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    kapiokunn2

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    kapiokunn2

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    冬雪くん視点の丞紬。新しい春に。

    俺の弟たちの話。 俺には弟がいる。俺より背がでかくてガタイも良い。スポーツもできる。愛想はあまりないけど整った顔で昔から女の子に人気があった。大学を出てからは役者をやっていて、劇団で良い仲間に巡り会えたこともあってか最近また良い男になった気がする。褒めすぎ、と言われても心からの本心なのだから仕方がない。
     もう一人の弟は、身長は低くはないけどとにかく細くてひょろりとしている。昔からそうなのだ。にこにこよく笑うし、やさしい顔立ちで誰とでもすぐに打ち解けられる。花の世話をするのが好きで、やっぱり役者をやっていて、今ではずいぶん頼りがいのある男になった。
     実を言うと血が繋がっているのは一人目の方で、二人目はいわゆる幼馴染だ。しかし俺にとっては二人とも大切な、かわいい弟たち。性格も趣味もほとんど反対なくせに「とにかく芝居好き」というところだけは同じ。俺はそんな二人をずっと見て来た。

     弟の名前は丞、それから月岡紬。紬が大学を出た後はこの町を出て他の場所で就職すると決めたと聞いて、俺はすぐに丞の顔が浮かんでしまった。どうして、と理由を尋ねようとしたが、紬の表情を見たら何も聞けなかった。もう一人で決めてしまったのだ。
    「来月の頭には引っ越すんだ。でもすぐに帰って来られるところだから」
    「そっか。ばあちゃん寂しがるから、ちゃんと電話してやれよ。俺にも連絡くれ」
     うん、と紬は嬉しそうに頷いてくれた。
    そのどれくらい前だったか。家に帰ってきた丞の表情があまりに不機嫌、というか暗かったので、ひとまずは何も聞かずにいようと思った。しかし、リビングを出て行くときに丞はぽつりと言った。GOD座に受かった、と。
    「すごいな、おめでとう!」
     あの大人気の劇団のオーディションを丞が受けるのは知っていた。紬も一緒だというのも。しかし丞はそれ以上何も言わずに自分の部屋にさっさと行ってしまった。受かったのに、やりきれなくて仕方ないというような顔が心配だったが何も言えなかった。そう、紬と喧嘩して帰ってきた時と同じ顔だ。あっという間に冬は終わり、桜ももうすぐという頃、紬は天鵞絨町を出て行った。丞も、一人暮らしを始めた。二人の弟がいっぺんに離れて行ってしまったのは寂しかったが、もう会えないわけじゃない。丞は俺が仕事の間に家を出たが、紬が引っ越す日はたまたま非番だったので駅まで見送りに行った。またね、笑顔でそう言って改札に向かって行った。細い肩が、何だかさらに細く頼りなく見えたのをよく覚えている。
     ずっと一緒に演劇をやっていくと決めていた二人が別々の道を歩み始めた。その時の俺の気持ちはまるで、失恋したときのようだった。もうどうにもできず、別れるしかない。ただただやるせない恋の終わり。三人で花見をすることも、もうないのだろうか。そんな寂しさをただ、膨らみ始めた桜の蕾を見て感じていた。

    「丞、これはどこに置くんだ?」
    「ねえ丞、黄色いカーテンってどの箱にしまったっけ」
    「いっぺんに聞くな!」
     段ボール箱を三つ重ねて抱えた丞に怒鳴られた。腕捲りをし、きちんと軍手をして作業する姿はまるで引っ越し屋と変わりない。丞がよく働くお陰で荷物の運び込みがだいぶ早く終わりそうだ。
     この春から丞と紬が二人暮らしを始めることになった。これまで住んでいたMANKAI寮からもさして離れていないところにあるマンション。L字型のバルコニーに惹かれたらしい。きっと、たくさん植物が置けるからだ。
    「大体カーテンなんて後でいいだろ」
    「そうだけど…俺、大して力仕事できないし付けられるものは付けちゃおうと思って」
    「わかったわかった」
     二人のやり取りは相変わらずだ。丞は、箱を一つすぐに見つけ出してリビングの窓際に置いた。
    「ありがとう」
    「じゃあできるとこは頼む」
     築年数はそこそこだが、最近リフォームされたばかりでいい部屋だった。納得のいく部屋が見つかるまで、忙しい合間に随分沢山の物件を訪れたのも、この二人らしい。
     引越しの日、非番なら手伝いに来て欲しいと丞が連絡をくれた。丞から連絡をよこすことなんてほとんどないのでそれだけで俺は嬉しかった。いい歳の弟だが、俺にとってはいつまでも二人はかわいいままだ。作業はどんどん進み、家具や家電の設置があっという間に終わった。荷解きはゆっくりやればいい。
    「あっという間に夕方だね」
    「だな。俺が奢ってやるから、少し片付けたら飯でも食いに行こうぜ。引っ越し祝いだ」
    「ほんと?」
    「勝手に二人で話進めるなよ」
    「あ、」
     紬が窓の外を指さした。
    「せっかくだからお花見行かない? そこのスーパーでお酒も買って」
     バルコニーから見える公園の桜はちょうど見頃だった。ライトアップもされているようだ。
     じわ、と胸の奥が温かくなる。俺たちは昔からよく三人で花見に行った。まだ小さい時は、俺が二人の手を引いて満開の桜の下を歩いたものだ。分かれた道がまた一つになることもある。また歩いている途中で別々になることもあるかもしれないが、絶対にまた一緒になるはずだ。

    「行こう、冬雪くん」
    「スーパー混みそうだし早く行くぞ」
     あの、やけに寒く感じた春のことはきっと二人も忘れてはいない。振り返って俺を見ている丞と紬を見て涙が出そうになった。歳もとったし、涙もろくなってしまったのだろうか。ずっと見てきた弟たちの関係の変化に気が付けないほど鈍くはない。これからもずっと、お前たちのこと見守らせてくれよ。春の風に吹かれながら三人で歩いた。昔と同じように。
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    kapiokunn2

    REHABILI二人は俺の推しCP。的な感情の至視点の同棲丞紬です。
    春も嵐も。 遊びに行くのは二回目だった。一回目は、二人が引っ越してすぐ。あの時はまだ開けていない段ボールがいくつかあったけど、あの二人のことだから今はすっかり片付いているだろう。シンプルで無駄なものがなくて、でも所々にグリーンやちょっと独特のセンスな雑貨が置いてある、それぞれの譲れないところがよくわかる部屋。駅からの道は何となく覚えている。わからなくなっても地図アプリ使えばすぐわかるし、と俺は記憶を頼りにぶらぶらと歩いた。ぶら下げた保冷エコバッグの中には大量の差し入れ。ここに来る電車の中では、カレーのにおいが車内に充満してしまわないかとちょっと不安だった。
     確かコンビニがあったはず、と角を曲がった。記憶は間違っていなかったようで、すぐ先にコンビニがあって、そこからまた少し進んだところのマンションの前で俺は足を止めた。エントランスの脇に小さな花壇があり、カラフルな花たちがそこを彩っていた。片手に持っていたスマホで電話をかけた。着いたよ、と伝えてエレベーターで三階へ。三階くらい階段上れ、と誰かさんには言われそうだが俺はなかなかに重い差し入れを持っているのだ。許されたい。廊下の突き当たり、一番奥の部屋。思えばもうそれなりに付き合いの長い友達の家なので緊張するのもおかしな話なのだが、インターホンを押すのはちょっと勇気が必要だった。そういえば俺、友達の家に行くとかもほとんどなかったし、一応付き合ったことのある彼女の家なんて一度も行ったことない。きっとここに住んでる二人は、お互いの家もまるで自宅みたいに行き来していたんだろうな。よし押すか、と俺は人差指でインターホンのボタンをロックオンした。するとだ、押してないのにドアが勝手に開いた。俺もついに不思議な力に目覚めたのかと思いきや、ドアの向こうから現れたのは家主の紬だった。
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