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    mikan_rin0822

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    mikan_rin0822

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    半妖のふたりが成敗請負人モチーフのふたりと戦う話。※一部髪型等捏造有り

    ※半妖パロのふたりの話を初めて読む方はポイピク内にある「半妖パロのふたり」の設定を先にご覧ください

    夕暮れと烏「どうだ、類!今日のオレも格好良かっただろう!」
    「そうだね。ひとりでも動けるようになってるし、親方さまにも司くんの独断で動いてもいいか相談してみるよ」

    任務終わりの帰り道。今日も結界に綻びがないか確認したり、外から侵入してきた妖を撃退したりと慌ただしく、殺伐とした時間を過ごしていた。
    だがその任務が終われば、穏やかな日常に戻る。司の横を歩きながら、類は暑いから素麺でいいかなんて、夕飯のことをぼんやりと考えていた。

    「今日の夕飯なんだけど……」

    雑談に近いような、何気ない言葉を言い終えることはなかった。
    ゆっくりと歩くふたりに向かって何かが接近していることを察知して、類はピタッと動きを止める。後ろを振り返っても誰もいない。しかし、地面を見ると何かの影が大きく跳躍して、そのまま類に斬りかかろうとしていた。

    「………ッ」

    類は前に跳びながら、司の肩を押して攻撃を躱す。咄嗟のことで無理な姿勢で押し飛ばした司も、持ち前の身体能力で難なく着地していた。

    「司くん!大丈夫かい?」
    「このくらい平気だ。それより……」

    類はその様子を横目で確認して、目の前にいた人物をギロっと睨む。

    「いきなり斬りかかってくるなんて……穏やかじゃないな。初対面の相手にはまず『挨拶』が基本じゃない?」

    軽い皮肉を交えつつ、威嚇を込めて低い声で軽口を叩く。相手は類の言葉に刀を振り下ろしたまま、応答しない。しかし、長髪で表情が見えずにいた相手が顔を上げた瞬間、思わずふたりは息を呑んでいた。
    ひとつ括りにした長髪を靡かせ、白色の着物を羽織り、黒をベースにした袴には叢雲模様が入っている。耳には鉄でできた耳飾りを付けていて、手には黒の手袋をしていた。

    「……神代類だな。排除する」

    抑揚のない声と共に、右手には刀を持っている。そこから妖気が漏れ出していて、類はこの刀の妖気を察知して間一髪で避けていた。
    だが、そんな事よりだ。敵の容姿が類と空似は思えない程にあまりにも酷似丶丶丶丶丶丶丶していた。
    類は考えを巡らす。なぜ、どうして、これほどに自分に似ている人物が存在しているのか。今考えても答えは見つからない。それならと、割り切って敵だと認識した人物に集中する。
    司もメガネを外していて、三角の耳と丸みを帯びた尻尾を揺らしながら、戦闘態勢を取っていた。

    『……どうする?』
    『司くんはさがって。こいつが狙っているのは僕だ』

    相手に聞こえないように、類はテレパシーを送った。前屈みになっている司も普段通りに見えているが、鋭くなった瞳孔に動揺の色が見え隠れしている。無理もない。これほどに類と容姿が似ているのだ。躊躇いを覚えたとしても、何らおかしくなかった。
    相手は言葉を発しないまま、刀を構える。そのまま踏み込んで、上から下に刀を振って類を仕留めようとした。それを類は右腕を前に出して刀身を受け止める。

    「……君は何者だい?」
    「貴様に名乗る名など、持ち合わせていない」

    相手の返答から話し合いは無駄だと類は判断して、力ずくでグッと刀身を押し返す。そしてガラ空きになっていた左手で、刀を持っている腕を引っ張り、背負い投げの要領で投げ飛ばした。
    そのまま地面に叩き付けられると思いきや、投げ飛ばされる寸前に足をグッと地面に押しやって、身体を捻りながら類の喉元を狙って刀を横に振り抜く。
    類もそれに素早く反応して、首の皮一枚のところで刃先を避けながら、ずささ……と手を地に着いて後ろに跳んだ。

    「君………人間丶丶だね」
    「だったらどうする?」

    類が妖に触れると否応なく、妖力を吸うことができる。それに例外はない。だが相手の腕を掴んだ時、自身に妖力が流れ込んでくる感覚が全くなかった。
    相手は言葉を吐き捨てて、再び刀を構える。いっそのこと相手が妖なら、作戦を立てて対処できるのだが、目の前にいるのは人間……ましてや、武器を使っている相手なら話は別だった。

    (さて……これからどうしようか……)

    いつもなら類が弱体化している内に、司に任せることもできたのだが、今は圧倒的に類の方が不利。
    思考をぐるぐる回している時も、ひっきりなしに相手の攻撃は続いていて、類は一方的に防戦を強いられていた。
    そんな類を司も少し離れた所で戦況を見守って……いや、どう援護をしていいのか分からずに立ち尽くしていた。
    囮になって相手の気を逸らせたり、自分が今やるべきことは頭では分かっている。しかし、類に対して休むことなく攻撃が続いていて、司の入り込む余地がない。
    それに加えて、司の足が竦むことがもうひとつあった。類からは兄弟がいるとは聞いた事がない。だが、目の前にいるのは紛れもない類と類同一人物で、その動揺を隠せずにいた。それでも、ああだこうだと考えて、このまま時間が過ぎ去っていくのを黙って見ている訳にもいかない。
    動けば類に有利な隙が作れるはず。そう思って、司が前屈みになって足を踏み込んだその時だった。
    何かの風切り音が聞こえて、高速でこちらに向かってくる。その先にいたのは類。
    しかも、ふたりがいるのは見通しのいい十字路で、高いところからなら、いくらでも狙える場所だった。

    「危ない……!!」

    司は類の脇腹めがけて体当たりする。類も受け身が取れずに塀に激突しかけるが、直前に壁に足をかけて地面に着地する。
    しかし、司の機転が効いたおかげで高速で向かってくる『何か』も、類を外れて代わりに庇った司の肩口にじゅっ、と赤い線を作って地面に突き刺さっていた。

    「うぐっ……」
    「司くん!」

    類も突然のことで、テレパシーを忘れて駆け寄って背中を撫でる。司は腕を抑えて、片目を閉じて激痛に悶えていたが、もう片方の目の眼光は飛んできた方向をずっと睨んでいた。

    「…………!」

    地面に突き刺さっていたのは赤い風車。それも先は尖っていて、倒れることなく自立したまま。それを見た類は、驚きのあまり呆れて「ははっ」と笑ってしまった。
    それでも相手は攻撃を止めない。寧ろ好機と捉えて、ガラガラになってた類の背中に斬りかかる。だが、類も一度感知した妖気は覚えていて、相手の動きは手に取るように分かっていた。
    切っ先が当たる僅か数センチのところで、司を抱えて横へと身を捩って、そのまま半回転しながら相手の鳩尾を思い切り殴る。そして、相手が後ろに退いたタイミングで類は司を立ち上がらせて、離れようと走り出す。
    相手も痛みで反応は一瞬遅れたが、すかさず後を追う。しかし、この辺りの地図を知っている類たちの方が上。上手く路地を使いながら相手の追跡を撒いた。

    類と司を見失った相手は一度立ち止まる。ふぅ、と呼吸を整えて再び走り出そうとするが、ジジッ……と耳に付けていた小型のインカーに通信が入った。

    『まだ近くにいる。取り逃がすなよ』
    『……承知しました』

    何の感情もなく淡々と告げられた通信はプツンと切られて、すぐに無音が広がる。

    「次は逃がさん」

    そう呟くと足音を立てずに類たちがいる方向へと、一直線に走り出した。



    ※※※※※※※※※※



    「……追ってこないみたいだね」

    ふたりがいたのは、光がほとんど入ってこない、人気ひとけのない路地裏。そこも飲食店らしき店の裏側で、ブォーンと換気扇の音がけたたましく、辺りに響かせていた。
    壁にはコンセントの差し口と床にはコードが乱雑に散らかっていて、足場を見つけて歩くのがやっとのこと。類は隙間から確認して、路地の奥へと入って歩きながらようやくひと息つく。そして、ここから出ないように奥へ押しやっていた、司が負傷した肩口を確認した。

    「司くん、ごめんね。少し痛いだろうけど、傷を見せ………」

    もしかしたら傷口が化膿している……なんて思ったものの、それは杞憂に終わった。本人が興奮状態なのか、メガネを取っている状態で妖力が高まっているのか、はたまた両方なのか理由は分からない。その傷も制服が破れているだけで、完全に塞がっていた。

    「匂いは覚えた。今から処理丶丶に向かう」

    まるで機械音と間違えるくらいの声音で淡々と類にそう告げる。そして、鋭くなった瞳孔を見開きながら、街の方へすたすたと歩き出していて、慌てて類は司を引き止めた。

    「待って」
    「止めるな」

    「来るな」と言わんばかりに、類が伸ばした腕を掴み、鋭くなっていた爪がキリキリと包帯に食い込んでいる。その目つきも捕食者のものになっていて、辺りは暗いのに携えるふたつの瞳だけがギラギラと光り輝いていた。

    「落ち着いて。僕と司くんが何も無しに離れてしまったら、それこそ向こうの思う壷だ」

    そう言ったものの、息はふーっ、ふーっと荒くなり、犬歯も口からはみ出して、耳も尻尾も毛が逆立っている。
    以前よりも妖狐の力を制御できているとはいえ、任務終わりの帰り道。間違いなく疲労が溜まっていることには違いない。加えて類を傷付けられそうになって、感情の爆発が引き金で理性と本能のバランスが取れなくなっていた。
    司は気付いていないが、言葉遣いもそちら丶丶丶に引っ張られている。だが、まだ人型を保っている今なら、力ずくじゃなても引き戻せる。類はそう判断した。

    「今、僕たちが対峙しているのは妖じゃなくて人間だ。そこら辺にいるような小物とは訳が違う。それに……」

    類が説得している間も、鋭くなった爪が食い込んでくる。それを類は痛いとは感じていなくて、それどころか、強く掴まれた手に空いていた自分の手を重ねて言葉を紡いだ。

    「司くんが傷ついた所なんて、僕も見たくないんだ…………………だから頼むよ」

    まるで何かに縋るような声に、司もハッとした表情と共に我に返る。そうして、類の腕を掴んでいた手をそっと離した。

    「……………そう……だな。すまない。オレも冷静さを欠けて、またお前を傷つけそうになっていた……次からは気を付ける」
    「いいんだ、気にしないでくれ。それよりも僕を襲ってきた相手………あれは人間だけど、とても厄介なものに見つかってしまったね」
    「刀を持った男のことか?やけに類と似ていたようだが……類の知り合いか?」
    「僕も知らないよ。もしかしたら生き別れの兄弟って可能性はあるけど、少なくとも面識はないね……でも、ひとつだけ確実に言えることがある」

    指を顎の上に置いて、考える素振りを見せる。そして、じっ……と司の目を見て言い放った。

    「地面に突き刺さっていたあの赤い風車……僕を襲ったのは神代家の人間だよ」
    「何だと………!」

    神代家は類の生家。人間であるのに関わらず、妖力がなくても妖が見える特殊な家系。それを活かして、祓い屋としての地位を確立していった。
    類は神代家八代目当主でもあったが、家のしきたり丶丶丶丶に嫌気が差して家出を決意。餓者髑髏の力を使えるようになったのは、これに大きく関係しているのだが、それはまた別の話。

    「僕を襲った張本人は知らないけど……裏で糸を引いているのは、神代家の中でもかなり手練の者だよ……ただ僕もあまり知らなくてね」
    「……と、言うと?」
    「その姿を見た事がないんだ」

    分かっていることは、その者が「平八」と呼ばれていて、赤い風車と異様に光る赤い目をしていることだけ。それ以外の情報は何も……いや、何者かに遮断されているかのように丶丶丶丶丶丶丶丶丶丶丶丶丶丶丶丶全く耳に入ってこなかった。

    「神代家はあのやらかし丶丶丶丶をしてから、祓う時は前線で退治する者と、後方で退治する者の4人で1組になって祓うようにしているんだ。ただ、その中でも平八という男だけは単独行動が許されていた……神代家の中でも有名な話だよ」
    「じゃあ……あの類を襲った人物は?」
    「きっと平八が独断で声を掛けた始末屋ってところなんじゃない?……ただ、単独行動が許されているとはいえ、限度がある。それを許すってことは、向こう神代家も焦り始めて手段を選ばずに来ているね……まぁ、前提として平八が僕を狙うなんて、よほどのことなんだけどね」

    類の額からは夏でもないのに、大粒の汗が止まらなかった。
    神代家は類の捕獲に生死を問わない。だから後を付けられないように、自身の妖力の痕跡を消したり、細心の注意を払っていたのだが、実際こうして尾を掴まれているということは、どこかで綻びが出ていたのかもしれない。

    「しかし、類とオレのふたりで掛かれば何とか……」
    「それでも僕たちの方が断然不利だ」

    ささっと類は建物の隙間から外の様子を見る。こうして隠れてはいるが、見つかるのも時間の問題。いくら連携を組んで立ち向かっても、平八がどこにいてどんな術を使ってくるか分からない以上、数分もしない内に共倒れになるのがオチ。
    どうすれば……とぐるぐると考えていると、司の言葉を思い出した。確か、匂いは覚えていると言っていた。なら……

    「僕に考えがある」
    「…………何か打開策でもあるのか?」

    「流石、類だ!」と言わんばかりに、ぱぁっと明るくなる司に少し申し訳なく、類は優しく否定するようにゆっくりと首を横に振る。

    「僕があの長髪の男を動けなくする。その間に、平八は僕のことをどこかで確実に狙ってくる。そこでだ。司くんは平八の援護を阻止してほしい」

    司は赤い風車に付いていた平八の匂いも覚えている。それを逆手に取り、逆探知して、類に先程襲いかかってきた相手に集中できるような環境を作る。それが考えだった。

    「了解した」

    何かを察したように、司はそれ以上は何も言わなかった。その言葉に類は目を細めると、「ありがとう」と一言添えて頭を撫でようとする。司も耳を倒して、類の手を甘んじて受け入れた。
    ひと通り司の頭を撫で終わった後、着ていたブラウスを脱いで腕に巻いていた包帯を解き始める。

    「ただこれだけは忘れないで。今からすることは、僕たちがここから離れるための手段だ。絶対に1対1でやり合おうなんて考えは捨てること。それと命の危険を感じたら、作戦を投げ出してもすぐに逃げること。だけど、絶対に手を抜かずに………相手を殺す気で掛かってね」

    包帯の下にあったのは、肉が付いた健康的な腕ではなく、紫色の瘴気を纏っている骨まで透けていた腕。そして、腕に巻かれていた包帯をポケットにしまった。

    「見つけた」

    陽の光が反射して、路地裏の入口に立っていた人物に影を作る。その正体は類似の長髪の男性……類を襲った相手で、手に刀を持って立っていた。

    『司くん』
    『了解』

    短く類がテレパシーを送ると、司は相手に目もくれずに逆方向へと走り出す。相手も反応して足を前に動かそうとするが、司の姿を見せぬように相手の前に立ちはだかった。

    「お望み通り、君の相手は僕だよ」

    路地裏に入った相手は一旦構えたまま足を止める。その視線は包帯が取られた類の腕を向いていた。

    「忌々しい……」
    「何を今更。こんな腕にしたのは君たちの方じゃないか」
    「抜かせ」

    類は踵を返して、仄暗い路地裏を全力で駆け抜ける。相手も類を捕らえようと、壁を伝って徐々に距離を詰めていく。そして、類が広い道に出ようとしたその瞬間、相手も類の背中を捉えて何の迷いもなく刀を振り降ろした。
    しかし髪の毛に掠ったものの、当たることはなく、身体を翻して見通しのいい十字路に出る。相手もほぼ同時に出ていて、類はまた後ろに跳んで距離を取る。
    その距離、約数メートル。辺りには静寂が広がり、息が詰まるほどの緊張が漂う。
    ふぅ……とどちらかが短く息を吐いた。それが引き金になって、相手は一気に距離を詰めて水平に刀を薙いだ。
    類は地面すれすれまで、姿勢を低くして攻撃を避ける。そのまま相手の足首を掴み、一気に持ち上げた。相手は姿勢を崩して地面に叩きつけられて、四肢を放り出す。
    類は相手に馬乗りになって、刀を持っていた右腕を押さえつけると、首を締めて意識を落とそうとした。
    だが、相手もそれを読んでいたかのように、両脚を曲げて身体を横に回転させる。それに抵抗できずに、類は地面に転がされてしまって、今度は相手が類に馬乗りになっている状態になってしまう。そして、下敷きになっている類の頸めがけて、刀を突きつけた。

    「……終わりだ」
    「それはどうかな……っと」

    類は相手の死角になっていた脇腹を目一杯殴る。相手もあまりの激痛に、類を抑える脚の力が緩んで、ガハッと口から空気が漏れる。その隙に類も脱出し、再び距離を取った。
    ここまでほぼ互角。実力がまさっていると思われる類も、刀の妖気を感知してそこから相手の動きを予想して勘で動いていた。

    (そろそろ……来てもおかしくないね……)

    射線が通っている箇所は目星をつけていたが、いつまで経ってもそこから何かが来るわけでもない。
    しかし、相手の視線が上を向いていて、まるで辺りを気にするようにきょろきょろと浮ついている。それを類は見逃さなかった。

    「君が期待丶丶しているものは来ないよ」
    「…………」
    「僕の相棒は優秀で強いだからね。今頃其方そちらさんも捕えられているんじゃない?」
    「……戯言をのたまうな!平八さまを侮辱するなど万死に値する!」

    少しだけ煽ったつもりだけだったが、この反応は予想外。金で雇われているだけなのに、これほど激しく感情が昂るということは、何かまだ……

    「貴様は……」

    刀を握っている手に、力が入ってカチッと音がする。相手は昂った感情に身を任せたまま、類に向かおうとした。
    だが、実際には類に斬りかかるどころか、その場から一歩足りとも動けずに、刀を構えたまま血を吐いた。
    突然の身体の異常に相手も何があったか分からないようで、咳き込みながら血を吐いて、無様に血溜まりを作って地面に膝を付いている。
    そして吐ききった口端には、吐血した痕が残っていたが、目線を外すことはなく類に「何をした?」と言わんばかりに、きっと睨んでいた。

    「どうだい?君の言う『忌々しいもの』に侵されている気分は?」

    類の戦闘スタイルとして、主に司のサポートとして敵の出方を伺ったり「相手と距離を取っての戦闘」を得意としているが、今回はできるだけ相手の近く丶丶丶丶丶を意識していた。
    類が柄にもなく近接戦闘をしていた理由。それは、腕に纏わりつく瘴気を相手に吸わせるため。
    相手も類の腕のことは聞いていたようだが、それはあくまで外見の話。実物を見たのは今日が初めてだったらしく、まさか瘴気を放っていて、人体に害を及ぼすものなんて思ってもいなかったらしい。
    これも全て類の計算通り。相対した路地裏から、相手は類の手のひらで踊らされていた。

    「大丈夫、死にはしないよ。人間の身体ってそんなに脆くないからね」

    この一部始終を見ていた類は、何事も無かったかのように飄々とした態度で言葉を掛ける。しかし、行動は類の怒りそのもの。相手の髪を掴んで無理やり顔を上に向かせながら、瞳を覗き込んだ。


    「これは警告だ。今後一切俺たちに手を出すな」


    そう吐き捨てると、乱暴に髪を振り払う。

    飼い主丶丶丶にも、ちゃんと伝えておいてね」

    パンパンと手を払って立ち上がると、相手は意識を失っていて、がくんと項垂れていた。
    しかし、油断は出来ない。瘴気を吸って意識を失っているとはいえ、致死量ではないからいつ目覚めてもおかしくない。類はばっ、と駆け出しその場から離れると同時に司にテレパシーを送った。

    『聞こえる?撤退するよ!』


    ※※※※※※※※※※



    『司くん』
    『了解』

    司は類の合図と共に、振り返らずに前だけ見て助走を付けて屋根に登る。登った後もぐんぐんとスピードを上げて、風車が飛んできた方向に足を動かしていた。
    あの風車にこびりついた匂いは覚えている……いや、忘れるはずがない。人の脂と血が混ざった、二度と嗅ぎたくない鼻につくような匂い。あれは殺しを何度もやっている奴の匂いだった。
    司もすぐに風車が放ったれた場所に到着するが、既にもぬけの殻で誰もいない。薄々気付いてはいたものの、類の言っていた通り、かなり用心深い。一度投擲する度に場所を変えて、痕跡無くしている。
    ふと下を見てみると、類が相手と戦っている最中なのだが……珍しく、投げ技などの体術を使った戦闘スタイルをとっていた。

    (相手を性質を考えたら……理に叶っている……)

    相手は妖怪ではなく人間。いつも通りに戦っては、絶対に類の方が不利になる。それに相手を動けなくする『奥の手』があるから、普段だったら絶対にしない近接戦闘をしているはず……あの打開策も、類の中で勝算があるから提案していたに違いない。
    だったら司もこんなところで諦める訳にはいかない。何より類の命がかかっているのだ。すんすんと辺りの匂いを嗅いでいると、ピクっと耳が反応する。
    反応したのは、司から数メートル離れた民家の屋根。その場所から黒の外套を纏っていた人物は静かに戦況を見ていて、手には先の尖った赤い風車を持っていた。

    (見つけた)

    あれは類を狙っている平八という人物に間違いない。司は耳を後ろに倒し、空気抵抗を極限まで無くして、屋根の上を足軽に掛けていく。
    急げ、急げ。と焦る気持ちを何とか抑えて、相手に勘づかれぬように近づく。そして、相手が風車を手に取って、類に向かって投擲しようとしたのと同時に、司は相手の背後を取って、一気に跳躍した。

    「させるか」

    宙で一回転して、相手の脳天を狙って踵を落とす。だが、当たった感覚はなく、空を切っただけ。平八はひらりと躱して、別の屋根に飛び移っていた。

    「私の背後を取るとはな……」

    一陣の風が吹き抜けて、外套が飛んでいく。司も戦闘態勢を取ろうと屈もうとした瞬間、思わず自分の目を疑ってしまった。
    あの長髪の男性と色違いの黒の羽織とオレンジのグラデーションが入った袴。その前に七宝が付けられていて、下に着ている服には上からベルトが巻かれている。
    そして、髪の色に体格に顔に瞳の色。その全てが……

    「オレ………?」

    司と瓜ふたつだった。

    「………ほぉ、これは興味深い」

    相手は目を細めて不敵に笑う。類の方には意識は遠のいたものの、代わりに司に向けられたのは、暗殺者のような殺気。

    「お前の相手はオレだ」
    「私の相手を……君のような半妖に務まるのか?」

    殺気を浴びただけで分かる。狙われたら、それが最期おわりだと。本能がこれは戦って勝てる相手ではないと叫んでいる。一瞬でも隙を見せたら命はないと。
    だが、ここで尻尾を巻いて逃げるわけにも行かない。司は全身の毛を逆立て、四つん這いになって戦闘態勢を取る。そして、鋭く尖った犬歯を剥き出しにして、ヴーっと唸りながら威嚇していた。
    その様子に微動だにせずに、平八は瞼を閉じる。その目を開けると、瞳は赤く染っていた。
    司の額からはずっと脂汗が止まらない。平八が懐から何か取り出そうとしていたその隙を狙って、司は瓦を蹴って飛び掛ろうとした。

    『聞こえる?撤退するよ!』

    脳内に切羽詰まった類の声が響き渡って、司はピタッと動きを止める。その声と同時に、平八に向かった足をきっ、と止めて後ろに跳んで距離を取った。
    そして、屋根を足場にして司はその場から立ち去る。その姿を平八は追うことはせず、静かに司の姿を凝視めるだけ。そんな平八にジジっ……とインカムに通信が入った。

    『申し訳ありません。取り逃しました』
    「……良い。今日は面白いものを見られたからな。しかし……」

    言葉を中途半端に切って、屋根から長髪の男を視認する。遠くから見ても分かるほどに、衰弱していて辺りには吐血した痕が残っていた。その様子を見ていた平八は手のひらを上に向けてググッ……と指先に力を入れて、折り曲げた。

    『…………ぅグッ……』

    平八がその動作をした瞬間、長髪の男性は心臓の辺りを押えながら蹲る。そんなことはお構いなしに、平八はストンと感情を無くした声で淡々と告げた。

    「私にも我慢の限界がある。次はないと思え」
    『…………心得ておきます』

    長髪の男性は、呼吸が途切れ途切れになっていてたが、何とか自分の足で歩いてこの場を離れた。

    「半妖か。それも人間と妖狐の……」

    そう呟き、親指と人差し指をくっつけて円を作る。そして、片目を瞑って赤く不気味に輝いていた瞳で、作った円を覗いた。

    「退屈しのぎにはなりそうだな」


    ※※※※※※※※※※


    「類!」

    司が屋根から飛び降りた先にあったのは、小さな公園。そこには類がベンチに腰掛けて待っていた。

    「良かった。無事で何よりだよ」
    「お前のほうもな。それで類を狙った奴は……」
    「この腕の瘴気を吸わせてたから、当分は動けないはずだよ」
    「…………!それは……」
    「大丈夫。あくまでも一時的にだから、死にはしないよ……まぁ身体はかなり痺れてると思うけどね」

    類の腕を見ると、乱雑に包帯を巻き直されていて、ズボンやカーディガンも所々ほつれていた。

    「そうだ。お前が言っていた平八という男なんだがな……」

    話を切り出した司は、相対した平八に関しての情報……服装、纏う雰囲気、そして自分の姿と瓜ふたつだったということを類に伝えた。

    「…………!司くんと……?」
    「……オレも少々信じにくいがな。なぁ、類。平八という男以外にも、神代家の幹部について何か分かることはないのか?」
    「僕が当主の時も講堂に篭って、祈祷を捧げていただけだからね……外で何か動きがあったら側近伝いにしか聞いていなかったし、幹部の事なんて尚更だよ」

    類は司と平八の容姿が瓜ふたつだったという言葉に驚きながらも、ぶつぶつと言いながら考え込む。司も脅威が去ったことを確認して、胸ポケットに仕舞っていたメガネを付ける。
    メガネを掛けたと同時に、ボフンと音を立てながら、白い煙が上がり、三角の耳と尻尾は消えてなくなって、瞳孔もまん丸に戻っていた。そして、類はベンチから立ち上がると、司の背中を見る。

    「少しそのままにしててね」

    学ランの詰襟や袖下などを念入りに目視で確認していて、司も何事だと思ったがすぐに発信機や式神のたぐいいを付けられていないかを確認しているのだと気づいた。

    「うん、大丈夫そうだね」
    「ありがとう助かった。類も後ろを向いてくれ、オレも確認する」

    司も類の背中を触ったり、自慢の鼻を使って印を付けられていないか確認する。戦った影響で相手の匂いはまだ残っていたが、相手に何かされた気配はなかった。

    「うむ。類の方も大丈夫そうだ」
    「ありがとう。……そうだ。さっきの平八の話をもう一度してくれるかい?親方さまも交えながら、僕が持っている神代家の情報と擦り合わせをしよう。それで、今日みたいなことがあった時の対策を考えようか」
    「そんなのお安い御用だ!だったら早速帰って報告だな!」

    快活朗々、ハキハキとした司の言葉と同時に、類も足早に歩き出して、慎重に自分たちの家路へと着く。
    そのふたりの背中を一匹の赤い目をした烏が静かに凝視みつめていた。
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