天気予報は一日曇り。ならば大丈夫だろうと傘を持ってこなかった。それが帰る頃には結構な土砂降り。
「どうすっかなぁ」
「何がどうすっかなぁなんだよ?」
急に背後から声がして振り返れば、仁王立ちでこっちを見る五条先輩。傘がない事を伝えると、仕方ねぇなと呟いて手を繋がれた。え? 何々?なんてふためくのを他所にそのまま歩き出すから、一緒になってザザ降りの空の下へ。——濡れる。そう覚悟して思わず目を閉じたが、一向に体に当たる素振りはない。恐る恐る目を開けば、確かに全身を叩きつけるように雨が降り注いでいるのに、まるで当たっていないのだ。何の仕掛け? と隣の五条先輩を見上げれば、それはもう絵に描いたようなドヤ顔で。
「これが無下限」
「……先輩すげー!」
それから悠仁は雨の日に先輩を見つけると、傘があろうとなかろうと、「せ~んぱい♡」なんて手を繋いでくるようになった。勿論五条の邪魔にならない時を見計りつつ。虎杖に恋心を抱いていた五条からすれば、それはとても嬉しい誤算だった。いつもは自分からスキンシップを図りに行くのに、雨の日は悠仁から来てくれる。しかも機嫌を損ねまいと、わざとらしく甘えた声で。拒否する訳なんてないのに。
そんな日々が過ぎ、任務で一緒になったある日。東京は晴れていたのに、北に向かうにつれ雪がチラつき始めた。天候どうこうの前に、一緒の任務という事に五条は浮かれる。新幹線の中、始終自分だけに向けられる笑顔が眩しくて、つい照れ隠しに冷たくあしらう事もあったけど、悠仁もいつもの事だと気にも留めず、あっと言う間に現場に着いた。
駅を出れば静かに降る雪。後ろからの猫なで声を期待するも一向に無く。
「悠……」
「雪だ~」
そう言ってはしゃぎながら前を歩きだす。現場までそんなに遠くはないとは言え、なんとなく雪に負けた気がして、足元に積もる雪を蹴散らしながら五条も歩き始めた。
任務は難なく終わった。悠仁もめきめきと力をつけ、二級相手にも怪我をすることはない。さっきまで深々と降っていた雪はいつしかみぞれ混じりの雨へと変わり体を冷やす。それでも一向に悠仁は寄ってこない。都合よく使われるのも癪に触るが、このまま風邪を引かれるのはもっと癪に障る。濡れたまま前を歩く悠仁に、しびれを切らし手を攫う。すると振り返る悠仁が驚いた顔で見つめてきた。急に触れたからじゃない。繋いだ手がとても冷たいからじゃない。白の毛先から、ポタポタと雨が落ちるから。
「寄ってく?」
数メートル先、ネオン看板のある建物を指さした。