に引っ付いて離れないものだから困ってしまう。それに雌の方から近づいてきてもkisが唸り威嚇し追い払ってしまい結局何の収穫も得られなかった。そうこうしてるうちに、kisからの求愛行動は止むことはなく、kisは甘えるようにして41に擦り寄っては「番になって。」と訴える。
「だめ。」
「どうしてだ。」
「だっと種族が違うから、俺たちは一緒になれないんだよ。」
種族が、法律が。と口にし求愛行動を拒否する41だったが、とうとうkiに押し倒されてしまう。いつもはピンと張って凛々しい獣耳はペタンと元気がなく、41がお気に入りのもふもふとした艶の良い毛並みのしっぽも垂れている。息が荒く顔を紅潮させたkiが目の前にいた。
「41…つらい。お願いだ、番になって。俺と一緒になってくれ。」
すりすりと頭を41の胸に押し付けるようにして迫るkisに、41は発情しているのだと気づく。「助けて。」というkiの切なげな声色と表情に41は嫌だと口に出来なかった。だって41がもっと良い飼い主であれば、直ぐに相手を見つけてkiがこんな辛い思いをしなくてすんだのだから。秘部に押し当てられた硬い感触と迫る犬歯に41は身を任せた。気づけば41は裸でkiに後ろから抱き込まれていた。噛まれた項が痛い。秘部から甘い鈍痛と身動ぐ度にコプコプと白濁が漏れ、太ももがぬるりと滑る感覚が気持ち悪かった。そんな41を他所にkiはご機嫌な様子で噛み跡をザリザリと舐める。
「41、俺の雌だ。」
「嬉しい、41と番になれて!いっぱい子作りしよう。」
心底嬉しいとばかりに微笑むkiに41は何も言えなかった。「番になったつもりはない」なんて。流されて自分を悔やんでも遅かった。それからkiは何度も41を抱いた。
「41すき、すき。愛してる。俺の番。」
愛を囁くkiに対して曖昧に微笑む。kiは完全に41を番認定にしてしまったのだろうか。kiは大きな身体を41に擦り付けてはマーキングだと言う。男の人にたまたま近づき匂いが移った日には、鋭い牙をむき出して唸るようにまでなってしまった。
何よりいちばん困るのは、kiが41を抱く度に子宮がお腹いっぱいになるまで精液を注ぎ込もうとすることだった。kiは41の腹を愛おしそうに撫でながら「早く孕むと良いな、俺たちの子。」と笑う。肌に触れる獣耳はふわふわで擽ったい。しかし、そのこそばゆさとは別に41の身体は冷えきっていく。ぽっこりと精液で膨らんだ腹はまるで本当にkiの子を孕んだかのようだったから。人間と獣人との間に赤子なんて作れないのに。その事実を知らないのか、それとも目を逸らしているのか子作りに励もうとkiは41を抱き続ける。このままじゃいけないと41は思っていたが、現状を打破出来ずにいた。
そんなある日41の元に獣人管理局から書類が届く。「希少種の保護…」そこには、kiを政府に引き渡して保護させてほしいと書かれていた。何でもkiは絶滅危惧種に指定される希少種の狼だったらしい。通りでどの獣人より凛々しく美しい訳だ。41はkiの受け渡しに同意した。本当は離れることは寂しかったけど、あるべき場所に保護されれば希少なkiに相応しい生活を送れることができること、何より偽りの番ではなく、彼にとって最良の本物の番を与えることができると思ったから。
本物の番ならkiが欲しがる子供もできる。受け渡しの日。kiにはこの事は伝えないように言われた41はそれに従い、kiには買い物に出かけようと言って連れ出した。kiは最近41が外に出ることを渋り休日は家に引きこもることが多かったのだが、「赤ちゃんのグッズ見に行こう?」と言えば飛び上がって付いてきた。耳と尻尾をぶんぶんと振って喜ぶ姿に胸が少し痛む。
「41も子供が欲しくなったか!」
「…そうだね。」
kiの一言で彼は41が子作りに積極的でないことに分かっていたのだと気づく。なんだか彼をぬか喜びさせてしまっている気がした。
約束の場所に行けば、そこには何人かの職員が待っていた。部屋に入った途端、kiは訝しげに周囲を見渡す。「なんだ、お前たちは。」
kiの喉が低く唸る。剥き出しになる鋭い牙と威嚇に、職員は一瞬怯んだようだが、淡々と41にしたような説明をした。それを静かに聞いた後、kiは一言「いらん。」と口にする。
「俺には既に番がいる。今の生活にも満足している。」
「…もしかして隣の彼女のことですか?」
「獣人の貴方と人間の彼女とじゃ番契約は成り立ちませんよ。種族が違うので、番はおろか子もできません。」
そう種族が違う、それはよく41が拒否をする時に使っていた言葉だ。
「クソ黙れ、41と俺は番だ。子もそのうち孕む。余計なことはするな。」
kiは毛並みをぶわりと逆立てる。瞳孔は縦に伸びきっていた。とてもなく怒っている。その事に気づいた41がkiを宥めようとした時、職員がため息をついた。
「仕方ない。手荒な真似はしたくなかったんですが、希少種をみすみす絶やすわけにいかないんです。」
合図をすれば、重装備をした男達が部屋へと押し入りあっという間にkiと41は引き離されてしまう。いつの間にか用意されていた檻に押し込まれるkiと部屋から出るよう促される41。だが狼の獣人であるkiは力が強く、番から離されると気づいた彼は興奮し必死に抵抗するものだから、男達は彼の収容に苦戦しているようだった。
「酷い興奮状態だ、危ないので41さんはここから出てください。」
「でも…」
威嚇する獣の唸り声と途切れない抵抗の音、ガチャンガチャンと大きく震える檻に不安が押し寄せる。本当にこれで良かったのだろうかと。
男達の隙間から、ふと紺碧の瞳と目が合う。
「41…どこいくんだ?俺を置いてくつもりか?」
一瞬抵抗がやむ。キューンと彼の喉から甘えるような音がした。「ごめんね、俺とはもうお別れだよ。今までありがとう。」
「…なんでそんなこと言うんだ?俺とお前は番だろう?別れるなんてできない。」
「ねえ、でも俺たちは種族が違うんだ。違うからkiの欲しがる子供もできないんだよ。だけど、本物の番に合えば子供作れるんだって、だから…」
バイバイ。
そう言って無慈悲に扉は閉じられた。暴れる音と物が壊れるような音、男達の怒声と獣の遠吠えが聞こえる。
「これで良いんでしょうか…ミヒャはあのまま大丈夫ですか?」
「ええ、今は貴女と離れて興奮しているようですが、直に落ち着くでしょう。そしたら他の雌とも引き合わせます。」
「そ、うですか…ミヒャをよろしくお願いします。」
暴れる物音は尚も続いている。それと共にクゥンという親を探す子犬のような鳴き声も微かに聞こえた気がしたが41は気付かないふりをする。大丈夫、これが彼にとって最前の選択のはずだからと自分に言い聞かせたのだった。
それから、41は前にいたアパートから別のアパートへと引っ越した。kiと過ごした部屋にいるのは、何だか酷く寂しかったから。やっぱり引き渡すなんてしなければ良かった、そんな身勝手な思いが芽生え始めていた頃、あるニュースが飛び込む。希少種である狼獣人の繁殖に成功したというニュースだった。それを見た時kiのことだと気づく。順調に腹の子が育っているという知らせに41は安心する。良かった、これで良かったのだ。kiは本物の番と出会えて、念願の子供を携えることができたのだから。
「おめでとう、ミヒャ」
小さな祝福を口にした。ああ、本当に、あの時の選択は間違えていなかった。安心と穏やかで淋しさを感じる日々を過ごして暫く、あの電話を貰うまでは。見知らぬ番号に初めは詐欺かと思い無視していたのだが、何度も何度も鳴る同じ番号に41は渋々電話を取った瞬間「41さんでしょうか!?」と焦る男の声がした。それはあの職員の声で、困惑しながらもそうだと答えれば、電話の相手は嗚呼!良かった繋がって!と話す。どうしたのかと聞けば、職員の深刻そうな声音がある事実を伝えた。
「それが…彼が逃げてしまったんです。宛がった雌を噛み殺して、せっかく孕んだ子も食い殺してしまって…それから行方が知れません。もしかしたら、貴女の所に行ったのではないかと思ったんです」
「ぇ?なんですか、くいころしたって…?」
職員は話す。41と離れたkiの事を。番と離されたkiはその後も酷く興奮し暴れ、檻に体当たりするなどして止まなかったのだと言う。
「41に会わせろ!」「番の元に返せ!!」
暫く置いとけば止むと思った興奮はおさまる様子は見せず、鎮静剤を使ってようやく落ち着いたのだ。それから過度な興奮を抑えるべく鎮静剤を投与しつつ、繁殖のため雌を宛てがうようになったのが、なかなか上手くいかなかった。雌が近寄る気配にkiは「寄るな!」と牙をむき出しにして唸り、酷い時には雌を噛み殺そうとしたからだ。どんなに優秀な雌を用意してもkiは威嚇をやめない。低く唸り続けるkiは獰猛な獣そのもので、長い間獣人を育ててきた職員でも、kiの警戒は強くお手上げ状態だった。よく逆に41がこの獣に近い獣人を手懐けられてきたものだと。繁殖への拒否が強く、またkiは夜鳴きが酷かった。昼間とは打って変わってキュウキュウと切なげに鼻を鳴らしては41の名前を呼ぶ。
「41、俺の番はどこにいったんだ。」
「41どこ。」
「会いたい、寂しい。」
子犬が母親を探すような、迷い子の叫びに、職員の幾人かは心を揺さぶられたのだ。食事も何も拒否に日に日に弱っていくようなそぶりを見せるkiに、このままでは彼は死んでしまうと。それなら彼が番だと信じる41の元に返すべきではないかと。kiは虚ろな目をしていた。しかしそれらの職員の声は獣人を管理する上層部には伝わらず、ある雌が性懲りも無くkiへと送り込まれたのだ。黒い毛並みと青い目が美しい黒狼の獣人だった。雌を見た瞬間、kiは伏せていた耳をピンと張る。一瞬の緊張の後「41…?」と小さく呟いたのを耳にした上層部はニヤリと笑った。思惑通りに物事が進みそうだと。その通りだった。kiは短いようで長い期間に番と離されたストレスなどにより自慢の嗅覚も何もが機能しなくなっていたのだ。分からなくなってしまったkiは目の前に現れた偽物を、自分が求めた番であると、41が戻ってきてくれたのだと無邪気に信じたのだ。「俺の番!戻ってきた!」「41、良かった。やっぱり番はお前だけだ。」「41、なあ。はやく、俺と子作りの続きをしよう!」
嬉しさと興奮でkisは目の前の雌を抱いた。もう二度と手離したくないと、これは自分の番なのだと、沢山の愛と子種を41へと注いだのだ。そのつもりだった。そうして暫くkisは今までが何だったかの様に穏やかになり、雌を常に傍に置いてはグルーミングを行ったり子作りに励んだりした。その努力の結果雌が孕んだ。それは本物の41もニュースを通して知っている。雌が孕んだと知ったkiはそれはもう飛び上がっては、雌を大切に扱い寄り添った。グルグルと喉を鳴らして雌を労わるように舐めては「俺たちの子。」「41と俺の子だ。」と幸せそうに笑っていたと
「41は種族が違うと言っていたが、やっぱり種族が違っても子はできたぞ!」
「何言ってるの、私と貴方は同じ狼の獣人じゃないの。」
「は?」
雌が余計な事を言うまで、順調な幸せがあった。
「お前誰だ。」
迂闊な雌の一言によって、kiの洗脳はパチンと弾けてしまったのだ。それが良いことなのか悪いことたのか本調子を取り戻しつつあった彼は目の前の雌が41ではないことに気がついてしまった。
だが、上層部はそれでもよかった。例え気がついても平凡な人間と優秀で己の子を孕んだ雌どっちを選ぶかなんて明白だったから。しかし余裕磔磔とした笑みは次の瞬間には焦りに変わる。kiが迷いなく目の前の雌の首を噛みちぎったためである。
「ああ!41!どこだ!!」
「違う違う違う!!これは俺の番じゃない!!」
既に瀕死の雌に容赦なく振り下ろされる爪と牙に、職員は慌てて制止の声掛けをする。
「や、やめなさい!その子はお前の子を孕んで居るんだぞ!」
「俺の…子。」
攻撃が止む。kiは雌の緩やかに膨らんだ腹をじっと見つめた。新しい生命が宿る雌の腹にkiがそっと撫でるように手をのせる。慈しむように見えたkiの行動に職員はほっと息をついた。
「よかっー…」
「でも41との子じゃない。」
ギャッ
雌が悲鳴をあげるのと同時に鋭い爪で止める間もなく腹がきりさかれる。kiは血で濡れるのを厭わず、雌の腹の中をぐちゃぐちゃと掻き回し、捜し物をしているようだった。そうして取り出された未熟な赤子はうごうごと母の暖かな胎に戻りたいともがいていたが、放り込まれたのは父の口の中でぶちぶちと残酷な音をたてて、赤子の柔らかな肉が食いちぎられていく。望まれた筈の新しい生命は父親の手によって呆気なく潰されてしまった。ゴクリっと嚥下された赤子だったものは、kiの腹の中に収められ、そのまま消化され消えていくのだろう。
「な、なんてことを!」
悲惨な現場を目の当たりにした職員は悲鳴をあげた。数分前までは穏やかであったその場所は真っ赤に染め上げられ、鉄臭い嫌な匂いが充満している。喉元と腹を裂かれ横たわる雌と口元を己の子の血で汚した獣の姿に上層部は湧き上がる恐怖を感じただ震えることしかできなかった。呆然のその場を見つめていれば、手負いの獣と目があう。ガチャん
檻が開く音がした。
「ぁ…?」
上層部は忘れていた、貴重な孕んだ雌を死なせるわけに行かないと慌てて檻を開くボタンを押してしまったことを。
血に濡れた獣が放たれる。気づいた時には鋭い爪が目の前に迫っていた。
「他職員何名かを襲い施設を飛び出してしまったことは分かるんですが、それから彼の行方が分からなくなってしまいまして。恐らく酷く興奮していて大変危険なのです。今我々が総出で彼を探しているのですが、飼い主である貴女の所に行く可能性が高いと思われます。
なので、早急に避難をー…」
職員は口早に話すが、41は思考が上手く纏まらなかった。だってkiがそんな事をするなんて思えなかった否思いたくなかった。
やっぱり俺が間違ってたのだろうか。
「41さんー…?聞こえてますか?今因みに家にいらっしゃいますか?」
「え…ああ、はい。あ、でも俺引っ越したから前の家はもう引き払ってて…」
「じゃあ直ぐに接触することはなさそうか…ですが念のため41さんを保護させて欲しいんです。職員が迎えに行きますから絶対に外に出ないでください。いいですね。」
強い口調に41は戸惑いながらも頷いた。
「前の知ってる彼と今の彼は違います。何を仕出かすか…飼い主であった貴女にも危害を加える可能性があることを念頭に置いて下さい。」そう言って電話は最後切られた。
通話の後、41はそわそわと部屋の中を往復する。職員は41の身の安全を心配していたが、41はkiの行方と今後の心配をしたのだ。雌と子を無惨に殺し、職員の幾人かに危害を加えた彼が捕まったその後どんな扱いを受けるのだろうかと。
「まさか殺処分なんてことにならないよね…」
彼は希少種だ。そう簡単に処罰が下されるとは思えないが、どうしても不安は拭えなかった。41はこの国の法律で獣人が人間に危害を加えた場合、最悪殺処分にされることを知っていたから。
「どうしよう、俺のせいだ。」
kiが望んでいるとそう決めつけて、彼の意志をろくに確認せずに物事を進めたせいだ。だって見るからに彼は嫌がってたのに、これが貴方の幸せなんだと言って勘違いをしていた。今更後悔しても遅い、もう事故は起こってしまった後だ。せめて彼が殺処分にならない事を祈り、上に掛け会おう。それで41に監督不行きとどきと刑を科されても構わない。これは飼い主である自分の責任でもあるのだから。
「大丈夫大丈夫、俺があの子を守るんだ。」
小さな決心を口にした時、
ピンポーンと玄関のチャイムが鳴った。
「もう来たのかな。」
予想以上に早い迎えに驚きつつ、玄関へと向かう。しかし、ドアノブへと手をかける手前41はピタリと動きを止めた。妙な音を耳にした。
カリカリカリと長い爪で物を引っ掻くような嫌な音。
まさかと息を飲む。
『もしかしたら貴女の所に』『酷く興奮して』『あなたにも危害を…』
蘇る数々の忠告。カリカリカリカリと音は響いている。それはまるで部屋に入れてくれと催促する猫の行為と似ていた。カリカリカリカリカリー…ガリッ
「41ぃ。」
獣が唸る声がした。
「ひっ…」
思わず悲鳴をあげて後ずされば、引っ掻く音は激しさを増す。
ガリガリガリッガッガッ
「41、いるんだろ。開けてくれ、なあ、俺だ。中に入れてくれ、顔を見せてくれ」
「ぁ…ミiヒャ…」
「お願いだ41…頼む…41、41っ!」
クゥンと子犬が鳴く。いつか耳にした迷い子のような悲愴な声音だった。41があの時聞こえないふりをした弱々しい鳴き声に、はっと我にかえる。そうだ、この声を振り切って自分は後悔したのでは無かったのか。
ガリガリガリッー…ガリリッ
今度こそ彼の求めに応えるべきだ。例え扉をあてて鋭い爪の餌食にかかろうとも、どんな目にあろうとも。これが彼への贖罪なのだ。
震える手で鍵へと手を伸ばした。
カチャン
軽い音をたてて施錠は解かれる。それと同時に扉はゆっくりと開かれた。
「41…」
「ミ…ヒャ…?」
そこに立っていたのは頭のてっぺんからつま先まで血で濡れた彼の姿。鉄の嫌な匂いが鼻を突く。縦に伸びきった鋭い瞳孔を宿した瞳が41を映した。
グルル
唸り声が聞こえて、41はビクリと身を震わせて目を瞑った。次の瞬間、フワリと身体が包まれる。そっと目蓋を開ければ、kiが甘えるようにして41に抱きついていた。
「41…41だ。俺の番だ…やっと逢えた、ずっと寂しかった。」
もう俺から離れないで、置いてかないで。キュンキュンと庇護欲を誘うように鳴いて縋るkiをそっと抱き返した。kiは今にも泣き出しそうな表情をする。
「41、おれ。他の雌と41を間違えたんだ。それで、41に逢えたと思って嬉しくて、でも違った…41、お前は本物だよな、俺の41だよな。」
「うん、うん。大丈夫、俺は俺だよ。ミiヒャの41だ。」
血で汚れた頬を撫でながら、鼻先をツンと触れ合う。kiはスンスンと鼻を鳴らして「ああ、良かった本当だ。本物の41の匂い」と泣き笑いをした。ボタボタと大粒の雨が41の頬に降る。
慰めるようにすっかり艶の失った髪に手を伸ばす。優しく頭を撫でてやれば、kiはグルグルと気持ちよさそうに喉を鳴らした。よくkiは昔から41に撫でられることが好きだった。特に立派な獣耳の生え際を撫でられるのを強請られてー…
あれ…。
ぬるりとした血の感覚、あのふわふわと撫で心地の良い獣耳を探すが、いつまでたっても見つけられない。あれ、あれ…あれ。kiの顔を見る。どこか違和感を感じていた。何故、kiが頭の先から血を被ったようになっているのか。ki自慢の毛並みを誇る獣耳と感情が目に見えて分かって可愛かった尻尾。
「ね、ねえ。お前、耳は…?尻尾はどうしたの?」
「ああ、そのことか?」
kiは今気づいたとばかりに、頭上に手を持っていく。そこはかつて彼の立派な耳があった場所。
「要らないから切り落とした。」
「切りっ…?は…な、なんてことを!なんで、なんでそんなこと!!自分を傷付けるなんて!」
なんと事ないように語るkiに41は叱るように声をあげれば、kiはキョトンとしたような顔をして、なんで怒られているのか分からない様で。
「なんで??だって、41が言ったんだろ。俺たちは種族が違うって。だったら邪魔な耳と尻尾を切ってしまえば俺たちはそう変わらないだろ??」
種族が一緒なら、俺たちは番として認められる。kiは嬉々として41の疑問に答えた。
「ちがう…そうじゃ、そうじゃなくて。」
どんなに姿を似せても、意味が無いのに。41とkiは根本的に違う。その事を伝えたくても、目の前の彼は恍惚とした瞳をしていて、もう何もかもが手遅れなのだと悟った。
ああもう彼は壊れてしまったのだ。それと同時に身を削ってでも、己の象徴を切捨ててでも、41と一緒になりたいのだと証明してみせた彼に胸が打たれた。ああ、ミiヒャがそこまで覚悟をして来たのなら、自分も腹を括るしかない。一緒に何処までも堕ちよう。
「…っ」
「…41?」
不安げに揺れるラピスラズリに微笑む。
「ごめんね、ごめんね。俺のためにありがとう。そうだね、これで俺たちは一緒だね。」
41はkiを抱き寄せる。かつて耳が生えていた場所にそっとキスを落とした。よく見ればそこには痛々しい傷跡が残っていて、未だに血が滲んでいる。ああ、彼はどんな思いで、痛かっただろう、苦しかっただろうに。
悲痛な面持ちの41に対して、ついに41に受け入れられたkiは花が綻ぶかのように笑う。
「ああ!一緒だ!ずっと!!一生生命尽きるまで共にいよう!」
感情の昂りをそのまま声にしてkiは宣言する。
衝動のまま彼は41の項に噛み付いた。首筋にはしる鋭い牙を感じながら抵抗することなくその痛みを受け入れる。
短いようで長い時間、kiは満足そうに牙を離すと労わるように項をていねいに舐め上げて見せた。その行為は何処までも獣を感じさせるが彼がそれに気づくこともない。
「これで俺たちは本物の番だな!」
kiは41の項にくっきり残る噛み跡を愛おしそうに見つめながら再び結ばれた縁を喜ぶ。
「うん、そうだね。」
41は曖昧に微笑む。ねえ、人間はね、パートナーのことを番とは言わないんだよ。項に噛み付く行為は獣だけの愛情表現の仕方だと彼は知らないのだろう。それを態々指摘する必要もない。41はそのままkiに身を任せたのだった。
『次のニュースです。昨夜○○市のアパートでー…isg41さんが行方不明ー…現場には血痕とらしきーー…扉には幾つもの爪痕がー……以上何らかの事件に巻き込まれたとして捜査をすすめてます。』