絵画の少女を探す第一王子×売れない画家の許嫁41謎時空 kiis♀で、絵画の少女を探す第一王子×売れない画家の許嫁41の話
41には幼い頃からの許嫁がいる。彼との仲は良好で41の16を迎える日に結婚する約束をしていた。彼は2つ年上でしがない画家をしている。41は彼の描く絵が好きだったが、世間からは評価されず、作品が日の目を見る事はなかった。
食い扶持にもならない彼の職だったが、41な彼のことを応援していた。
彼の努力が報われてほしいとそう思っていたのだ。
「今日もモデルをしてくれないか?」
「もう、また?俺ばっか描いて楽しい?」
「ああ、可愛い許嫁を描けるなんて俺は幸せ者だよ」
彼は様々の絵を描くが、中でもよく41の絵を描く。
特段綺麗でもない自分を描いて何が良いのか、もっと綺麗な人にモデルを頼んだ方が彼の絵はもっと評価されるのではないかと散々言ってきたが、彼はそれでも41を描くことを好み、やめなかった。
彼は月に1度、大きな街に行き絵を売る。多くの人の目に留まるように簡素な敷物の上に己の自信作を並べるが、殆どの人は目を向けず通り過ぎてしまう。物珍しそうに一瞬絵を見る人間はいるにはいるが、足を止める人間はいない。しかし彼は毎月毎月律儀に絵を売りに行く。否、それは41のためだった。売れない画家である許嫁を健気に応援し続けてくれる彼女を、有名になることで楽させてやりたかった。もっと良い生活を将来送れるようにと、彼は今日も街に降りた。いつか名を馳せる事を夢みて。
「今日もだめか…」
彼は項垂れ、己の自信作を仕舞い始める。日がな一日誰かの目に止まること祈ったが、その祈りは届く事はなかったらしい。不甲斐なさ悔しさを噛み締めながら片付けを進めていれば「もし」と声がかかる。
ハッと顔を上げれば、目の前に小太りの男がいた。
「い、いらっしゃいませ」
「そこの人物像を見せていただけませんかな」
男が指したのは、布から僅かに顔を出す間違えて持ってきてしまった41の絵だった。
「すみませんが、これは売り物じゃないんです。」
41の絵は山ほどあるけれど、1枚1枚が彼にとっては大切な許嫁の絵だったから。
彼は申し訳なさそうに断りをいれるが、男は納得しなかった。
「金ならある、売ってくれ」
目の前に差し出されたのは金貨1枚。
絵を銅貨2枚で切り売りする彼にとっては破格の値段である。提示された高額な値段に喉元がごくりと音を鳴らす。これがあれば41に良い物を買ってあげられる。そう思ったのだ。
気づいた時には手元に金貨が握られていた。
「どうしたの、こんな高そうな物」
彼は金貨を握りそのまま装飾屋に向かい、ダイヤモンドのペンダントを購入した。それを41に渡せば驚いた顔で男を見上げる。
「絵が売れたんだ、それで買った」
「え!売れたの!」
何が売れたの?最近描いてた風景画?と自分のことのように嬉しそうにする41にまさか君の絵を売ったとは言えず、「そうだね、そんな感じ」と誤魔化した。
一方王都では1人の男が顔を真っ青にして震えていた。
「おい、誰がそんな不細工顔を連れてこいと言った?」
「ひぃ、すみません!」
「俺はこの絵の女を連れてこいと命令したんだがな」
そう言って目の前で醜く震える男に冷えた鋭い視線を送るのはこの国の第一王子のkiである。その手には安っぽい額縁に飾られる1つの絵画が握られていた。艶やかな長い黒髪に矢車菊の瞳を細め小さく微笑む少女が描かれているものだ。小汚い平凡な娘が描かれたそれを何故kiが持っているのかと男は困惑していた。だってそれは本来kiの手に渡るものではなかったから。
現在王都では2人の王子の妃探しが行われていた。第一王子と第二王子の妃をである。
そして、ここである相違点が二人にはあった。第一王子のkiは容姿端麗、才色兼備で見るものを魅了する男であったため、大層女性には困ることはなかったが、女遊びが激しいばかりで正式な妃を娶る気はサラサラなかった。一方第二王子は同じkiと同じ兄弟とは思えない平凡かつ不細工な男だったため、女性が寄ってこなかった。
そんな息子2人に王は痺れを切らし、2人の花嫁探しを宣言し、各華族に娘の絵画を送れと命令したのだ。その絵画から彼らに気に入ったものを選ばせ、息子たちの妃にするのだと言った。華族達は躍起になって有名な腕の経つ画家を探し、己の娘を描かせた。何せもしかしたら、第一王子の目に止まるのかもしれないのだから。
男もその内の1人であった。可愛い一人娘をkiの元に嫁がせるべく奮闘した。しかし、1つ困ったことがある。第一王子の目に留まるのは良い、第二王子に見初められることだけは避けたかった。醜く権力もないに等しい男に娘をやりたくも無かった。だから男は娘の絵画を2枚用意することにした。ひとつは絶世の美女を。ひとつは嫁に取ろうとは思わない平凡な女を。しかし雇った高名な画家にもう1枚書かせるのは金が惜しかった。
たまたま通りがかった所に、小汚い男が小汚い絵を売っていた。ちょうど良いと思ったのだ。男は無理くり渋る売れない画家から絵を買い取ると、それをそのまま王宮へと届けた。第一王子には金貨300枚の絵を第二王子には金貨1枚の絵を。
後日、男と娘は王宮に訪れる。何故なら光栄な事に第一王子から呼び出しを受けたからだ!絵画の娘に是非会いたいと!!
男は娘をふんだんに着飾らせ、親子鼻息荒く王宮に向かった。実際、男の娘は男に似ず美しかった、のだが、kiは娘を見て顔を不機嫌に歪ませ「違う」と低く唸ったのだ。何が違うのか、娘の絵画は確かに盛りはしたが絵画に負けず劣らず娘は美しい筈だと男は動揺を隠せなかった。
「な、何をおっしゃいますか。これが私の娘でございます、違いありません。」
「ああ、確かそっちの方の絵も来ていたな。だが、俺が連れてこいと言ったのはこっちだ。」
そう言って取り出したのは例の安く買い叩いた見知らぬ少女の絵。
「えっ、そちらに御座いますか。えーと、それは、その」
何故第二王子宛のそれがkiの手元にあるのか。何故よりによってそれが。
「そ、れも私の娘に御座います。2枚描かせたのです、1枚じゃ物足りないと思いまして…」
「ほー、それにしても別人に思えるが」「ああ、えーとはは…」
「嘘が下手だな、俺を騙したんだ、覚悟はあるんだろうな」
「え、ちょ!待ってください、言います!本当のことを言いますから!それはある画家から買い取ったんです!」
正に蛇に睨まれた蛙、袋の鼠。男は必死に言い募る。
「ほお、それで?この女は誰だ?何処にいる?」
「し、知りません。分かりません。」
男はぶんぶんと首を横に振る。実際に男は絵画の少女のことなんてちっとも知らないのだから。しかし、kiにはそんな事は関係がないのだ。血管が浮き出るkiの手の甲を見て、男は慌てる。
「でも、画家は覚えてます!!買った場所も!!」
もう助かるためなら何でも良かった。しかし、思惑は上手くいかずkiを、絵画を買った場所まで案内したが、画家はいなかった。「毎日はいないのかもしれない」kiに責めるように詰められれば、男はそう言い訳をした。実際、画家は月に一度しか街には降りなかったし、周囲の街の人間もそう証言したため、怒りの矛先は一旦納められた。kiは画家が絵を売りに来るのを見張るよう手配した。何としてでも絵の少女にたどり着きたかった。しかし待てど暮らせど画家は来ない。いい加減我慢の限界が来たkiは、あるビラを配る。少女の絵が映されたビラを。とんでもない懸賞金が掛けられたそれはまるで指名手配のようであった。街にばら撒かれるそれを持ち帰った男がいた。それはあのー…kiが血眼で探している少女を許嫁に持つ彼であった。
血の気が引いていく、冷や汗が止まらなかった。王子が41を探している、何故自分の絵がこうした形で広まってしまったのか、見つかったらどうなるのか。思考がまとまらなかった。
「不味いことになった」
そう呟く彼を、まさか王子の探し人になってるとは思わない41は不思議そうに見つめていた。
kiは今日も絵画の少女を愛でる。継ぎ接ぎなボロい額縁から、彼女に似合う豪勢な額縁へ。
今夜も自分に優しく微笑みかける絵の向こうの少女にkiは微笑み返し、話しかける。
「ああ、早くお前に逢いたい」
こんな気持ちになるのは初めてだった。偶に見掛けた弟宛の絵画。埋もれる絵画の中で吸い込まれるような矢車菊に魅入られた。
「お前と俺は運命だ」
少女は応えないが今はそれでいい
「愛してる、逢ったら名前を教えてくれ」
妄執の念を向けられても尚少女は微笑む。追跡の魔の手は目前に迫っていた。