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    リノリウム

    @lilinoleilil

    ごった混ぜ
    🐺🦇ですが深く考えないほうがよい

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    リノリウム

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    娘ーサカルートの一幕。こうあればいいなという妄想。
    二年生の夏の思い出。艶やかな浴衣姿の彼女がふと見せる弱みと素直さ。
    彼女のギャップを知るのは俺だけでいいんだ。

    #MZMart
    #MZMart_T
    #サクハコ

    星花は空に降り注ぐ「……ねえ○○。花火がどうして生まれたのか、知ってる?」
     くいくいとTシャツの裾を引っ張られたので隣を見遣ると、思い切り眉間を皺を寄せ口をへの字に曲げる娘ーサカがじっとこちらを見つめていた。
     
     今日は八月一日、皆が待ち望んでいた花火大会当日。
     町で一番広い河川敷で毎年開催されている、地域住民に向けた祭りだ。駅から河川敷に続く道路沿いには、かき氷やたこせん、射的といった屋台が二十ほど並んでいる。あくまで地元に根付いた祭りなので、規模こそ大きいとは決して言えないが、ここはとりわけ娯楽に飢えた田舎だ。年に一度の祭りを待ち望んだ町中の人間が大挙し、駅から続く沿道も人という人でごった返している。
     今宵の祭りに誘ってきたのは娘ーサカのほうからだった。
     数日前俺に向かって「花火のお供にはむさ苦しい野郎より、浴衣の見返り美人じゃない?」だなんていけしゃあしゃあと約束を取り付け、一人取り残され恨めしそうに視線を送る悪友の存在もどこ吹く風。屋台の食べ物を全部制覇する、射的で一等を狙ってやる、だなんて昨日まであんなに意気込んでいた――というのに。
     ……人は好きだけど、人混みはやだ。なんてことも言っていたっけな。
     沿道を埋め尽くす人々にもみくちゃにされ、牡丹柄が美しい浴衣も泣くほど不機嫌そうな彼女。前ぶりもなく突然質問をしてきている。置かれた状況を上手く飲み込めず、俺の思考はそこで一瞬完全に停止し、返答に窮した口はそのままどもり声を情けなく漏らした。
    「わ。どこから出てくんの、そんな声」
    「うるさいな、だっさい声で。そういう娘ーサカは知ってんのかよ。炎色反応がどうこう、とか教科書通りの回答はなしだぞ」
    「当たり前でしょ。それにそれはアタシじゃなくてあの子……理科室の座敷わらしの管轄だし」
     ああ、ホム子のことか。本人の雰囲気ともぴったりで、理科室の座敷わらしとは言い得て妙だ。喩えの引き出しの多さに感心していたが、隣の彼女は何故か余計不機嫌になり、ハムスターみたく頬を膨らせている。
    「……なんだよ」
    「デート中に他の女のこと考えるんだ?」
    「言いだしたのはそっちだろ!」
     強めに反論すると、俺の予想通りの反応が嬉しかったのか彼女は「アハ、ちょっとからかっただけだって」とくすりと笑うと、表情を少しだけ柔らかくさせた。笑うと無邪気で可愛いのに、尊大な態度と正面からの正論パンチで他の男をビビらせてばかりなんだから。勿体ない。
    「……まあいいや。何なんだよ、その、花火の生まれたきっかけ? ってやつ」
     聞いてやるぞと合図を送ると、彼女はコホンとわざとらしく咳払いをしたのちに、「諸説ある、とはいうが」と前置きをした。
     
    「織田信長が爆竹を鳴らしながら馬を駆け走らせたのが、日本で最初の花火でないかと言われている。それから戦乱の世が終わった江戸時代、銃や狼煙といった武器としての火薬が使われなくなり、困った火薬屋は観賞用の花火を扱うようになったらしい」
     コツコツと下駄の踵を鳴らしながら、彼女は得意げに述べる。鼻にかかったチャーミングな声と似合わず、授業で決して触れられない歴史の雑学が饒舌に語られていく。そのギャップに驚きながら、本当に何でも知ってるんだな、と俺は感心するほかない。
    「江戸時代に入ってからだと、あの東京の有名な花火大会。飢饉や流行病のせいで江戸にて多くの死者が出た年、当時の将軍徳川吉宗が慰霊と悪病退散を目的に祭りを執り行った。その際に花火を打ちあげたのが、今の花火のルーツだと言われている」
    「へえ。流石歴史に名を残した将軍様、立派なことをするもんだ」
    「ホント素敵。話だけなら、ね。……ただこの話、よく調べると何だか妙で。他の江戸時代を記録している文献によると、当時人々がバッタバッタ死んだ飢饉も流行病もなかったそうよ。ねえアンタ、これがどういうことか分かる?」
     また、だ。何の前ぶりもなしに質問を振ってくる。
     自分のテリトリー内に誘い込んで、会話の主導権を掌握したと分かりきったうえで、自分こそが強者だとマウンティングするためにわざとらしく質問し、獲物の反応を伺ってくる。こういうところだよ、コイツのよくないところは。恐れず正面から堂々と主張してみせよう。
     ……とはいえ、黙りこくることは許されない。俺は必死に頭を回転させとりあえず思いついたことを口にしてみる。
    「ううん……文献がデタラメだった、てのは違うな。そんな三流ゴシップ誌が今の世まで残るはずがない。……ん? 娘ーサカが言ったその、花火大会の成り立ちの話、本当に文献に残っている話か?」
    「いいところに気がついたね、キミ」と、彼女は誇らしそうに鼻を鳴らした。
    「そ。アタシが言ったこの話はあくまで伝承、人から人への言い伝えでしかない。些細な事実が噂話として広まるうちに色んな尾鰭がついて、まったく別の話がでっち上げられる――なんて今でもしょっちゅうあるし。……ところで、心優しい将軍だとか流行病だとか慰霊だとか、センシティブなワードでしこたま脚色して、皆が言いふらしたくなるような感動物語に仕立てた人物が、江戸の民草でなかったとしたら? 火薬をどうしても売りさばきたい火薬屋だったとしたら、どうする?」
     そこまで言い切ると、彼女はニイと口を引き結び悪そうな笑みを浮かべた。
    「……江戸の火薬屋ってそこまで金に困ってたのか」
    「いいや。金に困ってたのは当時の小さな火薬屋じゃない。金を独り占めしたくて仕方ない、資本主義の奴隷に成り下がった今時の花火屋だ。この花火大会の成り立ちの話が広まったのは近代日本になってから……たぶん、昭和に入ってから、らしい」
     ふう、と彼女は気怠げに溜息をつく。
    「こんな人混みでわざわざ花火を観たがるアタシもアンタも、ここにいるみーんな、が。結局資本主義の名のもとでっち上げられた誇大広告に踊らされているだけなの」
     
     時間は決して止まらない。所狭しと歩道を埋め尽くす人々は皆せわしなく、肩と肩がぶつかるのも気にせず人の波を掻き分けていく。
     彼女の歩みがだんだんと緩やかになっていく。俺もそのスピードに合わせる。
     その瞬間、この世界から、俺と彼女のたった二人だけが取り残されてしまいそうな気がした。
     自嘲気味にぼやく彼女の横顔が、いつもの制服姿での堂々とした印象とまるっきり違っていて、そこはかとなく漂わせるアンバランスな雰囲気に俺は自然と魅入られていた。
    「おまえ、さっきからぶつぶつと言ってばっかだけど。昨日までは屋台も花火もあんなに楽しみにしてたじゃないか」
    「……かき氷は食べたい。焼きそばも」
    「食べに行かないのか?」
     そう尋ねると、彼女はしばしの無言の後、「人混みで疲れた。暑い。足も痛い」とようやく吐き捨てた。
     やっと本心を言ったか。地に足のつかないやり取りの終着点がようやく見えてきて、俺はほっと安堵する。
    「娘ーサカ」
    「なに」
    「今日、めちゃくちゃ頑張って来てくれたんだよな」
    「え?」
    「その浴衣、絶対着るの大変だったろ。それにそのアップの髪型と赤い髪飾り。いつもの二つ結びとは雰囲気が全然違う。……ありがと。すごく似合ってる。可愛い」
     そう告げた瞬間、彼女が驚いた表情でこちらを見上げ、それからみるみるうちに頬が朱色に染まっていった。
    「………遅い」
    「俺も舞い上がってて、言うの忘れてた」
    「しかも何よ、その取って付けたような説明。褒めことばじゃなくて説明文じゃない」
    「言わないよりはマシだろ」
    「そうだけど、も」と反論の歯切れが悪くなり、照れ隠しか彼女の視線はふわふわと宙を泳いでいる。
     ――学校中に名を轟かせる正論小動物も、自分のことになるとてんで弱っちい、ただの守られる小動物だな。彼女のこの可愛らしいギャップを知る者は、俺の他にあとどのくらいいるのだろうか。
    「あそこの土手、ちょうど二人分のスペースがあるだろ。休んでなよ。焼きそばも唐揚げも買ってきてやるから。もちろんかき氷もな。シロップはいちごで……」
     リュックからレジャーシートを取りだそうとする俺の腕は、予想外に強い力で掴まれ、それ以上の動きを阻まれた。
    「………行く」
    「え、何て」
    「アタシも一緒に行く、屋台!」
    「足が痛いんじゃなかったのか」
    「歩けないほどじゃない。それに一人じゃ持ちきれないでしょ、そんなたくさんの量」
    「へえ、食べるつもりなんだ、そんなたくさん。食べ過ぎるとお腹壊すぞ?」
    「う、うるさいな! アンタも一緒よ! ほら早く行こ、さっさとしないと花火が始まるでしょ!」
     急かすように早口で捲し立て、テコテコと小刻みに踵を鳴らしながら彼女は先を進む。元気を取り戻したその背中を眺めながら、やれやれといった気持ちで俺も後に続いた。

     ***

     片田舎の小さな花火大会といえども、町中の人間が楽しみにしている年に一度の催しだ。
     川岸の端から端まで埋め尽くすナイアガラの滝を皮切りに、本日のメインイベントが始まると、人々は皆静かに空を注視した。
     ドン、ドンドン、パッ。
     赤や水色、白に緑。流行の音楽に乗せ、大小色とりどりの花火が打ち上げられる。時折キャラクターを模した花火が打ち上がると、そのたびに子供たちの嬉々とした声が湧き起こる。
     真っ黒な夜空に大輪の花が次々と咲いていく。綺麗だ。
     そう思いながら隣の娘ーサカに視線を移すと、閃光に照らされた横顔は、さっきのうんちくが嘘みたいに晴れやかで、満ち足りたように輝いていた。
     そのうち前半のトリと言わんばかりに、たくさんの花火が次々に射出されていき、大きな光の花を夜空一面に満開になる。
    「わあ……」
     無意識のうちか、知ってか知らずか。彼女は感嘆の声を小さくあげた。
     咲き誇った花はパラパラと音を立て、残り火が星屑のように落ち、そして暗闇へ消えていく。
     目の前に迫る光景が美しく、少しばかり儚げで、俺も彼女もすっかり心奪われていた。肩を並べて同じように思いを馳せるひとときが、ずっと終わらなければいいのに。俺はひそかに名残惜しく思った。

     五分の休憩のアナウンスが流れたのち、先に口火を切ったのは隣に腰掛ける娘ーサカのほうだった。
    「本当一瞬だけ燃えて輝くだけだってのに。綺麗よね、花火って」
    「ほんの一瞬だからこそ、じゃないかな。大きな輝きが夜空に燃え、瞬いて、そして散っていく。これが見られるのは年に一度の今日、わずかな時間だけ。そんな現実離れした情景に、みんな侘び寂びを覚えて心を打たれる。楽しかった思い出と共に、また来年も来よう、って強く願うんだ。きっと」
    「そういうアンタもそう?」
    「……どちらかと言えば」
    「ふうん」と彼女は納得したように喉を鳴らした。「それならば、資本主義の奴隷たる花火師の努力も、決して無駄じゃないってわけね」
    「そうだね。少なくとも、娘ーサカの面白いうんちくを聞きながら一緒に楽しむこの時間は全く無駄じゃないし、楽しいと思ってるよ、俺は」
    「……そう言って機嫌取りをしようなんてまったく、ずる賢いんだから」
     今決して、そういう話の流れではなかっただろうに。有りもしないこちらの真意を見透かそうと眉根を吊り上げる彼女を前に、俺は思わずため息をついた。
    「人の好意ぐらい素直に受け取れよ。……ったく。おまえの話、正論ストレートアッパーも嘘か本当か分からないような話も全部、めちゃくちゃ面白くてちょっと羨ましいくらいなんだからな」
    「そうなの?」
     彼女はきょとんと目を丸くさせる。自分にはてんで無頓着なやつだな、本当に。
    「たまに怖くなるときもあるけどさ。でもそれも、おまえの持つトークスキルの高さゆえ、だろ。やっぱ尊敬するよ」
     娘ーサカが素敵な女の子だって事実を、俺の心のうちを包み隠さず打ち明ける。すると彼女は、首を右へ左へと傾げ、どうにか飲み込もうと試みて、それから肩をきゅっと縮こませた。
    「――アンタだけなんだよね、アタシの話をちゃんと聞いて相槌を打ってくれる男子って。アタシが楽しくべらべら喋ってるとだいたい、冷ややかな視線を浴びせられる。遠巻きでこっちを眺めているだけのやつなんかとくにそう。特段アタシに喋りかけるわけでもなく」
     そういう態度をとる男子側の心理も分からなくはない。自分より遙かに小さくて生意気な女に、弁舌で圧倒され知識量で負け面白さで魅了されそうになって、全てにおいてマウントを取られそうになる。全然面白くない、気に入らない、遠くから茶化して下げてやろう。だなんて姑息に考えを巡らすのも当たり前の話だ。
     理性が理解を示す一方で、俺の心のうちは密かな優越感で満たされ、ぶるりと熱を帯びて慄いた。
    「全員が理解できなくったって別にいいだろ。俺なら聞いてやれるさ、娘ーサカのとびっきり面白い話」
    「……馬鹿。向こう見ずなやつ」
    「素直な馬鹿は悪いもんじゃないだろ?」
    「ま、ね。………ありがと、○○。アンタを誘って、ほんとによかった」
     視線と視線が正面からかちあう。俺の視界に映るのは彼女たったひとりだけ。
     可愛らしい。守りたい。吸い込まれる。
     衝動に堪えようと唇を噛み締めた瞬間、夜空に一輪の花火が打ち上がる。
     刹那照らされた彼女の表情は、今にも泣きだしそうなほどに綻んでいた。
     
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    リノリウム

    DONE※左右とくに定めてませんが製造元は🐺🦇の幻覚を見がち

    もし🐺の日常が🦇ごと全部ひっくり返ったら?
    イマジナリー兄弟回の🦇一歳弟妄想から着想を得ている
    BLかもだいぶあやしい🐺のサイケデリック話ですが、肉体関係あり前提なので_Bタグです。
    とある木曜日のイマジナリー そりゃあ俺だって一人よりは二人のほうがいいと思うさ。
     一人じゃ抱えきれない強烈な不安が目の前にあったとしても、誰かと折半して互いに勇気づけ合えるならどうにか堪えられる。それに同じ楽しみも誰かと共有できるなら、その喜びは何倍にも膨れ上がっていく。
     〝自分ではない誰か〟という存在は何にも代えがたいものだ。かつての狼のコミュニティでは言わずとも当然の共通認識であったし、東京というコンクリートジャングルに出てきてからもその恩恵に何度何度も救われていた。
     コーサカという男が俺にとってのその最たる存在なのは事実だ。何やかんやでずっといちばん近くでつるんでいる。彼を経由して俺自身も知人友人が増えていく。
     そんな毎日が楽しくて仕方ない。刺激に溢れている。飽きる気もしない。それでいて安心して背中を預けられる。感性が一致している。自分の生き様に誠実だ。言葉交わさずとも深く信じている。
    7763

    リノリウム

    DONE #MZMart

    🦇と🐺の二人が心配で仕方ない🎲の話。
    🚬をちょっぴり添えて。情と義に厚い🎲さんは素敵。
    寿命が違う仲良し煩悩組のあれこれ。連作その3。
    ※各々の寿命の設定については完全に捏造。捏造ありきの創作物として大目にみてください。
    リフレイン・メモリー③ それがたとえ定められた運命だったとしても。大切な友をひとりきりで、時の流れに置き去りにすることなんて出来ない。叶わぬのならせめて、側で寄り添わせてくれ。彼の気が済むまでずっと。
     
    ***

     連休を前に街中はどことなく浮き足立ち、華金の酩酊を今かと待ち望む雑踏で大通りが埋め尽くされている。
     そこから一本入った筋に佇む、青いのれんが軒先に吊り下がっている居酒屋。店主とその女房、お手伝いの三人で営むその店は、手頃な値段にもかかわらず料理の味はピカイチで、それらに合う酒も多数取り揃えられている。普段は人通りも少なく静かだが、今日は流石に常連客で賑わっていた。
     誰にも教えたくない、とコーサカが言い切ったその店に呼び出されたのは、司とホームズのお馴染みのメンバー。店内に一角だけ存在するボックス席を三人で囲み、ようやく運ばれてきたビール片手に小気味よく乾杯した。
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