日が、いつの間にか高くなった。
温んだ大気は柔らかく、胸郭深くまで吸い込みながら、郷里とのあまりの違いに、ときおり物寂しくなりもした。春たけて野の緑が濃くなれば、それはなおさらのことだった。
アスクは彼にとって異邦だが、しかしこうも長いこと暮らしていると、気に入りの場所とはいかないまでも、所定の位置ができるものである。中庭の、ライラックの横のベンチがそれだった。人通りも稀なところで、こういう日にひとり本を読むにはちょうどよい。ツバメが高く飛んでいて、ああいい日和だな、と、こんな男ですら思った。枝では、ようよう蕾が膨らんでいる。数日もすれば、溢れるばかりに花ひらくことだろう。
ふとめずらしく他人の足音がして、トラバントは反射的に目を向けた。視線の先でアルテナが、微かに笑って手を振った。
4765