いただきます おはーで まよちゅちゅ「おっはー!!!」
耳元の轟音に目を開ける。視界にはマヨネーズ片手に満面の笑みを浮かべる同級生の姿が映った。
「おっはー七海!朝ごはんできてるよ、起きて!」
「あ、ああ…」
「食堂で待ってるからね!」
機嫌よく部屋を去る姿に、いつもこんなことしないだろうとか、そのエプロンはどこから持ってきた?とか言いたいことはたくさんあったが驚きすぎて声が出ない。そんな七海の疑問は灰原と入れ違いで入ってきた夏油によって解消された。
「仮呪怨霊『慎〇ママ』!?」
また懐かしいものを…と呆れる七海に夏油もだよねーと笑う。
「灰原と二人で某テレビ局の倉庫での任務だったんだけどね、訪問してもらえなかったことが悔しいマヨラーの呪いが集まっていたみたいで」
本来の任務の後に見つけたそれは祓う前に灰原に取り付いてしまったとのこと。
「弱いし無理矢理祓ってもいいんだけど、灰原に負担がかからないわけじゃないからね。満足すれば勝手に出ていきそうだから放っておこうかなって」
「本音は?」
「面白そう」
殴りかかろうと振りかぶった手におもむろにマヨネーズを握らされた。
「もう!早く来ないとごはん冷めちゃうよ!」
「いや、でも…」
「ほら、番組通りに進行しないと祓えないじゃないか」
「チッ」
引っ張られるようにして三人で食堂へ向かう。湯気の立つ食事に腹が鳴り素直に席に着いた。
いただきます、と灰原お手製の朝ごはんを食べながら数年前に終了した番組の内容を思い出す。
確か、某アイドルが合鍵で家に入って、朝ごはんを作って、家人を起こして、あとは…。
「あ…」
「マヨネーズ足りなかった?」
「それはない」
マヨを追加しようとする灰原を全力で制した。
ごちそうさま、と箸を置く。向かいに立った灰原を見ると、七海の呪具入りの鞄を持っていた。
「あの、私今日は任務はな…」
「流れ通りやらないと終わらないよ」
「チッ」
仕方なくいつも通りに身支度を済ませる。寮の玄関に向かう途中少し後ろからとことこついてくる灰原はいつも以上に可愛らしいものがあった。
靴を履き振り返ると灰原は指を頬に当てて例の物を要求してきた。
「ほら、行ってきますのチューは?」
普段なら絶対に言わないであろうことを。言っておくが、二人はまだ付き合っていない。七海としてはあわよくばという気持ちはあるが、現時点では同級生どまりである。
「なーなみ?」
上目遣いで見つめられ、ええいままよと覚悟を決める。両肩を掴み逃げられないようにするとチュ、と唇を奪った。
「…いただきました」
それだけ言うのが精一杯で、顔を背けて全力で外へと走り出す。少しの静寂の後、〇吾ママを夏油が祓った後で灰原が正気に戻った。
「…えっ!?」
どうやら憑かれていた時の記憶もあるらしい。赤面して唸る後輩に夏油は高らかに伝えた。
「ゴチソウサマデシタ」