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    ジュン茨ワンライ【ブライダル】+1h

    ブライダル=花嫁の〜……という意味らしいと知って、嫁じゃなくてもいいじゃないエンドにしようとして迷走した結果の産物。タイトルもあんまり納得いってない。

    #ジュン茨
    junThorn

    星屑アミュレット「「ブライダルコラボ?」」
     窓から注ぐのどかな陽光に、うつらと眠気を誘われてしまいそうな昼下がり。こじんまりとしたガラス張りの会議室で行われているEdenの定例ミーティングの最中、茨に催促されて資料のページを捲ったEveのふたりが素っ頓狂な声を上げた。
    「アイ・アイ! 資料上部にもあります通り、こちらの大手ウェディング情報誌で開催される来季のブライダルフェアと我々Edenのコラボ企画、その名も『Eden Bride(仮)』の開催が決定いたしました! 今回の目玉はズバリ。 Eden4人が考える最高のブライダルプラン! というわけで今から御三方には、自分自身の結婚式をプランニングしていただきます!」
    「はぁ!?」
    「へぇ……。なんだか面白そうだね」
     ポカリと大口を開けて紙束を取り落とすジュンに向かって、茨は得意げに鼻を鳴らし、手元のリモコンですいっとモニターを次へ送った。
    「先方が提示してきたフェアのテーマは“オリジナリティ”です。資料の次ページ以降にラインアップしております合計33の式場からお好みのロケーションを選び抜き、さらに全50種のオプションを気の向くままに組み合わせ、それぞれの結婚式を企画してください。新曲と同日に発売される雑誌の新号にて各々のプランを特集していただきますので、これぞEden!と言わしめるような御三方のオリジアリティ溢れるプランニングを期待しております!提出形式につきましては、共有フォルダに専用のフォーマットをご用意しておりますのでそちらに入力していただければと。……ただ、本当に自由にプランニングしてメインの式場が駄々かぶり…などという失態は避けたいので、大まかなプラン方針だけは今この場で決めていただければ幸いであります」
    「ぼくこのオーシャンビューの教会がいいね! ガラス越しに降り注ぐ夏の太陽! 潮風を運ぶ穏やかな海! 砂浜を走る花嫁と、そしてこのぼく!! うん〜、完ッ璧だねぇ♪ いい日和……☆」
     さすがは殿下。パラパラと冊子をひと撫でしただけで、あっさりとプランが決まったらしい。間もおかずタプタプとアンケートを埋めていく様は、いっそ清々しいほどだ。毎度この即断即決には助かることが多い。
    「じゃあ、私は無人島のゲストハウスにしようかな。ここ、もともと島にあった古い洋館を改築して造られているんだって。ふふっ。島が丸ごと式場だなんて、豪華でいいんじゃないかな」
     オプションのことはまだわからないから…という閣下にはゆっくりで構わない旨を伝えて、問題は――と。
    「あぅ〜……………」
     机に頭突きでもするのか? と言いたくなるほど、深く抱え込まれた紺色の髪をじっとり見つめる。茨の視線を察知したのか大仰に跳ねた肩の隙間から、ネジ巻き人形のようなぎこちなさで濡れた金色の瞳が現れた。パチリと音がするくらいしっかりと合わさった視線は1秒と保つことはなく、にっこり微笑んでやった茨の顔を逸れ、うろうろと虚空を彷徨いだす。意味もなく折り目を付けては開かれる資料が段々可哀想に思えてきて、茨は手早くモニターの電源を落とした。
    「閣下と殿下の方針は決まったことですし、今日はこれで解散としましょう。おふたりが比較的海辺の会場を選ばれているので、自分とジュンはなるべく都市部の式場を選ぶということで。いいですね? ジュン」
    「ぅ……。はい、だいじょぶです」
    「では、みなさまお疲れ様でした! プランの提出期限は月末の予定であります。お忘れなく!」



     ――と、いうのがかれこれ2週間ほど前の話である。茨は副所長室の椅子に腰掛け、コツンコツンとデスクを指で叩いていた。節目がちに確認したPCモニターの隅には、2022/06/30 20:18 の羅列がくっきり浮かんでいる。
    「おっそい……」
     ため息と共に背もたれへのけ反り、眉間をぐにぐに揉みほぐす。あれからことあるごとにジュンへ対してプランの助言を申し出たり、進捗を催促し続けたりしたが「いや…ちゃんと自分で考えたいんです」だの「大丈夫です。もうちょっとなんで!」だのとはぐらかされ、結局今日この時間になってもジュンの分だけ届いていない。それだけならまだしも、ついさっき怒りのままに鬼電したスマホにも「あと5分待ってください」とメッセージが返ってきた以降、めっきり音沙汰なしだ。あれからもう15分は経っている。待ち時間で片づけていた仕事もひと段落してしまった。
    「気分は漫画家の担当編集ですよ、まったく……って、あ」
     ポォンと呑気な通知音に引かれるようにして身を起こす。来た。待ちに待ったジュンのブライダルプランだ。もしこれで情けないリテイク案件だったら、即座に寮まで首を絞めに行ってやる。沸々と燃える胸の内を持て余しつつ、届いたばかりのポップアップをクリックした。
    「……は? なんでこんな山奥のレストラン――、あぁ、なるほど。身内だけの式にして交通の不便をカバーしたのか。……ん、夜? 屋内外半々のナイトガーデンウェディング……星空の下で、キャンドルの灯りをメインに…ブーケトスの代わりにバルーンランタン!?…………ジュンにしてはなかなかやりますね? というか、絶対ジュンだけで考えてないだろこんなの!!」
     思わず立ち上がった勢いでキーボードが跳ねるも、そんなことを気にしている余裕はない。一体、誰の入れ知恵なのか。というかそもそも、ジュンのプロデューサーであり純然たる恋人でもある自分を袖にしておいて、他所の馬の骨にしっぽ振るとはいい度胸ですね。別に自分は? ふたりでちょっとベタベタしつつ今後のことをぽしょぽしょ話しながらキャッキャうふふと挙式について考えたかったわけではありませんが? ジュンがどうしてもひとりじゃ難しいというのであれば、付き合ってやらなくもなくもないくらいにしか考えてませんでしたが?? ………でも、俺以外のやつとそういう話したのは普通に腹立つ!!
     脇に伏せていたスマホを引っ掴む。ミシミシ軋むケースと殿下相手ではあり得ないほど続くコール音に、イライラと足踏みが止まらない。デスクの周囲をくるくる徘徊し、背面の窓ガラスに額を擦り付ける。煌々と輝る街並みはいくら睨みつけてもうんともすんとも言わない。盛大な舌打ちをかまして通話を切ろうとした刹那、恐るおそると言った様子のもしもし…が微かに聞こえた。
    「――言い訳があるならとっとと吐け」
    《ぇと、あの……。や、やっぱだめっすかねぇ〜?あからさますぎ?Edenっぽくない……?》
    「んなことはどうでもいい!!」
    《んえ!?》
    「はっ!さぞ優秀なアドバイザーがいたんでしょうねぇ? 誰です? 天下のプロデューサー殿か、はたまた共演者のどなたかでしょうか? 俺や殿下以外にも手取り足取り親身になってくれる方がいてよかったじゃないですか。もしよろしければ、そのまま貰っていただけばいかがです? そしてそのまま地獄へ堕ちろ」
    《まっ、ちょ…え、なんの話!? オレはてっきり、その、プランの、……い、意図?がバレて怒られんのかと思ったんすけど》
    「?」
    《だから、えっと、……あれ? もしかして茨。最後まで見てない?》
    「――さいご?」
     フォーマットの最終項目に設置したのは、特集ページに式場のイメージイラストを添えるにあたって、指定する色やモチーフなどを記入してもいい、いわゆる備考欄というやつだ。まぁ言われてみれば、会場とオプション以外は確認していない、気もする。渋々デスクに戻り、頬杖をついて画面をスクロールした。スピーカーにしたスマホから、ジュンが固唾を飲んでいる空気が伝わってくる。一瞬で現れた備考欄には何やらぎっしりと書き込みがなされていて、下へ送っても送っても辿り着く気配がない。仕方がないので1番上から順当に読んでいくことにする。
     そして、次に息を呑むのは、茨の番だった。
     文字列をなぞって進むたび、小さな引っ掛かりが徐々に確信へと変わっていく。もしや。まさか。本当に? 腹の底で暴れ狂っていた熱は、脳裏を渦巻く疑問符に気を取られ、もうどこかへ行ってしまった。いつもなら読み切るのに30秒もかからないような文章に、たっぷり2分はかけて辿り着いた末尾。わざわざ※付きで記載されたその一行は紛れもなくジュンから茨へ向けての私信であり、もし茨が消し忘れて先方へ送ったらどうするつもりだったのか、などと今は叱り飛ばす気力もない。ずるずると座面を滑り落ち、かろうじて椅子に引っ掛かっている状態でぽつりと呟く。
    「………ばっかじゃねぇの」
    《……まあ、はい》
    「こんなの匂わせどころの騒ぎじゃない」
    《うん、ごめん》
    「というか、テーマカラーなどはまだしも、なんですかこの『ウェディングケーキじゃなくてバケツプリン』って。ふざけてんのか」
    《え〜。だって茨、ケーキより好きでしょ? プリン。このレストランは洋菓子のコンクールで優勝したパティシエールさんがいるらしいんで、きっと美味いですよ》
    「ふーん……。これは?『ステンドグラスはEdenのマークにする』」
    《っはは、あー。オレらの神様はナギ先輩だし、でもおひいさん省いたら絶対拗ねるし。ならもういっそ? みたいな》
    「ふはっ…。もう、ほんとバカ。じゃあ、これは? 最後の――――――」
    《いばら。まって》
     少し焦ったような、それでいて甘く舌っ足らずに痺れた声が、遠くの方で聞こえた気がした。実際に聞こえているのは、早足で近づいてくる廊下のグリップ音と電子に乗って流れてくる弾んだ吐息だけなのに。緩んだ頬に手のひらをついて、未だ届かない画面越しのその言葉をゆったりと指の先で撫ぜる。
    「《……っいばら》」
     ノックもなしに開いた扉は、今日だけ許してやることにした。名前だけ呼んでデスク裏に回り込んできたことも、いきなり手首を掴んで無理やり立たせたことも、蓋すら開けてないベルベットの小箱を押し付けてきたことも、全部ぜんぶ今日だけ。
    「いばら、オレと結婚してください」
     捕らえられている左手が、お互いの体温でじっとりと汗ばんでくる。ジュンは絡めた指を祈るように締め付けて、その根元に唇を寄せた。やわらに啄む様はまるで犬猫同士の毛繕いのそれなのに、こちらを見据えて離さない黄金の輝きは、隙があれば噛み付いてやる。早く寄越せと、狂おしいまでの熱情を如実に物語っている。
    「いままでみたいにふたりでしょーもないことで笑い合って、つまんねぇことで喧嘩して、そのたんびにおひいさんたちに叱られて仲直りして、美味いもんも不味いもんも一緒に食って寝て起きて、歌って、踊って、駄弁って、また一緒に帰る毎日を、オレはこの先ずっと続けていきたいです。そんで、茨にも、同じように思っててほしい。………だめ?」
     だめって言われるなんて、思ってないくせに。
     胸元に押しつけられている箱を奪い取って突き返す。たったそれだけで早とちりして青ざめたジュンの耳元で、つけて、と囁く。途端にわたわたと慌てふためいて、いやに仰々しく薬指に嵌められたシルバーのペアリング。やっと自由になった左のそれを窓の向こうへ透かせてみせて、まだ後ろで自分も嵌めるべきか逡巡している優柔不断なやつに勢いよく飛びかかった。
    「ってぇな、おい! なにすんですか」
    「んふふっ、ふは、あははははは……っ! いいですよ結婚。しましょうか」
    「え!」
    「残念ながらいますぐというわけにはいきませんけど。……あぁ、それと。あの備考欄は流石に書き直してくださいね! 自分が連想されてしまいそうな文言は、すべて削除でありま〜す♪」
    「いやまあ、それは、うん。わかってますよぉ〜。その、ちなみになんすけど。最短でどのくらいとかって……?」
    「結婚ですか? ん〜、10年は先ですかね!」
    「じゅっ、じゅうねん!?!?!?!?!?!?!?」
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