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    ニウカ

    @nnnnii93

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    アニメ 墓場鬼水

    寝子の死後、寂しくて地獄へ行くと水神後の水木に出会った話

    #墓場
    cemetery

    二度と会わない 喪失はごく自然に起こり得ることである。何かを失う度に感情の均衡を損なうのは効率が悪い、とすら思う。
     寝子が死んだ。日常に霧がかかっている。不慮の事故とはいえ、自分よりもうんと生命の短い生物だ。それでも、灰色の現世を登校して無意味な授業を受け、無言で下校する毎日が寂しい。今日も寝子の笑顔やあの澄んだ歌声が無性に聴きたくなり、ひとり煎餅布団を濡らす。鬼太郎を静かに見つめていた父は「あの子の選んだことじゃ、諦めよ」と、何もかも知ったかのように諭す。
     寝子は死を受け入れた。理解していても悲しみは否応なく心を蝕む。
     
     丑三つ時、父には内緒で地獄へ行った。
     寝子の住む小さなあばら屋は、今日も変わらずそこにある。彼女が生活する様子を一目見たいと思うものの、姿を見ればたちまち恋しさが上回り、また大泣きしてしまうのではないかと恐れて近づけない。
     それにしても殺風景な地獄の景色は、彼女の華やかさには不釣り合いだ。せめて現世の新鮮な花々で家先を彩ってやりたいが、地獄ではすべての生物が死に絶えてしまう。
     鬼太郎はやるせなさに、人差し指を強く噛み千切った。簡単に第一関節が欠けて血が垂れる。ぼたりぼたり。あゝちょうどいいや。赤のインク代わりだ。玄関に近い地面に、感覚が麻痺した指先を押し付ける。
    『いつまでも貴女を忘れません』

     後ろ髪を引かれる思いで彼女の家に背を向けた。ポケットに手を突っ込み、押し寄せる後悔の波にひたすら耐える。今度こそ帰りましょうと強く訴えれば、来てくれるのではないか。あの学校に戻りたくないというなら、違う土地に行ってもいい。苦しい思い出は清算して一からやり直そう。人間が嫌ならいっそ妖怪に……
    「鬼太郎、学校はどうした?」
     頭を上げると、しばらく顔を見なかった男が道を塞ぐように立っていた。見慣れたスーツ姿に通勤鞄。驚いて反応が遅れる。それを怪訝に思ったのか水木は「まさか勝手に休んでるんじゃないだろうな」と、間髪入れずに繋ぐ。
    「イイエ。地上は夜更けですから」
     鬼太郎は上を指差す。
    「…………ああ」
     水木は力なく頷いた。
    「そうか。もう夜か」
    「エエ」
    「……ここは時間を計るものが無いから」
    「そうですね。分からないのも無理はありません」
     ザァァ……と突風が二人を取り囲む。地獄に人工的な建造物はない。果てしない荒野は、吹きっさらしの風に乗せて大量の流砂を運ぶのだ。底なしの砂地獄。
     鬼太郎はきつく目をつむり、両手できっちり耳を覆った。水木はもう行ったのだろうか。いつまでもこんな不毛な場所で話していたって仕方がない。程なくして風が止む。ふぅ、と胸を撫で下ろすと間もなくして声が降ってくる。
    「怪我してるぞ。指」
     水木は瞬きもせずに人差し指を凝視していた。エ、と鬼太郎が言われた通りに指を眺める。ギチギチ音を立て新しい骨が生え始めている。少しずつ肉が被さり、あと少しで修復を終えそうだ。しかし水木は、少しばかり強引に鬼太郎の手を取る。
    「巻いておきなさい。痛むようなら、必ず医者にかかるように」
     無造作に巻かれていくネクタイがむしろむず痒い。
     それでも、やけに神妙な顔つきの水木を無碍に振り払うことができず、黙ってされるがままにしておいた。──死んでもなお、身体に合わないスーツを着続けている。行先もないのに通勤鞄を持って。何事もなくきっちり生え変わる指に、わざわざネクタイを結び付ける。唇を戦慄かせながら。目元を赤く染めながら。

     気がつくと鬼太郎はひとりで立っていた。
     地上に帰る抜け穴はもうこの先だ。ネクタイをするりと抜き取り、放す。役目のない布切れは静かに地面に着地した。
     指は痛みも苦しみもなく完璧に再生した。開いたり閉じたりして動作を確かめる。なんの滞りもない。しかし、戻れば父にこっ酷く怒られるだろうか。早朝から長い説教はさすがにゲンナリする。
     そして、おや、と首を傾げた。内緒で地獄へ来たのには大層な理由があったのだ。寝子のことがとても大事で、彼女を失った悲しみが堪えきれなくて……その筈だった。今や、父の怒りの鉄槌の方が気が重い。心の悲鳴はとうに聞こえない。

     寝子さん、ごめんなさい。貴女との間にうまれた想いは、地獄に落ちた男が持ち去ってしまったようです。もうぼくの海馬に貴女は住んでいない。
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