七は一部の人にめっちゃ刺さるタイプ(イメージ)「お姉ちゃん!」
入学式から数日後、同じ学校に通う妹が部屋に突撃してきた。
「なに?」
「ウチの学校に王子様がいるの知ってた!?」
「王子様?」
「金髪碧眼の!」
ウチの学校にいる金髪碧眼の王子様。頭に一人の男子生徒が浮かんだ。
「七海くんか」
「知ってる!?」
「去年同じクラスだったからね」
異性に興味のない私が彼を認知していた理由。それは毎日顔を見る機会があったからだった。
「そうなの!?いいなー!毎日あんな笑顔見れるなら眼福じゃん!」
「笑顔…?」
笑顔という単語と彼がまったく結びつかない。思い浮かぶのは無表情か不機嫌そうな表情くらいだ。…いや、最近見たな。その穏やかな笑顔とやらを。
「彼女いたりするのかなー?お姉ちゃん知ってる?」
「…彼女はいないんじゃないかな」
「本当!?じゃあ狙ってみようかな」
嘘は言っていない。彼女はいないのは周知の事実。けど。
「…七海くんを見かけた時、誰かと話してなかった?」
「見たのが登校中だったから、隣の男子と話してたと思うけど…?」
それがなにか?と疑問を呈す妹に現実を突きつける。
「…その子が彼氏だよ」
「え!?」
しばらく考え込む妹。そうだよな、普通はいないもんな、王子様に彼氏は。
「そっかー、彼氏持ちかー、なら仕方ないな」
「受け入れるの早いな」
「一応腐女子ですから」
「婦女子?」
「こっちの話。…お姉ちゃんこそ他人の恋愛なんて興味ないのに珍しいね」
顔を私のコレクション棚に向けて息をつく。うるさいな、私はホラーとスプラッタしか愛せない女なんだ黙っていろ。
「有無を言わさず見せられたからね…」
「なにを?」
「告白現場とか、いろいろ」
「詳細kwsk」
「くわしくって言ってもね…」
大したことはない。放課後に灰原くんが告白しに来て、七海くんが了承しただけのことだ。だがそれが妹にはささったらしい。灰原君についての情報をねだってきた。
「灰原くんの写真ないの?」
「あるけど…」
「あるの!?」
「今年同じクラスになったからね」
ほら、と先日撮った集合写真を見せる。
「おぉ!王子様と真逆の系統だ!…ねえ、二人はクラスが違うんだよね?一緒にいるのが見れるのって登下校くらい?」
「昼休みにいつも七海くんが灰原くんに会いにウチのクラスに来てるけど…」
「お姉ちゃんのクラスって、あの別棟にある?」
「そう」
ウチの高校は変なつくりをしていて各学年一クラスだけ校舎が違う。私がその別棟のクラスで妹は本棟のクラスだ。
「そっか。…わかった」
神妙な顔をして帰っていく妹を見送った後、改めて手元の写真に視線を落とす。大きな目で正面を見据える男子生徒。彼もまた金髪の王子様が教室に入ってきた途端に常とは違う柔らかい笑みを浮かべることをふと思い出した。
***
翌日。
「あのっ!いくら貢げばお二人のツーショのチェキとサインをもらえるんでしょうか!?」
「誰か知らないけど落ち着いて!とりあえず財布をしまって!」
「雄のSSR写真十枚と交換です」
「七海!?」
「URでもかまいません」
「七海!!」
「二人とも妹がごめん!ほらアンタもやめなさい!」
チェキカメラと財布を握りしめた妹が昼休みに襲来し、昨日の内に対策を取らなかったことを後悔する姉であった。
***
「七海にとってのSSR写真ってなんだろうな?」
「笑ってるやつじゃね?」
「飯食ってるやつも喜んでたぞ」
「灰原の写真なら全部SSRじゃないか?」
「「否定できない」」