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    泥さんと話した炎さんが変な夢を見る話。ゴーレムネタです。

    #炎博♂

    emeth 療養庭園にはその日、珍しい人物の来訪があった。

     季節ごとの花々が咲き誇る花壇からは一段奥、作業用の道具などをまとめている一角には樹木と岩石を組み合わせた静かなスペースがある。その中でもひときわ大きな岩の前に、鎧を脱いだサルカズの女性がひとり座り込んでいた。
    「すまない、作業の邪魔だっただろうか」
    「いや」
     マドロック。カズデルの古い家系の血を引く岩と土の主人。噂とは尾ひれがついて回るものとはいえ、彼女についてはあまりにも荒唐無稽な内容のものが多かった。そのためエンカクなどはおおむね話半分でしか信じていなかったのだが、いざ本人を目の前にするとなるほど根も葉もない噂話の十や二十生まれるわけだと美しく整った横顔に妙な得心をえたのだった。
     午前中の作業を終え、道具を戻しに来たときにもまだ彼女はその岩の前に座り込んでいた。少しだけ思案したエンカクは、嘆息とともに一度入り口付近のベンダーコーナーへと向かう。そして二本の水のボトルを手に、彼女のもとへと戻った。
    「今日は気温が高い。お前ほどの者には要らぬ心配だろうが」
    「気遣いに感謝する。ここは友人たちの気配が強くて安心するから、つい長居してしまった」
     移動都市はその性質からできるだけ軽量化を求められる。土や岩などの重量物は率先して除外リスト入りであるため、ロドスでは地下の食糧生産プラントの入室許可を取るか、ここのような庭園以外では岩土と触れ合うことは難しいだろう。
    「源岩の加工を任されることはあるが、彼らは彼らで少し特殊だから、ここのような場所はやはり落ち着く」
    「そういうものか」
     できるだけ邪魔にならないようにだろうか、身体を縮めて小さくなっている姿からは作戦中の一切の敵を寄せ付けない鬼神のごとき様子を想像することは難しい。だがどこかのんびりとした気配の中にも隙のひとつもうかがえぬ様相は、戦士としてのエンカクをいたく刺激した。
    「それにな、ふふ、彼の話がとても面白くて」
     そんなエンカクの内心など気にも留めず、傷だらけの戦士の指が撫でるのは、かたわらの大きな岩だった。その大きな岩は少なくともエンカクがここに来た頃にはあったものだが、そんなに大層な謂れのあるものだとは聞いたことがない。水の礼にか、彼女は秘術の一端をエンカクに開示すると決めたようだった。
    「あなたはゴーレムというものをご存知だろうか」
    「お前が操る巨像のことか」
    「そう。元々は我らの一族の得意とするアーツなのだが、その便利さゆえか昔から模倣されやすくて」
     土石でできた大きな人型。動作こそ鈍重とはいえ破壊力は桁違い、材料となる土も石もそこらじゅうにあるのだから修復も量産も容易とくれば誰だって喉から手が出るほどに欲しいものだろう。だから様々な方法でもって真似をされたのだと、彼女は別段気にする様子もなく言ってのけた。
    「その中でもひときわ興味深い術があって。私たちは友人たちの声を聞くのだが、逆に彼らに人間の言葉を理解してもらう方法を見つけ出した者がいたらしいのだ」
    「それは随分と、迂遠に思えるな」
    「あぁ、なにせ理解してくれたところで、必ずしもこちらの言い分を聞き入れてもらえるとは限らないのだからな。とても危険な方法だ。だが、彼らはしばらくは上手くやっていたらしい」
     彼女が示す岩の表面をのぞき込めば、薄っすらと何か文字らしきものが刻まれていた跡があった。
    「彼が昔もっと大きかったとき、その模造ゴーレムのパーツだったらしくて、見えるだろう? ここに刻んであった文字のおかげで、彼らは一時期だけ人間の言葉を理解したそうだ」
    「……にわかには信じがたい話だな」
    「よく言われる。まあ信じるかどうかはあなたに任せよう。同じ刻印を――真理を意味する文字を刻まれたものたちは当時は大勢いたらしいのだが、伝承すら残っていないのをみるにあまり広まらなかったのだろうな」
    「俺も、聞いたことはない」
    「とまあ話といってもそれだけなんだ。あまり面白いものでなくて申し訳ないが」
    「いいや、十分興味深いものだった。そうだな、いつかどこかで奇妙な文字が残った大岩を見つけたときには思い出すことにしよう」
    「あ、もしもまだ動くものがあったとしたら、文字列の一番端を削り落とせばいいらしい。そうすれば動かなくなるそうだ」
    「それは俺が知っていいものなのか?」
    「うん? 彼が言っているからいいんじゃないだろうか」
     それはその秘術において一番秘するべき最重要機密なのではないだろうか。彼女にとってはただの世間話のつもりだったらしいが、どうも聞いてはいけない世界の一端を掴まされてしまったような非常に何ともいえない気分である。黒々とした地面にぽたりとボトル表面の水滴が落ちたと同時に、定時のサイレンが鳴り響く。聞けば彼女は隊員たちとともに昼食をとるとのことだったので、エンカクは奇妙な気分を抱えたまま庭園での作業を終わらせることにした。


    *****


     それは星の光がひどくうるさい夜のことでした。ぱちりと目を覚ましてしまったエンカクは再び眠りの世界へと戻ろうと二度、三度と目をつむってみます。ですが何度試しても、眠りの気配はやってきてくれません。経験上こういうときは何をしても無駄なので、エンカクは仕方なく起き上がることにしました。
     隣に眠る人間を起こさないように、できるだけ静かにエンカクは身を起こします。狭いベッドの上で丸くなっているのはドクターと呼ばれている男でした。小さな上司はその身体を更に小さく丸めながら、くうくうと呑気に眠っています。その安穏そのものの寝顔を見ている間に段々腹が立ってきたエンカクは、その頬をそっとつつきました。うーん、と安眠を邪魔されたドクターはごろりと寝返りを打って今度は仰向けのままスヤスヤと眠り始めました。その目元に伸びた前髪がかかっていたため、エンカクはため息をついて指先でそっと払ってやりました。しかし、ああ、どうして。寝返りであらわになったその小さな額には、まぎれもなく真理を意味する文字がありました。知らない文字のはずなのにそれが作り物であることをあらわす証であることだけは、何故かその時のエンカクにもはっきりと理解できました。今にも掠れそうな文字は、端のひとつが消えかけていました。おそるおそる持ち上げたエンカクの指先には、その文字と同じ真っ赤な色が。
     気がついた途端に、ドクターの手足がさらりと崩れました。慌てて押さえようとするもその崩壊は止まらず、そして最後に残った顔までがひび割れとともに――――


    *****


    「――ンカク、おーい、エンカクってば! うなされてるけど、鉱石病の発作か?」
     医療部に連絡をしなければ、と慌てて通信端末に手を伸ばす男の手を掴んで、無理やり引き寄せる。
    「いらん」
    「でもすごく苦しそうだったよ」
    「夢見が悪かっただけだ」
     そう、夢だ。ただの夢。あれらの光景は趣味の悪い、支離滅裂なただの夢に過ぎない。だがエンカクは引き寄せたドクターの身体を押さえつけ、強引に前髪をかき上げて額をあらわにした。当然ながら、そこには文字など刻まれているはずなどなく、突然の奇行に目を白黒させる間抜けな男の顔があるばかり。だが当たり前のその光景に、ようやくエンカクは無意識に強ばっていた全身から力を抜いた。
    「……本当に大丈夫かい、君」
    「気にするな」
    「気にするに決まってるだろう! ねえひょっとして何か変なものついてる!?」
    「うるさい」
     自身が抱いたものがまぎれもなく安堵であることなど金輪際認めたくないエンカクは、ドクターを黙らせるために喚き続ける口元へとがぶりと噛みついて悪夢の残滓ごとなかったことにしたのだった。



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    DOODLE岳博ギャグ、自分のもちもちロングぬいぐるみに嫉妬する重岳さんの話。博さんずっと寝てます。絶対もちもちロングおにい抱き枕寝心地最高なんだよな…
    180センチのライバル 重岳は破顔した。必ず、この眼前の愛おしいつがいを抱きしめてやらねばならぬと決意した。重岳は人という生き物が好きだ。重岳は武人である。拳を鍛え、千年もの年月を人の中で過ごしてきた。けれども、おのれのつがいが重岳を模したもちもちロングぬいぐるみを抱きかかえて、すやすやと寝台の上で丸くなっていることについては人一倍に敏感であった。


    「失礼、ドクターはどちらに」
    「ドクターでしたら、仮眠をとると私室へ」
     あと一時間くらいでお戻りになると思いますが、と教えてくれた事務オペレーターに礼を伝え、重岳はくるりと踵を返した。向かう先はもちろん、先ほど教えてもらった通り、ドクターの私室である。
     この一か月ばかり、重岳とドクターはすれ違いの生活が続いていた。ドクターが出張から戻ってきたかと思えば重岳が艦外訓練へと発ち、短い訓練ののちに帰艦すれば今度はドクターが緊急の呼び出しですでに艦を離れた後という始末で、顔を見ることはおろか声を聞くことすら難しかったここ最近の状況に、流石の重岳であっても堪えるものがあったのだ。いや流石のなどと見栄を張ったところで虚しいだけだろう、なにせ二人は恋仲になってまだ幾ばくも無い、出来立てほやほやのカップルであったので。
    2835

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    DOODLE岳博、いちゃいちゃギャグ。寒い日に一緒に寝る姿勢の話。岳さんが拗ねてるのは半分本気で半分はやりとりを楽しんでいる。恋に浮かれている長命種かわいいね!うちの博さんは岳さんの例の顔に弱い。
    「貴公もまた……」
     などと重岳に例の表情で言われて動揺しない人間はまずいないだろう。たとえそれが、冬になって寒くなってきたから寝ているときに尻尾を抱きしめてくれないと拗ねているだけであったとしても。


     彼と私が寝台をともにし始めてから季節が三つほど巡った。彼と初めて枕を交わしたのはまだ春の雷光が尾を引く暗い夜のことで、翌朝いつものように鍛錬に向かおうとする背中に赤い跡を見つけ慌てたことをまだおぼえている。それからほどなくして私の部屋には彼のための夜着がまず置かれ、タオルに歯ブラシにひとつまたひとつと互いの部屋に私物が増えていき、そして重ねる肌にじっとりと汗がにじむような暑さをおぼえる頃には、私たちはすっかりとひとかたまりになって眠るようになったのだった。彼の鱗に覆われた尾にまだ情欲の残る肌を押し当てるとひんやりと優しく熱を奪ってくれて、それがたいそう心地よかったものだからついついあの大きな尾を抱き寄せて眠る癖がついてしまった。ロドスの居住区画は空調完備ではあるが、荒野の暑さ寒さというのは容易にこの陸上艦の鋼鉄の壁を貫通してくる。ようやく一の月が眠そうに頭をもたげ、月見に程よい高さにのぼるようになってきた頃、私は名残惜しくもあのすばらしいひんやりと涼しげな尾を手放して使い古した毛布を手繰り寄せることにしたのだった。だが。
    2030

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    DOODLEおじ炎博、あんまり美味しくなかったのど飴の話。おじ炎さんが考えすぎている。庭園メンバーいつまでも仲良しだととても嬉しい。
    おじ炎さん一人称にした結果、おじ炎さんの認識がだいぶずれてるのでスズちゃんたちがめちゃ小さかったことになってたり鉱石病があんまり脅威じゃなかったりしてるのに博さんの体調にはすこぶる敏感で、自分で書いてて愛じゃん…て勝手にニコニコしていた。
    「だから置いていっていいよって言ったのに」
     何のことを言われているのかと尋ねられたところで、俺に返せるのは無言だけである。だが目の前の人間はといえばその無言からですら情報を引き出しあっさりと真相へとたどり着いてしまうほどの脳みその持ち主であるため、つまるところこれはただの意味のない抵抗でしかないのだった。

     鉱石病というのはそれなりに厄介な病気で、時間をかけて徐々に内臓の機能を奪っていく。そのスピードや広がりやすい箇所には個人差が大きいとされているが、やはり感染した元凶である部分、俺に取っては左肩から喉元にかけての不調が最近とみに目立つようになってきた。そもそもこんな年齢まで生きるつもりもなかったのだと言えば、目の前の妙なところで繊細な男はわかりやすく気落ちして、挙句の果てに食事量まで減らして回りまわって俺が怒られる羽目になるため口にするつもりはない。たかがサルカズ傭兵というそこらじゅうで使い捨てにされる命ひとつにまで心を割く余裕など持ち合わせてもいないくせに、固く握り込まれるその小さな拳をそこまで悪いものとは思わなくなったのは、まさしく病状の悪化のせいに違いない。決してこの男に感化されたわけではない。決して。
    1956

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    DOODLE転生現パロ記憶あり。博が黒猫で花屋の炎さんに飼われている。博猫さんは毛づくろいが下手すぎてもしゃもしゃにされたのを自力で戻せないので、原因にブラッシングを要求しました
    ねことのせいかつ いくら朝から店を閉めているとはいえ、生花という生き物相手の職業であるためやらなければならない作業は多い。ましてや今回の臨時休業の理由は台風、取引先各所への連絡から店舗周辺の点検と補強までひと通り終わらせたときには、すでに窓の外にはどんよりとした黒い雲が広がり始めていた。


    「ドクター?」
     店の奥にある居住スペースの扉を開けても、いつものようにのたのたと走り来る小さな姿はない。しん、とした家の気配に嫌な予感を募らせたエンカクがやや乱暴な足取りでリビングへと駆け込んだとして、一体誰が笑うというのだろう。なにせあのちっぽけな黒猫はその運動神経の悪さに反して脱走だけは得手ときている。植物や薬剤をかじらないだけの聡明さはあるというのに、頑として水仕事で荒れた手のひらで撫でられねば一歩も動かないと主張する小さな生き物に、どれだけエンカクが手を焼いたことか。だがエンカクの心配をよそに、雨戸を閉めた仄暗い部屋の中で黒猫はあっさりと見つかった。キッチンの出窓、はめ殺しの小さな窓には雨戸もカーテンもないため、今にも落ちてきそうなほどの暗雲がよく見て取れた。自身が抱いているものを安堵とは決して認めないものの、やや歩調を緩めたエンカクは窓の外をじっと見つめたまま動かない黒猫の背にそっと立つ。
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