結びつく記憶「何してるの私の棺桶で!」
少し目を離した隙に姿を眩ませたロナルドを追いかけ、ドラルクは自らの棺桶の蓋を開けて叫んだ。
「よぉ、早かったな。」
「おかげさまでね、君の行動にもだいぶ慣れてきたよ。」
悪びれなく笑うロナルドにドラルクは溜息をつきながら肩を落とす。
「…ここだけは絶対だめだからね?」
ロナルドの思惑は分かっている。
ここでしようぜ、と言うに決まってる。
先日抗いきれずに厨房でことに及んでしまってからというもの、ロナルドはベッド以外でドラルクを誘う事に味をしめてしまっていた。
曰く、すげぇ興奮する。
曰く、いつもと違うお前が見れる。
その他にもたくさんの理由を並べられたが、ドラルクにはどうしてもここではしたくない理由があった。
「ここで君としたら私…君がいない事が耐えられなくなるよ。私に眠れない時間を過ごせっていうの?」
ドラルクは努めてしおらしくロナルドに訴えかける。
だがしかしロナルドは、
「むしろしたい。」
事も無げにそう言ってのける。
「…君時々本気で私の話聞いてないよね?」
半ば予想がついていたとはいえ、ドラルクははぁ、と溜息をつく。
「…ねぇ、出てきてよ。」
サラサラとした銀髪を撫でながらロナルドに尋ねた。
「どうしてそんなにここでしたいの?」
一呼吸置いてロナルドが口を開く。
「…お前の匂いがする。」
「?それはそうだろうけど、それがどうしたの?」
気持ちよさそうに髪を撫でられながらロナルドが言葉を続ける。
「だから、マーキング。」
「えぇ…。」
言葉の真意は別にありそうだな、と思いつつドラルクはロナルドに「キスじゃ駄目?」と尋ね、ん、と目を閉じたロナルドにキスを落とし、手を差し伸べて棺桶から出るよう促す。
その手を取り、一旦棺桶から出たロナルドが、ドラルクを抱え上げた。
「えっ?何!?」
ロナルドはドラルクを棺桶の中に座らせ、その足元に自らも入った。
「一回出たぜ?」
ニヤリと笑うと、抗議しようとしたドラルクの口を手で覆う。
「…お前の匂いがするところでしてぇんだよ。」
そう言うとドラルクのトラウザーズのウエストに手をかける。
むぐっ!とドのくぐもった声を無視して前を寛がせる。
「んーっ!」
ドラルクは両手でロナルドの手を剥がそうとするが、ロナルドの手はビクともしない。
「ちょっとだけだ。…なぁ、いいだろ?」
甘えるような声。
銀髪の間から垣間見える上目遣い。
自分を狩るはずの人間が、しかも類を見ない程の極上の人間が、自分を求めている。
掻き立てられるのは畏怖欲?支配欲?
自分を捕えた指がゆるゆると動く。
熱い体温に嬲られて、自らも熱を持っていく。
あぁ、駄目だ。
ドラルクは抵抗を諦めた。
この退治人はもう、自分の言う事など聞いてくれない。
好きなようにさせるしかない。
ロナルドの手を離し、右手の指でロナルドの唇を撫で、左手の指でドラルクの口を覆う手をトントンと叩く。
──ねぇ、これだと君にキスができない。
ドラルクの意図を汲んだロナルドがドラルクの口から手を離す。
「やっと観念したのかよ?」
「…君の期待に沿えられるかどうかはわからないけどね。」
我儘な恋人に口付け、ドラルクはさらに言葉を重ねた。
私はここではしたくないのだから。
ドラルクの言葉に、
「じゃあ、その気にさせてやるよ。」
と、ロナルドが身を屈める。
「ちょ…っ!退治人君!?」
包み込まれた熱さに目眩がした。
整った並びの歯が、ざらりとぬめる舌が、ドラルクを愛撫した。
「ね、ちょっと、離して…っ!」
ドラルクが両手でロナルドの頭をグイグイと押してもロナルドはビクともしない。
それどころか片手で易々と両手を拘束されてしまう。
「そ、それ以上は駄目だよ!?」
深々と己を咥え込むロナルドにドラルクが戦く。
「や、駄目、駄目だってばぁっ!」
喉の奥深くに吸い込まれる刺激に腰が跳ね、ロナルドの喉を突く。
「ご、ごめっ…っ!」
苦しそうに歪んだ顔。
拘束が緩み、長いものがゆるゆると吐き出される。
見せつけるように大きく口を開け、唾液で光る舌をこれみよがしに這わせた。
何という視覚の暴力か。
「ね、もういいでしょ…?」
これ以上は耐えられそうもなく、ドラルクはロナルドに懇願する。
「…そうだな、もう大丈夫だ。」
ロナルドが再びドラルクに食らいつく。
「大丈夫の意味が違うよー!」
与えられる強い刺激に足が震え、腰が跳ね、首が仰け反る。
「やだ、やだ…っ!」
ドラルクが泣いて請うてもロナルドが手をゆるめることはなかった。
「今っ…イッたら当分出来ないよ!それでもいいのっ!?」
ん、と喉がなる音がして、動きが更に激しくなる。
「〜〜〜〜っ!!」
懇願虚しくドラルクはロナルドの口中で果てた。
ゼイゼイと荒い息はなかなか収まらない。
ロナルドはゴクリと喉を鳴らし、「お前のイキ顔、エロいな」と、ペロリと下唇を舐めた。
「の、飲んじゃったの!?」
涙目で叫ぶドラルクに、ん、とロナルドが返事をする。
「美味くはねぇな。」
「当たり前でしょ!!何で飲んじゃったの!」
「お前だって俺の飲むだろ。」
「そうだけどぉ…。」
ドラルクはピスピスと鼻を鳴らす。
「…もう、今日は出来ないかも。」
恨めしそうにドラルクはロナルドを見つめる。
そんなドラルクに、
「…これでもか?」
と、ロナルドは襟を寛げ、
「飲んでいいぜ?」
ニヤリと笑う。
「血を飲んだって無理なものは無理!」
精一杯の反抗。
ドラルクの反抗はしかし、ロナルドの言葉に呆気なく敗北する。
「もう一泊する。って言ってもか?」
ドラルクの瞳が輝く。
「もう一泊してくれるの?じゃあ一緒に眠れる?」
「ああ。」
「私が寝てる間に勝手に帰ったりしない?」
「しねぇ。」
「あ、あと、えーと…。」
「お前がやりたいこと、全部付き合ってやる。」
「ホントに!?」
「ああ。」
嬉しい!とロナルドに抱き着くドラルク。
強くないはずの振動に、ロナルドがう、と声を漏らす。
「どうしたの?」
「…やべぇ。」
「何が?」
「…漏れる。」
「トイレ?早く行ってきなよ。」
「…違う。」
「……?」
「…後ろに仕込んでたヤツが…。」
「えぇ!!?ちょ、何やってるの退治人君!」
「うるせぇ!お前がここまでごねるとは思ってなかったんだよ!」
「とりあえず脱ぎなよ、汚れちゃうから。」
「カッコ悪ぃ〜…。」
ロナルドの衣服を脱がせる。
最後の下着を脱ごうと足を上げた時、小さく「あっ」という声がしてロナルドの内腿にてらてらと光る粘度の高い液体が伝った。
「うぁ…。」
漏れ出る感触が気持ち悪いのか、ロナルドの表情が歪む。
ドラルクは内腿に伝うそれを指で拭い、そのまま後ろにあてがいながら
「ほら、横になれる?」
と、ロナルドを棺桶の中に横たわらせた。
「…何でそこまでここでしたかったの?」
「…マーキングだって言ったろ。」
「それだけなら君が入るだけでいいでしょ?」
「……。」
こぽ、と音がしてまた液体が漏れる。
どは指にそれを纏わせ、ゆっくりとロの中に差し入れた。
「…ねぇ?教えて?」
ゆるゆると抜き差しを繰り返しながら、指の数を増やす。
弱い所を優しくノックすれば、ロナルドの白い首が仰け反った。
首筋に唇を当て、いただきます、と牙を立てる。
溢れる血液が喉を滑り落ちた。
ドラルクが喉を鳴らす度にロナルドの中がきゅうきゅうと締まる。
「…ね?もっと欲しいでしょ?」
ドラルクが問うと、ロナルドはぷいっと目を逸らした。
「…俺の部屋、お前の匂いがしねぇんだ。」
「……?」
「それでもお前の事考えちまう。」
「……。」
「…で、なんか腹が立ったから。」
「……えぇ…?」
「お前も、俺の事考えれば…いいって…。」
ベッドはいつもシーツとか洗ってあって俺の匂い残ってねぇし。棺桶ならお前毎日寝るだろうからここですれば俺の匂いも残るだろうし…嫌でもここでした事思い出すだろうし…。
ごにょごにょと言葉を濁すロナルドの顔は真っ赤だ。
「……もぅ、君って人は…。」
可愛いにも程がある!!
あぁもう!一生君をここに閉じ込めたい!
「そんな事しなくてもね、私は毎日君の事を想ってるよ。」
ドラルクは捲し立てる。
どうしようもないくらい、君を愛してしまっているからね?
そうか、君には私の気持ちが伝わっていなかったんだね。
不安にさせてごめんね?
もう二度とそんな事思わないで済むように、たくさんたくさん愛してあげるね!
「お、おい…?」
「もう一泊で帰れなくなったらごめんね?」
ドラルクはにこりと笑い、ロナルドに口付ける。
ロナルドが自分のまいた種のやばさに気がつくまであとわずか。