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    岩藤美流

    @vialif13

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    岩藤美流

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    蒼の誓約 4
    恐らく全8話です

    ##パラレル

    魔法使いは罪人に、魔法をかけてあげました。水中でも呼吸ができる魔法です。二人は手を繋いで、ゆっくりと夜の海に入っていきました。
     罪人の炎の髪は、水に濡れてもその姿を不思議と保っていました。何処へ行っても罪は消せない、と罪人は呟きましたが、魔法使いは、自分が必ず何とかします、と微笑みました。
     二人は夜の海へと沈んでいきました。罪人にかけた魔法は人魚のように夜目が利くようにもしてくれたので、暗闇にあってきらきらと海中がまたたいて見えるのは、まるで夜空のようでした。
     罪人は泳ぐのも初めてだと、最初はたどたどしい動きをしていました。それを笑うでもなく、魔法使いは手を繋いで、優しく泳ぎ方を教えてあげました。しばらくすると、罪人も二枚貝程度には泳げるようになって、それから少しずつ慣れていきました。
     ゆっくりと泳ぐ二人の上を、大きな大きな影が通り過ぎます。あれはなに? と尋ねる罪人に、魔法使いは答えます。
     あれはサメというのです。襲われたりしない? この海で僕を襲えるようなものはいませんよ。
     無数の小さな魚が玉のように蠢く姿を、島のように大きなクジラを、宝石のように輝く深海の生物を、二人は丁寧に見つめました。罪人の金の瞳は、確かに喜びに煌めいておりました。そして彼を案内する魔法使いの表情も、いつになく朗らかでした。
     いつしかやってきた双子のウツボも混ざって、彼らは長い時間、海の旅を楽しみました。それはそれは静かで優しい時間が流れていたのです。
     今日は本当にありがとう。でも、そろそろ帰らなきゃ。
     罪人が、そう口にするまでは。



    「帰る?」
     双子たちが何処かへ行って、二人きりでアズールが住処にしている洞窟に入り、魔法の釜などを見せた後のことだ。イデアがポツリと漏らした言葉に、アズールは何故だか体が冷たくなるのを感じた。
    「うん……本当にありがとう、楽しい時間だった。使命を忘れることができたし……アズールは本当に優しくていい人魚だ。また是非遊びに来たいと思う……。でも、帰らなきゃ。何も言わずに来たから、皆も心配しているだろうし」
     この人は何を言っているんだろう。アズールは理解ができなかった。
     帰れば罪を重ねることになるし、いずれはその青い炎に焼かれて死ぬのだ。本人はまだだと言っているけれど、彼の髪は随分伸びている。このまま何もせずに使命を全うさせれば、そう長くはないような気がした。だからこそ、契約を交わしたのに。彼は自らそれを放棄しようとしている。
     ここにいれば。罪を重ねることはない。ここにいれば。人間達の悪感情の最終処理を、彼だけが担うこともないのだ。
    「……そう急いで帰ることもないでしょう。言伝がご心配なら、ウツボ達を報せにやりますよ」
    「ううん、でも、仕事をしなくちゃいけないから、」
    「なにもあなただけが、その仕事とやらをしているわけではないでしょう? 少しの間なら休んでも構わない。あなたはこれまでも頑張ってきたんだ、一休みする時間をしっかりとってもいいでしょう」
    「……だけど……」
     弟に、あんなことさせるわけには、いかないから。
     その言葉が耳に届いた時、アズールは感じた事のない苛立ちにも似た、何か、胸の熱さを覚えた。
     そう、これは、火だ。胸の奥に、背中の内に、脳に、火が付いたようだった。心は冷めきっているのに、何故だか体が、血が沸き立つような不思議な感覚がした。それはアズールの思考よりも先に、言葉を紡ぎだす衝動となった。
    「……帰しません」
    「……え?」
     イデアが怪訝な顔をする。先程まで親しげだった雰囲気が一転して、水温まで下がったような気がした。アズールはイデアをじっと見つめて、言葉を続ける。
    「あなたは僕と契約しました。僕はあなたを解放する。そしてあなたは、僕のそばを離れない。契約は交わされたんです、イデアさん。僕のそばを離れることは許しません。あなたはここにいるんです。僕があなたを、その使命から解放するために」
    「なに……何を言ってるの、アズール。だって……いつでも陸に帰れるって言ったじゃない」
    「もちろん。僕がそれを望むなら、いつでも陸へ戻れますよ。ただ、僕はそれを望んでいません。あなたはここにいるんです。僕が、あなたを使命から解放する方法を見つけるまで」
     イデアの表情が曇る。じり、と逃げようと体に力が入るのを感じ取る。それに合わせて、アズールの8本の足もうねり始めた。
     獲物を逃がさない、そういう動きだった。
    「僕が、あなたを救います。あなたの宿命から。僕は偉大な魔法使い、僕にできないことは何もありません。だから安心して、かわいそうな人。僕に全てを預けて、任せておけばいいんです。あなたはここで何も心配せず、休んでいればいい。それだけだ」
    「……でも、僕は、弟を、」
    「僕の前で! 他の人間の話をするな!」
     びくり、とイデアが震える。ああ、なんだろうこの、胸の熱さは、苦しさは。まるで墨や泥で濁ったように胸が重苦しい、なのに、それこそ火が付いたように熱いのだ!
     イデアがアズールから離れようとした。人間のつたない動きなど、稚魚よりも容易く絡めとれる。幼い頃には散々、ノロマだとののしられたその8本の足でも、容易くだ。
     逃げようとする体を捕まえる。それでももがいて伸ばした手さえ、なにごとか叫ぶ口さえ触腕で押さえ込む。抵抗をねじ伏せ、洞窟の奥へと連れて行く。契約不履行者を一時的に閉じ込める、鉄の檻にイデアを放り込んだ。それは人間達が魚を閉じ込めていた物らしい。今は人間を閉じ込める物だ。
    「アズール! お願い、ここから出して! 僕は帰らないといけないんだよ!」
    「その必要はありません、イデアさん。僕が必ず、あなたの哀れな生を救います。だから安心して。僕に任せてくれたらいいんです」
    「ダメだよ、だって君は、今……!」
     尚も何か叫ぼうとするのが酷く耳障りだ。アズールが一つ腕を振ると、イデアは苦しげに胸を押さえる。イデアの喉は音を作れなくなっていた。声を封じられたことに気付いても、イデアは檻から出ようともがいた。しかし抵抗は虚しいものでしかない。
    「そこでゆっくり休んでいてください。僕は、作業にとりかかりますので」
     アズールはにっこりと微笑んで、檻から離れていく。
     帰さない。手放さない。死なせない。僕以外の名を口にさせない。僕にできないことなどない。僕を求めない者などいない。
     アズールの胸を、頭を、言葉がぐるぐると駆け回る。胸が苦しいのに、酷く高鳴っていた。
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    岩藤美流

    DONE歌詞から着想を得て書くシリーズ①であり、ワンライの「さようなら、出会い」お題作品の続きです。参考にした歌は「A Love Suicide」です。和訳歌詞から色々考えてたんですけど、どうも予想通りタイトルは和訳すると心中だったようですが、あずいでちゃんはきっと心中とかする関係性じゃないし、どっちもヤンヤンだからなんとかなりそうだよな、と思ったらハッピーエンドの神様がゴリ押しました。イグニハイド寮は彼そのものの内面のように、薄暗く深い。青い炎の照らしだす世界は静かで、深海や、その片隅の岩陰に置かれた蛸壺の中にも少し似ている気がした。冥府をモチーフとしたなら、太陽の明かりも遠く海流も淀んだあの海底に近いのも当然かもしれない。どちらも時が止まり、死が寄り添っていることに変わりはないのだから。
     さて、ここに来るのは初めてだからどうしたものか。寮まで来たものの、人通りが無い。以前イデアが、うちの寮生は皆拙者みたいなもんでござるよ、と呟いていた。特別な用でもなければ出歩くこともないのかもしれない。さて、寮長の部屋といえばもっとも奥まっている場所か、高い場所か、あるいは入口かもしれないが、捜し歩くには広い。どうしたものかと考えていると、「あれっ」と甲高い声がかけられた。
     見れば、イデアの『弟』である、オルトの姿が有る。
    「アズール・アーシェングロットさん! こんばんは! こんな時間にどうしたの?」
     その言葉にアズールは、はたと現在の時刻について考えた。ここまで来るのに頭がいっぱいだったし、この建物が酷く暗いから失念していたけれど、夜も更けているのではないだろうか。
    「こ 5991

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    TRAININGぐだマンワンドロワンライ
    お題「天使の囁き/ダイヤモンドダスト」
    はぁ、と吐き出した息が白く凍っていく。黒い癖毛を揺らしながら雪を踏みしめ歩く少年が鼻先を赤く染めながらもう一度大きく息を吐いた。はぁ。唇から放たれた熱が白く煙り、大気へと散らばっていく。その様子を数歩離れたところから眺めていた思慮深げな曇り空色の瞳をした青年が、口元に手をやり大きく息を吸い込んだかと思うと、
    「なぁマスター、あんまり深追いすると危ねぇっすよ」
    と声を上げた。
     マスターと呼ばれた癖毛の少年は素直にくるりと振り返ると、「そうだね」と笑みと共に返し、ブーツの足首を雪に埋めながら青年の元へと帰ってきた。
     ここは真冬の北欧。生命が眠る森。少年たちは微小な特異点を観測し、それを消滅させるべくやってきたのであった。
    「サーヴァントも息、白くなるんだね」
     曇空色の瞳の青年の元へと戻った少年が鼻の頭を赤くしたまま、悪戯っぽく微笑んだ。そこではたと気が付いたように自分の口元に手をやった青年が、「確かに」と短く呟く。エーテルによって編み上げられた仮の肉体であるその身について、青年は深く考えたことはなかった。剣――というよりも木刀だが――を握り、盾を持ち、己の主人であるマスターのために戦 2803