最後はハッピーエンドのはず空港にて。時間を持て余していた四人は王様ゲームに興じていた。
「二番が三番の知らない話を告白ー!」
「僕二番です!」
「私が三番ですね…」
五条の命令に灰原と七海が返答する。灰原は頭を捻らせながら七海を凝視した。
「七海の知らない話かー」
悩むのも当然である。灰原が死ぬまで常にと言っていいほど苦楽を共にしていた彼らに隠し事があるとは王様の五条でさえ思わなかった。
「私から話したい灰原の知らない話はたくさんあるが、灰原はどうだ?」
何かあったかな…と唸る灰原に夏油が助け舟を出す。
「…灰原、あれは?」
「…ああ!ありましたね!」
ひそひそと夏油が灰原の耳元にで囁く。七海はその様子をつまらないと不満顔で見ていたが、次の発言で顔がなくなった。
「七海に失恋したから夏油さんと五条さんに3Pお願いしに行った話!」
「!?」
「あ、そっち?」
「違いましたか?…もしかして『七海への恋心を諦めたいから夏油さんに処女捧げに行った話』のほうですか?」
「しょ…」
「未遂で済んでよかったよね」
「いやーあの時はご迷惑おかけしました」
「…ご迷惑ついでにそこで泡吹いて倒れてる七海どうにかしてくんない?」
「「あ…」」
七海の意識不明により王様ゲームは強制終了となった。
***
「夏油さん、僕の処女貰ってくれませんか?」
「とりあえず落ち着こうか」
わざわざ部屋までやってきて何事かと思ったらとんでもないことを言い出した後輩を慌ててたしなめる。おとなしくベッドに座った彼に発言の真意を尋ねた。
「色々聞きたいことはあるけど、その考えに至るまでの話をしてくれるかい?」
「七海が処女厨らしくて」
「もっと前の話からしてくれる?」
前、まえ…と少し悩んでから彼にしては珍しく小声で話し出す。
「僕、七海が好きなんです。…恋愛的な意味でです!でも七海は僕の事そういう風に見てくれないからどうにかして諦めようと思ってて」
「他の方法で諦められない?」
同性への恋心。それを諦めたいという気持ち自体は理解できる。だからと言って自分の処女を他で散らそうとする行動をとるのは意味が解らなかった。
「七海の持ってるAVが黒髪ショート同級生モノばっかりなんですよ。期待しちゃってちょっとやそっとの事じゃ無理ですよ」
それはイケるやつでは?という夏油の意見は話の続きに遮られてしまった。
「何かの話の流れで処女が好きなのかって聞いたら『処女に越したことはない』って言われて…」
「それで?」
「僕が処女じゃなくなれば七海の好みから完全に外れるので諦めがつくかなあ、と」
なるほど、ここにたどり着くまでの思考はわかった。だが彼の頼みを聞くわけにはいかない。どうしようかと頭を巡らせていると、ふと親友の顔がよぎったので使わせてもらうことにした。
「悪いけど、私には悟がいるから」
「五条さんですか?」
「…後輩には黙っていようと思ってたんだけどね…」
実際は何事もないのだが、わざと察してくれという空気を出す。夏油の演技力が高かったおかげか灰原はあっと驚きの声をあげた。
「すみません!僕、気がつかなくて!」
「わかってくれて嬉しいよ」
さあ帰った、と部屋の扉まで見送る。
「五条さんにもちゃんと許可をとってきますね!」
「は?」
扉を閉める瞬間とんでもないことを言った後輩は、夏油が正気を取り戻す前に走り去っていた。
***
「で、五条さんの部屋に行って3Pをお願いしてたら夏油さんが乱入してきて、そのうち二人が喧嘩になってその場はお開きになっちゃったんだよね、直後に例の産土神の任務だったから結局未遂で終わっちゃった」
「そうか…」
目が覚めた後、横で看病してくれていた灰原を説き伏せて詳細を聞き出す。その内容にため息をつくと、灰原が申し訳なさそうに口を開いた。
「僕、七海が好きなんだ…。ごめん、気持ち悪いよね、墓まではちゃんと持って行ったから許して欲しい「勝手に持って行かないでくれ!掘り返しに行くぞ!!」
「いやオメーも墓の中だろうが」
七海の決死の説得は見舞いに来た五条に遮られてしまった。