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    ししとう

    @44toshishi

    支部にあげるほどきちんと書いてなくてTwitterにあげるには文字数が多い書きたいところだけ書いたものを投げる供養場。

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    ししとう

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    読ドロ。
    映画って本当にいいものですね!

    #ドラロナ
    drarona
    #読ドロ
    oscillatoria

    幸せのかたち 映写機の回るカタカタと乾いた音。
     スクリーンに映し出されるモノクロの無声映画。
    古い映画だ。
     美しい女性と人ならざる者の禁断の恋。
     随分昔に観た時は何故異種族に惹かれるのか、何故障壁を超えてまで添い遂げようとしたのかドには分からなかった。
     人ならざる者は寿命は長いが太陽に嫌われ、人は太陽に背こうとしてもその命は短い。
     辛いだけだろう。
     例え想いあっていたとしても。と。

     ──子供だったのだな、と思う。

     今ならわかる。
     どうしてこの映画の二人が苦難とも思える道を選んだのか。
     仕方ないことなのだ。
     愛してしまったのだから。

    「…ところで、ねぇ?退治人君?」
    「ん?」
    「…何してるのさっきから。」
    「あ?聞かなくても分かるだろ。」

     退治人ロナルドの手はドラルクのクラバットを解き、シャツのボタンを外し、トラウザーズの前を寛がせていた。

    「今日は映画が観たいって言ってただろう?この手は何!」

     古い映画が観たいというロの為に、わざわざ映写機まで用意したのだ。
     ポップコーンは必須と言うからバター風味とキャラメルがけの二種類準備したし、飲み物だってそれっぽい容器にストローまで差した。

    「ねぇ、ちゃんと映画観ようよ。」
    「観てる。」
    「映画観るのにこの手は必要ないでしょ?」

     今まさに黒い下着の中への侵入を試みていた手を制する。

    「観ながらだってできるだろ。」
    「君最初からそのつもりだったんだね…。」
    「この暗さっていうか明るさがいいだろ?」
    「…私は純粋に君と映画を楽しみたかったんだけど?」

     いつもの事ではあるが、ドラルクはいつもよりもガッカリしていた。
     同じ映画を観て、同じ時間を共有したかったのだ。
     二人で過ごした記憶。思い出になればと。
    いつか来るロナルドとの別れ。
     その後もずっと生き続けるだろう自分。
     少しでもひとつでも、ロナルドとの思い出が欲しかった。
     ロナルドがもう訪ねてきてくれなくなっても、その思い出を抱き締めて生きていけるようにと。

     ──私は映画の登場人物みたいに強くはないから。
    映画みたいに艱難辛苦を乗り越えるなんて、きっと私には無理。

     ──でも。

     ──手放したくない。
     お別れなんてしたくない。
     本当の事を言えば、ここから出したくもない。
     誰のものにもなって欲しくない。
     私だけのものにしたい。
     ずっとお城に閉じ込めて、君の世界は私だけに。
     君に似合いそうな服を沢山仕立てるんだ。宝石は好き?きっと何でも似合うだろうね。
     飾り立てた君を独り占めして。
     そうできたなら、あぁ、どれ程素敵だろう!

    「…ねぇ、ポップコーン湿気ちゃうよ?」

     キャラメルを纏わせたポップコーンを一つつまみ、ロナルドの口元に差し出す。

    「ん。」

     ポップコーンをつまむ指先に近づく赤い唇。
     小さく開かれたロナルドから覗く濡れた舌先。
     ちらりと見えた白い歯。
     ロナルドがポップコーンを口にする、ただそれだけの動きが、まるでスローモーションのようにドラルクの瞳に焼き付いた。

     きっと映写機の光のせい。

     ドラルクはドキドキと胸を鳴らす。

    「甘いな。」
    「ひゃっ!?」

     うっとりとロナルドに見とれていたドラルクは、ペロリと指を舐められた事に驚き死する。

    「死ぬなよ。ムードねぇな。」
    「そんな事言ったって!」

     温かくてくすぐったくて、それからどうしようもなくいやらしくて。

    「なぁ、美味かった。もっとくれ。」

     ロナルドが、あ、と口を開ける。

    「指舐めないでよ?」

     ドラルクは再生し、ポップコーンをつまむ。

    「指ごと食べるのも駄目だからね?」

     あらかじめそういうと、ロナルドは小さくチッと舌打ちをした。
     映画を観ながらドラルクがポップコーンをつまみ上げ、ロナルドがそれを食べる。
     流れる静かな時間。
     映写機のカタカタという音だけが二人の間に流れる。
     映画は佳境を迎え、人ならざる者は愛した女性を庇い弾丸を受けて消滅した。
     銀の弾丸だった。
     塵になる間際の彼は満足そうな笑みを浮かべ、何かを言った。

     ──何故微笑む事ができる?自分は死んでしまうのに。

     ドラルクには解せない。

     愛する者を残すのに、その者の行く末が気にはならないのか。
     自分以外の誰かを愛し、愛されたら。
     そんな事を考えるだけで自分なら気がふれそうだ。

    「…ねぇ、彼は最期に何を言ったと思う?」

     ドラルクの問に、ロナルドは

    「…さぁな。」

     と答えた。

    「…女の人泣いてる。なのに何で自分だけ満足そうにしてるのか、私には分からないよ。」
    「実際、満足なんじゃないのか?」
    「?それってどういう…。」

     ポップコーンをつまもうとした手を制され、もういらない?とロナルドを見れば、眼前に美しい青が迫った。

    「お前ならありえねぇな。」

     舌が絡む。
     甘い甘いキャラメルの味。
     唾液が溶け合い、喉を滑り落ちていく。

    「私だって…君の危機なら身を呈すことだって厭わないよ?」
    「…銀の弾丸よりお前の執着の方が強そうだからな。」

     ──まぁ、砂集めて復活するまで待ってやるよ。

     そう言ってロナルドは小さく笑う。

    「それに、俺なら撃った奴をボコる。あんな風に泣くだけなんてありえねぇ。」

     君らしい、とドラルクはクスクスと笑う。

     再び視線が絡まって、唇が重なる。
     そのままお互いの感触を確かめ合うように肌に触れながらソファに倒れ込んだ。
     絡む吐息、混じり合う体温、触れ合う指先。
     映画の場面が変わる度に光の加減が変わり、ロナルドを縁取る影が動く。
     その妖艶とも言える美しさに、ドラルクはごくりと唾を飲んだ。
     カタカタという映写機の回る音の隙間を埋めるロナルドの掠れた声。
     柔らかい内壁を鋭角に突き上げれば、薄闇の中でも分かるほどに白い喉が仰け反る。
     そっと手を伸ばす仕草はキスのお強請り。
     その指先にキスを落とし、違う、そこじゃないと不貞腐れる唇を塞いだ。
     静かに、静かに時間は流れていく。
     やがて映画のエンドロールが流れ、スクリーンは真っ白になった。

    「…映画終わったね、ちょっと待って、ランプ切らないと。」
    「…暗くなるだろ。」
    「火事になるといけないからね。スタンドを付けるから大丈夫だよ。」

     ドラルクは一旦体を起こし、ソファの後ろの映写機のスイッチを切り、「ちょっとごめんね」とロナルドの頭上に体ごと腕を伸ばしてスタンドライトの紐を引いた。

    「ちょ…退治人君!?」

     ロナルドはドラルクの腰をがしっと掴み、下腹から臍、そして鳩尾辺りまでを舐め上げた。

     ───えーっ!!

     急な事に気持ちが追いつかずドラルクは死にかける。が、ここで死んでしまったらロナルドの顔面に大量の塵がかかり、目や鼻、そして口に入ったら大変な事になる!と死にもの狂いで死ぬのを堪えた。
     その必死な形相に、ロナルドが楽しそうに笑う。
     笑わないでよ、とドラルクは半泣きだ。

    「なんだ、俺結構お前に愛されてるな?って思ってよ。」
    「そうだよ、もう…。」

     はぁぁぁ、と大きく息をついてロナルドの体に身を伏せる。
     悪かったよ、とロナルドがドラルクの背中を撫でる。
     その手の温かさにほう、と息を一つついて、ドが顔を上げ、ロナルドにそっと口付けた。

    「…確かめないと、不安?」

     ドラルクのその言葉にロナルドの顔がぶわっと朱に染まり、ぷいっと逸らされる。
     ドラルクその頬に手を添え、優しく自分の方に向かせた。

    「なんだ、私って結構君に愛されているんだね?」
    「〜〜〜〜っ!」

     ドラルクは思う。
     映画の二人は本当に不幸だったのだろうか。
    台詞がないから分からないけれど、もしかしたら自分が思うよりも幸せだったのかもしれない。
     けれどきっと分からなくて当然なのだ。

     ──だって私は彼等では無いから。
     彼等にだって私達のことはきっと分からない。

     それでいいのだと思う。
     違う二人にはそれぞれ違う幸せがあるのだから。
     私の方が幸せだ、なんておこがましいことは言わないけれど、いつか、誰よりも幸せな結末を迎えられればいいな、と、思いながら、腕の下の愛しい恋人にそっと口付けた。
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