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    刑事ジ×天才詐欺師いばの追いかけっこ
    書きたいところだけ書いたので雰囲気で読んでください。

    #ジュン茨
    junThorn

    キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン ジュンが務める警察署へ指名手配犯の目撃情報が入って三十分。それまではまったく動きのなかった事件がやっと動き始めたことで、ジュンは目を通していた書類をその場にほっぽり出し、上役が制止する声も今日ばかりは聞こえぬふりをして現場に向かった。
     漣ジュンは警察官一年目のドがつくほどの新人だ。しかしその勤勉さから同僚や上司からの信頼は厚く、現在は操作二課で詐欺犯罪全般を担当している。中でも彼が熱を上げているのは、ここ数年で何件も全国各所で詐欺犯罪を繰り返している七種茨に関する事件だ。その手口は見事なまでに大胆巧妙であり、また指名手配となっているものの彼は変装のプロでもあり、その素顔を見たものは誰もいない。偽名や肩書きを数えきれないほど手にしており、一か所に留まることもないためその所在を掴むことすら困難とされてきた。ジュンはそんな犯罪者に、簡単に言ってしまえば固執していた。自分でもなぜだかはわからない。けれど、人を騙し続け、嘘で塗り固められた茨の人生を――彼の本当の姿を、ジュンは見てみたいと思っていた。
    「ジュンくん、おっそい!上官であるぼくを待たせるなんてどういう了見なのかね?!」
    「っはあ、は……これでも急いで来たんですけど……」
     現場に到着したときには既に警察車両が何台か止まっていた。ジュンは現場から比較的近い場所へ勤務していたため、自分の足だけでここまで駆け付けた。到着した現場で待ち構えていたのは、ジュンの直属の上司である巴日和だ。ジュンと同じく職務歴は長くないものの、今までに何件も重犯罪に関与し貢献してきた。エリート中のエリートといっていい。しかしその捜査スタイルは何とも奇想天外なもので、ジュンは日和の暴君ぶりに振り回されながら、それでも最後にはしっかりと功績を残す彼の下で働けることを(本人の前では口が裂けても言わないが)喜ばしく思っていた。
    「いーい?ジュンくん。あくまで目撃情報のみの通報だからね。まだ現場を捜査中なのと、一般客を刺激しないために派手な動きは取れない。きみのぶんの私服も車に用意してあるから、それに着替えたらこの無線をもって中へ入って。ぼくは先に行くけど、中に入ったらあくまで普通の観光客として振舞うんだよ。何か質問は?」
     日和はてきぱきと一息で状況説明をしてから、ジュンに小型の無線機を手渡し、荷物が積んである車を示すように顎をしゃくった。ジュンは何も質問をしないまま、ただ日和から指示に無言でうなずく。質問は?問うのはあくまで形式的なもので、実際になにか聞こうものなら「そのくらい自分で考えてほしいね!」と突っぱねられるのが目に見えているからである。仕事は丁寧な日和ではあるが、同僚やその部下には死ぬほど厳しいのも署内では有名な話だった。
    「しかし……まさか、現場が空港だとは……閉鎖にはできなかったんですか」
    「無茶言わないで。いまは観光シーズンだし、海外からの観光客も多い。それに閉鎖なんて大々的なことしたら逃げられる可能性が高くなるね。三か月前のことを忘れたの?」
    「あ~……港で通報があったやつ。けっきょく貿易船に忍び込まれて海外逃亡されたんでしたっけ」
    「あの時も港を封鎖したけれど、それで捜査していることが早々にバレて先手を打たれた。彼の行動力は異常だからね、本気で捕まえるなら何十歩と、もしかしたら何百歩と先回りしないといけないかも」
     日和の無線に連絡が入る。空港内へ戻ってきてほしいとの声が聞こえた。日和は一言「了解」とだけ返事をすると、ジュンに「きみもはやく着替えて」とだけ言い、空港の中へ入っていった。一人取り残されたジュンは手渡された無線をぎゅっと握りしめ、とめどなく人が出入りする空港の入り口を睨みつける。今度こそ絶対に逃がしはしない。とっ捕まえて、本当の顔を暴いてやる。ジュンは日和に指定された通り、一般人と変わらぬ装いに着替えてから、小型の無線機を片耳に装着して空港の扉を大きく開いた。
     中は大きな荷物を抱えた客で溢れかえっていた。日和が言っていた通りいまは観光シーズン真っ只中で、待合室もカウンターもお土産店も混雑していた。ジュンが辺りを見渡すと、そこかしこに見知った顔を見つける。その中には日和の姿もあり、ジュンと一瞬だけ目を合わせると『警戒して』と口の動きだけで伝えてきた。ジュンは傍から見て不審な動きを取らないよう、あくまで一般客として振舞う。捜査員が一か所に固まっていても仕方がないので、館内を歩きながら互いに等間隔を保っていた。
     不意に目の前を通りすがった女性が小さな革製品を落とす。近づいて拾い上げるとパスケースのようだ。ジュンは見失なわないうちにとそれを拾い上げ、落とし主の女性に近づいた。
    「すみません、これ落としましたよぉ」
     ジュンの声にキャリケースを引いていた足を止めた女性は、長い赤髪を揺らしながら振り返る。端正な顔立ちの中で一等目立つ、海の底を彷彿とさせる深い青の瞳。その目がすっと細められ、ジュンが手にしていたパスケースを捉えた。
    「……あら、ありがとう。これがなかったらここから出られないところだったわ」
     少しハスキーで艶のある声は、人の喧騒のある館内でも凛としてジュンの耳に届く。何ともいえない不思議な空気感を纏う女性を前に、ジュンは一瞬時が止まったように固まってしまった。しかし一向にパスケースから手を離そうとしないジュンを不審に思った女性が眉を顰めると、ハッとして手の力を緩めた。
    「観光ですか?」
    「ええ、これからニューヨークに発つの。友人に会いにね」
    「いいですねぇ。お気をつけて」
     ジュンは軽い会話を交わしてからその場を離れようとする、しかし立ち去ろうとしたその女性はジュンの顔をじっと覗き込んでくる。その鋭利な視線にジュンはなぜだかその場から動けなくなった。怖気づいたからではない。まるで無垢な人間を堕落へ貶める、知能の高い蛇のように妖しく光る瞳から目が逸らせない。囚われ、絡めとられてしまう。そんな不思議な引力が、彼女の瞳にはあった。女性はすっかり石のようになってしまったジュンを見て一つ笑みを零すと、耳元へそっと囁いた。
    「そんなにすぐ騙されるようでは一流の刑事には程遠いですよ、”新人さん”」
    「ッ、……?!」
     それは先ほどジュンが聞いていたものとは違う、はっきりと耳の奥に響く、落ち着いた男性の声だった。まさかと思った時にはすでに遅く。ジュンが視線を上げた先に先ほどの女性の姿はなかった。行きかう人々の中を見渡してもそれらしき人物はいない。その刹那、ザザッと装着していた無線が作動するノイズが入る。
    『ジュンくん、ジュンくん!いま接触していた女性を追って!!』
     日和の切迫した声が聞こえる。通信環境が悪いのか周りの喧騒にかき消されてしまいそうで、ジュンは耳にはめ込んでいる無線機を抑えてなんとか声を聞き取ろうとする。もう一度あたりを見渡し、日和の姿を見つける。もう互いに他人のふりなどできないようで、周りに潜伏していた捜査官を含めて全員がジュンのほうを見ていた。
    『ジュンくん、はやく!きみが話していた女性が……”七種茨”だね!!』
     ジュンはそこまでいわれてやっと先ほどまでの出来事を反芻し、理解する。そして頭で考えるより先にその場を全速力で駆け出した。人波をすり抜けていく間もジュンが脚を動かす速度が衰えることはない。その俊敏さに日和以外の捜査官は全員驚いていた。
    「巴さん、なんですかあれは……」
    「うん?漣ジュンくんだね。今年からぼくの部下になった子」
    「それは知っていますが、あの異常な身体能力の高さ……いや、闇雲に走ってるだけか?」
    「あはは、そんなわけないね。彼はぼくらのなかで誰よりも”鼻が利く”。――狙った獲物は絶対に逃がさなさい、”ハイエナ”だからね。さ、ぼくらもぼくらで仕事をしなくちゃ。きみたちは騒ぎ始めた一般客たちの対応を。いいね!」
     日和はどんどん小さくなっていくジュンの背中をその場で見守りながら、背を向けて別の出口を塞ぐべく外で待機しているほかの職員へ無線を飛ばした。

    ****

    「くっそ、どこ行きやがった……」
     ジュンはターミナルを一回りしたところで一度立ち止まる。乱れた呼吸を整え、額を伝う汗を服で軽く拭った。ジュンは一連の出来事で自分の浅はかさと刑事としての嗅覚への自信を失いかけていた。よくよく考えてみれば女は――もとい女装をした七種は夏場にも関わらず厚手の長袖を纏っていた。最初はターミナルの空調が効きすぎているためかと思ったが、いま考えれば男性特有の骨ばった体格を隠すためだったのだ。あの長い赤髪もウィッグか何かだろう。しかし一つだけ、ジュンの視界にはっきりと焼き付いたものがある。見たもの全てを飲み込んでしまえるような、深い青の瞳。それから時折鼻を掠めた、花のような甘い香り――。
    「…………」
     ジュンは常備している耳栓を無線機の代わりに装着し、目を閉じて感覚を研ぎ澄ませる。余計なことは考えなくていい、ただ一つだけこの身に残る手がかりを、一人の人間と結ばれた糸を手繰り寄せる。視界と聴覚を遮断することで残った機能が研ぎ澄まされるのはよくある話だが、ジュンは、こと嗅覚においてそれに優れていた。ほんのりと遠くから漂う花の芳香。それはターミナルへの出口へと続いていた。
    「―――みつけた」
     ジュンは目を開け、耳栓をポケットに突っ込んでから再び走り出す。行きかう人の間を縫って駆け抜け、従業員用の出口から外へ飛び出した。覚えのある香りが強くなる。外へ出えたことで目に陽射しが焼き付き、ジュンは一瞬だけ目を細めた。
    「おや、見つかってしまうとは。なかなかやりますね」
     ジュンは片手で陽射しを作りながら声のしたほうへ振り返る。そこにはパイロットが仕事着としている紺色のスーツを身に纏った青年が佇んでいた。ジュンは改めてその男と対面し、きつく睨みつける。ぐっと握りしめ拳の中が、汗でじっとりと湿っていた。
    「七種、茨……!」
    「ご名答。また会えましたね”新人さん”」
     フライトキャップの鍔から望む青い瞳は先ほどジュンが相対した女と同じものだった。しかしいま目の前にいる彼女――もとい彼はこの空港で働く従業員とまったく同じ格好をしているし、声だって女性らしく取り繕っていることはない。しかしジュンが目にしている光景が真実だとも限らなかった。
     彼の資料は徹夜で目の下に隈ができるほど読み込んでいる。一定の名前も、姿形を持つことがない……この世に存在しているのかどうかさえも怪しまれていた天才詐欺師。よく回る舌は二枚舌どころか三枚あるのではないかと言われ、さまざまな企業や公的機関にも難なく忍び込み、瞬時に内部の人間と親密な関係を築いて機密事項までを聞き出す立ち回りの上手さと巧妙さ。そんな彼を捕まえるなんて雲を掴むような話だと、怠慢な上層部の談笑を耳にすることも少なくなかった。
     しかしそんな世紀の犯罪者がいま、ジュンの目の前にいる。ジュンは興奮を何とか抑えながら、茨の前に改めて立ち塞がった。幸いなことにここは屋上だ。逃げ場はない。
    「やあっとお目にかかれましたねぇ、七種……あんたとの追いかけっこも今日で終わりですよぉ!」
    「まぁ、ここで神妙にお縄につくのもそれはそれで一興ですが……自分にはまだ”やるべきこと”があるのでね。そう簡単に捕まるわけにはいかないんです、よっ……!」
    「っ?!おい、まじかよ……!!」
     茨は被っていたフライトキャップの鍔をぐっと掴んでから、勢いをつけてジャケットと共にジュンへ投げつける。それが若干の目くらましとなって、ジュンが一つ瞬きをした後には茨はジュンに背を向け、なんと屋上から飛び降りたではないか。あまりに予想を超えた行動にジュンは焦りながら屋上の端まで駆け寄る。そこには屋上から下へと伸びるパイプを器用に伝い、別棟へ飛び移る茨の姿があった。そのあとも建物から建物へ、まるで彼の周りにだけ重力が存在していないかのように、縦横無尽に駆けていく。さすがのジュンもそこまで無謀な身のこなしを真似することはできず、小さくなっていくその影を呆然と見つめることしかできなかった。
    『……くん、ジュンくんっ!ねえ聞こえてる?!応答して!』
     改めて日和からの通信が入る。ジュンは茨が姿を消した方を睨みつけたまま、それに応えた。
    「すみません、おひいさん。逃しました」
    『ああ、よかった……無事だね。怪我は?』
    「あるわけないっしょ。オレの頑丈さはあんたが一番知ってる」
    『上司として形式的に心配してあげたんだね。少しは感謝してほしいね」
     日和の不満そうな声を無視して、ジュンは屋上の壁を背にしてその場に座り込んだ。今から茨を追いかけたとしても、その時には彼はすでに空の上だろう。疲労感がどっと肩にのしかかり、ジュンは深いため息を吐いた。
    「つーか、おひいさん。アイツやばい身のこなし方してたんですけど、知ってたんですか?」
    「うん?ああ……彼の出生に関する資料は見たでしょ?彼、国が秘密裏に処理した民間の軍事施設で育った孤児なんだって。そこで色々と教え込まれたんじゃないかな」
     そういえば、とジュンは読み漁った資料にあった茨の出自を思い出す。確か生まれたときにその施設の前に捨てられていたとか。直系の家系図に裏組織を支配するほどの権力者がいるとかいないとか。しかしその話をされて改めて納得がいった。この追いかけっこがジュンが思った以上に一筋縄ではいかないことも。
    『ジュンくん、取り合えず合流しようか。上にも報告しなきゃいけないしね。君が今日得た情報だって、今後のために必ず役に立つ。覚えていることは全部記録として残し、彼の痕跡を辿れば、またいずれ尻尾を掴むことができるね』
     日和は無言のまま考え込んでいるジュンの心中を悟ってか、冷静な声色でそう伝え、最後の合流地点を指示して無線を切った。ジュンは陽が落ち始め、色が変わっていく空を仰ぎ見る。夜の帳が降りる空に、自分が一瞬でも囚われた深碧の瞳を見る。一機の飛行機がその空を横切っていく様を目にしながら、ジュンは軋む身体で立ち上がってその場を後にした。

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    DONE刑事ジ×天才詐欺師いばの追いかけっこ
    書きたいところだけ書いたので雰囲気で読んでください。
    キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン ジュンが務める警察署へ指名手配犯の目撃情報が入って三十分。それまではまったく動きのなかった事件がやっと動き始めたことで、ジュンは目を通していた書類をその場にほっぽり出し、上役が制止する声も今日ばかりは聞こえぬふりをして現場に向かった。
     漣ジュンは警察官一年目のドがつくほどの新人だ。しかしその勤勉さから同僚や上司からの信頼は厚く、現在は操作二課で詐欺犯罪全般を担当している。中でも彼が熱を上げているのは、ここ数年で何件も全国各所で詐欺犯罪を繰り返している七種茨に関する事件だ。その手口は見事なまでに大胆巧妙であり、また指名手配となっているものの彼は変装のプロでもあり、その素顔を見たものは誰もいない。偽名や肩書きを数えきれないほど手にしており、一か所に留まることもないためその所在を掴むことすら困難とされてきた。ジュンはそんな犯罪者に、簡単に言ってしまえば固執していた。自分でもなぜだかはわからない。けれど、人を騙し続け、嘘で塗り固められた茨の人生を――彼の本当の姿を、ジュンは見てみたいと思っていた。
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