人を食う巨人族ki×人間41♀この世には巨人族と呼ばれる種族が存在する。
姿形は人間そのままであり、人間を何倍にも大きくしたのが巨人族である。
小さいものでも5メートルから、大きいものでは20メートル超えるほどのものもいるという。
彼らは基本森や山奥を住処とし、独自のルーツを作り上げ暮らしている。
彼らには知性があり、巨人族特有の言語を扱い仲間とコミュニケーションを図っているというが、詳しいことはよく分からない。
なぜなら巨人は、人間そっくりな姿をしながら人間を狩り、捕食する。食人文化を持つからである。
似たような姿、知性を持ちながら、何故人間を食らうのか。
人間のなかには巨人族と友好な関係を築こうと自ら巨人の元に飛び込む変わり者の研究者や探求者は幾人もいたが殆どが行方不明否、巨人の腹に収められてしまった。なんとか人間社会に命からがら逃げ帰った数少ない生き残りは皆口を揃えてこういった。
「奴らは知性がありながら、我々の話や意図を汲もうともしない。仲間は容赦なく捉えられ食べられてしまった。彼らは人間を捕食対象としか見ていない!」
しかし、未だに巨人族に近づこうとする人間は後を絶たない。それは何故か?
彼らは人間に限りなく近い姿であると同時に巨人族は皆美しい容姿をしているからである。その容姿に人間は騙される。美しいその顔に、美しい身体に、その完成された美に。
中には巨人の美しさに当てられ恍惚した表情のたまま食われたもの、自ら食べられることを望んだものも少なくないだとか。
人間は美しいものをより好む傾向にあるものが多い。だから未だに美しい彼らにどうにかして取り入ることができないかと模索するがそれは今に至るまで叶わない。
ある研究者は言う。
「巨人は美しく気高い種族である。しかし、その実、本能は限りなく獣に近い野蛮な種族でもある。」
だからその見た目に騙され、彼らを信用してはならない。
魅せられたが最後、我々は彼らの手のひらではなく口の中なのだから。
世一は王都から少し離れた場所に位置する村のしがない村娘である。
のどかで平和な世一の村は、今若者が少なくなりつつある。皆何も代わり映えしないこの村から出て王都に出稼ぎにでるものが殆どであるから。そんな中、村で数少ない歳若い世一は今日も父と母に挨拶をし、薬草を詰みに家を出た。
村から少し離れた場所にある林を小一時間程探索し、野いちごを見つけた世一は赤い実を籠いっぱいに詰めてるんるんとした気分で家へと帰ろうとした。
このいちごで母さんにパイでも作ってもらおう。
そう思いながら家路へとついた世一は絶句した。村の余りの惨状に。
半壊された家、立ち上る煙と炎、逃げ惑い泣き叫ぶ村人、そしてちょこまか逃げる人を捕まえる大きな人の形をした影。
「巨人…」
何人もの巨人が村を荒らしている。
ある巨人は逃げ惑う村人を捕まえては、捕まえた人間を観察し、気に入った人間は手にもつ袋へとつめこみ、気に入らなかったものは投げ捨てていた。投げ捨てられた人間はある程度ある高さから落とされるものだから、そのまま打ちどころが悪く絶命する者、骨や内蔵が衝撃で破裂しなお苦しむ者で溢れていた。
もう一方ではまるで食べ放題感覚で村人を手にとってはポイポイと口の中へと含んでいる。美しい姿をしていながら、爪先や口元にべったりついたその人の血に世一は吐き気を抑えられなかった。
呆然と村が荒らされていく様子を見ていた世一であったが、両親の顔が脳裏を過ぎり、はっと意識を取り戻す。
「父さん母さん!!」
瓦礫を押しのけ、巨人に見つからないようにしながら家への道を走り抜けた先、そこにあった筈の家は瓦礫の山と化していた。
「ぁ…あ…」
飛び散る血しぶきのあと、母さんが身につけていたエプロン、父さんのひしゃげたメガネに、何があったのかなんて予想がつく。
しかし、その現実から目を背けたくて、世一は縋るように父さんと母さんと声を張り上げ両親探した。
しかし、その悲痛な声に答えたのは世一の優しい両親ではなかった。
揺れる地面、地鳴りの様な大きな足音、すこしでも冷静になれば近づく大きな影に気づく事はできたであろうが、もう時既に遅しであった。
41に覆い被さるように伸びた大きな影が視界に入る。涙で濡らした頬をそのままに、上を見上げればそこにいたのは言わずもがな自分より何倍もの大きさの男の巨人であった。
顔は逆光で見えない。しかしその背は村で見た巨人の中で一番高く15mは軽く超えている。
鍛えられた美しい身体を覆うのは、白い獣の毛皮で、首には何かの弦と青い宝石で作られた首飾りが見えた。
巨人の手が腰を抜かした世一へと伸びる。世一の身体の倍は軽くある手に身体を捕まれ、死が間近に迫るのを肌で感じる。
きっと自分はこのまま握りつぶされるのだろうか。
死にたくない、怖いな、やだよ。
助けて。
恐怖が世一を支配し、極度のストレスと緊張で身体が震えてたまらない。涙が自然とボロボロと流れる。
ああ…でも…このまま死ねば父さんと母さんにすぐ会えるや。
ふとそう思った瞬間、引きつった身体の力が抜けた。
ああそうだ、どうせどっちにしろ俺はなにもかも失って生きる力なんてない。ならこのまま両親の元へと行けた方が良いじゃないか。
もう何も見たくなくて、世一は瞼をとじた。
近くで巨人の吐く息を感じて、短い人生だったなあと振り返る。
恐怖はもうなかった。覚悟はできた。その筈なのに。一向に食べられる気配がない。
なんだよ、やるなら一思いにやってくれ!
痺れをきらし、恐る恐る瞼を開ければ、視界に入ったのは綺麗な紺碧色の宝石だった。否、宝石ではない、これは巨人の瞳だ。
巨人がじっと世一を見つめているのである。
先程逆光で見えなかった顔が目の前に迫っており、世一は嫌でもその巨人の容姿がよく見えた。毛穴を知らない白い肌に、シャープな円を描く小さな輪郭、顔にのる一つ一つのパーツは全て計算し尽くされたかのように整っていた。東洋系の世一に対して、彼は西洋系のようで鼻筋はすっとしており、鼻先はツンと上を向いている。そして何よりも目を引くのはその瞳であった金色のまつ毛が縁取られた猫目の彼の瞳は太陽の光にキラキラと反射し輝いている。宝石だと世一が勘違いしてしまうのも頷ける程、美しい色と形をしていた。
そんな人間離れした完成された絶対的な美を持つであろう巨人は、じっと今も尚己の手の中にいる世一を見つめ観察しているようだった。サラリと触り心地の良さそうな金色と青のグラデーションで彩られた髪がまるでカーテンのように世一の周りを囲む。
「な、に…??」
ぱちりぱちりと世一も目の縁を飾る涙を弾けさせながら、紺碧を見つめ返せば、目があった。
その瞬間、彼の瞳孔が散大する。