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    A博、両片思い、Aさんの脱皮直後のしっぽを博が触らせてもらう話

    #A博

    emergence「おお、ドクターか! ま、ドクターならいいか」
    「Ace?」
     不穏な言葉は聞こえたものの、続けられたどうぞ入ってくれという朗らかな声に従って、ドクターはその扉をくぐった。

     陸上艦ロドス・アイランド号が炎国辺境のとある都市への停泊を許されて約二週間が経過した。手続きやらで走り回っていたドクターにもようやく一息つけるだけの時間が与えられ、ならば気心の知れた友と食事でもと考えたのは当然のことで、声をかけたその日の護衛を務めてくれていたフィディアの彼はドクターの言葉に一も二もなく頷いた。というのもこの古い湖の名前を冠した都市は昔から名産品である鱗獣の料理で有名であり、役所の担当者からも雑談のついでにあれこれと行きつけの店を教えてもらっていたからである。そのリストを手に向かった彼の私室はドクターも何度も訪れたことがあり、それどころかある時は酒瓶を片手に、ある時は酔っ払った彼に肩を貸しながらとそれなりの頻度でお邪魔したことがある程度には気安く訪ねられる場所だった。
     そんな気安い友人の部屋では、当の本人が中央に置かれたお気に入りの大きなソファに腰かけつつ、ひらひらと手を振っていた。見慣れた戦闘服ではなくラフなシャツとパンツを身にまとっていたとしても、その圧倒的な体格は隠しきれてはいない。このバベルに個性的なメンバーは多けれども、彼以上にユーモラスなパンダ柄のシャツが似合う人間はいないだろう。この隣を歩くのかとドクターは一瞬遠い目をしかけたが、友人との美味しいディナーとを天秤に乗せてしまえば当然選び取るほうなど決まっている。
     大柄なフィディアは自身の尾を抱えつつ、そばまで歩いてきたドクターを見上げて言った。
    「早速で悪いが、少し時間をもらってもいいか」
    「構わないが、何かトラブルが?」
     お互いにこのような所属ではあるので、トラブルの種には事欠かない。ましてや彼もそれなりに多くの部下を抱える身となった。手伝えるものであればいいがと続きを促すと、けれど彼はうーん、と所在なさげに視線を逸らしながら言った。
    「そのな、週末まではもつと思ってたんだが」
    「?」
     そういえば、とドクターは考える。彼の抱えている尻尾は、普段からあんな色をしていただろうか。Aceの黒々とした細くしなやかな尾は見た目以上にパワーがあり、くるりと巻き付かれるとひんやりとして気持ちがいいことを、ドクターは知っている。どうしてかって? 酔っ払ったAceはいつも以上に人懐っこくなって、かわいい尻尾まで使ってぎゅうぎゅう全身でハグしてくるからだ。酸欠になる寸前でScoutに助けられたことも数え切れないが、ドクターは彼の遠慮のないコミュニケーションをとても好ましく思っていた。
     そんな素敵な尻尾が、どうもいつもと違う気がする。じっと見つめていると流石に視線に気がついたのか、バツの悪そうな顔をしたAceは、やっぱりわかるよなぁ、とがっくりと肩を落とした。怪我か病気か。もしも一刻も早い処置が必要なものであるならば食事など言っている場合ではない。幸い、ドクターは医療部への緊急コールが可能な端末を常時所持させられているため、手馴れた仕草でポケットから取り出しボタンを押そうとすると、しかし目の前の彼は慌ててドクターの手を押し留めた。
    「待て待て、そんなたいそうなもんじゃない」
    「素人判断はときに危険だ。特に健康に関することは」
    「本当に病気じゃねぇんだよ、脱皮だ、脱皮」
    「だっぴ」
     彼の言葉を理解するのに数秒かかってしまった。そんなドクターの様子を見て、Aceはだよなぁと大仰に頭をかく。
    「このまんま行っても別に問題はないといえばないんだが、ちょっとばかり見た目がな」
    「伝聞だが、ずいぶんと疲れると聞く」
    「そこまで大したもんじゃねぇよ、俺は尻尾だけだしな」
     フィディアやサヴラのような、鱗を持つ一部の種族に見られる特徴だったとドクターはおぼろげな記憶を引っ張り出す。鱗を含んだ皮膚は再生しにくい代わりに、定期的な脱皮で傷ひとつない肌を取り戻すのだと。目の前の大男は恥ずかしそうにみずからの尾をドクターのほうへと差し出して見せた。違和感があったのは当然のことで、よく見れば全体的にうっすらと白みがかり、一部は毛羽立ちのようなものさえ見える。すでに付け根から三分の一ほどはつやつやの新しい鱗が見えており、その輝きにドクターはフェイスガードの奥でそっと目を細めた。
    「あんまり急いでやるとな、途中で千切れて面倒なことになるんだ」
    「予約の時間まではまだ余裕がある。せっかくだから君と少し街を歩いてみたくて遅い時間にしたんだ」
    「悪ぃな、見て回れなくて」
    「先見の明と言ってくれないか。君と過ごせるならどこであっても楽しいから」
     そっか、と落とされたため息には少しだけ嬉しそうな色があったので、ドクターはにこりと微笑みを返す。会話の最中にも彼の太い指は器用に自身の尾の上で動き、ゆっくりと自身の鱗の新生を進めていた。剥がされていく見事な鱗の中に走る複数の傷に、彼とそしておのれの過ごしてきた日々を思い出す。それらが失われてしまうことを残念だと思えるほど、ドクターは独善的な人間ではなかった。ただほんのわずかな間であっても彼の体に残ることができた傷に抱いたのは、まぎれもない羨望であった。
     やがて、慎重に動く指先が尾の先端へとたどり着き、音もなくするりと抜け落ちたところで、二人分の大きなため息が重なった。知らない間に二人ともが息を止めてしまっていたらしい。
    「きれいだ」
    「おう、つやつやのピカピカだぜ」
     最後の確認として、どこかに破片が残ってはいないだろうかと男は立ち上がってくるりと背を向けてみせる。その新しくなったしなやかな尾がつやつやと室内灯を反射し輝くのを、ドクターはうっとりと眺め、だからだろうか、ついうっかりと本心がこぼれてしまった。
    「触れてみてもいいだろうか」
    「ん? どこか残ってたか」
    「いいや、きれいだから」
     一度こぼれてしまった本音を誤魔化すことは難しかった。経験上、こういうものは誤魔化そうとすればするほど挙動不審になるとわかっている。だからさもただの思いつきに過ぎないとばかりに平静を装って、何でもないことのようにドクターは言葉を続ける。断りやすいように、子供のような他愛のない言葉に本心を乗せて、そうすればいつものように彼は笑ってそんなことより飯に行こうぜと不甲斐ない友人に本来の予定を思い出させてくれるだろう。そうであってくれと願っていたのに。
    「あんたになら」
     そんな言葉とともに、するりと彼の尾がドクターの手首に遠慮がちに巻き付いた。
    「すべすべだ」
    「新しい鱗だからな」
    「少し柔らかい気がする」
    「脱皮直後だからな。まあそのうち戻っちまうがね。レアだろ?」
     やや湿り気を帯びているとさえ錯覚してしまいそうなほどに、吸い付くような手触りの鱗を夢中で堪能する。彼の尾はやろうと思えば人の首くらいなら容易に絞め殺せるだけの力があることを、ドクターは知っている。だが彼の素敵な尻尾はといえばドクターの手のひらをひんやりとくすぐるばかりで、どうして好きという感情には果てがないのだろうとドクターは少しだけ泣きたくなるほどだった。
    「ドクター」
     気がつけば、後ろを向いていたはずの彼は尾をドクターの手中に残したまま振り返っていた。大柄な彼はドクターに覆いかぶさるように、じっと掴まれたままの自身の尾を見ている。
    「そんなに気に入ったか?」
    「ああ、いいな。私も尻尾が欲しくなったよ」
     その視線にとうとう耐えられなくなり、最後に指の腹でひと撫でしてからドクターは尾を本来の持ち主へと返却した。
    「そりゃあいいな。ドクター、尻尾相撲って知ってるか。お互いの尻尾で引っ張り合う子供の遊びなんだが」
    「私なら本体ごと即引き倒されるだろうな。さぞや幼い君は百戦百勝だっただろう」
    「あれはあれでコツがあるんだ。ようはバランスとタイミングの駆け引きで――」
     先ほどの雰囲気など霧散させて、わざと明るい声で他愛のない話題を振ってくれた彼に差し障りのない言葉を返す。これが彼が許してくれた距離だ。間違えてはいけない。機微に敏い彼のことだから、とっくにこちらの気持ちになど気がついているのかもしれないけれども、見て見ぬふりをしてくれるだけの優しさに、ドクターは今日も甘えていた。
    「そろそろ出ようか、道も混んでいるだろうし」
     だから、ドクターは彼が無造作にゴミ箱に放り投げた脱皮殻のように、今日も自身の心をくしゃりと握りつぶす。
    「しっかしScoutもついてねぇな。いつ帰ってくるんだ?」
    「来月の初めには終わるはずだ。美味しかったらまた彼やみんなも誘って食べに行こう」
    「そのためにも、いろいろ食べて調査しておくべきだよな、ドクター?」
    「艦内じゃないんだから、酔っ払って倒れても引きずって帰れないのは忘れないでくれよ」
     ドクターの忠告などどこ吹く風といわんばかりに上機嫌で肩を組んでくる彼に揺さぶられながら、じわりと伝わる体温にドクターはそっと目をつむった。

    ***

    (フィディアが脱皮直後の尾を触らせる意味なんて、お前さんは知らないんだろうな)
     彼ほどの知恵者であればひょっとしたらすべて承知の上でという可能性もなくはないのだが、どう見ても珍しい研究対象、百歩譲っても医者が患部を診察する時のような迷いのない手つきに、Aceは内心がっくりと肩を落とした。
     フィディアにとっての脱皮というイベントは特別である。一番無防備になってしまう時期であり、同族の中にはわざわざ休暇申請する者さえいるほど、デリケートな期間なのである。特に脱皮直後のまだ鱗の柔らかいタイミングなど、家族か恋人でもなければ近寄らせることすら躊躇われるのが通常で、ましてや触れさせるなど正気ではないと眉をひそめられてもおかしくはない。
     ゆっくりと振り返って見下ろした先、わざわざ手袋を外した白い手のひらが、おのれの新しい尾を撫でていた。ほっそりとした華奢な指先に遊ぶ黒い尾は、撫でられるがままに指の間にきゅるりと絡みついている。その恐ろしいほど淫靡なコントラストにずしりと腹の底が重くなりかけるが、Aceは持てる全ての気力を総動員してその衝動を霧散させた。汚れも傷もない表面を、かさついた指が撫でている。鱗の間をなぞるように、色の薄い腹側だけを辿るように、先端を爪で弾くようにそっとくすぐられた時にはもうこの関係も終わりかと様々なものを覚悟したが、幸運なことに彼の優れた観察眼は手中の尾にのみ向けられていたので何とか取り繕うだけの余裕を得ることができた。
     まさか自身の尾に嫉妬するなんて、人生何が起こるかわからないものである。その指先が戦場でひとたび振るわれるたびに、どれだけの命が失われるかをAceは嫌というほど知っている。ああ、それでも。それでもなお、天秤というものがあったのならば、とっくの昔に彼を載せた側だけが傾いている。もはや友として距離だけでなく、それ以上をすら渇望してしまうほどに。

     そうして万感の思いを込めて、Aceは今日も彼の名前を呼んだのだった。
    「ドクター、そんなに気に入ったか?」


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    DOODLE岳博ギャグ、自分のもちもちロングぬいぐるみに嫉妬する重岳さんの話。博さんずっと寝てます。絶対もちもちロングおにい抱き枕寝心地最高なんだよな…
    180センチのライバル 重岳は破顔した。必ず、この眼前の愛おしいつがいを抱きしめてやらねばならぬと決意した。重岳は人という生き物が好きだ。重岳は武人である。拳を鍛え、千年もの年月を人の中で過ごしてきた。けれども、おのれのつがいが重岳を模したもちもちロングぬいぐるみを抱きかかえて、すやすやと寝台の上で丸くなっていることについては人一倍に敏感であった。


    「失礼、ドクターはどちらに」
    「ドクターでしたら、仮眠をとると私室へ」
     あと一時間くらいでお戻りになると思いますが、と教えてくれた事務オペレーターに礼を伝え、重岳はくるりと踵を返した。向かう先はもちろん、先ほど教えてもらった通り、ドクターの私室である。
     この一か月ばかり、重岳とドクターはすれ違いの生活が続いていた。ドクターが出張から戻ってきたかと思えば重岳が艦外訓練へと発ち、短い訓練ののちに帰艦すれば今度はドクターが緊急の呼び出しですでに艦を離れた後という始末で、顔を見ることはおろか声を聞くことすら難しかったここ最近の状況に、流石の重岳であっても堪えるものがあったのだ。いや流石のなどと見栄を張ったところで虚しいだけだろう、なにせ二人は恋仲になってまだ幾ばくも無い、出来立てほやほやのカップルであったので。
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    DOODLE岳博、いちゃいちゃギャグ。寒い日に一緒に寝る姿勢の話。岳さんが拗ねてるのは半分本気で半分はやりとりを楽しんでいる。恋に浮かれている長命種かわいいね!うちの博さんは岳さんの例の顔に弱い。
    「貴公もまた……」
     などと重岳に例の表情で言われて動揺しない人間はまずいないだろう。たとえそれが、冬になって寒くなってきたから寝ているときに尻尾を抱きしめてくれないと拗ねているだけであったとしても。


     彼と私が寝台をともにし始めてから季節が三つほど巡った。彼と初めて枕を交わしたのはまだ春の雷光が尾を引く暗い夜のことで、翌朝いつものように鍛錬に向かおうとする背中に赤い跡を見つけ慌てたことをまだおぼえている。それからほどなくして私の部屋には彼のための夜着がまず置かれ、タオルに歯ブラシにひとつまたひとつと互いの部屋に私物が増えていき、そして重ねる肌にじっとりと汗がにじむような暑さをおぼえる頃には、私たちはすっかりとひとかたまりになって眠るようになったのだった。彼の鱗に覆われた尾にまだ情欲の残る肌を押し当てるとひんやりと優しく熱を奪ってくれて、それがたいそう心地よかったものだからついついあの大きな尾を抱き寄せて眠る癖がついてしまった。ロドスの居住区画は空調完備ではあるが、荒野の暑さ寒さというのは容易にこの陸上艦の鋼鉄の壁を貫通してくる。ようやく一の月が眠そうに頭をもたげ、月見に程よい高さにのぼるようになってきた頃、私は名残惜しくもあのすばらしいひんやりと涼しげな尾を手放して使い古した毛布を手繰り寄せることにしたのだった。だが。
    2030

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    DOODLE炎さんの同居人モブがひたすら喋ってるだけ。モブは炎さんについてちょっと誤解している。
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     そいつは俺と同じサルカズで、俺とは比較にもならないくらいのイケメンなんだけど、とうとうあいつにも春が来たっぽいんだよ!

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