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    よあけ

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    沢深ワンライ【卒業式】【寄せ書き】
    わけわかんなくなっちゃって不完全燃焼ですがリハビリ兼ねて書いたのでまあ良しとしよう

    #沢深
    depthsOfAMountainStream
    #沢深ワンドロライ
    #SD腐

    Hello Another Way沢北を呼ぶことがなくなったのは冬を迎える少し前。でも、それは俺だけじゃなく他の部員も同じだった。離れたばかりの頃は、ことあるごとにその名前を呼んでは、皆で「ああ、もういないんだよな」と笑った。呼んでしまうのは、寂しいからってわけじゃない。そこに〝いる〟のが当たり前になっていたからだ。
    本当に、流れ星みたいな奴だった。突然現れて、二枚目だとかエースだとか持て囃されて存分に輝いて、あっという間に去っていく。あまりの速さに、願い事を3回、繰り返す時間もなかった。
    アイツは紛れもなくエースだった。眩しくて、自信家で、でも、そのために人一倍努力する奴で。その一方、俺たちに見せる泣き虫で強がりなところは年相応の幼さもあり、へらへらと目を細めて嬉しそうにする笑顔に、いつしか惹かれていた。これは誰にも言っていない、俺だけの秘密だ。まさか、部活の主将に恋心を抱かれているなんて、微塵も思っていないだろう。それでいい。夢に向かうアイツの邪魔はしたくない。
    そうして気持ちに蓋をすることで、気付けば〝いない〟沢北のことを呼んでしまうことはいつしか無くなっていた。寂しいとか、会いたいとか、そんなことばかりで押し潰されそうになることが減った頃、俺たちは、ウインターカップで夏の雪辱を果たした。正直、ホッとした。また負けてしまったら、そんな思いはあったから。
    これで笑って卒業できるな、って笑い合ったとき、久しぶりに沢北のことを思い出した。声を聞きたい。素直に思った。

    ウインターカップの結果を報告するため、皆で沢北へ手紙を送ることにした。一枚の紙に、まるで寄せ書きするみたいに一言ずつメッセージを書いた。
    『冬、獲ったぞ』『元気にしてるか?』『金髪美女との出会いはありましたか?』
    皆それぞれに好き勝手に書いた。その纏まりの無さが俺たちらしくて、よく纏まっていたと思う。
    沢北からは電話で返事がきた。その時俺はタイミング悪く寮におらず、声を聞くことは叶わなかった。けれど、電話を取った部員たちの話では、『優勝おめでとうございます』と言って泣いていたそうだ。やっぱり、すぐ泣く奴だ。ああ、会いたい。

    部活を引退して、あとは卒業を控えるのみになった。まだ、受験に追われる奴もいるが、俺はすでに進路は決まっている。
    少しずつ伸び始めた髪の毛がむず痒くなり、同じ学年の奴らと目を合わせては、照れくさくて思わず目をそらした。卒業式の前には綺麗に整えることになっているから、これは貴重な姿でもある。
    寮の自室を片付けながら、3年間に思いを馳せる。山王を選んで、一年からレギュラー入りさせてもらい、主将にまでなった。3年間ベンチにすら入れなかった部員もいるなかで、本当に恵まれていたと思う。もちろん、そのための努力は人一倍してきたつもりだ。けれど、俺も、ずっと応援席で声援を送り続けた部員も、同じだけバスケが大好きだった。それは紛れもない事実だ。だから、誰が優れているとかそういうことじゃない。全員欠けてはならない、山王バスケットボール部の大切な部員だ。だから俺は、ここを選んだことを誇りに思う。
    大好きなバスケに、大好きな仲間。それから。
    沢北栄治。
    輝いてあっという間に去っていった、流れ星のような男。告白できますように、と3回繰り返す時間もないほど足早に駆け抜けていった。
    でも、またいつか会うことが叶うなら、今度は手を伸ばしてみてもいいだろうか。こんな想いを抱いていて、ごめん。だけど、俺は、沢北のことが大好きみたいだ。
    万が一拒絶されても、毎日顔を合わせていた高校時代とは違うから、気まずくなることもないだろう。

     ◇

    いよいよ卒業式を明日に控えた今日、夕食後、皆で伸び始めた坊主頭を整えた。つい最近まで何度も行われていたことなのに、もう懐かしい気がした。やっぱりこれが落ち着くよな、って誰かが言って、皆で笑った。
    それももう、今日で最後だ。

    消灯前にぐるりと寮内を周り、残っている部員がいないか、忘れ物はないか確認した。当たり前だったことが全部最後で、明日からはすることもないのだと思うと、寂しいというよりは不思議な気分だ。
    でも、沢北がいないことに少しずつ慣れていったように、新しい生活にもきっと、いつの間にか慣れていくのだろう。

    点検を済ませ自室に戻ろうとしたときだった。静まり返った寮内に響いた電話のベルに、心臓が跳ねる。誰だ、こんな時間に。そう思いながら電話を取った。

    『あ、よかった、出た』
    「えっ……、さわ、きた?」
    『もしかして深津さんですか?すごい、深津さんが出ますように、って思ってたんです』
    「ピョン……」
    『明日ですね、卒業式。おめでとうございます』
    「うん、ありがとう……」

    気付けば、蓋をしたはずの心から想いが溢れかえっている。慣れたなんて嘘だ。やっぱり、会いたくて堪らない。
    心のなかで、3回唱える。言えた。告白できますように。

    「沢北、好きだ、お前のこと」

     ◇

    春と呼ぶにはまだ早い気がする、寒い日だった。
    卒業式を終え、バスケ部で集まる。
    泣いてる奴も、晴れやかな顔をしている奴も、それぞれに進んでいく。

    「会えてよかったピョン、ありがとう」
    「なんだよ、泣かせるな」
    「辛くなったら、合宿思い出そう」
    「ははっ、それはちょっと嫌だな」
    「……離れても、ずっと仲間だろ」

    大丈夫だ。きっと皆、待っているのは明るい未来。
    何も悔やむことなくここを去れるのは、3年間やり切ったからでもあるし、昨夜の電話で想いを告げたとき、沢北も同じ気持ちだったと知ることができたからだ。
    会えるのはいつになるかわからない。それでも、繋がった想いは俺をこんなにも強くする。
    喜びを爆発させ泣いていた沢北が浮かんで思わず吹き出すと、隣で涙を流していた野辺がこちらを見た。

    「なに笑ってんだ」
    「いや、やっぱりすぐ泣くピョン、と思って」
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