ホワイトデーの恋ホワイトデー当日。朝に『今日のお昼休みは三組の教室で待っていて』と言われたのでおとなしく待っていると十分ほどで灰原がやってきた。
「雄…!」
「ストップ」
手で制されて動きが止まる。今の彼はめかし込んでいる(と言ってもいつものワイシャツセーターにジャケットを羽織っているだけだが)のが一目でわかった。
「七海」
スッと灰原が片膝をつく。それはまるで一か月前のバレンタインの時の七海のように。
「七海の黒歴史になりたくなくて遠慮してたけど、こうなったら一緒に恥をかいてもらうからね!」
「望むところだ」
七海の返答に灰原はうなずき胸ポケットからリングケースを取り出す。上下に開かれた箱の中には、シンプルな指輪があった。
「僕と一緒に、これからの人生を歩んでください!」
「喜んで!!!」
前のめりに返答した七海はそのまま両膝をつき灰原に抱き着いた。
「ちょ、七海、指輪!指輪つけさせて!!」
「ああ」
でも、もう少し浸らせてくれ、と耳元でささやかれ、仕方がないなあと笑う灰原であった。
***
「いやーやるなー」
「そういう面白いことは俺らのクラスでやれよ」
「恥ずかしかったんだろ」
「こうして見にくるから意味ないのにな」
クラスメイト達が心配で見に来ていたことをこの時の灰原はまだ知らない。
***
「ところで、なんで私の指のサイズを知っていたんだ?」
放課後、七海の部屋にて。サイズ調整なしできれいに左薬指に収まった指輪に疑問を呈すと灰原はマズいというような表情で身体をこわばらせた。
「何かやましい事でも?」
「いや…そうじゃないんだけど…」
「…前世がらみか?」
「…そう。呪いの指輪の解呪の時に、お互いの指のサイズがいくつだろうねって測ったんだ…」
「…ということは、私も雄の指のサイズを知っていなければいけないのでは?」
どういうもので測ればいいんだと頭をひねる七海に灰原が待ったをかける。
「いや、僕のはいいよ、恥ずかしいし」
「よくない。私が雄に送りたいんだから測らせてくれ」
「それじゃあお返しの意味がないよ!!!」
二人の攻防は灰原が折れるまで続いたという。