誰も知らない レンが扉を開けた時、鏡の前に立っていたのは水色の髪をした少年だった。彼は手を止めて一瞬扉のほうに目を向けたが、「ああなんだ、知らない人か」という時の仕草で、すぐに目線を手元に戻し、蛇口を捻った。レンもまた「知らない人」と一瞬目が合った気まずさなど忘れて、友人と喋りながら彼の後ろを通り過ぎた。すでに出口に向かおうとしていた彼の指先をこっそりと掠めながら。水色の髪をした少年はわずかに動きを止めたが、指先を掠めたのなど偶然に過ぎないとでも言うように、楽しそうに談笑を続ける彼らの声を耳に残したまま、すぐにその部屋を出て行ったのであった。
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水色の髪の少年が彼の部屋を訪れた時、彼はアコースティックギターを抱えて気まぐれに指で弦を弾いているところだった。ぽろん、ぽろん、と音がまどろみこぼれていく。彼は手を止めて少年を見上げると、にっこりと嬉しそうにほほ笑んだ。
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